海外駐在員レポート
企画情報部
米農務省(USDA)は毎年2月、「農業観測会議」を開催し、米国における主 要農産物の需給状況や、今後10年間(2001年〜2010年)の長期見通しを明らかに するとともに、政策推進上の課題などについて、USDAから説明するほか、ゲス トスピーカーからも意見を聞いている。これらの予測や意見は、農業予算の支出 見込みの算定や政策の決定などに利用されている。 一方、豪州においても、毎年、米国とほぼ同時期に、農林漁業省の豪州農業資 源経済局(ABARE)の主催により「農業・資源観測会議」が開かれ、穀物や食肉 などといった主要な第一次産品ごとに、短中期的(2005/06年度まで:年度は7 月〜翌年6月)な需給予測が発表されるほか、時々のトピックスを取り上げ各分 野の専門家による分析、提言が行われている。 ここでは、今年の両会議で示された需給見通し等の中から、主要な畜産物につ いて、その概要を報告する。
(1) 畜産物全般 安価な飼料価格などにより生産は増加傾向で推移 短期的には、穀物および大豆かすの価格が比較的低水準で推移するため、畜産 物の生産が刺激されるとみられる。しかし、牛肉については、牛飼養頭数が減少 傾向にあることから、飼料コストが抑制されても増産には結び付かないであろう。 中長期的に見た食肉生産は、飼料価格は緩やかに上昇するものの、粗飼料供給の 増加、低インフレ、内外の需要の拡大などから生産者の収益性が向上し、家きん 肉を中心に増加が見込まれる。 大規模化がさらに進展 生産規模の拡大と企業的な供給システムが、いずれの畜種でも一層進展すると みられる。牛肉および豚肉部門では、生産から加工、流通、消費に至る供給チェ ーンにおいて、生産契約、販売契約や垂直的統合などを通じた垂直的調整(Ver tical Coordination)の動きが活発となり、酪農部門では、大規模経営における効 率的な生産により、経産牛1頭当たり乳量が今後も増加するであろう。 2010年には食肉消費の半分が家きん肉 可処分所得の増加に伴う食肉の実質価格の低下により、消費者の食肉購買量は 長期的には増加傾向で推移し、小売重量ベースで見ると、1人当たりの年間食肉 消費量は、2010年には231ポンド(約104.7kg)に達するものとみられる。食肉の 種類別では、牛肉および豚肉がいずれも減少する一方、家きん肉は、他の食肉に 比べて小売価格が安いこともあり、消費量と支出額の両面において食肉全体に占 めるシェアが拡大し、2010年には食肉消費量の半分を家きん肉が占めるようにな ると見込まれる。 表1 米国における畜産物需給の長期見通し 資料:USDA「USDA Agricultural Baseline Projections to 2010」 注1:酪農は会計年度(10月〜翌年9月) 2:牛肉及び豚肉の需給は枝肉ベース、ブロイラーの需給は可食処理ベース 3:豚の飼養頭数は前年12月1日現在 ◇長期見通し作成の前提条件◇ 長期見通しは、USDAの各部局の委員から成る農業観測委員会によって取りま とめられる。同委員会では、農業制度の枠組みや経済状況などについて一定の前 提条件を定めた上で、今後の需給状況などに関して予測を行っている。なお、今 回の見通しは、2000年11月時点における諸条件を基礎として作成されている。 今年の主な前提条件は、以下の通り。 ・米国および海外のマクロ経済状況 2001年から2010年における実質国内総生産(GDP)成長率は、米国で平均3.2%、 世界全体では約3.1% ・米国の農業および貿易政策 96年農業法を2010年まで適用し(農業法自体は2002年までの基本政策)、追加 的な緊急政策は実施しない。なお、加工原料乳価格支持制度については、99年水 準での支持価格による1年間の再延長(2001年末の制度廃止)および2002年から の乳製品製造業者に対する乳製品を担保とした返済義務を伴う短期融資制度が実 施される ・米国の輸出補助計画に係る資金規模 輸出促進計画(EEP)、乳製品輸出奨励計画(DEIP)などの輸出補助計画は、 いずれも2002年までは96年農業法などに基づき、その後は2002年と同水準で実施 される ・世界貿易の枠組み 世界貿易機関(WTO)協定や北米自由貿易協定(NAFTA)などの世界貿易の枠 組みが維持される。