海外駐在員レポート 

EUにおけるオーガニック農畜産物の生産拡大と各国の補助制度

ブラッセル駐在員事務所 山田 理、島森 宏夫




1 はじめに

 EUでは、96年のイギリスの牛海綿状脳症(BSE)問題や99年のベルギー産飼料
のダイオキシン汚染問題などを通じて、食品の安全性に対する消費者の関心がか
つてないほどの高まりを見せている。昨今のフランスなどにおけるBSE問題で、
消費者が敏感に反応し牛肉消費が激減したことなどは、象徴的な出来事の1つと
言える。こうした中、生産過程の透明なオーガニック農畜産物に対する需要が拡
大しており、オーガニック農業に転換する農家も急増している。EUのオーガニッ
ク農家(転換中を含む)の総農家戸数に占める割合は2%に満たないと推測され
るものの、過去5年の年平均増加率は27.2%に達している。

 今回のレポートでは、EUでのオーガニック農畜産物をめぐる状況とともに2000
年8月に施行されたオーガニック畜産物に関する生産基準およびオーガニック農業
に対する各国の補助制度を中心に報告する。


2 拡大するオーガニック農畜産物生産

(1)EUのオーガニック農業の概況

ア オーガニック農家戸数および耕地面積

 EUでオーガニック農業に転換済みあるいは転換中の農家戸数および耕地面積は、
12万7千戸および337万ヘクタール(1999年、推定)とみられている。オーガニッ
ク農畜産物が確立してきた85年以降の動きを見ると、80年代後半は緩やかな増加
傾向であったが、90年代に入り一転して加速度的な増加を示している。過去6年
間(93〜98年)の農家戸数および耕地面積の年平均増加率は、それぞれ27.2%お
よび28.4%となっており、この6年間で、いずれも3倍以上の拡大を見せたことに
なる。

◇図:EUのオーガニック農家戸数および耕地面積◇

 現在のEU加盟15カ国について、加盟前も含めたオーガニック耕地面積の合計に
占める国別割合を見ると、89年には、オーガニック農業で先行していたフランス、
ドイツの2カ国で53.7%に達し、これにスウェーデン、イギリス、オーストリアを
加えた上位5カ国で8割以上を占めており、この当時、EUといえどもオーガニック
農業の広がりは一部の国に限定されていたと言える。

 99年(推定値)では、これら様相が大きく変わっている。10年前に最大のオー
ガニック耕地面積を誇ったフランスは5番手に後退し、ドイツもシェアを半減さ
せた。対照的に、政府によるオーガニック農業への転換に対する補助が開始され
たことを契機に94年以降急拡大したイタリアは、今や全体の4分の1を占めるEU最
大のオーガニック耕地保有国となっている。また、スペインもイタリアと同様に
96年以降、オーガニック農業への転換を加速させ、野菜や果物など中心にオーガ
ニック農産物の供給国となった。ポルトガルやギリシャなどオーガニック農業が
ほとんど見られなかった地域でも、面積はいまだ小さいものの99年の増加率は60
%以上の高い値を記録している。この結果、上位5カ国(イタリア、ドイツ、イ
ギリス、スペイン、フランス)の占める割合も、7割程度に低下し、徐々にすそ
野の広がりを見せ始めている。

◇図:オーガニック耕地面積に占める国別割合◇

 急速な拡大を続けるオーガニック農業であるが、EUの全耕地面積に占めるオー
ガニック耕地の割合はわずか2.5%(99年、推定値)にすぎない。ただし、オース
トリアやスウェーデンなど既に1割近くの耕地が転換済みまたは転換中となってい
る国々もあり、加盟国の中で大きな差が見られる。

◇図:全耕地面積に占めるオーガニック耕地の割合◇

イ オーガニック畜産

 国別・畜種別にオーガニックに転換した割合を見ると、各国とも総じて低い値
を示している中で、オーストリアの突出が目立っている。乳用経産牛では、実に
8頭に1頭がオーガニックとして認証されている。オーストリアでのオーガニック
農業は、畜産の盛んなチロルなど山岳地域が中心であり、この地域を対象とした
手厚い補助制度の下、家畜の認証も多くなったとみられる。この他デンマークや
スウェーデン以外では、0.5%にも満たない畜種が多い。動物愛護や環境への影
響を考慮し、粗放的な要素を取り入れているオーガニック畜産は、生産を重視す
る集約的な従来型畜産と比較するとある意味で対局を成すものであり、飼養頭数
に占める割合を考察する場合にもこの点を考慮に入れる必要がある。しかし、オ
ーガニック畜産は、EUでの統一的な基準がやっと施行されたばかりであり、現在
の低い数値から見る限り、今後増加が見込まれる分野であると言える。

