海外駐在員レポート
ブラッセル駐在員事務所 島森 宏夫、山田 理
昨年(2001年)2月、イギリスで口蹄疫の発生が確認されたが、その後9 月末の終えんまで猛威を振るい、同国における合計発生件数は2,030件に達した。 また、同3月には汚染地域が欧州大陸(フランス、オランダ)とアイルランドに も拡大したことなどから、EU各国は口蹄疫防疫(鎮圧)・予防のための対応に追 われた(当時の経緯については、本誌2001年7月号の特別レポートを参照された い)。 この教訓を将来に生かすため、同12月12〜13日、「口蹄疫の防疫・予防に関す る国際会議」が、当時のEU理事会議長国であったベルギーのほかEU委員会、オラ ンダ、イギリスの共催により、ベルギーのブラッセルにおいて開催された。会議 には、EU各国、EU加盟候補国に加えその他の国からも多数が参加し、幅広い問題 について意見交換が行われた。本稿では、会議の概要を最終報告書に基づき紹介 する。
口蹄疫は、数百年にもわたり家畜の健康を脅かしている。同疾病は人へは感染 しないが、流行すると農業および経済全体へ劇的な影響を及ぼす。第2次世界大 戦後には、欧州の多くの国でワクチンが導入され、大変効果を上げた。欧州では、 1980年代末までに口蹄疫が姿を消し、ワクチンを接種しないというEU共通の口蹄 疫防疫戦略が合意された。最近では、イギリス、アイルランド、オランダ、フラ ンス、さらにウルグアイ、ブラジル、アルゼンチンで口蹄疫が発生したが、大変 強い感染力を持つ口蹄疫ウイルスの侵入は農業のみならず社会全体にも大きな影 響を及ぼすことが再び実証された。 昨年のEUにおける口蹄疫発生においては、感染家畜のと畜・廃棄ならびに感染 農場と接触した動物および隣接農場で飼育されている動物の予防的と畜という、 主にと畜を基本とする現在のEUの口蹄疫防疫戦略は大変多くの経費がかかること が明確になり、また、特に動物福祉に関して、農家および一般市民からも批判が 出た。生きた家畜および畜産製品の一時的貿易制限で、農業および食品業界は大 きな損失を被った。口蹄疫の発生と関連防疫対策により、観光業のような他の業 種も被害を被った。このような最近の口蹄疫流行による大きな影響と社会の関心 に鑑み、ベルギー(EU議長国)その他の共催で、農業分野および社会全体からあ らゆる関係の代表者が参集し、口蹄疫の防疫・予防に関して広範な意見交換が行 われた。
12月12日 ○開会式(口蹄疫を巡る現状の概観) レポート発表 ○口蹄疫の防疫・予防対策 レポート発表後、4グループに分かれて議論 13日 ○農業分野および社会への社会経済学的影響 レポート発表後、4グループに分かれて議論 ○パネル討論
ネイツ-ユイットブレック農業担当大臣 Mrs. Annemie Neyts-Uyttebroeck(ベルギー) ・口蹄疫ウイルスに国境はない。故意または偶発的に侵入すれば、いつでもどこ でも感受性のある動物に感染し得る。 ・口蹄疫政策の評価は、技術的獣医学的な観点だけでなく、社会的、経済的、倫 理的観点からも行うことが必要である。 ・大臣は次のような質問事項を討議項目として示唆した。 @口蹄疫の鎮圧のためには何百万もの健康な動物をと畜・滅却する以外に方法が ないのか。 A緊急ワクチン接種を行うことの不利益は、行わない防疫戦略をとるに足るほど 大きなものなのか。 Bワクチン非接種の撲滅方法とワクチン接種による方法の費用対効果分析結果は どうなるのか。こうした分析では、例えば社会的な影響など、すべての影響も 考慮すべきか。 C10年前と比べると現在はより良いワクチンが手に入るのか。感染動物とワクチ ン接種動物を見分けることができる良い検査方法があるのか。 Dどうしたら、今回の欧州での大発生のような状況を回避できるのか。 E可能性として恐れられる、ウイルスの故意の持ち込みにどう対処すべきか。 F家畜の焼却および過密飼育というイメージが欧州消費者の食肉離れを生み、EU 域内の食肉消費が減り、域外への輸出を増やした。この悪循環をどうしたら回 避できるか。 バーン委員Mr. David Byrne(EU委員会、公衆衛生・消費者保護担当) ・EUでの口蹄疫発生を契機とした本会議の意義は大きい。今回の口蹄疫は撲滅さ れたようであるが、その影響は長期間残るだろう。我々はこの痛い経験から教 訓を学び、将来は同様の損害を被らないようにしなければならない。 ・今回の流行に対して取られた措置は現行の規則に則ったものであり、これまで 異議は出ていない。