特別レポート 

第13回世界食肉会議から

企画情報部 井田 俊二 ブエノスアイレス駐在員事務所 玉井 明雄




T はじめに

 2000年9月18〜20日の3日間にわたり、ブラジル第3の都市ベロオリゾンテで第
13回世界食肉会議が開催された。世界食肉会議は、74年にスペインのマドリード
で開催されてから、ほぼ2年に1度世界各国で開催されている。今回は新たな千年
期を迎えたことから、99年のダブリン(アイルランド)に続いての開催となった。
この会議は、食肉をめぐるグローバルな情勢、トピックス、世界地域別の話題、
食肉の種類別の需給状況、それから開催地である南米の話題といった5つのセッ
ションで構成されており、国際機関、各国政府、学者、業界などの食肉関係者が
20分という持ち時間で講演を行った。世界37ヵ国から約900名(うち600名はブラ
ジル)の参加者が集まり、熱心に講演に耳を傾けていた。今回の会議の主な講演
の概要を報告することとする。
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【会場となったMinascentro】

U 会議の構成および主な講演の概要

 各セッションのテーマは次の通りである

 ・セッション1:新しい千年期の世界経済
 (議長:Marcus Vinicius Pratini de Morais(ブラジル農業大臣))
 
  ・セッション2:将来の食料
 (議長:Dean Kleckner( 米国連邦農業局))

 ・セッション3:WTOと食肉貿易
 (議長:Antonio Ernest deSalvo(ブラジル全国農業連盟(CNA)会長))

 ・セッション4:世界の食肉の見通し
 (議長:Rob Tazelaar(PVB, IMS副会長))

 ・セッション5:メルコスールの食肉生産およびビジネス機会
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【オープニングの会場風景】
1.セッション1

 EUと米国が次期WTO農業交渉におけるそれぞれの立場を中心に講演した。

(1)Silva Rodriguez(EU委員会農業部ジェネラルディレクター)の講演

 EUは、最近10年間において牛肉ホルモン、牛海綿状脳症(BSE)、アジア経済
危機、豚コレラ、ロシア経済危機、ダイオキシン飼料汚染といった問題を乗り越
え、その後のマーケットの回復によりガット・ウルグアイラウンドの合意条件を
順守している状況にある。牛肉については95年以降補助金が削減され、最近では
95年の半分以下の水準である。また豚肉については、輸出補助金のない輸出が増
加している。

(ヨーロッパ型農業)

 ヨーロッパ型農業の目標は次の通りである。

・競争的な農業分野では、過度な補助金なしに徐々に世界マーケットに適合
・環境に配慮した生産方式で消費者の望む品質の製品を生産
・農業方式の多様性により農村の景観保護と農村社会の維持
・農業政策の単純化と透明性を確保し、EU加盟国における責任の分散
・公的機関による農業調査に対する補助の正当化

 これらの目標とリンクして農業の多面的機能の意義を国際的に理解することが
重要である。

(WTO農業交渉)

 ヨーロッパにおける食品の安全性に関する議論に見られるように、消費者が市
場や政策発展の中心にいることを忘れてはならない。

 さらにWTOにおける決定事項の開示や、決定プロセスの簡素化が必要であり、
特に透明性の確保が重要である。開発途上国に関しては配慮が必要であり、EUは
これらの国から、自由な輸入に関して前向きな姿勢にある。

 農業交渉は、伝統的な貿易と新たな非貿易的関心事項のバランスであり、今後
の交渉は、WTO加盟国の国内政策の実現を尊重した上で、農産物貿易を自由化の
方向に導くべきである。EUは、農産物の主要な輸入国であり、かつ、第2の輸出
国である。従って、明確かつ持続可能な貿易ルールに基づいた貿易拡大を望んで
いる。

(輸出力の問題)

