海外駐在員レポート 

グローバル・デイリー・カンバニーを設立へ(NZ)

シドニー駐在員事務所 野村 俊夫、幸田 太




1.はじめに

 ニュージーランド(NZ)では、2大酪農協同組合(乳業メーカー)であるNZ
デイリー・グループ(NZDG)とキウイ、それにNZデイリーボード(NZDB)の
3者が合併し、「グローバル・デイリー・カンパニー(GDC)」と仮称される巨
大な乳業メーカーを設立する手続きが進められている。既に3月末に組織原案が
公表され、4月9日の政府閣議ではGDCを独占禁止に関する商務委員会(コマー
ス・コミッション)の審査対象から除外する旨が決定された。これにより、組合
員大会の承認(5月中旬)と関連法規の改訂を経て、今年中にGDCが設立される
ことが確定的となった。ただし、発足時期についてはNZの酪農年度開始日である
6月1日が目標とされているが、法律改訂の日程が厳しいため実際には9月にず
れ込むとみられており、6月1日に遡及して適用されると見込まれている。今回
は次第に明らかになりつつあるGDCの概要について報告する。

◇図1 NZの酪農組合勢力図◇
re-nzg01.gif (13574 バイト)

2.国内最大の企業体へ

(1)2大酪農組合とNZDBを核に結成

 GDCの特徴は、何と言ってもNZ国内最大の企業体になるということである。G
DCは、国内生乳生産の約95%、年間1千万トン以上の生乳を処理加工販売する
という、独占的かつ巨大な乳業メーカーになる。図1に主要な酪農組合の基盤を
示したが、GDCは、NZDGとキウイの2大組合にマルボローとカイコウラの両組
合を併せ、国内主要酪農地域の大部分を傘下に収めることになる。また、ハミル
トン(北島ワイカト地方)、ハウェラ(同タラナキ地方)、クランデバイン(南
島カンタベリー地方)などの主要酪農地域に大規模な乳業工場を配置し、乳製品
の製造を全国ベースで統括管理することになる。ちなみにGDCは、NZ国内総生
産額の約7%、総輸出額の約20%を稼ぎ出し、国内では全産業を含めて他に比較
対象がないほどのマンモス企業となる。


(2)独占禁止の審査対象から除外

 国内生産の約95%を扱う企業となれば、当然ながら独占禁止を定めた商法(コ
マース・アクト)の制約を受けることになるが、政府は4月9日の閣議において、
GDCをコマース・コミッションの審査の対象から除外する旨を決定した。これは、
@NZの基幹産業である酪農乳業の基本政策は同コミッションではなく政府に委ね
るべき、ANZ酪農乳業は海外市場への依存度が極めて強い特殊な産業である、B
生産者の権利は自由競争より安定した生乳取引先の確保によって保護される、と
いう世論の形成に基づき、GDCの輸出業務を同コミッションの審査から除外する
(国内販売業務には適用する)という極めて政治的な決断であった。しかも、政
府与党のみならず最大野党もこれに合意したため、GDCの設立に向けた最大の障
害が取り除かれたのである。

holstein.gif (43317 バイト)


(3)独立組合を存続し新規参入にも門戸開放

 現存する4つの酪農組合のうち、2大酪農組合を除く2つの中小組合(ウェス
トランドおよびタトゥア)は、GDCから独立して存続することを表明している。
前者は地理的に他組合から隔離された条件下にあり、後者は高付加価値乳製品の
製造販売などで好調な経営を維持しているため、GDCに参加するメリットが少な
いと判断したとみられている。

 なお、現在、NZの乳製品輸出はNZDBによって一元的に行われているが、GDC
設立後は一元輸出制度を漸次緩和するとされており、その場合は両独立組合や国
内外の新規参入企業にもNZ産乳製品の輸出に参画する道が開かれることになる。