また、中国および台湾のWTO加盟、EU加盟国の拡大などは考 慮しない ・原油価格 需給ひっ迫により2002年までは上昇するものの、その後は緩やかな上昇にとど まることから、世界全体の経済成長に与える影響は小さい。農業部門では、燃料 コストおよび肥料価格に直接的な影響が及ぼされる ◇図1:1人当たり年間食肉消費量の推移◇ (2)牛乳・乳製品 大規模化が進む生産構造 生乳の生産構造は、伝統的な小規模家族経営と、雇用労働力による企業的な大 規模経営との分化が顕著になるとみられる。前者は、今後、経営の維持が困難と なり、経産牛頭数75頭未満の経営を中心に、廃業を余儀なくされるケースが増加 するであろう。これに対し、後者は、戸数、規模ともにかなりのペースで拡大す るものと見込まれる。 生乳生産は着実に増加 生乳生産は、経産牛頭数が減少するものの、1頭当たり乳量が増加するため、 着実に増加するとみられる。乳量は、飼養管理技術の向上、穀物価格の低下によ る濃厚飼料の給与増などにより増加傾向が継続するが、これまでのような穀物飼 料の多給には限界がある上、経営規模による乳量格差が縮小していることから、 平均乳量は従前ほど増加しないとみられる。 ◇図2:米国における生乳生産量と乳量の推移◇ 乳製品需要は伸びが鈍化 乳製品の需要は、緩やかに拡大するものの、その伸びは鈍化が見込まれる。製 品別では、チーズおよびバターは、外食や調理済み食品分野での需要が増加する であろう。これに対し、飲用乳の需要はわずかに減少するものとみられる。加工 食品分野における無脂乳固形分の需要は、今後回復するとみられるが、回復の時 期および程度は不確定である。 乳製品の輸出品目は限定的 2000年の脱脂粉乳の国際価格は、比較的高水準で推移した。今後数年間は、EU などの供給増加によりわずかに軟化するものの、長期的には、アジア、ラテンア メリカ諸国の需要が増えるため、強含みで推移するとみられる。一方、バターの 国際需要は、脱脂粉乳ほどではないことから、価格も緩やかな上昇にとどまるで あろう。しかし、乳製品の国際価格は依然として国内価格を下回るため、商業輸 出は、ホエイ製品などごく一部の製品に限定され、バターや脱脂粉乳のまとまっ た輸出はほとんどないとみられる。 当面は低迷が続く生乳価格 生乳の生産者販売価格は、生乳生産の増加を反映して、ここ1〜2年は低迷する と見込まれる。その後は、生産の伸びの鈍化に伴って回復するものの、その度合 いはインフレ率を下回るとみられる。 (3)牛肉 牛群拡大は2004年から 牛飼養頭数は、繁殖経営の収益悪化に伴い繁殖雌牛のとう汰が進んだことから、 96年をピークに減少に転じた。繁殖経営の現金収支は、97年におおむね黒字に転 じたものの、その後2000年にかけて、干ばつにより粗飼料不足が続いたことなど から、更新用未経産牛の多くは保留されずに肥育に仕向けられた。このような飼 養動向の中で、2003年に9,700万頭程度でキャトルサイクルは底を打ち、その後 は上昇局面となり、2010年には1億6百万頭を超えるとみられる。ただし、個体 の大型化や肥育の長期化による枝肉重量の増加により牛肉生産量が増加するため、 キャトルサイクルの山は以前ほど高くはならないとみられる。また、今回のキャ トルサイクルは、前回の9年間に比べて減少局面が2年長いことから、全体では 12〜14年となるであろう。 ◇図3:米国における牛飼養頭数の推移◇ 生産は当面減少傾向で推移 牛肉生産量は、繁殖経営における未経産牛の保留増加を反映して、2003年まで 減少傾向で推移し、その後、徐々に増加するものと見込まれる。種類別に見ると、 経産牛由来の加工用牛肉の生産が減少する一方、大部分がフィードロットで肥育 される去勢牛および未経産牛由来の高級牛肉の生産が増加するため、国内のホテ ル・レストラン向けおよび輸出向け牛肉の割合が今後も増えるとみられる。また、 子牛の大部分がフィードロットへ導入されることから、子牛のと畜頭数は減少す るであろう。 ◇図4:牛肉需給の推移◇ 育成期間が長期化 子牛は、キャトルサイクルが上昇局面となることに加え、高品質な牛肉への需 要が高まるため、これまでより放牧育成期間が長期化され、フィードロット導入 時の体重が増加するものとみられる。肥育牛は、セレクトあるいはチョイス級の 下位への格付けを目標とする場合は、従来同様120〜140日間肥育されるとみられ る。しかし、今後は、より高い等級への格付けが目指されるようになるため、肥 育期間が長期化し、1頭当たりの枝肉重量が緩やかに増加するとみられる。また、 チョイス級以上に格付けされる肥育牛価格は、ホテル・レストラン向けおよび輸 出向け需要の増加を反映して、強含みで推移するとみられる。さらに、フィード ロット導入時体重の増加に伴い、牛肉1ポンド当たりの飼料穀物給与量は減少する であろう。 粗飼料基盤の拡大により生産が弾力化 肉牛生産部門と農作物生産部門については、今後10年間においても、十分な土 地基盤が確保できるものとみられる。さらに、96年農業法に基づく生産弾力化契 約対象農地において採草・放牧が可能となることから、粗飼料基盤は拡大が見込 まれる。3千万エーカー(約1,200万ヘクタール)を超える農地が、土壌の流出 防止などを目的とした土壌保全留保計画(CRP)の対象地として契約されるもの の、干ばつや洪水といった非常時には今後とも採草・放牧が認められるものとみ られる。このように、粗飼料基盤の拡大と子牛の育成期間の長期化により、生産 者は、粗飼料の給与量と肥育素牛の出荷時期に関して、より柔軟に対応できるよ うになると見込まれる。例えば、粗飼料不足時には、肥育素牛を早期に出荷する という対応のみとなり、従来であればこれと同時に行われた繁殖雌牛のとう汰が 回避されるため、牛群の維持が容易にできるようになるであろう。 子牛肉生産は引き続き減少 子牛肉生産の主流は、特定の仕様に基づいて飼料給与された、体重の比較的重 いものとなるであろう。子牛肉生産量は、乳用経産牛頭数の減少により乳用子牛 の生産頭数自体が減る上、肥育素牛価格の上昇に伴い、フィードロットに導入さ れる乳用子牛が増加して子牛肉に仕向けられる割合が減少することなどから、20 10年まで減少傾向で推移するものとみられる。 グレインフェッド牛肉の輸出が増加 牛肉輸出量は、ガット・ウルグアイラウンド(UR)合意の下で進んだ市場ア クセスの改善などの進展により、中長期的には増加が見込まれ、生産量に占める 輸出量の割合も、8〜9%から10〜11%に拡大するとみられる。主な輸出先である 環太平洋諸国については、豪州およびニュージーランドがグラスフェッド牛肉を 供給するのに対し、米国は、今後もグレインフェッド牛肉の主要供給国としての 地位を確保するであろう。一方、オセアニア諸国にとって、米国での肉用経産牛 のと畜頭数が減少することから、米国は依然として重要な輸出市場であり、ハン バーガー向けなどの加工用牛肉を供給するとみられる。また、2003年以降、米国 では輸出量が増加する一方、輸入量が減少するため、2008年には純輸出国に転じ ると見込まれる。 (4)豚肉 垂直的調整がさらに進展 生産から加工、流通、消費に至る供給チェーンにおいて、生産契約、販売契約 や垂直的統合などを通じた垂直的調整が一層進展し、低コストで効率的な生産を 手がける大規模経営による市場シェアがさらに拡大するとみられる。このような 大規模経営を通じて斉一性のとれた高品質な豚肉の生産が増えることから、今後 は、ホテル・レストラン部門や小売部門において牛肉と競合する機会が増えるだ ろう。なお、垂直的調整の進展に伴い、ピッグサイクルの変動はより小さなもの となり、繁殖雌豚の飼養頭数も、1頭当たりの産子数の増加により、さらに減少す るものとみられる。 ◇図5:米国における豚飼養頭数の推移◇ 生産はおおむね増加傾向で推移 2000年の豚肉生産量は、98、99年の養豚経営の赤字収益を反映して前年を下回 ったものの、2005年以降は、低インフレ、好景気による需要増、輸出増などによ り収益が好転し、増加傾向で推移するものとみられる。 ◇図6:米国における豚肉需給の推移◇ 収益性は黒字を維持 2000年における養豚経営の収益は、穀物価格の低迷でコストが抑制される中で 肥育豚価格が上昇したため、3年ぶりに黒字に転じた。