東南アジア、牛海綿状脳症の伝播を懸念


イギリスが在庫分の動物性飼料を輸出?

 東南アジアの国々に、欧州で拡大する牛海綿状脳症(BSE)の伝播(でんぱ)
に対する懸念が広まり始めている。イギリスのロイター通信社は1月25日、イギ
リスでBSEが確認された86年以降、同国は国内での動物性飼料の使用を禁じたも
のの、在庫分の飼料の海外への輸出を、その後10年にわたって続けていたと報道
した。その中でイギリス農業当局は、BSEの拡大が際立った90年代、インドネシ
ア、タイ、インド、台湾およびスリランカにイギリスから動物性飼料が輸出され
たとしており、欧州の研究者の中からは、この3〜4年のうちにアジア地域でBSE
が発生する可能性を示唆する声もある。

 これを受け、イギリスから動物性飼料が輸出されたとされる東南アジアの各国
では、消費者の混乱を危ぐし、政府や業界関係者が懸念の払しょくに動き出して
いる。


インドネシアはBSEとの関連性がない牛肉のみ輸入

 93年の約2トンをピークに、イギリスから動物性飼料を輸入していたインドネ
シアは、各国がEU諸国からの牛肉輸入禁止措置をとり始める中で、アイルランド
からの輸入は継続しているものの、BSEとの関連性が疑われている神経組織や骨
を除去した牛肉のみ輸入を認める方針としている。また、インドネシア飼料製粉
協会は、90年代前半に行われたイギリスからの動物性飼料の輸入量はわずかであ
り、そのほとんどはペット用飼料に使われたこと、近年では豪州およびニュージ
ーランド産の動物性飼料のみを輸入していることを挙げ、現在国内で流通する飼
料の安全性のアピールに努めている。さらに、インドネシアフィードロット協会
も、98年以降の生体牛の輸入は豪州とニュージーランドからのみであり、現在の
牛群には全く問題がないとのコメントを発表している。


タイは発生国からの動物性飼料と牛肉の輸入を禁止

 一方、インドネシア同様にイギリスから動物性飼料を輸入していたとされるタ
イでも、政府が、96年以降はイギリスをはじめとしたBSE発生国からの動物性飼
料の輸入を禁止していると発表し、消費者の不安の解消に努めている。タイは昨
年12月29日、イギリスをはじめとする欧州8ヵ国からの牛肉の輸入を禁止したば
かりであるが、今回の記事を契機に、近々、輸入禁止対象国として新たに5ヵ国
を追加するとしている。また、現地報道によると、BSEに対する人々の意識も高
まりつつあるようで、スーパーマーケットやウェットマーケット(東南アジア
や中国などで、一般市民が生活必需品を購入する伝統的な自由市場)での小売
業者や消費者へのインタビューでは、もし、タイ国内でBSEの発生が確認されれ
ば、牛肉の取り扱いや購入を中止すると答えた人がほとんどであったという。


マレーシアはEU全域からの牛肉製品などの輸入を禁止

 なお、今回、ロイター電の対象国となっていないマレーシアも、牛肉消費が急
増する中国式旧正月に先立つ1月11日、EU全域からの牛肉、牛由来製品および動
物性飼料の輸入を禁止している。同国政府によると、昨年1〜10月の間、マレー
シアはEUから1,100万リンギ(約3億5千万円:1リンギ=32円)の牛肉を輸入した
が、総輸入量の2.6%にすぎないため、需給に与える影響はそれほど大きくない
としている。

 現在のところ、ロイターの報道は、東南アジア各国の牛肉消費に大きな影響を
与えるところまではいっていないものの、今後の展開次第では、牛肉消費の低下
を誘発することも考えられる。近年の東南アジアでは、経済の回復によって牛肉
消費に弾みが付き始めていただけに、今後の動向を注視していく必要がありそう
だ。

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