海外駐在員レポート
アルゼンチンの養鶏・養豚産業の概要
ブエノスアイレス事務所 浅木 仁志、玉井 明雄
アルゼンチンの畜産業では、肉牛産業はその重要性と経済価値は高い。その陰
に隠れ養鶏および養豚産業は、牛肉を補完する畜産物としてその位置付けは低い。
日本では穀物を大量に輸入し、中小家畜の割合の高い畜産業を展開しているのに
対し、アルゼンチンではその広大で肥よくなパンパを生かした肉牛の粗放的経営
に特徴があり、アルゼンチンの畜産といえば肉牛生産を連想する。
しかし、現在も食肉消費の中心が牛肉であることに変わりはないものの、91年
の1ドル=1ペソとした兌換(だかん)法の成立とともにインフレが収まり、こ
の10年間でアルゼンチン経済は徐々に安定に向かい、国民の畜産物への消費指向
も多少変化してきた。牛肉に比べて割安の鶏肉への消費のシフト、また鶏肉や豚
肉は健康指向が高まる中、消費者の関心を引きつつある。
今回は、牛肉生産が中心のアルゼンチンの畜産業にあって、隣国ブラジルとの
厳しい競争にさらされながらも将来に向け前進を続ける養鶏と養豚事情をレポー
トする。
1. 飼養動向
(1)主要養鶏地域、飼養事情と小史
主要な鶏の生産地帯はパンパ地域であるブエノスアイレス、エントレリオス、
サンタフェの3州に集中している。99年の農場数(種鶏農場とコマーシャル鶏生
産農場の合計)と鶏肉の総生産量に占める割合は、ブエノスアイレス州1,000〜
1,500農場、エントレリオス州2,000〜2,500農場、総生産量の約90%がこの2州で
占められている。サンタフェ州は約5%を占めるに過ぎない。エントレリオス州
の農場は、ウルグアイ国との国境河川であるウルグアイ川周辺に集中しているの
が特徴である。エントレリオス州で最初に養鶏業が発展したのは、ブエノスアイ
レス市などの大消費地に近いこと、飼料穀物の生産地であることなどが理由であ
る。歴史的にはアルゼンチン憲法を制定したウルキサ将軍が、1850年後半にエン
トレリオス州のウルグアイ川流域に位置するサンホセに欧州から養鶏業の専門家
の移住を積極的に進め、この地に初めて養鶏業を展開したのが始まりといわれて
いる。現在、サンホセ以外に同州の主要な生産地としてコンセプシオンデルウル
グアイ、コロン、グアレグアイチューなどが生産地域として知られている。
(2)飼養規模
94年の統計によると、エントレリオス州の総養鶏舎(Barn)床面積は、約250
万平方メートルで、1農場あたりの平均養鶏舎床面積は1,359平方メートルであ
る(表1参照)。
また、同州について、農場面積で比較すると、農場の74%が10ヘクタール未満、
20%が10ヘクタール以上50ヘクタール未満、50ヘクタール以上の大農場は約6%
にすぎない。
表1.養鶏舎床面積別農場数
(エントレリオス州の場合)
資料:農牧水産食糧庁、農牧技術院のデータから作成。
2.生産動向
(1) 種鶏生産と育種
アルゼンチンの養鶏産業は歴史が浅く、鶏の育種改良が進められた1960年代で
も当初は、純粋品種からコマーシャル鶏が生産されていた。60年代に入りインテ
グレーションの進展とともに市場は卵より肉を、さらにはその量を求めるように
なり、経営的にも飼料効率が優れ生産性の高い品種として、多元交配で作出され
るブロイラー生産に合ったハイブリッドの利用が一般的となっていった。
現在、国内で原種鶏(GP)を所有し、自社で種鶏を生産し外部に販売もしてい
るインテグレーターは3社で、サンセバスチャン社はARBORACRESの、ラシック
社はROSSの、グランハトレスアロジョス社はCOBBの、それぞれ公認された種鶏
の販売業者である。国内の一般のインテグレーターや独立養鶏農家は種鶏(PS)
またはコマーシャル鶏(CM)の初生ひな(種卵の場合もある)を上記3社から
購入するか海外の主要育種企業(Primary Breeding Company)から輸入している。
輸入元としては米国、イギリス、カナダが多く、隣国チリからも輸入されている。
アルゼンチンでは、ROSSとCOBBの種鶏羽数が総種鶏羽数の85%を占めている。
理由は国内市場向け生産が中心のアルゼンチンでは、消費者はと鳥重量の大きい
大型の鶏を好むからで、と鳥重量の小さい小型の鶏を好む海外市場にはARBORA
CRESが利用されている。
(2) 鶏肉生産
アルゼンチンの鶏肉生産は食生活にバラエティーを添え、牛肉輸出が増えると
国内の食肉市場を補完するために鶏肉が大量に生産され、牛肉輸出が減ると圧倒
的な消費量を誇る牛肉と競合するという傾向で推移してきた。
鶏肉生産は牛肉需給との関係、価格変動の波にもまれながらも成長を続け、99
年はと鳥羽数3億4,400万羽、鶏肉生産量(骨付き可食処理ベース)は約90万トン、
2000年はそれぞれ3億4,800万羽、約92万トンと過去最高を記録した(表2参照)。
と鳥羽数の99%はいわゆるブロイラーで、残りは七面鳥やカモなどである。
一般に食鳥処理加工施設段階での生産割合は丸どりが80%、パーツが20%であ
るが、店頭に並ぶときは小売り段階で整形加工され丸どり60%、パーツ40%の割
合になるようだ。
表2.と鳥羽数と鶏肉生産量
資料:農牧水産食糧庁、農畜産品衛生事業団(セナサ)、国家統計局のデータ
