域内各国に波紋を投げかけるイギリスでの口蹄疫発生
深刻さを増すイギリスの畜産業界
イギリス農漁食料省(MAFF)は2月21日、イギリス東部のエセックス州におい
て、食肉処理場の豚および近郊農場の牛に口蹄疫の発生が確認されたことを明ら
かにした。EU域内では、昨年、ギリシャで発生しているが、同国での口蹄疫の発
生は、81年以来20年ぶりとなる。
イギリスの畜産業は、ここ数年、度重なる家畜疾病の問題で大きな打撃を受け
てきた。96年の牛海綿状脳症(BSE)問題では、牛肉の国内市場縮小のみならず、
牛肉や生体牛の海外市場を完全に失い、肉牛生産者や牛肉業界は深刻な痛手を被
った。BSE対策が軌道に乗り、輸出を再開した矢先、フランスやドイツなど大陸
でBSE問題が再燃した。この結果、EU産牛肉の輸入禁止の動きが世界的に広がり、
イギリス産牛肉の海外市場への復帰の道がまたもや閉ざされてしまった。
また、昨年8月には、13年ぶりとなる豚コレラの発生により、豚肉業界も有力
な海外市場を失うこととなった。今回の口蹄疫発生は、豚コレラが沈静化し、輸
出再開に係る準備を進めていたときだけに、イギリスの豚肉業界にとって最悪の
タイミングとなった。
域内各国で早急に実施される口蹄疫予防策
イギリスでの口蹄疫発生を受けて、イギリスから生体羊などの家畜を輸入して
いた域内各国では、口蹄疫感染予防のための対策が求められることとなった。そ
れぞれの国では、イギリスから輸入された家畜を中心とすると畜の実施や、移動
制限、口蹄疫検査などの対策を早急に進めている。各国別のこれまでの主な対策
(予定を含む)の概要は次の通りである。(2月末現在)
〇アイルランド
・イギリスと関係のある羊1千頭をと畜
・北アイルランド国境近くの全家畜市場の開催禁止
・北アイルランドから同国へ輸入される飼料・食料の承認・監視体制の強化
・狩猟の禁止
○スペイン
・イギリスから輸入した豚540頭をと畜
○フランス
・イギリスから輸入した羊および関連の羊計5万頭をと畜
・イギリス−フランス間の気象変化様式のモニター
(注:口蹄疫ウイルスは風に運ばれて伝搬すると言われている)
○ベルギー
・イギリスから輸入した羊2千頭をと畜
・羊およびヤギの移動禁止
・イギリスから家畜を輸入した農家15戸の監視
○オランダ
・イギリスと関係のある農家の牛、羊、豚、鹿計4,300頭をと畜
○ドイツ
・イギリスからの輸入した家畜の検査
・イギリスの発生農家と関連ある羊2千頭をと畜
○イタリア
・イギリスから輸入した羊および豚の検査
・感受性のある動物のEUおよび域外からの輸入を全面禁止
EUも家畜市場の閉鎖など予防策を強化
各国での対応とは別に、EU常設獣医委員は3月6日、イギリスからの家畜・畜産
物輸出禁止の延長(3月27日まで)、EU内での家畜市場の開催禁止(2週間)など、
口蹄疫の防疫対策強化に関するEU委員会提案に同意した。また3月13日にフラン
スで口蹄疫の発生が確認されたことを受けて、フランスからの家畜・畜産物輸出
を禁止する感染防止策を採択した。現在までの発生報告(イギリスからの輸入家
畜を除く)はイギリス(北アイルランドの1例とグレートブリテン全域)および
フランスに限られているが、発生が拡大・長期化してきたため、予防策を強化す
ることとなった。さらにワクチン接種の可能性についても議論されたが、イギリ
スのこれまでの発生・防疫状況、ワクチン実施の費用対効果などを勘案し、現時
点では得策ではないと判断された。今回同意された対策のうち、新たなものは次
の3点である。
@EU全域での家畜市場開催の禁止。
A感受性のある動物(偶蹄類)の移動禁止。ただし関係当局の承認を得た場合に
限り、と畜場への直接出荷および農家間直接移動のみは許される。
Bイギリスから他の加盟国へ移動する車両のタイヤ消毒
なお、イギリスおよびフランスで口蹄疫の発生が確認されて以来、EU委員会が
これまでに実施してきた疾病まん延防止対策は以下の通り。
2月21日:イギリスからの生体家畜・畜産物(牛、羊、ヤギなど、ならびに食肉、
食肉製品、生乳、乳製品(ウイルス汚染防止のための適切な加熱処理な
どが行われた場合を除く))の輸出禁止
3月1日:加盟国に対し、イギリスから加盟国に向けて2月1日以降2月21日までに
輸出された羊およびヤギなどの緊急と畜、発生が疑われた場合の家畜隔
離など予防的措置の実施を義務付け
3月13日:フランスからの生体家畜・畜産物(牛、羊、ヤギなど、ならびに食肉、
食肉製品、生乳、乳製品(ウイルス汚染防止のための適切な加熱処理な
どが行われた場合を除く))の輸出禁止
拡大を続けるイギリスでの口蹄疫発生件数
イギリスにおける口蹄疫の発生確認状況(3月12日現在)は、グレートブリテ
ンで181件、北アイルランドで1件の計182件となっている。防疫のためこれまで
にと畜された動物総数は12万頭余り、さらに、と畜が計画されている家畜頭数は
4万1千頭に上っている。日を追うごとに発生件数の増加が伝えられる中で、イギ
リスのブラウン農相は、当初予定していた以上に事態は深刻との見方を示してお
り、いまだ予断を許さない状況が続いている。
◇図:イギリスの口蹄疫発生件数の推移◇
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