ビクトリア州でNLIS義務化の動き(豪州)


2002年1月1日以降に生まれたすべての牛に耳標を装着

 ビクトリア(VIC)州議会は、現在、豪州で任意制度として実施されている全
国家畜個体識別制度(NLIS)を義務化する法案を可決した。これにより、他の州
に先駆けてNLISを法的な制度として義務化することとなった。

 この法案は、2002年1月1日以降生まれた牛について、電子耳標の装着を義務
づけるものである。また、2003年1月1日以降は、と畜場においてすべての耳標
を読み取り、その肉牛の経歴をNLISのデータベースに入力しなければならない。


課題となっていた義務化

 NLISは、疾病の予防管理、残留農薬など事故発生時の追跡可能性の確保を目的
として、99年から生産者の任意参加という形で実施されている。政府・業界団体
で構成するセーフミートが管理運営を行い、具体的な事務については豪州食肉家
畜生産者事業団(MLA)が実施している。個体識別には電子耳標が使用され、そ
のデータはMLAが管理するデータベースに集積され、将来的には生産者にフィー
ドバックすることも計画されている。なお、当初、輸出相手国であるEUから求め
られた諸条件を満たす手段として導入されたことから、EU輸出向けに限り義務的
に実施されている。

 NLISの義務化については、電子耳標などの費用負担の問題をめぐって連邦政府
・生産者団体間で意見が分かれている。現在は、全国的にMLAなどが生産者の自
発的な参加を推進し、義務化については将来的な課題となっていた。(「畜産の
情報」海外編2001年7月号参照)


耳標購入に当たっての補助は継続

 VIC州におけるNLISへの取り組みは、開始当初の99年において、同州政府が10
0万個の電子耳標を生産者に無料で配布することによって始まった。その後も、
州政府は1個当たり約3.5豪ドル(約242円:1豪ドル=69円)の電子耳標に対し
て1.0豪ドル(約69円)の補助を行い、耳標装着の推進を図っていたことから、
生産者も同州政府の進取的精神を支持し、品質の高い製品の供給元としての自ら
の評価を守ることを認識していたとされる。また、同州ではEU向け輸出が多かっ
たこともあり、パッカーにおいても、NLISを完全実施しているものもあった。こ
のように、同州は全州の中でNLISへの取り組みが最も積極的であったことから、
NLISのペースメーカーとも言われていた。

 今回の法案の議会可決に際して、同州政府関係者は、費用の一部負担という犠
牲はあるものの、すべての牛が追跡できることとなるとしており、当面(01/02
会計年度末の6月まで)、1個当たり1.0豪ドルの補助は継続される見込みであ
る。


将来的には他州から入ってくる牛にも耳標を装着

 義務化が決定された一方で、VIC州政府は今後の課題も挙げている。

 NLISのデータベースにおける個々の情報に関しては、他者からアクセスでき
ないようにデータ管理の機密性を高め、保護するように努めるとしている。

 さらに、NLISのデータベースにすべての牛の州間移動が記録されるよう、他
の州に対しても同州の取り組みがフィードバックされるように求めていきたいと
している。家畜の追跡について公正な真実を確保するためには、同州を横切るす
べての牛に電子耳標が装着されるべきであるとし、将来的には、他の州から同州
に移動してきた牛は、移動前か、移動後でも購入者によってすぐに装着されるよ
うな体制に持っていきたい方針である。

 VIC州でのNLIS義務化の動きが、豪州全体における個体識別の義務化の端緒と
なるか今後の展開が注目される。

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