その後も、需要増、輸出 増から黒字を堅持するものの、穀物価格の上昇と他の食肉との競合の高まりから 黒字幅は抑制されると見込まれる。 輸出はカナダとの競争激化の中、アジアとメキシコで拡大 米国は、純輸出国として重要な地位を占めるとみられる。輸出量が長期的にど の程度増加するかは、他の輸出国と同様、飼料費、労働費、環境問題に対処する ためのコストなどの生産コストの程度によって決定され、カナダなどとの競争や 為替の変動などの影響も受けるものの、アジアおよびメキシコ向けを中心に緩や かな増加が見込まれる。一方、輸入量は、カナダからの部分肉輸入を中心に、緩 やかに増加するとみられる。 (5)家きん肉 高付加価値化による需要拡大 家きん肉生産量は、相対的な価格の安さから食肉消費全体の中でシェアを伸ば すブロイラーがけん引役となって、引き続き増加するものとみられる。業界では、 香辛料などによる味付け、マリネ、他の食品との組み合わせなどにより、簡便性 を追求した加工度の高い製品が開発されるであろう。七面鳥も、付加価値の高い 製品に対する内外からの需要により、生産の拡大が見込まれる。 ◇図7:米国におけるブロイラー需給の推移◇ 価格低下で生産は伸びが鈍化 2000年のブロイラー生産量は、価格の低迷により伸びが鈍化した。今後は、収 益性の低下から、増産ペースは年平均2%程度と緩やかになるものとみられる。 また、家きん肉価格は、低下傾向で推移すると見込まれる。 インテグレーションによるコスト削減は限界に 家きん肉産業は、技術革新や優れた生産管理方法を取り入れたインテグレーシ ョンによる効率的な生産規模の確保などを通じて、生産コストの削減に努めてき た。インテグレーションは今後も進展するものの、これまでのようにインテグレ ーションが著しいコスト削減に結び付くということはないとみられる。 輸出は緩やかに増加 ブロイラー輸出量は、アジアおよびロシア向けの回復などにより、一貫して増 加傾向で推移すると見込まれる。しかし、増加ペースは、他の輸出国との競争激 化を反映して緩やかなものとなるとみられる。また、メキシコ、中米諸国、カリ ブ界諸国向け輸出も増加が見込まれる。
◇経済一般の短中期見通し◇ ABAREでは、各部門の需給見通しの前提条件として経済一般の短中期見通しを 掲げている。豪州と主要輸出国の主要経済指標は次の通りである。 ・豪州および主要輸出国の経済指標 GDPの2001年から2006年まで(豪州は2000/01年度から2005/06年度)の平均 成長率は、豪州で3.5%、米国が2.8%、日本1.7%、東南アジア(インドネシア、 マレーシア、フィリピン、シンガポールとタイ)5.0%、OECD諸国で2.8%、世界 平均では3.7%と見込む。 ・豪ドルの為替相場は回復 短中期的には、対米ドルベースの豪ドルの為替相場は回復するとみている。回 復の要因としては、短期的には主要輸出相手国との比較における豪州の経済成長、 中期的には豪州国内のミクロ経済の発展と生産性の向上が挙げられる。 表2 豪州の主要経済指標 資料:ABARE「OUTLOOK2001」 注:2000/01年度以降は予測値 経済成長率とインフレ率は前年度比 表3 世界の主要経済指標 資料:ABARE「OUTLOOK2001」 注:2000年以降は、ABAREによる予測値 経済成長率とインフレ率は前年比 東南アジアは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、 タイ中国は香港をのぞく (1)乳製品 2000年7月に連邦政府による加工原料乳の価格補てんと各州政府による飲用乳 の生産者最低価格制度が廃止されて以降、生乳の平均受取価格はすべての州で下 落した。しかし、こうした乳価下落による影響は各州ごとに異なっており、飲用 乳生産州の方が加工原料乳を中心に生産している州よりも乳価の下落幅が大きい。 酪農家戸数は引き続き減少 酪農家戸数は、生乳取引の自由化以前から減少傾向にあったが、その傾向は自 由化によりさらに顕著になり、とくに飲用乳生産地域で減少が進むと予測してい る。その一方で、2000/01年度の経産牛飼養頭数は前年度比0.3%増と予測してい る。