 WTOの基礎的議論において、輸出競争力の問題があり、そこでは、輸出補助金
だけが焦点となり、全体の輸出補助金の80%を占めるEUがクローズアップされる。
輸出補助金はWTOの現体制下で許される唯一の手段であり、EUにとって重要な対
策であることから、全体の80%を占めていても驚くべきことではない。EUは、共
通農業政策(CAP)の下、輸出補助金の大きな削減を実現しており、今後におい
てもさらに削減を継続するべきである。

(非貿易的関心事項)

 WTO合意に関する多くの課題のひとつとして、衛生植物検疫措置に関する協定
(SPS協定)などがある。これら食品の安全性に関する課題は、貿易に及ぼす影
響とリンクして議論されてきた。科学的根拠に基づく非差別的対策と各加盟国間
で定めた安全水準については、WTO合意に基づくものである。従って消費者の信
頼を獲得するため、この考えを一般化することは有益なことである。EUにおける
最近の経験から、消費者の食品の安全性に対する関心は、さらに大きな公衆の健
康への課題としてとらえられている。次の貿易交渉の場で、これらの関心事項を
貿易の障壁ととらえるべきでない。この問題の対策は、長期的に貿易の改善に資
するものである。

 多くの非貿易的関心事項としてEUの主たる関心事項は、農業の多面的機能に対
する認識である。農業は、単に食料生産だけでなく環境や農村の保全、動物愛護、
農村の多様性やバランスのとれた国土に対して貢献している。

(2)John Raddington(米国農務省FAS 酪農、家畜、
  鶏肉部門ディレクター)の講演

−次期WTOに向けて−

 世界における食肉需要は、アジアにおける経済の回復や、米国に見られるよう
な経済の成長により今後も増加が続くとみられる。こうした追い風を利用して、
さらなるマーケットの開放や、消費者が求める安全な製品の提供を実現すること
が今後の課題である。

 各国間で農産物のマーケットシェア競争が繰り広げられる中、各国がパートナ
ーとして新たな世界貿易システムを改革することが必要である。この改革は、す
べての生産者が公平な条件の下で自由な貿易を実現することである。

 また、パートナーとして、消費者の信頼を強化していくことが必要である。す
なわち加工技術の改善などにより消費者のニーズに対応することが必要である。

 米国は、今年初めにジュネーブで次のような次期WTO農業交渉における包括的
提案を行った。

・輸出補助金の撤廃
・関税引き下げおよび関税割当の拡大
・国家貿易の削減
・ 新技術生産物の貿易の簡素化

 この提案は、低価格の農産物、世界的な余剰、閉鎖的なマーケットといった問
題に対処し、世界の農業、畜産の将来を明るくするものである。

 21世紀の繁栄のため、農家は自由で公正な貿易の実現が必要であり、米国の提
案はこの目的に適合したものである。

 農産物貿易が、補助金によりわい曲化されたものでなく、製品の品質や効率性
により決定されることとなる。さらに発展途上国や成熟していない先進国が発展
し、世界の貿易システムに組み込まれることをサポートしている。従って、"貿
易のわい曲化"や"国内保護"を制限することが必要である。

 ガット・ウルグアイラウンドでは、高水準の保護を維持するため、高い水準か
ら統一的な削減の約束を開始した。WTO次期交渉における米国の関心は、貿易の
公平性を確保することであり、農家保護、自然景観の維持、農村社会の維持とい
った各国の権利については、貿易をわい曲化しない限りにおいて尊重するもので
ある。


2.セッション2

 近年注目されている、食品の安全性、環境問題などのトピックスについて講演
が行われた。

(1)Marshall Martin(米国Purdue大学)の講演

−世界の食料システムの展望−

 畜産物由来の食料は、エネルギーベースで6分の1、タンパク質ベースで3分の1
を占めており、食料生産システムにおいて必須の部門となっている。21世紀を迎
えるに当たり、世界の農業、食料システムは大きく変革する過程にある。変革の
推進力となる要素は次の5つがある。