オーガニック認証済み家畜の総飼養頭数に占める割合(96年)
re-eut01.gif (16194 バイト)
  注:94末現在の総飼養頭数に対する割合である。
 資料:N.Lampkin他:1999


(2)生産拡大の背景

ア 生産サイドからの見方

(ア)高価格で取引されるオーガニック農畜産物

 下の表に従来農法による農畜産物とオーガニック農畜産物との価格差比率を示
したが、力強い需要拡大を背景とした価格差(プレミアム)の存在が、オーガニ
ック農業へ転向する大きなインセンティブになっていることは言うまでもない。

オーガニック農畜産物と従来農法による農畜産物との価格差比率(97年)
re-eut02.gif (16115 バイト)
 注1:価格差比率=(オーガニック農畜産物生産者価格/
    従来農法による農畜産物生産者価格−1)×100
  2:1)94年、2)95年、3)96年、4)98年、5)94-96年、6)93/94年度、
    7)95/96年度、8)96/97年度
 資料:F.Offermann他:1999

(イ)政府による補助

 オーガニック農業では、従来の農法に比べて単収が低くなることや、労働投入
量が増加することなどから、オーガニック農畜産物販売における大きなプレミア
ムも農業所得の増加には単純に結びつかない。現在、EU15カ国のすべてで、農業
環境政策の一環としてオーガニック農業に対する補助が行われている。オーガニ
ック農家戸数(耕地面積)拡大の動きを見ると、こうした補助制度の存在(補助
事業の開始および補助単価引き上げ等)が大きな影響を与えていることが分かる。
ドイツ、オーストリアおよびデンマークなどでは、オーガニック農業に対する補
助金が農業所得の約20%を占めているとされており、重要な収入源の1つとなっ
ている。

イ 販売・消費サイドからの見方

(ア)頻発する食品安全性を揺るがす問題

 EUでは、環境問題への関心の高まりを背景に、一般に農薬や化学肥料に依存し
ている現代の農業は、環境破壊につながる生産活動であるとの認識が広く持たれ
ている。生産性を上げるための化学肥料や農薬の過剰な投入は、地下水などの汚
染を引き起こす一因となっている。畜産においても、集約的経営から排出される
多量の家畜ふん尿に起因する環境汚染が問題とされている。食品中の残留農薬な
どの問題だけでなく、こうした自然環境保護の観点からも、一部の消費者には従
来からオーガニック農業が注目されていた。

 しかし、最近のオーガニック農畜産物の急速な需要拡大の背景には、96年のイ
ギリスの牛海綿状脳症(BSE)問題や99年のベルギーにおける飼料のダイオキシ
ン汚染問題など、食品の安全性を脅かす新たな問題の頻発が大きく影響している
ことは否定できない。一般の農畜産物の安全性に信頼をおけなくなった消費者に
とって、信頼できるものが一定の基準に従って生産され、かつ、第三者によりそ
れが証明されているオーガニック農畜産物であり、これらは、多少価格が高くと
も消費者にとって魅力のある商品となっている。

(イ)販売チャンネルの多様化

 こうした動きの中で、オーガニック食品の販売チャンネルの多様化も見逃せな
い。オーガニック農畜産物の販売は、従来、農家から消費者への直接販売やオー
ガニック食品専門店が担っていた。しかし、近年、オーガニック農畜産物に対す
る消費者のニーズの高まりを受けて、各国では、スーパーマーケットなどが取扱
いを増やしており、需要の拡大をさらに喚起する要因となっている。

(ウ)広域流通の前提となる統一基準の整備

 EU域内において、農産物や畜産物に関する統一的な基準が定められたことも、
域内での広域流通の前提条件として必要不可欠なものである。広域流通が増加し
た結果、オーガニック農畜産物の品揃えが充実し、消費者の選択の幅を広げるこ
とにつながっている。