3.世界第9位の乳業メーカーへ

(1)国際乳製品貿易の約30%を独占

 GDCの第2の特徴は世界でも有数規模の乳業メーカーになるということである。
世界最大の多国籍企業ネスレなどには及ばないものの、堂々世界第9位にランク
されることになる。GDCの年間販売額は125億NZドル(6,500億円:1NZドル=
53円)に達すると見込まれているほか、GDCが乳製品の国際貿易に占めるシェア
は約30%に達し、単独企業としては世界最大となる。GDCの従業員総数は約2万
人で、このうち約8,300人が海外100ヵ所以上にあるNZDBの既存の販売拠点や合弁
メーカーなどに配置される。GDCの本部は国際戦略重視の姿勢からウェリントン
ではなく国際航空便の多いオークランドに置かれるが、本部の規模は出来るだけ
抑制し、技術関係部門は国内の各製造拠点に置くとされている。

◇図2:世界の乳業メーカートップ20(乳製品販売額)◇


(2)3年目で約3億NZドルの効果を期待

 民間の監査法人の試算によると、GDCの設立3年目にはNZ酪農乳業界に年間3.
1億NZドル(約161億円)の上乗せ利益が期待できるとされている。この内訳は、
管理部門や製造設備の整理統合によるコスト削減効果が1.2億NZドル、既存分野
の事業規模拡大効果が0.7億NZドル、新規事業の開発効果が1.2億NZドルとなって
いる。そして、2004年度には、これらが乳固形分1kg当たり25NZセント(約13円)
の乳価の上昇となって生産者に還元されると見積られている。


4.生産者母体の組合企業

(1)生産者が株式を所有

 GDCの第3の特徴は、あくまでも生産者母体の組合企業としての体制を維持す
るということである。外部資本も一部導入されるが、組合企業としての基本に変
化はない。組合企業の基本は生産者がGDCの株式を所有することによって維持さ
れ、役員も13名中10名は生産者から選出される。GDCは2種類の主要株式(フェ
ア・バリュー・シェアとキャパシティ・ノート)を発行するが、これらは生産者
のみ取得することが可能であり、かつ、取得する義務を負うものである。株式の
取得数は生産者の生乳供給実績によって決められる。既存の生産者は過去の生乳
供給実績に応じて無償で株式の配分を受けられるが、新規参入する者や生産を拡
大する者は、相応する株式を新たに購入しなければならない。逆に、GDCは株式
所有者が供給する生乳を受け入れる義務を負う。なお、今回初めて、シェアミル
カー(農場所有者と契約して権利義務を負担区分する従業者)も株式を取得する
ことが認められた。

フェア・バリュー・シェア

 各生産者の年間生乳供給量に応じてGDCが発行する株式。生産者は1年間に供
給する乳固形分1kg当たり1株のフェア・バリュー・シェアを取得しなければな
らない。この株価は毎年GDCの役員会が決定するが、審査責任者(バリュアー)
がGDCの資産価値や経営状況から定める許容範囲内に収められる。フェア・バリ
ューの名称は、譲渡者にも購入者にも公正(フェア)な株価が保証されるためと
され、初年度の株価は4NZドル(約212円)前後になると想定されている。

キャパシティ・ノート

 各生産者の繁忙期(9〜11月)の生乳供給量に応じてGDCが発行する株式。N
Zでは既に繁忙期の生乳処理能力が限界近くに達しており、これ以上出荷量が増
えると新たな設備投資が必要になるため、フェア・バリュー・シェアとは別に生
産者に取得義務を課して発行される。生産者は、1日当たり最大出荷量に応じて、
通常、1リットル当たり0.5株のキャパシティ・ノートを取得しなければならな
い。既存の生産者には過去の実績に応じて無償配分されるが、新規参入者は購入
する。既存の生産者が過去の実績より繁忙期の出荷量を減らすと株式の保有義務
が減免されるが、逆の場合にはより多数の株式を取得しなければならなくなる。
これにより、基本的な季節生産パターンが大きく変わることはないが、繁忙期の
出荷量を抑制する効果はあると思われる。当該株価は2003年度まで1株30NZド
ル(約1,590円)に固定されるが、その後は新規設備投資の必要性などに応じて
見直される。


(2)株式の売買は自由

 生産者は、GDCを仲介することを条件として、所有する株式を自由に他の生産
者に譲渡し、また他から購入することが出来る。ただし、生産者が所有する株式
の数を増減させた場合には、GDCに供給できる生乳の数量もそれに応じて増減す
ることになる。生産者は、株式をすべて売却してGDCから完全に離脱することも
可能となる。