・環境のコントロールと規制:

 集約的家畜生産が家畜ふん尿の管理問題を招く

・農業の工業化:

 農業の工業化は、標準化された技術管理を背景に大量生産ユニットへの移行で
あり、その結果、生産コストの低下、家畜の斉一化といった消費者や加工業者の
ニーズに合った方向に向かう。

・製品の差別化:

 製品の差別化は、消費者の要望が大きく反映する。差別化は、科学的手法(家
畜の遺伝子操作、飼料成分のバリエーションなど)またはマーケティング(ブラ
ンド化、広告、パッケージング、品質による付加価値化など)によって達成され
る 

・食品供給ネットワーク:

 畜産物の生産から消費に至る各流通過程の相互作用が強化される

・集約的農業の知識:

 家畜の生産コストの最小化、品質の向上にはミクロ管理が一層重要になる。こ
れには、家畜のモニタリングが不可欠で、コンピュータによるデータ管理が必要
となる

 21世紀の食料システムを変革する推進力により生じるチャンスを的確につかむ
ためのキーポイントは次の通りである。

・消費者需要の素早い変化
・国際市場の重要性
・農業構造の素早い変化
・技術の素早い進展
・環境関連
・農業に関する世界的な視野と地域的な行動

(2)Gwyn Howells (イギリス食肉家畜委員会(MLC))の講演

−食品の安全性:原料の証明とトレーサビリティー(追跡可能性)−

 食品におけるブランドはどんな効果があるのか。ブランドには、信頼性と複製
可能性の2つの要素がある。ブランドにより安心感が得られ、商品の価値が上が
る。生活習慣の変化が早い現代において、消費者がブランドを必要とする程度が
大きくなっている。食肉については、これまで食品のブランド化に関係がなかっ
たが、96年のBSE問題によりその様相が変化した。MLCでは、ひき肉にブランド
を付ける試験を実施し、消費者の信頼の獲得という点において大きな効果がある
ことが分かった。

 世界的に消費者の食品に対する関心が、量から質へ移行してきていることを認
識する必要がある。それは、食品の安全性に対する関心の高まり、環境や動物愛
護に対する関心の高まり、より重要となった食品の品質、食品サービスの機能の
拡大などの点に挙げられる。

 EUでは、指令により牛、羊、豚で出生にさかのぼっての個体識別が義務付けら
れている。また、別のEU規則でBSE問題に関連して、牛の出生、死亡、移動を記
録したコンピュータ追跡システムや、2個の耳標装着やパスポートシステムの義
務化が定められている。また、この規程は、牛肉の表示に関する規則に対応した
内容となっている。

 こうした要請に対して技術的な遅れはあるものの、マイクロチップ(耳標、体
内埋め込み、ボーラス)の国際規格を作り、EU、米国、豪州で試験が行われてい
る。EUでは百万頭規模の実験を行っており、2001年には終了予定となっている。
また、家畜の生産段階に続いて、と畜、加工、包装段階でのトレーサビリティー
に関しては、家畜と枝肉の個体情報の交換が重要である。イギリスでは、バーコ
ードを使用した枝肉からプライマルカットに至るまで追跡している。枝肉個体ご
との識別も技術的に可能だがコスト面の問題から一般的には、バッチ単位での管
理としている。DNAによる認識方法も伝えられているが、コスト面で実施は限定
されるとみられる。

 トレーサビリティーの確立に際して、重要なポイントは次の通りである。



 ・トレーサビリティーに関する情報はすべての人が共有
 ・トレーサビリティーのシステムは、情報の保護主義につながってはならない
 ・政府や消費者団体、国際機関等は、過度にコストのかかるシステム導入を強
  いるべきでない