から作成
注:と鳥羽数と生産量は鶏、七面鳥、カモ、家カモ由来だが、鶏が99%を占
める。
生産量は骨付き可食処理ベース。
輸入量は鶏の丸どり、パーツ、加工品の製品重量である(セナサ)。
輸出量は出所により数字が違うので、輸入量との整合性を勘案しセナサ
のデータを採用した。製品重量である。
小売り価格は付加価値税を含む、内臓を抜いた丸どりのキロ単価。
1ペソ=1ドル。
(3)アルゼンチンのインテグレーション
アルゼンチンでは、60年代からにインテグレーションが始まり、70年代に発展、
74年から84年の約10年間でインテグレーションは確立した。91年には兌換(だか
ん)法の制定でインフレが抑制されたため、費用対効果を考慮しコストダウンで
利潤を追求できるようになった。現在、種鶏生産(種鶏輸入)、種卵のふ化(初
生ひな生産)、コマーシャル鶏飼育、と鳥処理加工、販売までを一貫経営で行う
インテグレーションが一般的で、独立養鶏農家はごく少数である。ここではイン
テグレーターが契約養鶏農家に初生ひな、飼料、衛生管理などの各種の技術指導
を提供し、契約養鶏農家は施設、生産に必要な経費(電気、水道、ガスなど)、
マンパワーを提供し、最終的にインテグレーターが生産物を引き取る契約型の統
合が一般的である。少数だがインテグレーターが自社直営のコマーシャル鶏生産
農場を持ち、生産と販売を行う所有(自営)型およびそれと契約型との併用型も
見られる。
アルゼンチンでは食鳥処理加工業者が最初に原材料である鶏生産をコントロー
ルし、次いで飼料生産などを経営に組み込みインテグレーターに発展した場合が
多い。
アルゼンチン農畜産品衛生事業団(セナサ)に認定されている食鳥処理加工施
設は国内に76施設あるといわれているが、セナサの統計では2000年に稼働してい
るのはそのうちの52施設である。うち42%がブエノスアイレス州、35%がエント
レリオス州に集中している。なお、セナサが把握している食鳥処理加工施設は、
総と鳥羽数の約85%に対応する施設であり、残りの約15%は地方の小規模な処理
加工施設由来のものである。
インテグレーションの進展は、インテグレーターである大手企業のと鳥羽数を
見れば明らかである(表3参照)。主要なインテグレーターは25社ほどあり、上
位3社で全体のと鳥羽数の約30%、上位10社で60%のシェアを占めており、イン
テグレーションによる生産規模の拡大は、同時に鶏肉産業の寡占化の方向を示し
ている。
表3.主なインテグレーター(上位10社)のと鳥羽数(2000)
資料:セナサのデータを基に作成。
3. 需給動向
(1) 生産
ここではアルゼンチンの鶏肉生産の特徴的な動向を述べる。
インテグレーションの進展、施設の近代化に伴い、鶏のと鳥、解体がオートメ
ーションで精巧な機械により行われるようになり、骨付き可食部分への歩留まり
は数年前の78%から現在は81〜82%に向上した。この結果は近年の生産量の増加
に反映している。
約30年前は80日齢でやっと2.2kgに達する程度で、飼料要求率は2.8であった。
その後育種改良が進み、衛生や栄養管理の向上などにより、現在、国内で一般に
消費される鶏のと鳥時の重量は54日齢、2.7kg(飼料要求率2.2)である。輸出向
けには飼育期間を短くし、小型の鶏をと鳥しており、一般に35日齢で1.2kg以下
のものがと鳥される。輸入業者の注文に応じて飼育期間を短くしたり飼料の配合
割合などを変える工夫がされる。国内では黄色の脂肪が、海外では白色の脂肪が
好まれる傾向がある。
(2) 消費
90年から2000年にかけての10年間で鶏肉の消費は138%増加している。99年は
国内消費量の約6%を、2000年は約5%を輸入しているが、国内生産ではほぼ国
内需要をまかなっているといえる。国内市場ではと鳥時の平均重量が2.7kgの大
型で脂肪が黄色が鶏を好まれ、需要の7、8割が丸どりである。近年パーツや冷
凍調理済製品の消費が漸増している。
2000年の年間1人当たりの鶏肉消費量は25.8kgで97年の18%増となった。近年の
需要の増加は、インテグレーションの進展による生産効率の向上からコストが削
減され、鶏肉の実勢価格が低下したことや、食生活の変化、特に健康指向などに
よるところが大きい。また、鶏肉を目玉商品として扱う大手スーパーの影響もあ
る。
国内の丸どり価格は、2000年の卸売価格が97年に比べ30%安いキロ1.04ドル、
小売価格は、23%安のキロ1.92ドルと下落傾向で推移している。これに対し、牛
肉価格は比較的高値安定で推移している。このように鶏肉が牛肉よりも相対的に
安いことが鶏肉の消費を増加させている大きい要因の1つと考えられる。94年以
降、鶏肉は国内で一番安い食肉として市場で安定し、現在、牛肉のアサード部位
(プレート)1kgと鶏肉2〜3kgが同額であるという。
なお、アルゼンチンの鶏肉消費の特徴は、10月以降徐々に消費が増え、クリス
マス、新年にかけてピークを迎え、その後漸減するパターンを描く。調理方法は
丸どりを丸ごと、あるいは4分割にしてオーブンなどで焼く、いわば鶏のアサー
ド(焼き肉)が一般的である。
(3) 輸出入
鶏肉輸入(以下製品ベース)の大部分はブラジルからで、主に丸どりを輸入し