 GDCの株価はその資産価値や経営状況に応じて毎年変動するが、これにより個
々の生産者の資産が明確に算定されることになり、業界全体の蓄積資産に対する
権利の評価があいまいだという批判はなくなると期待されている。一方、生産者
は、GDCの経営状況によっては自己資産が大幅に目減りするリスクも負わされる
ことになる。

生産者が所有するGDC株価の試算

 仮に、経産牛飼養頭数:230頭、乳固形分生産量:300Kg/頭、繁忙期の最大出
荷量:4千リットル/日というNZの平均的な生産者をモデルにしてGDC株価を
試算すると次のとおりとなる。
 
 フェア・バリュー・シェア(1株4NZドルと仮定)
  230×300×4=27万6千NZドル
 キャパシティ・ノート(1株30NZドル)
  4,000×0.5×30=6万NZドル
 合計 33万6千NZドル(約1,780万円)


(3)一般株式も発行

 GDCは、生産者から主要株式を買い取る場合には、上記の主要株式に加えて一
般株式を発行し、その代金に充当できるとされている。これは、多数の生産者が
一時に離脱することによりGDCが大量の株式を回収せざるを得なくなる場合を想
定し、その回収資金を確保することが目的とされている。一般株式はNZ証券取引
所に上場され、生産者に限らず誰でも売買できるとされている。従って、今後は
NZの酪農乳業にまったく関与しない一般投資家がGDCに投資する道も一部ながら
開かれることになる。


5.生産者保護の新制度

(1)シェアホルダー・カウンシル

 GDCという独占的な巨大企業の設立により生産者の立場が弱まるという懸念に
対応するべく、生産者の意見を代弁する組織としてシェアホルダー・カウンシル
が新たに設置されることになった。同カウンシルは、GDC傘下の25酪農地域から
各々1〜2名、約45名の生産者委員を選出し、GDCの経営方針などに対する生産
者の意見を取りまとめた上で、GDC役員会と交渉を行う。GDCの株価は同役員会
が決定するが、その許容範囲を定める審査責任者(バリュアー)は同カウンシル
が指名する。

milk.gif (54518 バイト)


(2)ミルク・コミッショナー

 ミルク・コミッショナーは、シェアホルダー・カウンシルとGDC役員会との意
見が合致しない場合に、その調停を行う者として新たに設置されるポストである。
シェアホルダー・カウンシルが推薦し、政府農業大臣の承認を受ける。最終的な
決定権限は持たないが、関係者から諮問を受けてGDC役員会、シェアホルダー・
カウンシル、政府に調停意見を具申する。


6.NZ酪農乳業界に自由化の波

(1)乳製品の一元輸出制度を漸次撤廃

 政府は、独占禁止に係るコマース・コミッションの審査からGDCを除外するに
当たり、いくつかの条件を付した。これらの諸条件は、将来、NZ酪農乳業の自由
化を進める上で重要な布石になると見られている。乳製品の一元輸出制度の漸次
撤廃もその一つである。現在、NZでは、NZDBによる乳製品の一元輸出が行われ
ているが、GDC設立の1年後には輸入国側が何らかの方法で輸入を管理している
品目(クォータ品目と呼ばれている)を除き、当該輸出規制が撤廃される。クォ
ータ品目も、今後6年間はGDCが一元輸出するものの、その後は一元輸出が撤廃
される。つまり、2002年にはクォータ品目以外の乳製品輸出が自由化され(輸出
許可証の取得が不要となる)、2007年にはクォータ品目についても国内外の他企
業もNZ政府から輸出許可証を取得出来るようになる。

クォータ品目

 輸入国側が関税割当てなどの方法で輸入を管理している乳製品。具体例として
は、EU向けのバター、チーズ、米国向けのバター、チーズ、カナダ向けのバター、
バターミルクパウダー、日本向け調整食用油脂などがある。


