米農務省、今後もHACCP徹底のためサルモネラ菌検査を継続


司法当局は再びメーカー側を支持

 米連邦控訴裁判所は、昨年12月上旬、サルモネラ菌検査に不合格であることの
みをもって食肉加工場を閉鎖させる権限は米農務省(USDA)にはないとして、
2000年5月の第一審判決を支持する裁定を下した。

 96年7月に制定された現行のHACCP規則の下では、USDA食品安全検査局(FSIS)
は、HACCPシステムが有効に機能しているかどうかを判断するため、ひき肉工場
に対するサルモネラ菌の削減達成基準を設け、3回目のサンプル検査でもその基
準が達成されていないことが判明した場合には、直ちに当該工場での食肉検査を
停止するという仕組みとなっている。

 本件は、このサルモネラ菌検査に3回とも不合格となってFSISによる食肉検査
が停止されたことにより、事実上工場の操業停止に追い込まれたテキサス州の大
手ひき肉製品製造会社・シュープリーム・ビーフ・プロセッサーズ社がUSDAを相
手取って起こした裁判に端を発するものであり(「畜産の情報・海外編 2000年
8月号」トピックス欄参照)、その後、第一審で敗訴したUSDAが上訴したため、
引き続き工場閉鎖を強いられた同社は2000年9月には倒産するという事態をも招
いている。

 ただし、今回の判決は、原告側のシュープリーム社にとっては遅きに失したも
のであると同時に(注:同社が操業再開の意図を有しているかどうかは不明であ
る)、USDAにとっても、大幅な権限の縮小や政策変更を余儀なくさせるものでは
ないと言える。


USDAは、食品の安全性確保のため検査を継続

 ベネマン農務長官は、第二審判決後の昨年12月18日、HACCPシステムを通じた
食肉製品の安全性確保のため、今後もサルモネラ菌の検査を継続するとともに、
それ以外の検査結果なども基に、必要な条件を満たさない工場については今後も
閉鎖させる考えであることを明らかにした。

 具体的には、@サルモネラ菌検査に2回不合格となった段階で、FSISが当該工
場のHACCPシステムに関する詳細な調査を行い、改善すべき点を指摘する。Aさ
らに病原性大腸菌O157やリステリア菌の検査なども組み合わせ、当該工場が改善
措置を講じた後もシステムに欠陥があると判断される場合に限り、食肉検査を停
止するとしている。

 また、HACCPシステムをはじめとする食品の安全性確保措置を強化するため、
科学的根拠に基づき、現行の関係規則の全面的な見直しを行うこと、工場におい
てHACCPシステムの実効性を調査する検査官を全国に増員配置すること、現在、
米国科学アカデミー(NAS)などが行っている食品の微生物学的検査基準に関す
る調査を促進していくことなども併せて明らかにした。


業界の間では、反応はさまざま

 当初から、サルモネラ菌検査の結果だけで工場が閉鎖されることに難色を示し
ていた、食肉処理・加工業者の団体であるアメリカ食肉協会(AMI)は、こうし
た今後のUSDAの取り組み姿勢を歓迎するとのコメントを出した。しかし、全国肉
牛生産者・牛肉協会(NCBA)や主要な消費者団体は、今回の判決によって食品の
安全性確保のための措置が緩和されることには反対するとの立場で、従前どおり
の措置を適用するよう求めている。また、議会でも、ハーキン上院農業委員会議
長をはじめとする民主党上院議員3名が、今回の判決で否定されたUSDAの権限を
明文化するための法案提出を行う構えを見せるなど、関係者の間では抵抗も大き
い。

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