IBP社の買収にパッカー大手2社も乗り出す(米国)


相次ぐオファーにより、買収合戦がエスカレート

 食肉パッカーとしては世界最大の販売高を誇るIBP社(本社:サウスダコタ州)
の買収をめぐって、先ごろ新たに、大手パッカー2社が相次いで名乗りを上げた。
1つは、豚肉部門における世界最大の生産・処理・加工会社であるスミスフィー
ルド社(本社:バージニア州)であり、もう1社は、家きん肉パッカーとしては
全米最大手のタイソン・フーズ社(本社:アーカンソー州)である。

 本件に関しては、10月上旬に、投資銀行のドナルドソン・ラフキン&ジェン
レット(DLJ)社(本社:ニューヨーク)が、IBP社の公開株式約1億600万株を、
1株22.25ドル(約2,490円:1ドル=112円)で買い取ることで合意したとの発表
がなされたばかりであり、買収総額は、IBP社の負債額約14億ドル(約1,570億円)
を含む約38億ドル(約4,260億円)とされていた。対するスミスフィールド社に
よるオファーは、買収総額(負債を含む)で約41億ドル(約4,590億円)、さら
にこれに続くタイソン・フィーズ社においては、同約42億ドル(約4,700億円)
と、IBP社の買収合戦が順を追うごとにエスカレートしてきている。

 このような買収や合併といった動きは、近年、食品の供給チェーン全体で急速
に増加しており、特に、その進展が著しい小売部門においては、大手スーパー・
マーケット・チェーンを中心に、仕入れコストの低減を図るため、規格のそろっ
た商品(ブランド)を少数のサプライヤーから大量に仕入れる傾向にあるとされ
ている。食肉パッカーを含むサプライヤーの統合の動きは、こうした川下からの
バイイング・パワーの高まりが背景の1つとして挙げられるとの見方もある。


IBP社は、両パッカーとの協議に応じる構え

 11月13日にIBP社の買収に乗り出す意向を正式に表明したスミスフィールド社
は、この8月までに、IBP社の株式の約6.6%を取得するなど、かねてからその動き
が注目されていた。同社は、既にこの10年間で、国内外の関係企業11社を買収す
るなどにより、99年度の販売高で52億ドル(約5,820億円)を計上するに至って
おり、仮に、今回の買収が実現した場合、IBP社の約146億ドル(約1兆6,350億円)
と合わせると、販売高は単純計算で約200億ドル(約2兆2,400億円)に達するこ
ととなる。同社が提示している条件は、株式交換制度により、IBP社の1株を、25
ドル(約2,800円)相当の自社株と交換するというものであり、株価の低迷に悩
むIBP社にとっては、DLJ社との合意内容よりも有利なものとなっている。

 同社のジョセフ・ルーター会長は、牛肉部門を取り込んだ一大ナショナル・ブ
ランドを構築することにより、最近IBP社が力を入れ始めているケース・レディ
ー・ミート(精肉を小売店のショーケースに並べるだけという段階にまで、加工
・包装を施したもの)などの付加価値商品市場におけるシェアを拡大させること
ができるなどとして、今回の買収が、「双方の株主にとって多大な利益をもたら
す絶好の機会である」と述べている。

 一方のタイソン・フーズ社は12月4日、IBP社の株式の約半分を1株26ドル(約
2,910円)のレートにより現金で買い受け、残りの約半分を同じレートの自社株と
交換するというオファーをIBP社側に提示した。99年度における同社の販売高は、
IBP社のほぼ半分の約74億ドル(約8,280億円)であり、この買収が現実化した場
合、食肉・家きん肉部門をすべてカバーする総合的な巨大パッカーが誕生するこ
ととなる。

 同社のジョン・タイソン会長は、IBP社にあてた書簡の中で、株式の取引レート
の水準だけでなく、その半分が直ちに現金で支払われることなどから、IBP社の株
主にとっては、スミスフィールド社のオファーを上回るメリットがあると強調し
ている。

 こうした動きに対し、IBP社側は、それぞれのとの話し合いに応じる用意がある
旨返答するなど、比較的好意的な反応を示しているが、いずれに対しても、IBP社
の株主の利益が損なわれないよう、1株当たりの交換価格をさらに引き上げること
などを要請している。また、同社は特に、牛肉部門の業務が重複するスミスフィ
ールド社との間においては、独占禁止法などに基づくパッカーの寡占化に対する
規制上の問題を解決することが極めて重要であると強調している。


寡占化の進展を懸念する声も

 これについて、スミスフィールド社は、一部の資産(既存施設)を売却すると
ともに、牛肉部門については、同社の企業戦略でもある農場の所有(垂直的統合)
は行わないとの意向を表明している。しかし、大手パッカーによる寡占化の進展
により、生産者の競争力が弱められるなどとして、中西部出身の議員やファーム
・ビューローなどの農業団体が、今回の買収の動きを阻止すべく、司法省に対し
て調査要請を行った模様である。また、グリックマン農務長官も、同様の要請を
行ったと報じられている。一方、タイソン・フーズ社に関しては、IBP社の業務
とは重複しないため、スミスフィールド社の場合に比べると障害は少ないとの見
方も一部にはあるが、関係議員や農業団体の間からは、同様に反発の声が上がっ
ており、先行きは不透明な状況である。

 いずれにしても、買収条件に関する交渉が妥結するかどうかという当事者間の
問題だけではなく、大手パッカー同士の買収が生産者にとって有益なものである
か否かという点も関係者の間で大きな焦点となってきているため、IBP社をめぐ
る一連の買収騒動が決着するまでには、しばらく時間がかかるものと予想される。

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