(2)生乳の多角的な販売を保証

 生乳の多角的な販売の保証も自由化に向けた重要な施策の一つとなる。政府は、
既存の国内乳製品製造販売会社(NZデイリー)をGDC系列から独立させること
にしたが、同社の営業規模ではGDCに対抗する勢力とはなり得ない。また、GDC
が強大な影響力を背景に生産者に生乳供給圧力をかけることも想定される。この
ため、政府は、生産者による生乳の多角的販売を保証するべく、GDC傘下の生産
者が年間生乳生産量の20%までをGDC以外の企業に販売する権利を保証し、GDC
はこの権利を行使する生産者に対して不利な扱いをしてはならないと定めた。今
後は高付加価値乳製品に特化した新企業が誕生したり、既存の多国籍企業がNZに
進出してくることも想定されるが、こうした新規参入者にも原料乳獲得の機会が
与えられることになる。


(3)GDCの原料乳独占を規制

 また政府は、GDCによる国内原料乳の独占を回避するべく、GDCに対して年間
約40万トンの生乳を公正な価格で他社に販売する義務を課すとしている。生産者
による生乳多角販売権の確立と併せて、GDCに対抗する企業にも原料乳を獲得す
る機会を与え、国内で公正な競争を維持したいとの意向である。


7.酪農サービス部門を分離独立

 GDC設立に伴い、これまでNZDBの傘下にあった家畜改良公社(LIC)、酪農研
究公社(DRC)などの各種酪農サービス組織がGDCから分離される。これらの各
種事業の一部は民営化されるが、民営化に適さない事業は新課徴金制度によって
運営される。新課徴金の導入は全生産者の過半数の同意と法律改訂を必要とする
が、NZの全生産者が支払いの義務を負い、同時にサービス提供を受ける権利を獲
得する。NZDBは既に新課徴金を徴収管理する新組織(Industry Goods Inc.)、
生産性向上に向けた技術的アドバイスを行う新組織(DEXCEL)などを設立した。

usi.gif (25146 バイト)


8.今後の見通し

(1)酪農乳業界の発展が加速

 NZ政府が独占禁止の法律に特例措置を適用してまでもGDCの設立に尽力した
のは、GDC設立による経済効果に多大な期待を寄せたからにほかならない。GD
Cの設立3年目で早くも多額の上乗せ利益が期待されているが、NZ酪農乳業界は
2大組合の対立という難局を打開したことで一挙に発展の速度を速めると期待さ
れている。

 GDCの国際戦略はいまだ明らかでないが、豪州への進出は既に急速に進展して
いる。NZDBは豪州2大酪農組合メーカーのひとつボンラックの株式を25%獲得
し、NZDGは大手飲用乳メーカー、ナショナルフーズの株式を約20%取得、キウ
イは西オーストラリア州最大の乳業メーカー、ピーター&ブラウンの株式を80%
取得した。GDCの設立によってこれらの対豪州投資が一本化されれば、タスマン
海を越えたオセアニアの乳業再編がさらに加速されることは間違いない。


(2)さらなる国内再編に布石

 NZ酪農乳業界は、実質的な国内統合を達成するものの、業界内部の規制緩和と
自由化を余儀なくされることとなった。乳製品の一元輸出制度が漸次撤廃されて
国内外の企業に新規参入への道が開かれることとなり、一方では個々の生産者の
権利と資産が明確に保証され、GDCへの加盟離脱の自由も与えられた。これらの
改革は、NZ酪農乳業界のさらなる再編に向けた第一歩になると思われる。


9.おわりに

 40年前には400を超えていたと言われるNZの酪農組合(乳業メーカー)が、今
年中にたった1つの巨大メーカーに合併されることになった。この変遷の早さは
恐ろしいほどである。NZの酪農関係者は国際競争の中で乳業企業として生き残る
には巨大化の道を選択する以外ないとしながらも、GDCが従来の酪農組合とは異
なり、生産者から遊離した企業になっていくのではないかとも懸念している。G
DCの設立が本当にNZ酪農乳業の発展に貢献するか否か、その真価はこれから問
われることになる。


参考文献:

Merger Information Package, 22 March 2001
 Global Dairy Company
 http://globaldairy.co.nz/merger_info_packge

Dairy Facts and Figures 1999/2000
 New Zealand Dairy Board

元のページに戻る