ている(表4参照)。94年の輸入量は52,000トン、95年は一気に19,600トン(前
年比62%減)に減少する。これはブラジル国内で鶏肉消費が増えたこと、94年の
ブラジルのレアルプランで同国の輸出競争力が落ちたことなどに起因する。しか
し、その後輸入量は継続して増加し、98年は約64,000トン、国内生産量の7.5%を
占めこれまでの最高となった。これはアジアの金融危機の影響で、従来のブラジ
ルの輸出先がアルゼンチンにシフトしたためである。99年は53,000トンと前年を
17%下回ったが、これは99年1月ブラジル通貨レアルの切り下げで、輸出競争力
のついたブラジル産の鶏肉がアルゼンチンの市場に殺到し、従来からアルゼンチ
ンはブラジルの鶏肉輸出をダンピングと非難していたが、ここにきて両国間に緊
張が高まり輸出に抑制力が働いたからである。2000年はさらに前年比17%減の44
,000トンに下落した。
アルゼンチンの鶏肉輸出(以下製品ベース)は94年から漸増し、99年に24,400
トン、2000年は前年比12%増の27,400トンとなった(表5参照)。輸出を品目別
に見ると、モミジと呼ばれる鶏の足爪の部分が過半を占め、中国、香港、南アに
輸出されている。内臓粉末、フェザーミール、原料脂が全体の3割を占め、チリ、
南ア、スペイン、コロンビアに輸出され、増加傾向である。
また、丸どりやパーツの生鮮鶏肉の輸出は、輸入国が要求する輸出条件を満た
している旨のセナサの承認が必要で、サンセバスチャン、ラシック、グランハト
レスアロジョス、ラスカメリアスの4社のみが輸出企業として認定されている。
こうした輸出企業の輸出志向は高いといえる。
表4.国別製品別輸入量、輸入金額
イ)国別輸入量(トン)
資料:セナサのデータを基にして作成
注:輸入量は製品ベース
その他の国には、イスラエル、米国、カナダ、EU諸国がある。
ロ)国別輸入金額(FOB千ドル)
資料:セナサのデータを基にして作成
注:その他の国には、イスラエル、米国、カナダ、EU諸国がある。
ハ)製品別輸入量(トン)
資料:セナサのデータを基にして作成
注:輸入量は製品ベース
加工品には鶏肉の煮込み、調理済調整品、燻製、七面鳥のアサード
(焼き鳥)などがある。
表5.仕向国別製品別輸出量、輸出金額
イ)仕向国別輸出量(トン)
資料:セナサのデータを基に作成
なお、輸出統計は出所により数字が違うので、情報コンサルタント
の作成したものを利用。
注:その他の国には南ア、南米諸国やEU諸国がある。
ロ)仕向国別輸出金額(FOB千ドル)
資料:セナサのデータを基に作成
なお、輸出統計は出所により数字が違うので、情報コンサルタント
の作成したものを利用。
注:その他の国には南ア、南米諸国やEU諸国がある。
ハ)製品別輸出量(トン)
資料:セナサのデータを基に作成
なお、輸出統計は出所により数字が違うので、情報コンサルタント
の作成したものを利用。
注:その他可食部位には、むね肉、もも肉、パーツ、可食内臓が含まれる
その他不可食部位には、内臓粉末、フェザーミール、血粉、不可食脂
肪が含まれる。
ブラジルとの鶏肉貿易摩擦の経緯と現況
(1) 経緯
97年 :ブラジル産の安価な鶏肉輸出が急増したことから、アルゼンチ
ン養鶏加工協会はダンピングが疑われるとして、アルゼンチン
経済省の国家貿易委員会に調査を要請。
99年 1月 :同委員会からダンピング調査開始の決定がおりる。
ブラジル、通貨レアルの切り下げにより輸出競争力をつける。
99年10月 :両国の養鶏産業関係団体でブラジル産の鶏肉輸出枠などを取り
決めた従来からの紳士協定が、ブラジルの一方的な輸出により
事実上破棄される。
99年11月 :エントレリオス州の養鶏団体の訴えで同州の連邦裁判所は、ブ
ラジル産の鶏肉輸出枠を月3,742トンに限る判決を下す。しかし
アルゼンチン経済省はこの判決を無効とする。
99年12月 :同委員会はブラジル産の鶏肉のダンピング輸入によりアルゼン
チンの養鶏産業に損害が出ていると結論する。
2000年 :1月のブラジル産の鶏肉輸入量は前年同月比の約2倍の6,600ト
ンになりアルゼンチンの養鶏業界はさらに危機感を強める。
(2) ダンピングの制裁措置
アルゼンチン経済省は2000年7月、ブラジル産鶏肉の丸どりの最低輸出価格を
設定し、輸出価格がこの最低輸出価格を下回った場合、その差額をアンチダンピ
ング税として賦課する制裁措置を決定した。これによるとブラジルのサジア社に
対してキロ0.92ドル、その他の輸出業者に対しキロ0.98ドルの最低価格が設定さ
れ、向こう3年間有効とされた。
これに対しブラジル政府は、この制裁措置の見直しをアルゼンチン側に求めて
いたが、議論はかみ合わず、結局問題の解決はメルコスルの貿易紛争処理の場に
委ねられた。
この制裁措置の結果、2000年の鶏肉輸入量は44,000トンと99年比で17%減少し
た。
4.事例紹介(ラスカメリアス社、グランハトレスアロジョス社)
今回はエントレリオス州サンホセに生産の本拠を置くラスカメリアス社と、同
州コンセプシオンデルウルグアイ市に生産の本拠を置くグランハトレスアロジョ
ス社の養鶏インテグレーターを取材した。2社とも国内で4社しかないセナサの