口蹄疫発生国と影響を受けたすべての国では動物および (加熱などのウイルスを死滅させる)処理が行われていない製品の移動制限が 行われた。オランダでは緊急ワクチン接種も行われた。EU委員会では、加盟国 との密接な連携の下で大変満足のいく危機管理が行われた。域外国との貿易上 の利益についてはよく保護され、程度の差はあるが成功したと言える。危機を もたらした主な弱点はよく分かっており、現在指摘されている問題点や会議後 に提案される「口蹄疫防疫に関する指令」の改正案で取り上げられる問題点が ある。 ・「口蹄疫の防疫に関する指令」の改正案を間もなく提案予定であるが、その際、 予防的ワクチンについての議論の機会を設ける予定である。この提案について は、EU議会、EU委員会のみならず市民および国際関係者とも十分な議論が行わ れる予定である。遅くとも2003年中頃までに合意を取り付けたい。 ・今回の口蹄疫による危機と結果はEUだけの問題とは考えられない。これを契機 に、国連食糧農業機関(FAO)や国際獣疫事務局(OIE)といった国際機関やEU 域外国でも、口蹄疫対策について根本的な再考が行われることを希望する。 バラ事務局長Mr. Bernard Vallat(OIE) 口蹄疫に関するOIE基準、ガイドライン、勧告のあらましとともに、2001年4月 のOIE/FAOの口蹄疫に関する国際科学会議の勧告を紹介した。同勧告の要約は以 下のとおりである。 @ OIE加盟各国への勧告 ・様々な分野での最近の進展を考慮したリスク評価 ・国内法規の見直し ・緊急的な介入のためのより良い準備 ・緊急事態での国内希少家畜、動物園にいる絶滅の危険のある動物、研究目的で 飼育されている動物への適切な対策 ・研究強化(新たな診断検査法、改良ワクチン、疾病調査・防疫体制、危険度分 析、経済調査) ・政治的および専門的レベルでの注意喚起 ・先進国から後発発展途上国に対して、疾病防疫のための獣医事業体制確立への 援助 A 国際機関への勧告 ・協力の強化と世界中での注意喚起 ブリンクホルスト農業・自然管理・漁業大臣 Mr. Laurens Jan Brinkhorst(オランダ) オランダでの最近の口蹄疫発生について、これまでの概要を紹介した。 ・多くの厳しい対策を実施したが、このうち最重要対策は家畜のと畜だった。 ・緊急ワクチン接種が感染農場の周囲で実施された。さらに、疾病まん延防止の ため、すべての感受性のある動物に対する大規模なワクチン接種が約1,200平 方キロメートルの地域で実施された。 ・口蹄疫対策は社会・経済に大きな影響を与えた。また対策の可能性は限界に達 した。健康な動物の大量と畜処分に市民は憤慨した。農業分野だけでなく社会 の大部分でひどく損害を受けた。全体費用は2億8千万ユーロ(約330億円:1ユ ーロ=118円)と推定された。 ・将来的には、動物にやさしい行動、社会的に責任あるやり方、国内市場での畜 産分野の立場保全に合致するような欧州の統一政策が必要とされている。その 政策実施には、ワクチン接種動物と感染動物を見分ける信頼性のある識別検査 が必要である。この検査法は利用可能であるが、EUそして国際的にはOIEで承 認されるべきである。この政策は、世界市場の自由化の傾向と家畜輸送の長距 離化で伝染性家畜疾病の危険性のまん延防止が不可能となってきている状況に 合ったものであろう。 ベケット環境・食料・農村地域担当国務大臣 Mrs. Margaret Beckett(イギリス) イギリスでの最近の口蹄疫発生について、これまでの概要を紹介した。 ・イギリスでの今回の口蹄疫の発生は空前のものであり、2,000以上の農家で感染 が確認され、(感染の可能性のある)9,000以上の農場で動物のと畜・淘汰が行 われた。精力的な努力の結果、流行は収まったが、個々の農家、農業分野、農 村経済、納税者に対し、約40億ユーロ(約4,700億円)もの巨額の費用がかかっ た。 ・この会議では、動物のとう汰による口蹄疫の撲滅が正しい政策かという基本的 問題を考えてほしい。イギリス市民はと畜・とう汰の広がりに(特に、動物福 祉の観点から)不快感を示したが、彼らがワクチン接種動物の食肉を喜んで食 べるかは明らかでない。口蹄疫は若い動物を死亡させることもある嫌な病気で あり、動物福祉の観点からも口蹄疫の撲滅が望まれる。動物とう汰に代わる撲 滅方法については、科学的に評価され国際的に認知されなければならない。