中期的な飼養頭数の推移は、年2〜3%の増加率を維持していた90年代には劣 るものの上昇傾向が続くとみている。 生乳生産は年平均2.2%の成長 2001/02年度の生乳生産量は、前年度比2.5%増の113億リットルと予測してい る。2005/06年度には2001/02年度と比べて8.9%増加し、123億リットルになる としている。このように生乳生産の増加が予測される要因としては、経産牛飼養 頭数の増加とともに1頭当たりの乳量も増加することが挙げられる。この間の1 頭当たりの乳量の増加率は8%と予測しており、この大幅な増加は遺伝子研究の 進展や飼養管理体制の改善などによるとしている。 ◇図8:豪州における生乳生産と1頭当たりの乳量の推移◇ 乳脂肪低減乳の飲用消費が増加 豪州国内の飲用乳の売上は、2005/06年度までにわずかながらも増加すると予 測している。1人当たりの飲用乳消費量は102リットルと横ばいとなっている。し かし、牛乳の売上の製品別構成は脂肪分を削減して成分調整されたものが伸びて おり、今後もこの傾向が続くとみられている。このように乳脂肪分を低減した牛 乳の消費が伸びることにより、クリームやその他の乳製品の製造において必要な 乳脂肪分が有効に活用できるとしている。 中期的な乳製品生産はチーズが増加 2005/06年度までの加工原料乳の製品別仕向け割合は、他の乳製品と比べて強 含みの価格動向が予測され、製造量も多いチーズ向けにおいて増大すると予測し ている。2005/06年度までの中期的な乳製品生産は、2000/01年度と比べてチー ズが5.6%増、バターが11.0%増、脱脂粉乳18.8%増、全粉乳が15.6%増とすべて の乳製品で増加が予測されている。 乳製品輸出 2005/06年度までの乳製品輸出量は、好調な生乳生産の下、乳製品の国内需要 が微増に留まる中で、国際市場からの強い需要があるため2000/01年度と比べる と増加すると予測されている。特にチーズ輸出においては、豪州は比較的低コス トの生乳生産が可能なことから、アジアからの需要に応えるには有利な立場にあ るとしている。 表4 豪州における生乳と牛乳乳製品の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK2001」 注:(1)3月31日時点 (2)2000/01年度の豪ドルを基に算出 (3)2000/01年度の米ドルを基に算出 (4)2000/01年度以降はABAREによる予測値 (2)牛肉 豪州の肉牛・牛肉産業は、国際市場からの強い需要と米国の牛群再構築の開始 による短期的な供給減により、好況となっている。肉牛価格は、中期的には米国 産牛肉の生産増と輸出増により低落すると予測されている。 牛肉の生産量は中期的には増加 2001/02年度の肉牛のと畜頭数は、2年間の牛群の再構築が終了したことによ り増加が予測されている。これは、肉牛価格の高騰の中で生産者が牛群の保留を せず出荷へ回すことになるためである。出荷頭数が増加した結果、2001/02年度 の牛肉生産量は3%増となり200万トンを超える予測となった。生産量の増加要因 としては、出荷頭数の増加に加えて日本や韓国における穀物肥育牛の需要の強ま りによりと体重量の増加が予測されることや短期的な米国の牛肉供給に減少が見 込まれることが挙げられる。 中期的な生産量は一時的に減少予測となる年度もあるが、2005/06年度は2000 /01年度と比べると6.3%の増加になると見込んでいる。 表5 豪州における牛肉の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK2001」 注:(1)2000/01年度の豪ドルを基に算出 (2)3月31日時点 (3)船積みベース (4)2000/01年度以降はABAREによる予測 2002/03年度をピークとする米国向け輸出 2001年の米国の経済成長は停滞し、2002年に入って緩やかに上昇するとの見通 しの下、2001年の米国の1人当たり牛肉消費量は米国の生産量の減少を要因に牛 肉価格が上昇することから減退が予測される。