輸出認定を受けた大手企業である。
(1) 会社概要
@ ラスカメリアス社
同社はイタリアのマルソ家の同族企業でイタリア移民3代目、現在4人兄弟で
経営している。それぞれ社長と総務、獣医事、衛生の各担当を持ち回っている。
販売に関してラスカメリアス社は決済条件の関係で大手のスーパーには製品を卸
していないのが特徴である。
A グランハトレスアロジョス社
同社もイタリアのグラシア家の同族企業で、現在イタリア移民2代目の4兄弟
で経営している。今の社長はアルゼンチン生まれの末っ子で他の3人の兄弟はイ
タリア人。
同社は、飼料工場2ヵ所、原種鶏農場1ヵ所、種鶏場5ヵ所、ふ化施設3カ所、
食鳥処理施設2ヵ所を有し、インテグレーションの下で約1,100人が働いている。
先代は1935年にアルゼンチンに移住し、小さな鶏肉販売商を営んでいたが、倒産
した養鶏農家を吸収しながら規模を拡大した。穀物と搾油産業に経営をシフトさ
せたカーギル社から養鶏部門を買い取って経営の一層の拡大を図ったという。ア
ルゼンチン国内で輸出量はトップでドイツなどにむね肉を輸出している。
(2) 各生産部門について
@ 飼料生産
ラスカメリアス社では、飼料原料として3〜5種類を使用、特に国内向けは黄
色の脂肪が好まれるので、赤ピーマンエキスなどを添加している。飼料の配合割
合はとうもろこし65%、大豆約30%、場合によっては、小麦とソルガムを約10%
使用することもある。飼料の品質管理は最重要項目と考えられている。
グランハトレスアロジョス社では飼料工場を見学した。かなり古い工場。品質
管理室では飼料原料、製品の理化学分析に加え、副産物施設から生産される肉骨
粉や内臓粉末のサルモネラ菌や大腸菌などの微生物検査を行っている。食鳥処理
加工施設のHACCPの重要管理点から採取された鶏肉の検査も行う。
工場では、コマーシャル鶏の生育段階にあわせ4種類のペレット飼料のみを生
産し、契約養鶏農家だけにバルク車で搬送している。日産500〜600トン。コスト
の6割は飼料費だけに配合割合などに工夫が必要という。
A 種鶏場(ラスカメリアス社)
種鶏場は広く、周囲は高木が植林され、他の養鶏場から衛生的に隔離されて立
地していた。種鶏舎は1棟12m×140mで5棟あり、収容能力は計4万羽(雄1に
雌8の割合)。湿度、温度、換気などはすべてコンピュータで制御されている。
こうした種鶏場が国内に8ヵ所ある。種鶏生産は種鶏(PS)に同時期に斉一性
の高い種卵を産ませるため極力飼育環境を同じにする必要があり、特に光の管理
は重要という。
米国、チリ(南米で最初に原種鶏を取り入れた)、イギリスのスコットランド、
アルゼンチン国内からROSSの種鶏のひな(生後2日目)を購入、雌雄別にいった
ん他の場所で20週間斉一的に飼育し、その後雌雄をこの種鶏場に搬入する。種鶏
場で40〜45週間種卵を生ませ、約64週齢で廃用にする。その間のへい死率は8%
である。
種卵の総生産量は1日に約62,000個である。種卵は品質チェックを受け2日後
にふ化場に搬出される。
次にグランハトレスアロジョス社の種鶏生産については、原種鶏(GP)の別
系統の雌雄を米国のCOBB社から輸入し、自社用の種鶏を生産するとともに種
鶏の国内販売も行っている。原種鶏農場は種鶏農場より衛生面の規制が厳しく、
飼養環境がよく飼養密度も低い。原種鶏も種鶏同様64週齢で廃用にする。原種鶏
を輸入する理由は経済力のあるCOBB社の技術移転を受けられ、研修制度など
が利用でき、許可があればブラジルなどに種鶏を輸出できるからである。種鶏は
現在40万羽飼育している。
|
【ラスカメリアス社の種鶏場
種鶏の雌は写真左端の小さな囲いに
入って産卵する】
|
B ふ化施設(ラスカメリアス社)
ラスカメリアス社は2つのふ化施設を所有しているが、稼働しているのは一方
だけとのこと。種卵の週の平均搬入個数は約40〜43万個(1日平均67,000個)で
安定している。ふ卵器(米国製チックマスター)1台で93,000個の種卵をふ卵で
き、それが14台ある。ふ卵器内は37.2度に設定され、1時間に1回転卵させる。種
卵搬入後ふ卵器に18〜19日間入れ、その後ふ化台に移しマレック病のワクチンを
接種すれば2〜3日後に初生ひなが生まれる。ひなは生まれたその日に契約養鶏
農家に搬出される。ひなは週4回、1回に7〜8万羽生まれる。ふ化率は平均85
%、いい時で91%。初生ひなは注文に応じて羽の形状による雌雄鑑別が施される
場合がある。
C 契約養鶏農家(グランハトレスアロジョス社)
一般の契約養鶏農家の訪問は衛生上の問題もあるということで、今回はグラン
ハトレスアロジョス社直営のコマーシャル鶏生産農場を見学した。
グランハトレスアロジョス社の契約養鶏農家はエントレリオス州に350戸、ブエ
ノスアイレス州に100戸の計450戸。平均飼養規模は1.5〜2万羽だが、訪問した直
営農場は4.5万羽を飼養。この農場で50〜55日育成し2.7kgで食鳥処理加工施設に
出荷する。養鶏農家の手取りは飼料費と衛生費を差し引いて計算され、生体キロ
単価の15%ほどで市場価格には影響されないという。
|
【グランハトレスアロジョス社
の直営農場の養鶏舎
側面は開放されていたが、温度、
湿度、換気の管理が重要という】