3 オーガニック農産物に関するEU基準と認証制度の確立

 EUは91年6月、オーガニック農産物の基準(生産基準のほか、表示、検査等の
基準を含む)に関する規則(理事会規則EEC/2092/91)を制定した。EU域内で
生産されたものだけではなく、域外からの輸入品に対しても同等に適用された。
また、この規則が制定される以前、6カ国がオーガニックに関する国家基準を定
めていたが、規則制定後、EU基準に置き換えられた。なお、一般的にEU基準より
厳しい規定を有する民間認証団体の基準についても、EU基準が遵守すべき最低基
準であるとの観点から調整が図られている。

 オーガニック農業の基準および検査認証の仕組みは、民間団体が長い年月をか
けて構築したものであるため、EU規則の内容は、加盟国の国家基準だけでなく、
国際的なオーガニックの民間組織であるオーガニック農業運動国際連盟(IFOAM)
などの基準やEU内で活動する民間認証団体の基準などを考慮したものになってい
る。

 この規則に基づき、各加盟国は国内のオーガニック農業に関して、生産者の登
録、検査認証団体の認可を行う監督機関の指定が義務付けられている。多くの国
では、1つの政府機関が監督機関として指定されているが、デンマークのように、
オーガニック農畜産物の生産とオーガニック食品の加工・流通の各分野を所管す
る2つの監督機関を指定している国もある。また、検査認証団体についても、国
によりさまざまな運用がなされている。

各国のオーガニック農業の監督機関および検査認証団体数
re-eut03.gif (21119 バイト)
  注:ドイツの検査認証団体の数値は推定値
 資料:N.Lampkin他:1999


4 オーガニック畜産物に関する基準

 91年に定められたオーガニック農産物に関する規則には、畜産物に関する基準
は含まれておらず、規則の対象とすることが定められただけであった。このため、
オーガニック畜産物に関しては、それぞれの国や検査認証団体が独自の基準に基
づいて運用を行っていた。その後、96年7月に畜産物に関する生産基準案がまとめ
られ、3年に及ぶ審議・検討を経て、99年7月19日に規則(理事会規則EEC/1804/
99)が制定、2000年8月24日に施行された。以下はその概要である。


(1)一般原則

 畜産は、作物に対する栄養要求量の供給および土壌中の有機物の改善を行うこ
とにより、農業生産システムの均衡と持続性の確保に寄与するものとして、オー
ガニック農業を行う多くの農家の不可欠な構成要素であると位置付けられている。
土壌と植物、植物と動物、動物と土壌の相互依存(有機物の循環)の確立・維持
に欠かせない畜産の特性から、土地に依存しない生産(landless production)は、
オーガニック畜産として認められていない。


(2)オーガニック畜産への転換

ア 農地の転換

 従来農法からオーガニック畜産に転換する場合、まず、経営体の飼料部門の農
地全体を原則として2年間オーガニック基準に従って管理することが必要とされ
ている。

イ 家畜の転換

 次いで、生産された畜産物をオーガニック畜産物として販売するためには、当
該畜産物を生産するために供した家畜について、種類別に以下に示した期間オー
ガニック基準に従って管理することが必要とされている。

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 なお、一定の条件を満たせば、農地と家畜の転換を同時に行う場合、その合計
転換期間は2年間に短縮できる。

ウ 家畜の導入

 転換後、家畜は原則として生産から販売までオーガニック基準のもとで飼養す
ることとされるが、群の更新を行う場合、馬および牛では飼養する成畜の10%以
内、豚、羊および山羊では20%以内の雌畜を従来農法の畜産農家から年間に導入
することが認められている。

 また、2003年12月31日までの移行期間中の例外措置として、最初に群を構成す
る際、オーガニック基準に基づいて飼養された家畜が十分入手できなかった場合、
以下の条件を満たす家畜について、従来農法の畜産農家から導入することができ
る。

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 従来農法の畜産農家から導入した家畜から得られた畜産物をオーガニック畜産
物として販売するためには、先に述べた転換期間が必要となる。ただし、繁殖用
の雄畜は、導入後、基準に従って飼養されれば転換期間は必要ない。

