セランゴール州、養豚を全面禁止へ(マレーシア)


豚の一大生産地で、2005年を目途に養豚が禁止

 マレーシアのセランゴール州政府はこのほど、主要河川や貯水池の環境悪化を
理由に、2005年を目途に州内における養豚を全面的に禁止すると発表した。98〜
99年に猛威を振るったウイルス性脳炎の沈静後、各州政府は将来的な養豚産業の
廃止をにらみ、指定地域以外での養豚を禁止するなどの措置を講じてきた。今回、
5年後という短い期限を定めて養豚の全面禁止を掲げた州が現れたことは、関係
者の間に波紋を広げている。

 セランゴール州は、首都クアラルンプールを取り囲む人口集中地域であるとと
もに、豚の一大生産地としても知られている。同州は、ウイルス性脳炎により養
豚産業がほぼ壊滅的な状態となったネギリスンビラン州に隣接し、脳炎発生前と
比較して3割以上の豚を失った。マレーシア獣医畜産局が公表した99年7月末にお
けるセランゴール州の養豚農家戸数は143戸(国内3位)、豚飼養頭数は25万頭
(国内4位)と、同州は国内でも有数の規模を占めている。


州政府は養豚業が水質汚濁の主因と位置付け、これに養豚関係者は強く反発

 セランゴール州政府環境課の調査では、州内の主要7河川のうち、6河川の汚濁
がかなり進行しており、養豚を中心とする畜産業がその主因であると位置付けら
れている。

 しかし、養豚関係者は、州政府が最も汚濁が激しいとした2河川沿いには、養
豚農家がほとんど存在しないことや、州政府が畜産業以外の要因による河川の汚
濁状況を調査していないことを挙げ、養豚農家が環境汚染の「スケープゴート」
にされるいわれはないとして、州政府の決定に強い反発を見せている。このため、
世論に対し@養豚業者は環境課と連携し、数年前から台湾やカナダでふん尿処理
の技術を学ぶなど、既に環境への配慮を行っていること、A千頭規模以上の養豚
場は、汚水処理システムを40万リンギ(約1,200万円:1リンギ=30円)という、
経営を圧迫しかねないほどの出費で導入していることなどを訴えている。


積極的な養豚政策の不明確さが反感に拍車

 養豚業者の反感をことさらにあおる主要因として、宗教上の観点から、マレー
シア政府が積極的な養豚政策を明確に打ち出していないことが挙げられる。ウイ
ルス性脳炎発生後もこの状況は変わっておらず、殺処分した豚の補償金の未払い
をめぐる訴訟などのトラブルが頻繁に発生している。セランゴール州における養
豚業者の反発も、環境汚染の責任を押し付けられているという彼らの思いが強く
現れたものとみられる。また、マレーシア華人協会は、同州での養豚禁止後にお
ける養豚農家の移転先が全く検討されておらず、仮に他州に候補地を設定したと
しても、移転先の州政府および中央政府から同意を得ることは極めて困難であろ
うとし、政府の対応ぶりを批判している。


養鶏産業と対照的な立場の養豚産業、今後さらに厳しい状況に

 今回の一件は、先に中央政府がイニシアチブを取り、各州に生産団地を建設し
て将来的な発展への協力を惜しまないとする養鶏政策との対照性を改めて浮き彫
りにしている。セランゴール州の今回の発表により、既に養豚の廃止や限りない
縮小を表明しているジョホール(2015年までに廃止の意向)、ネギリスンビラン、
マラッカなどの各州がこうした強硬策に追随するのは確実とみられ、養豚産業へ
の風当たりは今後、ますます厳しさを増していくものと思われる。

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