|
D 食鳥処理加工施設(グランハトレスアロジョス社)
見学した施設の1日の処理能力は2シフトで16万羽、実際は1日14万羽を処理し
ている。1シフト約150〜180人が働く。1日の処理重量は生体で378トン、歩留ま
りを82%として骨付き可食処理ベースで約310トンである。生産の80%は丸どり
ですべて国内向け、残り20%はパーツである。パーツのうち、むね肉の8割、量
にして月間80トンを主にドイツに輸出、手羽の10%や月間28トン生産するモミジ
を中国、台湾などに輸出している。なお、もうひとつの施設では、EU向けに、
廃用鶏を材料にし角切肉の煮こみを生産している。
処理施設は近代的でと鳥処理解体の全工程はオートメーション化され、衛生的
な施設はHACCPを取り入れている。衛生上の規制は、国内向けにはセナサの
承認が、輸出向けは輸入国の衛生条件をクリアした旨のセナサの承認が必要とな
る。HACCPは米国が義務づけているが、最近は先進国に輸出する場合の必要
条件となりつつある。シンガポールへの輸出に向け手続き交渉中である。
なお、ラ社の処理加工施設はISOを取得しているが、これは社内管理と生産
性の向上を自発的に取り組むためのもので輸入国に要請されているわけではない
とのこと。
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【近代的な処理加工施設ではと鳥から
解体まで全自動】
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【グランハトレスアロジョス社の国内
向けの製品】
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1. 飼養動向
(1) 主要な養豚地域
ブエノスアイレス、サンタフェ、コルドバの3州で豚の飼養頭数の8割以上を
占める。穀物生産の副次的な家畜飼養として養豚が始まった経緯や飼料費がコス
トの約6割を占めることなどが理由で、養豚地域は穀物生産地のパンパ地域や養
豚飼料としてのホエイなどの酪農副産物を産出するサンタフェ、コルドバ州の酪
農生産地帯とほぼ重なる。
(2) 飼養戸数と飼養頭数
飼養頭数は、87年は430万頭飼養されていたが、91年までに270万頭に減少した。
アルゼンチンで兌換(だかん)法が成立した91年の翌年から特にブラジルの豚肉
とその加工品の輸入が激増、しかし需要は強含みで推移し、飼養頭数は94年の34
0万頭まで上昇した。しかしその後再び減少を続け、97年は210万頭と過去最低の
水準に落ちた。98年以降現在に至るまで徐々に頭数を伸ばし、2000年は約232万
頭と推定されている。232万頭のうち母豚は約20万頭である。
囲い込み肥育を主体とした中小を含めたインテグレーターが約50、豚の放牧肥
育を特徴とする家族経営農家が約1,500戸といわれ、20万頭の母豚のうちインテ
グレーターで飼養される母豚が5万頭、放牧肥育を行う家族経営農家で飼養され
る母豚が15万頭といわれている。アルゼンチンで一般的な放牧肥育を行う農家は、
平均約100頭の母豚を飼養していることとなる。
2. 生産動向
(1) 種豚生産と育種
90年代以前は英米から純粋品種の原種豚を輸入し、種豚を繁殖させる育種家が
いた。彼らは原種豚から純粋品種の種豚を生産し生産現場に供給していた。この
ことは、コマーシャル豚の生産に純粋品種が利用されていたことを示す。そのた
め、90年代以前は国内各地でその土地に合った多種類の純粋品種が飼育されてい
た。たとえば酪農家は、酪農副産物や残飯類などの食い込みとその飼料効率の高
いバークシャ種を飼育していた。しかし放牧肥育が一般的なこの国で、多少の繁
殖性の低下より強健性が重要で、放牧に適しかつ肉質のよいデュロック種が徐々
に主流となった。
90年代に入り、人工授精技術の広まりとともに各国の育種業者が2元交配によ
る雑種強勢を利用したF1生産をアルゼンチンにもたらした。これが徐々に一般
的なコマーシャル豚の生産方法となる。このころ兌換(だかん)法の成立で国内
経済が安定し、養豚のインテグレーションに投資する兆しも出てきた。
現在、一般的な交配方法は、ランドレース種の雌にラージホワイト種の雄をか
け、生まれたF1の雌にデュロック種の雄をかけ合わせてF2を得る3元交配が
実用化されているようである。
(2)肉豚生産
と畜頭数、豚肉生産量(枝肉ベース)とも97年から増加基調で推移し、2000年
はそれぞれ255万頭、22万6千トンである(表6参照)。豚肉の輸入は92年以降
ほぼ一貫して増加基調で推移したが、99年に過去5年で初めて輸入量が減少、こ
こにきて輸入量は安定化している。国内需要が増加基調であることが、国内の豚
肉生産増にプラスの要因となっていると考えられる。
表6 と畜頭数と豚肉生産量
資料:農林水産省食糧庁、セナサのデータを基に作成。
注:生産量は枝肉ベースと畜頭数はオンカが管理している処理施設のと畜数
輸出輸入はセナサの製品ベース
インテグレーターからの出荷頭数は、80〜100万頭。ここでは母豚は年間18〜
20頭の子豚を生むように育種改良で標準化されている。放牧肥育を行う家族経営
農家が生産した豚の出荷頭数は、150〜170万頭で、家族経営農家では母豚は年間