 なお、EU委員会は、2003年12月31日までに、オーガニック基準に基づいて飼養
された家畜の入手可能性に関するレポートを作成することが義務付けられている。


(3)飼養管理および畜舎環境

 繁殖については、自然交配が基本とされているが、人工授精は認められている。
受精卵移植やホルモン投与による排卵調整は禁止されている。去勢、断尾、切歯、
くちばしの切断、除角は、安全上の理由や衛生の改善などを目的とする場合に限
り認められる。

 畜舎については、家畜それぞれに、乾いた休息スペースを十分与えるなど、快
適さや移動等についても家畜のニーズを満たさなければならないとして、畜種ご
とに畜舎内や運動場のスペースに関する基準を定めている。

 ほ乳類に関しては、草地や野外運動場へのアクセスを確保することが求められ
るほか、つなぎ飼いは原則として禁止される。鶏については、開放状態で飼育す
るものとされ、ケージによる飼育は禁止されている。


(4)飼料

 飼料については、生産最大化を目的にするのではなく、家畜の成長段階に応じ
た栄養要求量を満たし、生産の質的確保を目的とすると規定されており、強制的
給餌は禁止されている。オーガニック基準に基づいた飼料の自給が原則として掲
げられているが、これが不可能な場合には、オーガニック飼料の購入も認められ
ている。2005年8月25日までの例外措置として、オーガニック飼料だけを給餌で
きない場合、乾物重量の20%(草食動物は10%)までは従来農法で生産された飼
料が利用できる。

 また、最大30%まで転換期間中の農地から生産された飼料の使用が認められて
おり、自給飼料である場合はこの割合を60%まで拡大できる。動物由来の飼料原
料については、乳製品や一部の海産物が認められるが、肉骨粉は使用できない。
抗生物質、成長促進剤や遺伝子組み換え(GM)作物などの使用も禁止されてい
る。


(5)家畜衛生

 家畜の健康の維持は、地域に適合した品種や系統の選定、適切な飼養管理など
により維持すべきであるとしている。家畜の疾病やケガに対しては、必要な場合
には当該家畜を隔離し、適切な施設で治療することが求められる。動物用医薬品
の使用は、植物からの抽出物や微量元素などを優先し、これら医薬品の効果が認
められない場合に限り、化学的に合成された医薬品や抗生物質の使用が認められ
る。休薬期間は、法の定める期間の2倍とし、定めがない場合は48時間とされて
いる。
 ワクチン接種などを除き、化学的に合成された医薬品または抗生物質による治
療を年3回(繁殖サイクルが1年未満の家畜は年2回)受けた場合には、当該家畜
およびその家畜から得られた畜産物をオーガニック畜産物として販売することが
できなくなる。当該家畜をオーガニック畜産物の生産に再び供するためには、検
査機関の承認を条件として、前述した転換期間を経ることが求められる。


(6)家畜ふん尿の処理

 家畜のふん尿は農地に還元されるが、散布できるふん尿の総量は、農地1ヘク
タール当たり年間170kg(窒素換算)を超えてはならないとされている。協力が得
られれば他の農家の土地も散布対象に加えて計算することができる。ただし、限
度量を超える場合には、家畜飼養密度を削減することが求められる。また、各加
盟国は、以下の基準を参考に飼養密度の基準を定めることとされている。

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5 オーガニック農業への補助

 EUのオーガニック農業への補助は、農業環境政策の一部として規定されている。
EUの農業環境政策は85年に条件不利地域に対する施策の改正の過程で具現化し、
その後発展していった。背景には、80年代以降の農産物過剰問題による生産抑制
圧力および集約的な農業に起因する環境問題の顕在化があった。環境に負荷を与
えない粗放的な農業の推進を図る中で、オーガニック農業に対する補助メニュー
が登場することになる。耕地の休耕、生産の粗放化、環境および自然資源の保全、
景観および田園地域の保護に対する補助を規定した規則(理事会規則EEC/2078/
92)が92年に制定されたが、この中にオーガニック農業への転換およびその継続
に対する補助が盛り込まれた。

 各加盟国の実態について、早くからオーガニック農業への補助に取り組んだデ
ンマークと、オーガニック食品の需要拡大に押され、近年オーガニック農業への
補助を拡充したイギリスの2例を中心に説明する。