ワ クチン接種は安価でなく単純な解決法でない。ワクチン接種の実施には、明確 な目標、しっかりした適用基準、農家・食品事業者・消費者からの支持、適切 な事前の計画が必要である。イギリスでは発生期間中ワクチン接種の検討を活 発に行った。広範にまん延が確認されたため、発生地の周辺を囲むワクチン接 種は実施できなかった。カンブリア地方における予防的ワクチン接種がEUによ り承認されたが、農民などの支持がなく実施に至らなかった。 ・EUの輸入管理の強化が必要である。 ・イギリスでは、今回の発生による教訓、将来の発生の予防・防疫のための科学 的方法、将来の農業に関する調査を開始した。その結果は、イギリスおよびEU 全体に役立つとともに、(さらに何をすべきか、と畜・とう汰は正しいか、ど の方法を使うべきか、ワクチンの役割はもっと大きいか、どのような科学が問 題に役立つかという)基本的問題への回答の助けとなるだろう。 ディウフ事務局長Mr. Jacqes Diouf(FAO) 世界の食料安全保障に関して家畜疾病事情を紹介した。 ・国境を越える家畜疾病を効果的に防除し撲滅するため、後発発展途上国を支援 することは、豊かな国、貧しい国の両方で農業および畜産に関しお互いの利益 になる。 ・EUは、口蹄疫に対する国際的な活動を推進する特権的地位にある。 ・国境を越える家畜疾病に関する効果的な国際情報・早期警告システムが必要で ある。 彼はさらに、過去10年間における世界での口蹄疫発生を概観した。 ・国境を越える家畜疾病は発展途上国の何百万もの農民に影響を及ぼし、家畜生 産および貿易の急成長という飢餓と貧困から脱する機会が与えられる可能性を 阻害する。 ・FAOによる最近の危険度分析では、欧州への口蹄疫侵入の危険の50%は、家畜 または畜産物の不法移動、すなわち旅行者または移民による食品の持ち込みお よび動物製品の不法貿易に起因すると考えられた。従って、口蹄疫のまん延防 止と先進的な防疫について国際的な計画が必要である。さらに、発展途上国に おいての国境を越える家畜疾病については、獣疫監視業務の改善に加え、疾病 の早期発見、不測の事態への対策、新たな疾病発生が疑われた時の初期まん延 防止を援助するための国際的な対応能力が必要とされる。 ・科学に基づいた公正な貿易規則のためには、OIE規制・基準の体制強化が必要 である。 フリードリッヒ−ウイルヘルム農業・農村開発委員会議長 Mr. Friedrich-Wilhelm(EU議会) EU議会の視点を紹介した。 政治的な要素並びに最近の口蹄疫政策の見直しおよび新たな政策議論における EU議会の重要な役割を強調した。また、社会的、動物福祉の観点から、動物の大 量と畜および焼却はもはや受け入れ難いとの意見を述べた。食料安全保障および 食品安全からも現在の政策の継続は受け入れ難いとし、発展途上国と農村社会へ の影響に言及した。 さらに、EU内での貿易政策の見直しを要望した。彼の理解では、現在の政策で はワクチン接種動物由来の製品は、EU内での販売が禁止されている一方で域外国 からの製品の輸入は可能である。 上記の背景を踏まえ、口蹄疫に関する新たな政策の必要性について次のような 点を強調した。EU議会は大規模な予防的ワクチン接種に反対である。明確かつ攻 撃的戦略が必要であり、動物をと畜しない、緊急ワクチン接種が基礎となる。こ のためには、国際的に認知・承認された、ワクチン接種動物と感染動物を見分け る識別検査が必要である。また克服しなければならない障害は、ワクチン接種動 物由来の製品の販売問題であり、消費者組織に加え小売分野が重要な役割を担っ ている。さらに、(レストランなど)ケータリング事業から出る廃棄物(残飯) については、飼料利用の禁止だけでなく、その滅却が必要である。家畜の輸送に 関するより厳しい規定も必要である。