3.セッション3

 世界の地域ごとに食肉をめぐる状況について講演が行われた。

(1)Vladimir N. Khrenov(情報・産業グループDieta 18)の講演

−ロシア−

 現在、ロシアの大部分の食肉加工施設は、原料となる生肉不足の状況でその需
要に十分にこたえられていない状況である。このため、輸入される牛肉の60%の
生肉は、ロシア生産として利用されている。多くの食肉加工施設では、原料供給
者に代金を支払うことができず、生産用の生肉を探している。地方の食肉マーケ
ットは、生肉原料を民間の農家から仕入れているが、こういった傾向が強まりつ
つある。卸し用の大きなロットの食肉を配給することは、地方の食肉加工業者の
支払能力が低いことから禁止されている。その結果、牛肉と豚肉の卸売価格は上
昇し、鶏肉、特にその低級部位の需要が増している。

(2)Larry Martin( ジョージモリスセンター(カナダ))の講演

−NAFTA−
 
  北米(カナダ、米国)における食肉産業(牛肉、豚肉等のレッドミート)では、
少なくとも将来的に継続する次のようなビジネス機会を有しているとみられる。

・アジアマーケットは、少なくともいくつかの豚肉(牛肉)加工施設にとって投
 資の主要な刺激材料となる。カナダ、米国の多くの食肉供給業者は、まだ多数
 の国に対して、大量、低価格の製品を引続き輸出することが可能であるとみて
 いる。これは、通常、低品質の製品を望んでいるものではない。米国、カナダ
 のマーケットでは、この分野における価格優位性、(すなわち農業生産コスト
 や加工産業における経済性)があると信じられている。

  アジアでは同時に、少量、高品質の牛肉を求めるマーケットがあるが、ここ
 では非常に高いスペックが求められており、大規模施設にとってこうした要求
 に対応するのは困難である。なぜなら、このような大規模施設は、一般的に大
 量生産で低コスト労働力による長時間稼動の工場であるためである。このため、
 少量生産で高利益製品に特化した小規模工場が、この市場に最も浸透するとみ
 られる。カナダと米国が有している有利性は、低コストの豚生産である。すな
 わち、多様な生産施設やこれらの施設を利用して可能となる効率的な家畜計画、
 および低労働コスト(日本と比較して)である。

・メキシコでも同様の戦略が適用できる。メキシコは、牛肉の純輸入国であり、
 豚や肉牛の生産コストは米国やカナダよりも高い。従って、メキシコがもっと
 裕福になるにつれて、牛肉や豚肉需要が増加し、米国やカナダ製品の需要が増
 加するとみられている。

(3)Nail Tailor(ミートニュージーランド)の講演

−オセアニア−

 農業の国内保護を完全に排除することは、たとえニュージーランドを含むいく
つかの国で合意しても現実的な目標でない。いくつかの加盟国においては、農産
物のアクセスを実質的に拡大しようとするのであれば、農村に対する保護は必要
である。しかし、そういった補助は、農産物コストが競争的でない場合、生産刺
激的な手法であってはならない。

 いくつかの所得補償の手法は、生産に反映し、牛や羊生産者は、所得の多くが
税金から賄われているにもかかわらず生産を続けていることとなる。生産と所得
については、直接的な関連を排除すべきであり、これを目標として取り組むべき
である。

 国内補助に関連して、農業の多面性がよく知られている。すべての国で農業は、
環境、国民のリクリエーションの場としての美しい景観維持や雇用機会の創出に
対して貢献している。しかし、ここで生産される農作物は、経済性を有した製品
であることを忘れてはならない。すなわち、食料と生産費を混同すべきでない。
これらは合法的に社会から認められているが、これらのコストと食肉、乳、羊毛
の生産コストを同義としてとらえるのは誤解である。実際に農業の多面性は特殊
なものでないが、農業以外の他産業も社会的に重要な機能を果たしている。

