連邦レベルでの慢性消耗性疾患(CWD)対策を強化する米国
CWDの具体的な伝達方法は不明
北米のシカやエルク(オオジカ)に見られる慢性消耗性疾患(Chronic Wastin
g Disease:CWD)とは、牛海綿状脳症(BSE)や羊・山羊のスクレイピーに代表
される伝達性海綿状脳症(TSE)の一つであり、1967年にコロラド州北部の保護
施設にいたミュールジカにおいて確認されたのが最初の患畜であるとされている。
やはりその病原体はプリオンであるとする説が最も一般的であるが、人間や他の
動物に及ぼす危険性については、現在のところ明らかにはなっていない。
CWDの発症は3〜4才の成畜が多く、発症後は次第に体重が減退するとともに、
異常な行動を示すのが一般的であるとされ、数週間から数カ月の後に死に至る。
ただし、BSEについてはBSEに汚染された牛の危険部位由来の飼料がその伝達源と
して最も有力視されているのに対し、CWDについては、母子間というより主に個
体間で伝達される、という以外に具体的な伝達方法に関する定まった見方はない
のが現状である。
発生州は全米で8州に拡大、USDAも、本腰を入れ始める
80年代半ばには、コロラド州北東部やワイオミング州南東部の野生のシカやエ
ルクから、そして2001年5月にはこれら地域と接するネブラスカ州南西部の野生
のシカからもCWDの患畜が発見された。これら一帯では、CWDの特定発生地域とし
て集中的なサーベイランスが実施されるとともに、当該地域外への移動禁止措置
も講じられてきた。しかし、97年にはサウスダコタ州の農家で飼養されているエ
ルクからも初めてCWDが発見されたため、米農務省(USDA)は各州政府などの協
力による全国レベルでのサーベイランスに着手した。これまでに、同州以外にも、
ネブラスカ、コロラド、カンザス、オクラホマ、モンタナの計6州の飼養エルク
からCWDが確認されている。本年2月には、ウィスコンシン州の野生シカでも見つ
かったため、現在のところCWDの発生州は全米で8州を数えるに至っている(ちな
みにカナダでも、サスカッチュワンとアルバータの2州で見つかっている)。
事態を重く見たUSDAは昨年9月、CWD撲滅プログラムをスタートさせ、CWD発生
農家におけるエルク群の殺処分、補償金の支払い、消毒などの対策のため、これ
までに1,480万ドル(約18億円:1ドル=124円)の予算措置を講じている。本年4
月には、野生での発生が見られるコロラド州の一部地域内の飼養エルクについて
のUSDAによる買い上げ措置の実施も決定され、15農家で飼われている約1千頭に
対し、評価額の95%相当の補償金が支払われる見込みとなっている(注:以上の
ような補償金支払プログラムへの参加は任意であるが、関係農家は州政府による
検疫下に置かれ、移動が制限される)。また、2003年度の政府予算案でも、720
万ドル(約9億円)の各種対策費が計上されている。
連邦政府の連携強化への動きが活発化
こうした中で、CWD発生州選出の議員の間では、関係省庁の連携によるCWDの原
因究明・まん延防止・監視、州政府の取組み支援などを求める声が高まっている。
5月16日、USDAはこれを受けて、国立公園や野生動物の保護などを所管する米内
務省(DOI)との作業グループを立ち上げるとともに、近々、農家で飼養されて
いるすべての個体の州間移動に関する規制(事前登録制)を導入する意向である
ことも明らかにした。一方、5月22日には連邦議会においても、こうした連邦政
府の役割を明確化するための法案が上記関係議員によって上下両院に提出される
など、連邦レベルでのCWD対策強化への動きが活発化し始めている。
(参考:公式の数値は明らかではないが、報道によれば、北米には、肉や角など
の販売を目的として約2,300戸の農家で約160千頭のエルクが飼養されているとさ
れる。2000年以降は、こうした飼養エルクから259頭のCWDが見つかっており、ま
た、98年以降に殺処分された個体は4,432頭に上るという。)
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