水牛頭数の減少で食肉需給の将来に不安
農業の機械化が進む中、水牛の頭数が減少
ラオスでは古来、水牛は主に田畑の耕作などの役用として飼われており、夕
暮れの中、水牛を引く農民が家路につく姿が風物詩になっていた。以前は農民
が水牛をと畜し、食用に供するのは、老齢で役用に適さなくなった時か、冠婚
葬祭などの特別の機会に限られていた。
近年、開発途上国でも農業の機械化が進展しているが、ラオスでもこの傾向
が進みつつあり、これに伴って水牛の頭数が減少している。同国の水牛頭数は、
97年まで一貫して増加してきたが、98年に前年比▲11%の減少となって以後、
減少傾向が続き、2001年末現在の頭数は102万8千頭、前年比2%減となった。
ラオス農林省畜産局によれば、頭数の減少傾向が著しいのは、首都ビエンチャ
ン市および周辺部とタイ国境沿線各県であり、北部山岳各県では逆に頭数が増
加している。ビエンチャン市畜産部によれば、同市の水牛頭数は、97年に4万2,
500頭だったものが、2001年には2万3,876頭と44%の大幅な減少となっている。
水牛の代替機械の購入は、作業効率のメリットはあるが農民にとって大きな負担
同国の農民が耕作を機械化するのは、水牛の場合、1日当たり5時間の使役
で約20アールしか耕起できないのに対し、トラクターならこの数倍は可能であ
るからである。農民は、水牛を売ってトラクターを買うが、トラクターは、ア
タッチメント込みで1台当たり1億4,200万キップ(約156万円:100キップ=1.1
円)程度であり、年間1人当たりの所得が290ドル(約3万4,800円:1ドル=120
円)の同国では極めて高価である。水牛の価格は、現在、ビエンチャン市で生
体重1キログラム当たり9,600キップ(約106円)、地方では同7,600〜8,400キ
ップ(約84〜92円)となっているため、生体重450キログラムの水牛を販売し
た場合、342万〜432万キップ(約3万7,620〜4万7,250円)程度の収入となるが、
トラクターの価格との差は非常に大きい。農民銀行などがローンを用意してい
るが、貸出利率が年15%以上と高いことから、農家が機械購入のために資金を
借りることは少なく、機械購入資金は、農民グループ単位での水牛群売却で調
達されることが多い。また、水牛は、粗食に耐えるため、稲ワラなど農業副産
物や遊休地での放牧で飼うことができるが、トラクターの場合には、当然、燃
料を購入する必要があり、1リットル当たり2,700キップ(約30円)の軽油代も
大きな負担となってくる。
頭数減少の要因として、タイへの不正輸出
水牛頭数の減少には、機械化以外にもいくつかの原因がある。例えば、都市
化の影響による食肉需要の高まりや皮革産業、さらには角を利用した装飾産業
からの需要の高まりが挙げられる。ビエンチャン市内の水牛肉需要量は、同市
によれば、1日当たり80〜100頭分程度であるとされている。これに加え、タイ
東北部では、一般に、水牛肉が最も好まれており、これに対する供給も正規な
流通だけではまかないきれていないため、国境を流れるメコン河を渡って対岸
のタイへ不正に輸出される水牛頭数も相当数に上るとみられている。また、タ
イの皮革産業は、年間100万頭分にのぼる牛皮・水牛皮を必要としているとい
われているが、国内では十分な供給が得られていない。
水牛が役用から解放されれば、と畜年齢が下がり、肉資源としての効率が向
上するとする見方もあるが、飼養頭数の減少傾向が止まる気配はなく、水牛以
外の牛の頭数も97年以降は減少傾向にあることから、国内では将来的に食肉資
源が不足することが心配されている。
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