一層の成長が期待される養豚産業 ● タ イ
輸出産業として期待される養豚業
タイの養豚産業は、政府主導による口蹄疫などの疾病の清浄化が取り組まれる
一方で、輸出を念頭に置いた生産が行われるなど着実に成長を遂げている。全国
養豚協会の発表によると、近年における同国の豚飼養頭数や豚肉輸出数量は増加
傾向で推移しており、鶏肉に次ぐ輸出畜産物として今後のさらなる発展が期待さ
れている。
全国養豚協会が公表した資料によると、タイには現在、30万戸の養豚農家が存
在し、2001年の豚飼養頭数は前年比3.6%増の870万頭で、2002年には900万頭に
増加すると予測されている。また、2001年の豚肉生産量は同3.6%増の65万3千ト
ンで、2002年の予測値も67万5千トンと同様に増加傾向で推移するとみられてい
る。
香港での需要増加が輸出を後押し
一方、輸出の伸びはさらに目覚しく、2001年の豚肉およびその加工品の輸出量
は、前年の約2.1倍の1万3千トンと大幅に増加している。このうちの8割近くが香
港向けであるが、香港では近年、相次ぐ鳥インフルエンザの発生で住民の鶏肉離
れに拍車がかかり、食肉需要の多くが、中華系住民の最も好む豚肉へシフトして
いるといわれている。これに伴い、豚肉の輸入も増加傾向にあることから、同協
会は、今後、香港への豚肉輸出の一層の増加が見込めるとしており、2002年の輸
出量は前年比10.2%増の1万4千トンと試算している。なお、香港向けに比べると
量は少ないものの、97〜98年のウィルス性脳炎のまん延で養豚産業が壊滅的な打
撃を被ったマレーシアなどにも輸出が始まっており、今後の順調な輸出増が期待
されている。
また、香港に匹敵する輸出市場として、タイが注目しているのはシンガポール
である。同国は、宗教上の制約がない上に購買力が高く、中華系住民の割合が8
割近くに及ぶため、タイにとっては有望な輸出先として期待されている。しかし、
現在のところ、シンガポールの豚肉の輸入先は、隣国マレーシアにおける豚のウ
ィルス性脳炎の発生などを受け、豪州やニュージーランド、欧州の数ヵ国などに
限られている。
シンガポール向けの輸出に期待を掛ける政府
輸入規制の厳しいシンガポール市場へ参入するため、農業協同組合省はシンガ
ポールの農産物獣医庁(AVA)と協議を続けてきた。今年3月以降はAVAの係官が
タイを訪問し、生産現場や主要なと畜加工場などの視察を続けているが、@タイ
の輸出向けの豚および豚肉は、農業協同組合省畜産開発局が養豚場およびと畜加
工場を認定した上で有害薬物の残留検査などを行っており、政府自らが豚肉の品
質や安全性を担保していること、A現在、シンガポールが最も多く輸入している
のは豪州産の冷蔵豚肉であるが、タイからの豚肉輸入が実現すれば、輸送コスト
を大幅に削減できるメリットが大きいことなどから、比較的早期に同国への輸出
が実現すると見る向きも多い。
オーガニックや安全性向上などを目指す動きも
一方、農業協同組合省は先頃、輸出の拡大と国内消費の増加を図るためオーガ
ニック豚プロジェクトを全国的に展開する計画を策定した。その手始めとして東
北部のウドンタニ県に普及センターを建設し、今年中にはオーガニック豚を生産
する養豚農家の割合を全体の2割に引き上げたいとしている。
6月4日には、消費者保護局による「生産地から食卓まで」と題した豚肉の安全
管理セミナーがバンコク市で開催され、400人を超える養豚業者や豚肉流通業者、
関係省庁の代表者が参集した。ここで定められた基準を期限内に履行できない者
には罰則が課せられるなど、養豚産業の発展の前提となる安全性向上に対する意
識の改革を促す試みも始まっている。
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