(1)デンマーク

 デンマークでは他のEU加盟国に先立って、国内法に基づき87年からオーガニッ
ク農業に対する補助が開始されている。酪農を中心にオーガニック農業への転換
は順調に進み、その後、耕種農家、養豚農家に対する補助が拡充されてきた。理
事会規則EEC/2078/92に基づく現行制度では、オーガニック農業への転換を開
始した農家には、作目にかかわらず、5年間600デンマーククローネ(約7,800円)
/ha/年の補助金が交付される。転換期間中(2年間)は450デンマーククローネ
(約5,900円)/ha/年の補助金が加算される。ただし、補助金の交付については、
5年間オーガニック農業を維持することを条件としており、5年ごとに更新される
仕組みである。このため、5年未満でオーガニック農業を取りやめた場合には、
補助金を返還しなければならない。なお、これに加えて、次のような補助も行わ
れている。

ア 環境保全地域内のオーガニック酪農家への補助

 地下水、河川または沿岸地域の保全等を目的として定められた環境保全地域内
において、窒素の散布量を一定以下に制限することを条件に、上記の補助金に加
算しての補助が行われる。補助単価は500デンマーククローネ(約6,500円)/ha
/年。なお、この補助制度の対象は環境保全地域のオーガニック酪農家に限定さ
れている。従来農法の酪農家に対する環境面での補助制度は別途設定されている。

イ 耕種農家への補助(97年から実施)

 耕種農家に対しては、転換期間中(2年間)は、2,000デンマーククローネ(約
2万6,000円)/ha/年、転換後の1年間は1,200デンマーククローネ(約1万5,600
円)ha/年、その後2年間は500デンマーククローネ(約6,500円)/ha/年が交付
される。交付に当たっては、@生乳生産クオータを有していないこと、AEUにお
ける直接所得補償制度の対象作物の作付面積が耕地面積の5割以上であることが
要件となる。

ウ 養豚農家への補助(97年から実施)

 養豚農家に対しては、オーガニック転換後の3年間(または転換開始後の3〜
5年目)は、2,000デンマーククローネ(約2万6,000円)/ha/年の補助金(前述
の転換に係る補助金を含む)が交付される。交付に当たっては、@生乳生産クオ
ータを有していないこと、A転換前の飼養密度が0.8〜1.7家畜単位/haで、かつ
転換後の飼養密度が0.5〜0.7家畜単位/haであることなどが要件となる。

エ 補助金受給の制限

 オーガニック農家が受給できる補助金の限度額は、上記の補助金およびその他
の農業環境対策に関連する補助金を合わせて、転換期間中は5,000デンマーククロ
ーネ(約6万5,000円)/ha/年、その後は4,000デンマーククローネ(約5万2,000
円)/ha/年とされている。


(2)イギリス

ア オーガニック支援計画

 イギリスでは94年から、理事会規則(EEC/2078/92)に基づき補助が開始さ
れた。しかし、当時、政府の農業予算の多くが、所得補償制度に基づく直接支払
いや農業新技術の開発などに向けられており、他の加盟国に比較して、オーガニ
ック農業への補助を含む農業環境政策に対する予算支出は低い水準にあった。こ
の路線に沿って、オーガニック支援計画(Organic Aid Scheme)の補助単価も低
い水準に設定され、転換開始後5年までで補助が打ち切られるなど条件も厳しか
った。このため、国内に大きなオーガニック食品市場を抱えているにもかかわら
ず、オーガニック農業への転換はなかなか進んでいない。こうした状況を反映し、
イギリスのオーガニック耕地保有面積は、EU加盟国の中で、85年の第3位から97
年には第9位と大きく後退し、オーガニック農畜産物消費量の約70%を輸入に依
存する状態に至っている。

イ オーガニック農業計画

 イギリスはオーガニック農畜産物の需給不均衡を改善するため、99年度からオ
ーガニック農業振興策として、新たにオーガニック農業計画(OFS:Organic 
Farming Scheme)を開始した。補助単価は旧計画の約2倍に増額され、旧計画と
同様に、補助金交付の要件として5年間オーガニック農業を維持することが条件
となり、5年未満でオーガニック農業を取りやめた場合には、補助金を返還しな
ければならない。