 もし、環境保護やリクリエーション施設のための費用が、畜産物価格に転嫁さ
れ、消費者がそれを負担することになれば、税収入がほかの目的に使用されたこ
とになる。しかしながら政府は、これらの機能にかかるコストは、消費者がそれ
を評価すれば、その出費を肯定するという立場である。我々の見解として、これ
らの環境保護などのコストをビーフステーキやミルクの中に転嫁すべきでない。

(4)Gilman Viana Rodrigues(ブラジル全国農業連盟(CNA))の講演

−南米−

 現在、ガット・ウルグアイラウンドで論じられたマーケットアクセス、国内補
助施策、輸出補助金といった保護主義の削減が十分でない。OECDの調査では、
97年から99年に生産者への補助額は10%増加している。品目別では、乳製品が依
然として最大の保護品目(全体の補助総額:501億ドル)であり、続いて牛肉
(265億ドル)、米(287億ドル)、その他の食肉となっている。

 ブラジルの食肉産業は、明らかに国際的な優位性を有している。すなわち広大
な国土(1億7千万haの農地のうち、現在5千万haしか穀物生産に利用されていな
い)、安価な地価、価格競争力のある大量の穀物生産(8千3百万トン)、加えて
適切な気象条件と豊富な労働力である。こういった条件により、ブラジルは動物
性タンパク質の生産において、世界で最も競争力のある国の1つとなった。ブラ
ジルは、中国、米国に次ぎ世界第3の食肉生産国(99年で14百万トン)であり、
また世界で最大の商業用の牛を飼養(1億6,380万頭)しているにもかかわらず、
ブラジルの食肉輸出量は、生産量の10%にすぎない。

 牛肉についてみると、ブラジルの牛肉輸出の55%はEU向けとなっているものの、
EUにおける輸入関税や直接所得補償といった保護主義が、結果として牛肉の過剰
を招き、ブラジルの牛肉輸出の障壁となっている。また、米国については技術、
衛生面の、日本については口蹄疫問題が牛肉輸出障壁となっている。豚肉と鶏肉
については、豚コレラやニューカッスル病といった衛生面の問題が残っているが、
ブラジルとしてはこの病気に対するフリーゾーン宣言に向けて進んでいる。

(5)Alex Hon Fai Chu(Dah Chong Hong Limited(中国))の講演

−アジア−

 中国のWTO加盟は、中国の食肉業界に革命的なインパクトを及ぼすとともに食
肉貿易においてばく大な機会を創出するとみられる。資本と最新技術の導入によ
り、品質の向上と食肉および食肉製品の生産性の向上が加速されるであろう。ま
たこのチャンスは、食肉における冷蔵流通管理、温度管理輸送、その他それに関
するサービスを向上させるはずである。国内外の投資家が企業登録のために中国
政府に押し寄せるであろう。

 中国マーケットに参入する際のアドバイスは次の通りである。

・97年に香港が1国2制度の下、中国の一部となった。香港は、中国で最も西洋化
 が進んでおり、中国政府は引き続き香港が中国経済発展のリーダーとして機能
 することを期待している。中国のWTO加盟までに香港の食肉企業は食肉貿易の
 拡大に向けて積極的になり、このことが、中国の食肉の世界貿易システムへの
 統合を早めることとなる

・マーケットに精通した香港企業を探し、事前にアドバイスを受けること
  企業関係者を中国に派遣し、直接マーケットを見て、重要な決定はレポート
 結果だけで判断してはいけない

・中国マーケットをテストするため、香港を通じて試行輸送を何度か試みること

・中国は、13億にも迫る巨大マーケットである。もしこの巨大マーケットをすべ
 ての大都市を対象に同時に発展させたいのなら、それは暗闇で矢を射るような
 ものである。まず第1に1、2の大都市を手始めに選ぶことを推薦する。上海や
 北京など多くの人口を抱えた大都市で、良好な可処分所得がある場合が手始め
 としては適している

