米上院農業委員会、次期農業法案を承認


票数獲得のため、ローンレート引き上げなど、当初案を大きく変更

 米上院農業委員会は11月15日、ハーキン同委員会委員長(民主党・アイオワ州)
が提出した次期農業法案(法案番号S.1628)のうち、裁決が最後に持ち越された
商品計画、保全計画などの部分を承認し、同法案のマークアップ(法案の最終的
な詰め)を終了した。この法案は、同委員長が11月1日に公表した当初案では、
承認に必要な票数を得ることができないとの判断から、上院多数党院内総務であ
るダッシェル(サウスダコタ州)ら同委員会の民主党有力議員からの要請を受け、
特に商品計画の部分について、変更が加えられたものである。その主な変更点は、
次のとおりとなっている。

・ローンレートの引き上げ

 ほとんどの作物について引き上げられており、例えば、トウモロコシはブッシ
ェル当たり0.03ドル高い2.08ドル/ブッシェルと変更された。

・農家直接固定支払単価の引き上げ

 当初案の単価に比べて大きく引き上げられており、2002年度の例では、トウモ
ロコシが当初案の1.8倍の0.27ドル/ブッシェルとなった。同支払の額の算定要
素となる基準面積と計画単収については、最近の実績を反映したものに更新する
オプションに加えて、現在の数値を引き続き使用するなどのオプションも選択で
きることとされた。

・価格変動に対応した新たな直接支払(Counter‐cyclical Payment)の変更

 当初案では、目標収入額を単位面積当たりで設定していたのに対して、変更後
の法案では、ブッシェル当たりとされ、支払単価は、収入保証価格(目標価格に
相当)から農家直接固定支払単価と当該作物のローンレートまたは過去5ヵ月に
おける平均価格の合計額のいずれか高い方を差し引いた額となる。

・酪農に関する価格変動対応型の新たな直接支払制度の導入

 今年9月末に失効した北東部酪農協定の継続化に失敗していたレーヒー上院議
員(民主党・バーモント州)の要請によるもの。この制度には、米国本土の48州
において、クラスT(飲用向け)価格およびクラスV(チーズ向け)価格につい
て、プール方式で一定の価格との差額を補てんするもので、対象となる数量は毎
月50万ポンドまでとされ(約250〜300頭規模の酪農家に相当)、各地域にこの制
度の導入による生産増を防止するための供給管理を行う組織を設立することなど
が含まれている。なお、この制度については、原料コストの値上がりを懸念する
乳業会社の団体である国際乳製品協会のみならず、生産者団体である全米生乳生
産者連盟やファーム・ビューローも、生乳生産規模によって生産者の扱いが異な
ること、地域間の格差が生じること、不必要な供給管理の規定が含まれているこ
となどを理由として、反対していると報じられている。

・食肉(家きん肉、加工製品は除く)などに関する原産国表示の義務化

 当初、この規定は、競争政策の部分に含まれており、上院農業委員会での同部
分の裁決時に否決されていた。しかし、その後の「その他(miscellaneous)」
部分での審議において、同規定の追加が提案され、賛成多数で復活したものであ
る。


ブッシュ政権の支持する共和党議員の修正案は否決

 一方、共和党からは、商品計画部分のマークアップ(法案の最終的な詰め)の
際に、下院農業委員長として、現農業法制定において中心的な役割を果たしたロ
バーツ上院議員(カンザス州)などが農家直接固定支払の拡充、現在のローンレ
ート水準の維持、所得減少時に備えるための農家積立口座の設置などからなる代
替案を提出したものの、否決されている。なお、ベネマン農務長官は、この提案
を農務省が発表した農業法の原則により近いものと、評価している。

 承認された法案の予算額について、同委員長のスタッフなどは、2002年度の予
算決議で承認された額を超えないとしているが、議会予算局による、予算推計額
が発表された場合、超過により何らかの修正を迫られるのではないかとの見方も
強い。


ブッシュ政権反対の中、上院本会議での審議を開始−見通しは依然不透明

 ハーキン委員長は農業委員会でのマークアップ終了後、同法案について、感謝
祭の休日明けの上院本会議上程を希望していたが、実際には他の重要法案の審議
スケジュールなどにより、12月11日から実質的な審議が開始されることとなった。

 これに先駆けて、ブッシュ政権は12月5日、下院での次期農業法案(HR2646)
の本会議審議の際と同様に政権の見解声明(SAP)を発表し、同法案(本会議上
程の際に、修正が加えられ、法案番号はS.1731に変更)に反対する意向を示した。
その理由として、

@ローンレートの引き上げなどが、生産過剰を引き起こし、現在の価格低迷の問
 題をさらに深刻化すること
A提案された酪農制度は生乳価格を値上がりさせ、消費者への負担を増大させる
 こと
B世界貿易機関(WTO)協定の国内支持に関する規定との整合性に疑義が生じる
 こと。また今後の交渉で他国に足元を見られる可能性が高まること
C対キューバ農産物輸出に対する民間融資の禁止を解除していること
D予算の規模が不明であること、などが挙げられている。

また、ロバーツ上院議員らの修正案への支持が改めて表明された。

 ダッシェル上院多数党院内総務は、これまでも次期農業法案の早期成立を図り
たいとの意向を繰り返し表明している。しかし、共和党との溝が深まり、年内の
議事日程がさらに限られたものとなる中で、多くの修正案が提出されており、そ
の見通しは依然として不透明なものとなっている。

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