中東欧のEU加盟候補国、農業競争力強化が大きな課題


EU委員会、加盟候補国についてのレポートを公表

 EU委員会農業総局は11月6日、研究レポート「中東欧のEU加盟候補国の農業・
食品分野における競争力と農業収入の動向」を公表した。今回、これを公表した
背景には、農業・食品分野において、EU加盟候補国における構造改革の遅れが目
立ち始めたことが挙げられる。EUとしては、加盟候補国の現状を露見することで、
各国に対し、より一層の危機感を植え付ける狙いがあるものとみられている。EU
委員会のフィシュラー委員(農業・農村開発・漁業担当)は、同レポートの内容
を踏まえた上で、各国に早急な改善を求めるなどの厳しい発言を行っている。同
レポートの概要は次のとおりである。


農業競争力の低下は、土地および労働生産性の低下などが要因

 農業競争力に関する中東欧諸国の現状について、国ごとに状況が異なるとした
上で、EU加盟候補国の多くは、関税による保護やより低い品質・衛生基準にも関
わらず、EU15ヵ国との競争で苦慮しているとしている。この要因として、一般に
これらの候補国では、EU諸国と比較して土地および労働生産性が低いこと、また、
投資の減少、分断された農業構造、非集約的生産方法にあるとみている。さらに、
畜産による飼料転換効率はEU15ヵ国水準の約半分と非常に低いことも要因の1つ
としている。農家の経営形態については、EUへの加盟準備に伴い大規模農場と準
自給自足農業への二極分化が加速しており、農業の低収益性によりこの傾向がさ
らに強まっているとしている。また、ヨーロッパ型の集約農業に向けた農業再編
への足かせ要因として、過剰労働力(潜在的非就業者)の吸収という農業の役割
および資本獲得の難しさを挙げている。この潜在的非就業者問題は、酪農、肉牛
生産、養豚などの集約的労働分野において政治的・社会的な圧力がかけられてい
る。今後、単一市場における農業再編の推進により、特に準自給自足農業と旧協
同組合農場で、この潜在的非就業者問題が暴露されるとみている。


加盟直後には、共通農業政策の全面適用は不適当

 加盟後の中期的見通しとして、共通農業政策(CAP)の新加盟国への適用につ
いては、少なくとも移行段階において、直ちに直接支払いの満額支払いを実施す
ることは適当ではないとみている。これは、新加盟国の競争力を現EU15ヵ国並に
改善するのに必要な投資および再編が保証されることなく、現在の二極構造をさ
らに加速させることにつながるためである。EU加盟後には、EU型の新たな家族に
よる畜産業(小規模な会社農場を含む)のみが、同様の獣医・衛生基準の下で、
単一市場において競争力を持つとし、準自給自足農業の再編は遅れるとしている。
また、大部分の企業形態の畜産業は、その雇用構造の弱点を克服することはでき
ず、いずれの場合も、再編には相当数の就業者の流出(削減)が必要になるとみ
ている。


牛肉・牛乳生産は停滞または縮小に向かうとの予測

 肉牛および酪農分野については、EUの生産方法・水準に準じた農場のみが規模
拡大を図れるとしている。牛肉生産については、農家の生産基盤がぜい弱なため、
肉牛奨励金や繁殖雌牛奨励金なしでは、牛乳生産(酪農)の副産物に留まるとみ
ている。このため、一部集中化の進んだ国(チェコ、スロバキア、リトアニア)
では生産能力の増強が見込めるものの、全般的には、牛肉・牛乳生産は停滞また
は縮小に向かうと見込んでいる。一方、家禽分野については有望な見通しである
が、養豚分野では価格低下による生産の縮小が見込まれている。加盟候補国の農
業復興には、農業再編を目的とした諸政策および潜在的就業者の削減が重要であ
り、農業分野の経済的・社会的適応にはかなりの期間を必要としている。具体的
な改善方法として、商業分野再編のための補助金の増額、大きな動揺を起こさな
いための直接支払いの段階的・条件付導入、農村からの移出人口を管理するため
の広範な一連の政策、準自給自足農業のための社会的安全策などが考えられると
している。

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