ブラジル、丸鶏輸出問題でアルゼンチンをWTOへ提訴
ブラジルからの輸入に歯止めをかけるための協定を結ぶも実効性を失う
ブラジルの丸鶏輸出をめぐるアルゼンチンとの貿易紛争は、1997年のアルゼン
チン向け丸鶏輸出が前年比69.0%増の約4万トンに達する一方で、トン当たりの
輸出価格が前年比9.3%減の970ドルとなったことに端を発している。ブラジルの
輸出攻勢による国内価格低下のため、アルゼンチンの鶏肉処理加工会社が倒産す
るなどの影響が大きく、翌98年のアルゼンチン向け丸鶏輸出は97年比36.8%増の
約5万6千トンとなった。アルゼンチン養鶏加工協会(CEPA)はブラジルからの輸
入に一定の歯止めを掛けるため、ブラジル鶏肉輸出業者協会(ABEF)と月間輸出
量を4千トンとする紳士協定を99年4月に結んでいたが、99年7月以降、協定枠を
無視して低価格で大量に輸入されたことから、同協定は実効性を失った。
アルゼンチンは調査結果に基づき、ブラジルの輸出価格をダンピングと認定
一方、アルゼンチン経済省下にある国家貿易委員会(CNCE)はCEPAの要請を受
けて、ブラジルのアルゼンチン向け丸鶏輸出価格のダンピング調査を99年1月に
開始した。また、アルゼンチン・エントレリオス州のブロイラー生産者はSNSEに
よるダンピング調査結果が判明するまでの措置として、同州のコンセプションデ
ルウルグアイ裁判所にダンピング問題を提訴し、同裁判所は99年11月にブラジル
産丸鶏の輸入量を月間3,742トンに制限する判決を下した。これに対しアルゼン
チン経済省は、判決は国家間の貿易問題に関しては無効であるとしたが、12月に
はCNCEがブラジル産丸鶏のダンピング輸入によりアルゼンチン国内の鶏肉産業に
損害が生じているとの結論を下した。
2000年7月24日、アルゼンチン経済省はCNCEの調査結果に基づき、ブラジル産
丸鶏のアルゼンチン向け輸出価格をダンピングと認定し、最低輸出価格(FOB)
を設定する7月21日付け決議574/2000号を官報で公表し、翌25日から向こう3年
間有効な同決議をブラジル産丸鶏に対し適用した。
ブラジルは調査方法の不備を指摘し、アルゼンチンの措置撤回を要請
これに対しブラジルは、2001年1月24日、アルゼンチンのアンチダンピング措
置をメルコスル(南米南部共同市場)に訴え、3月7日にはウルグアイのモンテビ
デオにあるメルコスル事務局内に紛争仲裁機関が設置されたが、5月21日にブラ
ジル側の要請を退ける裁定が下された。この間、2000年のアルゼンチン向け丸鶏
輸出は約3万6千トン、2001年は約1万8千トンと激減している。なおABEFによると、
アルゼンチンのアンチダンピング適用でブラジルの鶏肉業界は2001年末までに約
5千万ドルの損害を受けたと試算している。
ブラジル外務省によると、ブラジル産丸鶏のアルゼンチン向け輸出価格に関す
るダンピング調査の際、
@ ブラジルの鶏肉輸出業者が提出した国内価格と輸出価格のデータを用いず、
CEPAなどのデータが用いられたこと、
A 利害関係のある輸出業者にアンチダンピング設置を事前に通告しなかった
こと、
B 国内における鶏肉販売価格のうちどの価格を取り上げてダンピングと認定
したのか不明であること等、
調査方法に不備な点が多々見受けられ、WTOのルールに違反しているとされて
いる。そこでブラジルはアルゼンチンに対し同措置の撤回を求めていたが、改善
が見られないことから、2001年半ばからWTOへの提訴準備を進め2国間協議要請に
踏み切った。WTOは同年12月10日にブラジルの要請を受理したが、アルゼンチン
が2国間協議を避けたことから、ブラジルは2002年2月25日にWTOにパネルの設置
許可を要請し、4月17日に設置許可された。
しかし、この問題を審理する委員について関係当事国の合意が得られぬまま2
カ月弱経つ6月中旬に至ってもパネル設置には至っていない。米国の新農業法に
対し批判を強める南米のリーダーを自負するブラジルが、交渉基盤であるメルコ
スルの結束を自ら弱体化させるのか疑問が残るところであり、ブラジルの動向が
注目される。
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