イギリスのオーガニック農業計画の補助単価
re-eut07.gif (13697 バイト)
 資料:MAFF

 なお、他の農業環境政策関連の補助を受けている場合、上記の単価は減額され
る。

 また、この他に認証検査費用や技術習得のための経費に対する補助として、オ
ーガニック農家1戸当たり、1年目300ポンド(約4万8,600円)、2年目200ポンド
(約3万2,400円)、3年目100ポンド(約1万6,200円)の計600ポンドが交付される。

 イギリスでは、オーガニック食品市場の拡大に後押しされ、98年以降、オーガ
ニック農業への転換が急増している。99年度はOFSの予算規模が十分でなかった
こともあり、オーガニック耕地面積の拡大に与えた影響は限定的であると思われ
る。しかし、その影響は今後無視できないものになってくると思われる。

◇図:イギリスのオーガニック耕地面積◇


(3)その他の諸国の状況

 オーガニック農業は環境負荷の少ない農法であることに加え、従来の農法と比
較して労働投入量が増加することや小規模の農家でも収益性の向上が見られるこ
となどから、農村社会の維持・拡大に貢献する。このため、EU規則制定後、多く
の国でオーガニック農業に対する補助が開始され、現在では、15カ国の加盟国す
べてで実施されている。補助単価の設定の仕方など事業の仕組みは国により若干
異なるが、オーガニック農業の拡大は、このような補助制度の開始を契機に加速
する例が多く見られ、オーガニック農業に大きな影響を与えている。以下は各国
の状況を取りまとめたものである。

各国のオーガニック農業への補助
re-eut08.gif (43704 バイト)
 資料:N.Lampkin他:1999


6 おわりに

 成長著しいEUのオーガニック農業であるが、生産規模が拡大した故の問題も顕
在化してきている。デンマークでは酪農を中心にオーガニック農業への転換が進
んだ結果、オーガニック牛乳の生産が全体の22%(99年)を占めるまでに増加し
た。供給量の増加に伴い、従前と比較してプレミアムの減少が報告されている。
また、既に乳用経産牛の12.8%がオーガニック農家で飼養されているオーストリ
アでは、生産された生乳の約5割がプレミアムを受け取ることができず、通常価
格での販売を余儀なくされており、牛肉生産に重点を移す農家が出てきている。

 こうした問題の一部は、流通網の整備や加盟国間での広域流通の拡大により一
時的には解決されるとみられる。しかし、EU全体でオーガニック農畜産物の生産
が急速に増加している現状を見ると、将来多くの加盟国で確実に直面する問題で
あると言える。

 また、生産拡大の最大の要因であるオーガニック農畜産物に対するEUにおける
近年の急激な需要増加については、オーガニック農畜産物が積極的に支持された
結果というより、BSEなどの食品安全性に関わる問題が多発したことにより、消
費者の間に広がった一般農畜産物の安全性に対する強い不信感や不安感の裏返し
である側面が強い。EUや各国政府が、一般農畜産物に対する信頼回復を図るため、
食品安全性対策やGM食品などを含めた表示の充実だけでなく、動物愛護なども
積極的に押し進めていくとみられる中で、オーガニック農畜産物に対する需要拡
大に今後どのような影響が見られるか注目される。

引用・参考資料:

「Fact sheet: Organic farming」(European commission)
「The policy and regulatory environment for organic farming in Europe」
(N. Lampkin他:1999)
「European organic production statistics 1993-1996」
(C. Foster & N. Lampkin: 1999年)
「Economic performance of organic farms in Europe」
(F.Offermann & H.Nieberg:1999年)
「The European Market for organic products: Growth and development」
(J. Michelsen他:1999年)
「Organic farming in Europe by 2010: Scenarios for the future」
(R. Zanoli他:2000年)
「Organic farming research in the EU, Towards 21 century」
(J. Isart & J.J. Llerena:1999年)
「Organic dairy products」(IDF:2000年)
「オーガニック食品実務ハンドブック」
(足立 純夫:1998年)
「EUにおけるオーガニック畜産物の生産基準(畜産の情報・海外編)」
(池田一樹、井田俊二:1997年)
「デンマークでのオーガニック酪農の経営状況(畜産の情報・海外編)」
(池田一樹、井田俊二:1999年)

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