このような予測の中で、2001/02 年度の米国への輸出量は、強い需要を背景に2.3%増の35万1千トン、2002/03年 度には36万9千トンに上るがこれをピークとして、2005/06年度には35万トンに まで減少が予測されている。 停滞する日本向け輸出 日本経済は緩やかに回復するに留まり、食肉の購買は高値のものより安価なも のの方が好まれている。2001/02年度には、対円ベースの豪ドルは高くなること が予測され、2005/06年度までに一層強含みで推移すると予測している。日本の 経済成長が低迷していることおよび豪ドル高により豪州産牛肉への需要の伸びは わずかであると予測している。2002/03年度の対日輸出量は33万6千トンと予測 されているが、2005/06年度までには米国産牛肉との競合により減少傾向と予測 されている。 自由化により拡大が見込まれる韓国向け輸出 韓国市場における牛肉貿易は、2001年1月からの自由化により明るい見通しと なっている。経済も5%を超える著しい成長を示しており、牛肉需要も増加が予 測される。輸入牛肉、特にグラスフェッドに対する需要は、近年、輸入牛肉の在 庫増加により低迷している。 韓国の牛肉業界では自由化に備えて輸入量が増やされており、自由化後は輸入 牛肉に対する需要が伸びて今後2〜3年は輸出が増えると予測している。2001/ 02年度には牛肉の在庫量は減少し、供給余力の少ない米国からの輸入も減少が予 測されるため、豪州の韓国への輸出量は1%増の7万5千トンに達すると見込ま れている。豪州からの輸出量は、2005/06年度までに9万7千トンと増加傾向が 続くと予測している。 生体牛輸出 98年のアジアの通貨危機からの回復とともに生体牛輸出は回復を見せているが、 肉牛価格の高騰とインドネシアルピア安が需要に影響を与え、輸出増加を圧迫す ることが予測されている。フィリピンにおいても同様に、ペソ安が生体牛貿易に 影響を及ぼすと予測されている。フィリピンとの貿易論争により生体牛輸入関税 がこれまでの3%から2001、02年は7%へ引き上げられ、2002、03年は5%となる。 また、第3の輸出市場であるエジプトや中東においては、BSEの発生によりEUの市 場が閉鎖されたため強い需要が続く見通しである。生体牛輸出全体としては2000 /01年度が前年比10%増の大幅増が予測され、その後も2005/06年度まで一貫し た増加予測となっている。
ガット・ウルグアイラウンド(UR)農業合意および北米自由貿易協定(NAFT A)により、畜産物の輸出拡大を図る米国農業は、共和党政権となった後も、次 期ラウンドにおける交渉などあらゆる場を通じて、輸出志向を明確に打ち出して いくものと考えられる。この姿勢は、会議の冒頭での「米国農業の求めるものは、 貿易の拡大であって縮小ではない(What U.S. agriculture needs is more trade, not less.)」というベネマン農務長官の発言からも、容易に読み取れた。 また、国内的には、96年農業法の期限切れが2002年に迫っていることから、今 年は、次期農業法をめぐる議論が本格化するものとみられる。今回の会議では、 「新たな農業法についての対立点の検討」が「世界貿易機関(WTO)農業交渉に ついて」と並ぶ主要なテーマとなっていた。畜産物を含む農産物需給の動向は、 国際交渉のみならず、次期農業法の検討の際にも議論の基礎の1つとなることか ら、その動向を引き続き注視していく必要があろう。 一方、豪州については、アンダーソン副首相が会議初日に、昨年7月の酪農部 門の改革は非常な痛みを伴うものであったと言及しており、改革により飲用乳生 産地域が影響を受けたことを認めた。しかし演説では、厳しい状況に置かれてい る部門があるとしながらも、全般的には豪州の農産物輸出にとって好条件の環境 がそろっていると述べた。 また、トラス農相は、新しい市場開拓を積極的に行うべきとするとともに、W TO農業交渉について、豪州は有利な立場にあるとして強気な姿勢を見せた。この ように豪州農業は、次期WTO農業交渉を見据え、牛肉部門はもちろん酪農部門に ついても構造改革を進め、従来以上の輸出志向にシフトしていくものと予想され、 今後の動向について注意しなければならない。
元のページに戻る