・重要な投資決定の前に、専門サービスを受けることを勧める。香港には中国マ
 ーケットに精通した、国際的または地方に根差した多くのコンサルタントがい
 る。彼らの業務は広範で、特にリスクマネジメントに重要な法律、政府協定、
 税制などに関するアドバイスを行っている

 中国でビジネスを展開するには、タイ式ボクサーのような準備が必要である。
ゲームで勝つために肉体のあらゆる個所を使わねばならない。中国のビジネスで
不可能なことはない。これは、すばらしいビジネスチャンスであり、柔軟であり、
まだ困難である。しかしながら、もし、正しい方法で適切なパートナーを見つけ
ればすべてが可能となる。

(6)Jean Luc Meraux,  (UECBV)の講演

−EU−

 EUは3億7,500万の人口があり、平均寿命の伸長と高いGDPを背景に、1人当たり
の年間食肉消費量が90kgと増加している。種類別では、牛肉と羊肉の消費が減少
する一方、それ以上に豚肉と鶏肉の消費が増加している。種類別では、食肉の自
給率は、羊肉を除いた牛肉、豚肉、鶏肉で100%を超えている。

 こうしたEUの食肉需給に影響を及ぼす要因は次のものがある。

・単一市場:

 価格の地域格差の圧縮に貢献し、2002年からはユーロの下、新たな時代となる。

・CAP改革:

 牛肉は2000年7月から2002年7月に3段階で20%の制度価格の引き下げと43%介
入価格の引き下げとなる。穀物の介入価格を15%引き下げることにより間接的に
豚肉、鶏肉価格に影響してくる。

・EU拡大:

 数年以内に中東欧のEU加盟で人口は4億8,500万人に増加する。正確な予測は困
難だが、この結果、食肉の供給バランスに大きな影響を及ぼすことは確実である。

・世界貿易の自由化(WTO):

 WTOは、EUマーケットに対するミニマムアクセスだけを許可しているものでな
い。すなわち高品質食肉の輸出国としての機会を与えられている。例えば、94年
から99年の間に、ニュージーランドはEUに対して冷蔵羊肉の輸出が2倍に増加し
た。また、南米すなわちアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイはフィレ、ストリ
ップロイン、キューブロールといった高級部位を大量にEUに輸出した。これらの
部位は、枝肉重量の15%を占めているが、金額としては60%を占めている。

 このことは、すなわちEUはこういった食肉の自給率が100%以上であるにもか
かわらず、伝統的な輸入国であることを示している。これは、EUがこうした製品
を輸入しないという見解を覆すものである。それぞれの品目におけるEUの輸入ラ
ンキングは次の通りである。

   羊肉:第1位
   牛肉:第4位
   鶏肉:第5位
   豚肉:第8位

 一方EUは、農産物および食品原料の輸出国としての使命もある。食肉部門にお
いて、豚肉では世界第1位、牛肉ではオーストラリア、米国に次いで世界第3位の
輸出国である。


4.セッション4

 食肉の種類ごとに世界の需給などについて講演が行われた。

(1)John Huston(米国肉牛協会(NCBA))の講演

−世界の牛肉市場−

 牛肉輸出国上位10カ国中7カ国は、1人当たり牛肉消費量でも上位10カ国に入っ
ている。

 世界の牛肉消費量は、90年代に年平均3%弱増加したが、60%は発展途上国に
よるものである。

 FAOによると、1人当たりの牛肉消費量は、途上国で横ばい、先進国で減少して
いる。これに対し鶏肉は両地域とも増加している。世界的に見て、鶏肉の消費量
は増加(特に94年から顕著)し、羊肉は一般的に減少し、牛肉と豚肉は安定して
いる。

 この10年間大部分の先進国で牛肉需要が減少しているが、例えば米国では、80
年代以来消費者の牛肉に対するネガチィブなイメージが続いている。

・牛肉は旧来の食品で、かつ安全性に疑問がある
・牛肉は調理が難しく時間がかかる
・健康への悪影響(脂肪やコレステロールなど)が心配
・一部の人にとって価格が高価である

