沈静化の兆しが見えるEUの口蹄疫


イギリス政府、危機の終結は近いとの見解

 イギリスから欧州大陸に飛び火した口蹄疫の感染拡大は、沈静化の兆しを見せ
ている。今年2月のイギリスでの口蹄疫発生後、欧州大陸で初めてとなる感染が
確認されたフランスでは、迅速な予防措置が効を奏し、感染はわずか2件で食い
止められた。その後、新たな感染が確認されなかったことから、同国および感染
地域に対する生体家畜の輸出禁止や畜産物の地域外への移動禁止などの措置は、
4月13日にすべて解除となった。現在まで25件の感染が確認されているオランダ
でも、4月13日以降、新たな感染は確認されておらず、感染地域も主に中部のオ
ーネ、北部のフリースランドの2地域に集中している。口蹄疫の発生源となった
イギリスでは、その感染数は5月8日現在で1,569件に上っているが、1日当た
りの感染確認数が減少してきていることからイギリス政府は、口蹄疫の押さえ込
みに成功し、危機の終結は近いとの見解を示している。


フランスに次ぎオランダからの輸出禁止を解除

 こうした状況を受けてEU委員会は、オランダ全土を対象としていた畜産物の輸
出禁止措置について、感染の確認されていない南部および西部について5月10日
に解除した。ただし、規制解除に当たっては、@規制地域とその他の地域の間で
の交通を引き続き規制すること、Aと畜場において、口蹄疫感染の徴候の有無に
関する臨床検査を実施すること、B生産された食肉は、と畜後24時間以内は出荷
しないことをオランダに対し求めている。また、@オランダからの生体家畜(牛、
豚、羊、ヤギおよびその他の偶蹄類)の輸出、A口蹄疫の感染が確認されたグロ
ーニンゲン、フリースランドなどの地域について、食肉、食肉製品、牛乳、乳製
品など畜産物の規制域外への移動は、引き続き禁止される。


ドイツのワクチン接種は凍結

 隣接するオランダからの口蹄疫感染を防ぐため、口蹄疫ワクチンの接種を計画
していたドイツ西部の北ラインウェストファーレン州は同日、計画を一時凍結す
ることを明らかにした。同州の計画では、オランダ国境付近の約80万頭の豚およ
び約30万頭の牛に対し、口蹄疫のワクチン接種を行うとしていた。しかし、ドイ
ツでは口蹄疫の発生は確認されておらず、この状況下で同州がワクチン接種計画
を強行した場合、ドイツ産食肉全体を対象とした輸入規制につながりかねない。
このため、他州の支持を得られなかったことに加え、同計画に反対する連邦政府
に押し切られた形となった。


ヨーロッパ各国の口蹄疫に対する対応

 ヨーロッパ各国では、イギリスなどでの口蹄疫発生に対し、口蹄疫感染に対す
る検査やさまざまな対策を実施している。一方、国内での行事にはさまざまな影
響が出ている。5月3日現在の状況は次の通りである。

(アイルランド)

 3月22日に1件目の口蹄疫発生が確認され、発生農場を中心に家畜のとう汰が
行われた。今回の口蹄疫発生の原因について、この地域でアイルランド陸軍が、
口蹄疫の感染源となりうる野生のヤギ、シカを放っていたことによるものとされ
ている。現在、北アイルランドからの交通網は厳重な監視下におかれ、国内のと
畜場は閉鎖し、すべての家畜は移動制限の対象となっている。また、国内各地で
は新たな口蹄疫感染の懸念から狩猟も禁止され、一大イベントであるラクビーの
国別対抗戦も延期となった。

(スペイン)

 イギリスでの口蹄疫発生を受けて、同国から輸入された豚500頭余りを処分し、
フランスでの口蹄疫発生に対しては、同国から輸入された家畜の移動制限措置を
実施するとともに、全頭を対象に口蹄疫感染の検査を行った。

(ルクセンブルク)

 4月10日に北部地方で口蹄疫感染が疑われるケースが発生したため、この地域
を対象に移動制限措置を実施したが、初期テストの結果、陰性が判明している。

(ベルギー)

 2月1日以降、イギリスから輸入された羊約1千頭を処分し、生体羊およびヤ
ギの輸入を禁止した。フランスでの口蹄疫発生が確認されると、同国からの家畜・
畜産物の輸入禁止措置を実施した。また、オランダでの口蹄疫発生を受けて、同
国との国境監視を強化している。

(ドイツ)

 オランダとの国境から25キロメートル以内に飼養される家畜約100万頭に対し、
口蹄疫の発生を懸念して、「例外的な場合」を除き家畜の移動制限措置を実施し、
警察による監視が強化されている。また、イギリスから輸入された家畜は全頭処
分され、イギリスの口蹄疫発生地域から生体を輸入した農家を隔離する動きが出
ている。さらに、フランスでの口蹄疫発生を受けて、3週間前にさかのぼりフラ
ンスから輸入された家畜の処分を決定している。

(イタリア)

 フランスから輸入された生体家畜について、一部感染疑惑が持たれたものの、
検査の結果陰性が判明している。なお、イギリスから輸入された家畜については、
すでに口蹄疫の検査が実施されている。国内では、口蹄疫発生の懸念からサーカ
スの中止や屋外でのイベントの取りやめなど厳しい規制が続いている。

(チェコ)

 EUの口蹄疫発生により実施していたドイツ、オーストリア国境での自動車およ
び人間に対する消毒は、4月5日に中止された。なお、旅客機で到着するイギリ
スからの乗客については消毒を実施している。

(ポーランド)

 現在、数ヵ国を除きEUからの家畜・畜産物の輸入を禁止している。また、国境
に消毒設備を配置している。

(デンマーク)

 国内での口蹄疫発生が疑われたケースについては、最終検査で陰性が確認され
たが、いくつかの農場は引き続き警戒措置が執られ隔離されている。

(ノルウェー)

 イギリスと予定した共同の軍事演習は中止となり、国内のトナカイレースなど
動物を使用する催しはすべて中止となった。

(スウェーデン)

 4月9日に口蹄疫感染が疑われるケースが発生し、対象農場は隔離されたが、
最終検査で陰性が判明した。ノルウェー同様、トナカイレースなど動物を使用す
る催しはすべて中止となった。

(フィンランド)

 フィンランド南部の農場で口蹄疫感染が疑われるケースが発生し、対象農場は
隔離されたが、最終検査で陰性が判明した。上記2ヵ国同様、動物を使用する催
しはすべて中止となった。

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