9〜17頭しか子豚を生産しないことから、1腹当たりの子豚頭数を増加させるこ
とが改良目標となっている。
(3)放牧肥育とインテグレーションの概要
@放牧肥育
アルゼンチンでは、母豚の75%が放牧肥育を行う家族経営農家によって飼育さ
れ、養鶏と違い、養豚産業ではインテグレーションは普及しておらず放牧肥育が
一般的である。放牧には、離乳時までの放牧、肥育素豚生産までの放牧、そして
肥育豚出荷までの放牧と様態が違い、飼養技術や投資額の幅は広い。だが基本的
に水や飼料の給与は人手で行い、囲い込み肥育も併用している。一般に放牧肥育
での母豚1頭当たりの投資額は600〜1,500ドルといわれる。
Aインテグレーション
90年代に入り人工授精技術が普及し、多元交配によるF1やF2生産が一般的
になったこと、兌換(だかん)法の成立でハイパーインフレーションが収束し、
国内経済が安定し、養豚経営にも費用対効果の考え方が浸透し、また投資すれば
採算がとれだしたことなどにより、インテグレーションへの投資が徐々に進展し
た。現在、大手20社、中小を含めると、40〜50社のインテグレーターが存在し、
国内生産の半分を占めている。しかしインテグレーションの歴史は養豚ではこの
10年で、現在でも放牧肥育中心の中小の家族経営規模が多い。
インテグレーションは大まかに次の4タイプに分類できる。
@ オール囲い込み肥育型
一般にインテグレーションと呼ばれるもので、今回の取材先のパラディーニ社
をはじめ会社経営が主体で、もともと食肉処理加工業者が原材料を自ら調達しよ
うとして発展した形態である。母豚1頭当たりの投資額は3,000〜4,000ドル(土地
代は含まない)といわれる。インテグレーターには、食肉処理加工業者である大
手のハム加工業者や大豆などの搾油メーカー(副産物を飼料として利用する)が
多い。
A 放牧、囲い込み肥育併用集団出荷型
生産者が集まり共同で出荷組合を作り集団出荷を行うもので、生産者の集まっ
た水平統合型ともいえる。各生産者は独立採算で、出荷だけを集団で行い、価格
設定に優位に立つ食肉処理加工業者に対し価格交渉力を持つタイプである。
B 放牧、囲い込み肥育協業型
国立農牧技術院(インタ)が実施するカンビオルラール計画(農村再編計画)
傘下の生産者が、技術的にインタの指導を受け、各自がそれぞれの分野で専門を
持ち、経営的には法人化して協業経営を行うもの。
最近は法人化した組織が食肉処理加工施設をリースまたは買い取って、小売店
に直で枝肉取り引きする発展型も見られる。
C 大型スーパーによるインテグレ型
養豚では新しいが、最近大手スーパーのコト社やマルデルプラタのトレード社
が豚の生産、と畜、処理加工、販売までのインテグレーションを始めている。
3. 需給動向
(1) 消費
近年、年間1人当たりの豚肉消費量は増加し、全体の消費量も着実に増加して
いる。1人当たり7kgを腸詰、ハム、ソーセージ類の加工品で消費し、1kgを生
鮮肉で消費しているが、加工品は安定していて伸びは期待できないという。
アルゼンチンでは生鮮肉の消費は祝日などに主に子豚の肉が消費されているが、
今後需要を増やすには脂肪の多い子豚肉より、健康食品として注目されつつある
普通の生鮮豚肉の消費をいかに伸ばすかにかかっている。
(2) 流通と価格
豚は生産者の庭先から直接生体で豚を専門に処理する食肉処理加工施設に搬出
される。取引市場はなく、生産者は近場の食肉処理加工業者と相対で取引するの
が一般的である。また、牛では取引の中心となっているリニエルス市場も96年以
降豚は上場していない。
政府は同市場にかわって取引価格の透明性を保ち、基準となる価格を公表する
仕組みとして、95年にSIPPと呼ばれる豚価の情報公開システムをつくり、96
年から開始した。年間のと畜頭数のうちセナサが管理する処理施設でのと畜頭数
は約30%強である。この頭数をベースに10数社の大手食肉処理加工業者が設定す
る生体価格、赤身肉価格(枝肉に対する赤身肉割合44%を中心に、その前後にプ
レミアムまたはディスカウントをつけた価格)、従来の枝肉価格の3つの平均値
を毎週公表するシステムである。赤身肉の割合は政府公認のピストル様の機具で
肉と脂肪の反射率の差を利用して測定する。SIPPシステムのベースとなる約80万
頭数のうち、56%が生体価格、44%が赤身肉価格で取引され、従来の枝肉価格で
取引されることはほとんどない。最近、赤身肉価格は生産者への見返りが少ない
という理由で取引量を落としているという。
SIPPによる生体価格と赤身肉価格は、99年は前年に比べ大きく下落したのに対
し、2000年はそれぞれ0.78ドル/kg、0.98ドル/kgで、99年と同水準であった。
(3) 貿易
豚肉とその加工品の輸入は、兌換(だかん)法が導入された91年後半から増加
し、主に安価なブラジル産が輸入された。92年に輸入量が約3万トンに激増し、
以後ほぼ継続的に輸入は増加し、98年は過去最高の71,000トンに達した。その後
は6万トン台で推移している(表7参照)。2000年の輸入量(製品ベース)は67,
800トンと99年を2.4%上回っている。輸入品の内訳は生鮮肉が46,200トン、腸詰、