 MLCの調査によると、牛肉の需要を決定する要因(デマンドインデックス)は、
価格と所得が最大であるとしながらも、その他のデマンドインデックス(品質、
安全性、健康や栄養、簡便性など)の影響も大きくなっている。米国をはじめオ
ーストラリア、カナダ、ニュージーランドでは、こうしたデマンドインデックス
を利用した宣伝により、牛肉需要の回復を図ろうとしている。

(2)H. A. Carstensen(Demcoインターナショナル(オランダ))の講演

−世界の豚肉市場−

 世界の豚肉生産の地域別シェアは次のとおりである。

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 中国は90年代に生産が大きく伸びたが、今後は鈍化するものの継続して増加す
る。EUの生産量は安定しているが、加盟国で状況が異なり、デンマーク、スペイ
ンは増加し、オランダ、イギリスは減少する。NAFTAは90年代中盤より著しく増
加しており、今後も引き続き増加する。日本の生産は、消費量の50%程度に減少
する。

(貿易障壁として今後の豚肉貿易に影響を及ぼす要因)

・商取引:為替レート、補助金、セーフガード条項、国家的輸入規制、反ダンピ
 ング
・衛生:家畜・食肉検査の不一致
・消費者関連:バイオテクノロジー、動物愛護、環境、成長促進剤

(豚肉消費に影響を及ぼす要因)

・人口:アジアにおける人口増加
・都市化:新たな食習慣
・所得:特に低所得地域で所得の増加が食肉消費増加に好影響
・菜食主義:いくつかの先進国で菜食主義が増加傾向

(3)H.Luiz Fernando Furlan(ブラジル鶏肉輸出業者協会(ABEF))の講演

−世界の鶏肉市場−

 世界の鶏肉生産は、穀物価格が低下したことから99年に対前年比6%増加した
が、2000年は3.5%程度に減速する見込みである。また、鶏肉生産量の地域別シェ
アは、北米40%、アジア22%、南米17%、その他21%である。

 世界の鶏肉輸入量は、99年に対前年比14%増となり、2000年は約5%の増加と
なる見込み。輸入量の62%はアジア、ロシアが16%を占めており、来年もこれら
の地域が主要な輸入国となるとみられる。鶏肉は、衛生、文化、宗教といった面
で最も消費者の制約が少ない食肉である。

 一方、鶏肉輸出は、世界全体量のうちの米国が42.5%、アジアが27%、南米が
15%、EUが12%を占めている。

 世界の鶏肉市場は、これからまだ消費拡大が予測できる。特に中国やインドで
はたんぱく質の摂取水準が非常に低いことや、特に先進国で人口の高齢化が進ん
でいることが、鶏肉の消費拡大に作用する。また、牛肉などの長い生産サイクル
の製品よりも鶏肉などのホワイトミートの消費が好まれること、健康志向、鶏肉
における優れた製品の標準化も消費の拡大に作用するとみられる。

 鶏肉の消費形態としては、鶏肉として販売されるよりも、パイやピザなど半調
理品の原料として販売・消費される傾向が強まるとみられる。


V おわりに

 今回の会議では、WTOの次期交渉をひかえ、各セッションの垣根を越えて、講
演者から熱っぽく各国の講演者の主張が繰り広げられていたのが印象的だった。
一層の貿易自由化を求める米国、オセアニア、南米諸国に対して、EUで農業の多
面的機能を中心とした議論を展開しており、農産物貿易をめぐる各国の立場の違
いが見られた。セッション2では、現在主要畜産地域で中心となっているトピッ
クス、すなわち家畜衛生、食品の安全性、畜産環境、遺伝子組み換え食品などの
関する講演となった。