ハム、ソーセージ類が15,200トン。それぞれ99年の輸入量を0.5%、4.6%上回っ
ている。その他の輸入品目は、アルゼンチンで使われる漢方薬の原料になる内臓
の石、豚脂、ゼラチンその他で6,500トンの輸入量がある。輸入量の7割はブラ
ジル産の豚肉およびその加工品である。
表7 豚肉輸入統計表
イ)輸出国別輸入量(トン)
資料:セナサのデータより作成
注:輸入量は製品ベースのトン
ロ)輸入品目別内訳
資料:セナサのデータより作成。
注:輸入量は製品ベースのトン
paletafiambreやmortadelaは腸詰、ハム類である。
輸出については量が少なく、2000年は2,800トンであり、その大半がボリビア
向けの豚脂で、2,280トン、その他は腸詰、ハム、ソーセージ類で510トンでこれ
も大半がボリビア向けである。
4. ブラジルとの貿易摩擦
両国間には、鶏肉以外に2つの畜産物の貿易摩擦がある。1つが低廉なブラジ
ル産の豚肉であり、アルゼンチンの養豚業者は補助金付きのダンピング輸出であ
ると非難している。もう1つは、逆にアルゼンチンからのブラジルへの粉乳輸出
である。こうした両国の貿易摩擦は農畜産物に限らず工業製品でも起こっている
が、この摩擦の背景には99年1月のブラジル通貨レアルの切り下げでブラジルの
価格競争力が増したことがある。
5.事例紹介(パラディーニ社)
(1) 会社概要
パラディーニ社はイタリアのパラディーニ家の同族企業である。イタリア移民
3代目の4人の兄弟で経営している。1922年まで豚のと畜と豚肉販売業で実績を
積み、1923年に食肉処理加工業の会社を興し、その後インテグレーションに着手
し98年現在4,700頭の種豚を所有するに至る。サンタフェ州ロサリオ近郊に本社
機能を持つ食肉処理加工施設がある。現在、と畜頭数、豚肉およびその加工品の
生産でアルゼンチンで最大手の1社でトップ5に入るといわれる。従業員数約1,
200人。
(2) 各部門の概要
総投資額1,800万ドルの巨大な生産農場(エリン農場)は、穀物栽培を含めた
飼料生産部門、養豚部門(コマーシャル豚の生産、育成、肥育)、肉牛生産部門
をひとまとめにして、本社のある食肉処理加工施設から車で約20分ほどの、2,00
0haの敷地に立地している。養豚部門のうち原種豚から種豚を生産する繁殖専用
の農場のみ衛生上の観点からエリン農場から10km離れたところに立地している。
この生産農場では約80人が働いている。
@飼料生産部門
写真のように穀物と配合飼料の大きなサイロがそそり立っている。配合飼料の
生産量は月産3,500トン、年間のストック量は14,500トンで年間使用量の約3割に
相当する。飼料原料の配合割合は、トウモロコシとソルガムで60%、大豆が30%、
ビタミンなどの補助飼料が10%で豚の生育ステージに合わせ約10種類の配合飼料
を生産している。8割をエリン農場で使い、残りを囲い込み肥育向けに外部に販
売している。トウモロコシと大豆の4割弱は2,000haの所有農地で自給しているが、
それ以外は近場の生産地の市場から購入している。
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今後の規模拡大はよそで土地を探すか、契約農家を増やすかのどちらかという。
近隣で土地を拡張できないのは、土地が細かく分散していて交換分合が困難なこ
とと、ロサリオ市近郊のため環境問題があることなどである。
A養豚部門(繁殖、育成、肥育)
エリン農場から少し離れた繁殖専用の農場(28ha)では、育種会社PICのチ
リ支店から購入した、原種豚(雌)のランドレース種360頭が飼育されており、
週に40頭の種豚(雌)を生産しエリン農場に搬出している。
育成と肥育段階はエリン農場内の3ヵ所のサイトに分かれている。なお、自社
の養豚部門で生産される豚肉は、加工製品製造に必要とされる原料の約3割を満
たし、残りの7割の大部分は、ブラジルからの豚部分肉と加工品の輸入と国内で
の豚の購入によって調達している。
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【コマーシャル豚を生産するカンボロー22と繁殖棟の内部】
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最初に見たサイトは人工授精室とラボを併設し、原種豚(雄)のラージホワイ
ト種10頭、種豚(雄)30頭の計40頭の繁殖用雄豚が飼育されている。ここではカ
ンボロー22と呼ばれる種豚(雌)3,640頭が人工授精により1日当たり平均350頭
のコマーシャル子豚を生む。子豚は16日齢、5.1kgになるまで母豚につけ、その
後離乳させる。離乳までのへい死率は6%とのこと。離乳が早いという質問に対
し、種豚の繁殖供与年数は2.5年でそれまでに6回出産させる、そのためには16日
齢で離乳させるのがローテーション上最適ということだった。離乳した子豚は次
のステージのサイトに移される。
次のサイトは25棟の育成棟を持ち、離乳した子豚を65日齢まで育成させる肥育
素豚生産のサイトである。常時約14,000頭のコマーシャル豚が育成され、65日齢
になると肥育のサイトに移される。週に1,800頭のローテーションが行われる。
最後のサイトは65日齢のコマーシャル豚を175日齢、約115kgにまで肥育させ、
出荷前の肥育と仕上げを行う。1棟1,000頭規模の棟が8棟で1区を形成し、これ
が4区あるので計32,000頭のコマーシャル豚が肥育されていることになる。1区
から週平均2000頭を自社の食肉処理加工施設に出荷している。出荷までのへい死
率は8%という。現在この肥育サイトのほかに試験的に3,000頭規模の1戸の養豚
農家と3年契約を結んでいる。養鶏の場合こうした契約農家は一般的だが、養豚
の場合はめずらしいという。
環境管理の面では、繁殖専用の農場に1つ、エリン農場内の各サイトに5つの
計6ヵ所のラグーンがある。1つのラグーンは約5万から8万立方メートルで、
棟の清掃に使われた汚水はすべてこのラグーンにポンプでくみ上げられる。様式
は単純に自然発酵で固形物を沈殿させ、上澄みの1メートルを飼料穀物生産用の
液肥として利用している。
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【肥育サイトに隣接するラグーン】
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B 食肉処理加工部門
この部門には、牛と豚のと畜解体処理施設、製品加工施設、レンダリング施設
がある。なお、社内規定により写真撮影は禁止されている。
・ と畜解体処理施設
週に雄牛を約600頭、去勢牛を約100頭処理し、高級部位の一部だけを国内のホ
テル、レストラン、各種の施設に出荷しているが、他はすべて加工製品の原材料
として利用している。牛はほとんどエリン農場で生産するもので足りるが、他の
食肉処理加工業者から前四分体を購入することもある。なお、現在去勢牛の高級
部位をヒルトン枠としてEUに輸出できるように手続きをしている。
豚は1日に約550頭処理しこれを週5回行う。エリン農場から搬出されるのが
450〜500頭で、残りは近郊の養豚農家から買う。衛生的な施設で最新の機械を使
い処理解体をオートメーションでどんどん進めていくのは牛の場合とかわらない。
豚の場合は頭肉も利用するため、半丸枝肉の片方に頭が皮一枚でつながっていた。
最終的には頭は取られ、PISSの規定で赤身肉の割合を測るためにピストーラ
のチェックを受ける。豚も高級部位の一部は国内のテーブルミート向けに出荷さ
れる。
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【ピストーラと呼ばれる機械で
赤身肉の割合を測定する】
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・ レンダリング施設
不可食部位の骨、脂肪、肉、内臓などを粉砕混合し、加熱処理すると脂肪が溶
解しこれをせっけん原料として抽出しタンクに溜める。脂肪を抽出した後の固体
を取り出して乾燥しミール状にすると出来上がり。日産15〜20トンで主に肥料用
となる。50kgの袋物で週1、2回出荷する。袋には"牛のえさには使用禁止"とあ
った。
・ 製品加工施設
衛生的には、同工場はHACCPを取得している。2000年8月にISO9002を取
得し、2001年にはISO14000を取得予定である。
現在、製品重量で月産4,000〜4,500トンの加工製品を製造している。月間の製
造能力は6,000トンだが稼働率が75%である。加工製品はほとんどが国内市場向
けとなっている。ボリビアとパラグアイに、腸詰め、ハム、ソーセージ類のモル
タデーラやサルチチョンを少量輸出している程度である。
牛肉と豚肉の配合割合は製品により多様である。混ぜてパテ状にしたときに脂
肪量を測定し、不足する場合は脂肪を追加して調整する。外部から購入した雄牛
の肉は乾燥サラミの原料にする他、トッシーノという豚脂と多くの調味料を混ぜ
て作る。生ハムは中でも高級品で豚のもも肉を塩漬けにし乾燥させ半年間熟成さ
せる。日産500本を生産している。
・ 販売部門
流通センターを1ヵ所有している。卸売業者に製品の45〜50%、小規模スーパ
ーに25〜30%卸している。傾向としては小規模ス−パの割合を増やしている。大
手スーパーにも20%卸すが、大手スーパーは資本力がありメーカーを吸収する動
きがあるので注意しているとのこと。
食肉といえば牛肉の国アルゼンチンで、養鶏と養豚はどうしても影が薄いが、
紹介してきたように生産量は増加基調で推移し、インテグレーションも成長し、
コスト削減の努力も行われている。ただコストを極限にまで抑え価格競争力でし
のぎあう家きん肉の場合、為替の関係もあり万事コスト高のアルゼンチンには国
際市場競争は厳しいと思われる。業界も輸出よりもまず国内市場を満たす発想の
ゆえんである。しかし今回取材したような大手のインテグレーターは各国のいわ
ゆるニッチ市場にも興味を持ち、日本の養鶏・養豚産業に興味を示していた。養
豚では今後生鮮肉需要の伸びが産業発展の鍵だということから、日本のトンカツ
のレシピを紹介したが、さてアルゼンチン人の口に合うだろうか。
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