 また食肉の需給については、先進国で食肉消費量の伸びが鈍化する一方、開発
途上国を中心とした国において、可処分所得の増加を背景として今後の増加が見
込まれている。特に、中国やインドといったぼう大な人口を抱える国では1人当
たりの食肉消費水準が低く、これらの国を含め将来的な消費余地の大きさが感じ
られた。また、先進国における食肉消費については、これまで大きな割合を占め
ていた牛肉のほか、羊肉の消費が停滞または減少する一方、豚肉や鶏肉の増加傾
向が一層明確になっている。特に鶏肉については、価格競争力、取扱いの簡便性、
健康志向、宗教的な制約など多くの面で時代の要請に適合しており、今後の一層
の消費拡大が見込まれている。今後先進国では、食肉の種類別消費の2極分化が
一層顕著になるのではないかと感じられた。

 また講演の中では、中国のWTO加入後のビジネスチャンスに関する講演が興味
をひいた。13億人の人口を抱える中国が、今後、国際貿易ルールの中でどのよう
な展開を繰り広げていくのか、食肉貿易に限らず興味の持てるところである。

 会議の行われたベロオリゾンテは、南緯20度に位置し、初春であるにもかかわ
らず日差しが強く暑く感じられた。

 なお、第14回の世界食肉会議は、2002年5月にベルリン(ドイツ)で開催され
る予定である。


(参 考)

会議の日程

9月19日

セッション1:新世紀の世界経済 

 1 Luiz Felipe Palmeira Lampreia, Brazilian   Minister for Foreign Affaire
 2 Gerard Viatte, Director for Food Agriculture andFisheries(OECD)
 3 Jose Manuel Silva Rodriguez,General Director of the Agriculture Department, 
  European Commission
 4 John Raddington,Director, Dairy,Livestock and Poultry, 
  Foreign Agricultural Service,USDA
 5 IMS Prize for Meat Science and Technology

セッション2:将来の食料

 1 世界の食料システムの展望
 (Marshall Martin (米国) Purdue University, Indiana)
 2 衛生問題(Norman G. Willis(カナダ) 
  Former President Organization for Animal Health (OIE))
 3 食品の安全性:原料の証明と追跡可能性(Gwyn Howells (イギリス), 
  Meat and Livestock Commission)
 4 環境(Christpher Delgado (米国) International Food Policy Institute)
 5 遺伝子工学(Rodolfo Rompf(ブラジル), EMBRAPA)

9月20日

セッション3:WTOと食肉貿易
 1 ロシア(Vladimir N. Khrenov,Trading and Industrial Group Dieta 18)
 2 NAFTA(Larry Martin(カナダ), George Morris Center)
 3 アフリカ(Mrtin Mannathoko(ボツワナ), Botswana Meat Commission)
 4 オセアニア(Nail Tailor(ニュージーランド), Meat New Zealand)
 5 南米(Gilman Viana Rodrigues(ブラジル), 
  National Agriculture Confederation (CAN))
	(Gomez Alzaga(アルゼンチン), 
  Centro de Consignatarios de Produductos de Argentina)
 6 アジア(Alex Hon Fai Chu(中国), Dah Chong Hong Limited)
 7 EU(Jean Luc Meraux,Union Europeenne de Commerce de 
  Betail & Viande (UECBV))

セッション4:世界の食肉の概要

 1 世界の食肉市場と機会:生産、輸出、消費
 (Alan. D. Gordon(フランス), GIRA)
 2 世界の牛肉市場(John Huston(米国),
  National Cattlemanユs Beef Association)
 3 世界の豚肉市場(H. A. Carstensen(オランダ), 
  Demco International B. V.)
 4 世界の羊肉市場(Peter Barnard(豪州), Meat & Livestock)
 5 世界の鶏肉市場(Luiz Fernando Furlan(ブラジル),
  Brazilian Poultry Export Association(ABEF))

セッション5:メルコスールにおける食肉生産とビジネス

 1 メルコスールおよびブラジルの食肉市場
 2 討議(アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、ボリビア)

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