予防および防疫対策 次の事項について議論する4グループが設けられた。 1 口蹄疫の予防 2 口蹄疫発生時の防疫 3 口蹄疫の予防および防疫におけるワクチンの役割 4 口蹄疫の予防および防疫に関する家畜飼育構造への影響 これらの4グループそれぞれの結論と勧告をまとめたが、すべてに共通する結 論は次のとおりである。 予防および防疫対策は、 ・事前の予防的対策でなければならない。 ・食品生産体制に関する総合的視点に基づかなければならず、特に家畜の移動は、 健康への潜在的な危険性および動物福祉問題として、考慮しなければならない。 ・効果的な実施には、市民および関係者に対する情報提供および意思疎通につい ての良い政策が不可欠である。 ・すべての段階における防疫監視対策の分担実施を支持する視点から、すべての 関係者、特に家畜生産者を巻き込まなければならない。特に生産者に対する獣 医師の援助については、官・民の獣医師の協力が必要である。 ・緊急事態に適切に対応できるために必要な力、実施体制、人員を備えた、獣医 部門および能力ある当局だけが効果的に実施できる。 また、個別事項に関する結論と勧告は次のとおりである。 (EU域内への口蹄疫ウイルス侵入予防) ・船舶による取引業者向けおよび保税倉庫向け製品の輸入条件の見直しなど、特 に、現在、適切・完全に管理できていないと思われる分野でEU輸入政策を見直 すこと ・EU基準に合致し、輸入時に申告された製品を除き、少量の製品輸入を禁止する こと ・輸入検査および管理を改善すること ・ウイルスの侵入の危険性について連絡体制を改善すること (発生時の管理) ・最終目的はワクチン接種なしの口蹄疫清浄国の維持とすべきである。大規模な 予防的ワクチン接種は、清浄国では実行可能な選択肢ではない。 ・感染動物群のと畜は、依然として、EUの口蹄疫撲滅戦略の基本的手段であると 考えられるが、状況によっては、緊急ワクチン接種などの追加的措置が可能で あろう。疾病撲滅のためにワクチン接種を行った後、口蹄疫清浄国として復帰 するためのOIE基準は見直しが必要である。 ・迅速な診断およびそれぞれの口蹄疫発生の疫学に関する情報が、効果的疾病管 理の重要要素である。発生ごとに特徴が異なり、その特徴により最適な対応が 決まる。すべての状況において、効果的な生物学的安全確保(バイオセキュリ ティー)対策と移動制限が不可欠である。 (農場間のまん延予防) ・家畜移動管理体制およびトレーサビリティ(traceability:追跡可能性)を強 化すること。例えば車両の洗車・消毒、輸送時間、中継地の使用、家畜の集荷 など家畜輸送条件を強化すること。 ・他の農家との接触回数の減少、接触後の移動制限(検疫)期間の設定など、個 別農場の生物学的安全確保対策を改善すること ・家畜飼養密度の高い地域では口蹄疫まん延の危険性が高い。特に、輸送を伴う 畜産の専業化(繁殖豚・子豚経営と肥育豚経営の分離など)が組み合わされる と、長距離に渡りウイルスを撒き散らす危険性が高い。 (獣医事業) ・獣医事業がその仕事を遂行することができ、必要な力と人員を持つように、実 施体制を強化すること。獣医事業が口蹄疫のような重要疾病の非常事態および 発生の疑いを察知し、迅速に対応できるだけの力量・実施体制・人員を確保す ること ・不測の事態への対応計画は、予防・管理に関するすべての要素を網羅するもの でなければならない。例えば、非常事態での検査施設の強化、十分な抗原・試 薬の確保、ワクチンの貯蔵、緊急ワクチン接種の規定、調査などを考慮しなけ ればならない。 ・不測の事態への対応計画の枠組みの中で、農場における生物学的安全確保、す べての関係者の訓練・認識について、改善する必要がある。 (国際面) ・口蹄疫は欧州だけの問題ではなく、国際的な視点が求められる。相互の利益の ため、口蹄疫の流行国および散発国への技術援助が可能であろう。 ・EUその他の先進国は第三国に対し、必要とあらば、情報体制の改善ならびに適 切な疾病防疫および撲滅のために十分な法的強制力、実施体制、人員を備えた 効果的な獣医事業の確立を助けることができるだろう。 (研究開発) ・ワクチンおよび診断検査法の開発に関する研究の強化と、十分な財政措置が必 要である。優先課題は、高品質ワクチンの開発およびワクチン接種動物と感染 動物を見分けることができる診断検査法の開発・承認である。 (口蹄疫に関するEU法令の見直し) ・EUの口蹄疫指令の次期改正では、加盟国が将来の口蹄疫発生に対して行うこと ができる防疫措置の選択肢をより柔軟にすべきである。その1つとしては、家 畜および動物製品の貿易を損なわずに、と畜される動物数を減少させる手段と しての緊急ワクチン接種が含まれる。 ・特に口蹄疫に関して、(希少動物などの)非商業的動物がどの程度全体政策に 当てはまるかを検証すべきである。 ・特に、国際的に認知され承認された識別検査について、科学的進展状況をでき るだけ早くEUの疾病管理政策に織り込むべきである。 ・OIEの枠組みでの国際的な同意を求めるべきである。 口蹄疫の社会・経済的影響 欧州での最近の口蹄疫発生は社会に大きな影響を与えた。口蹄疫は家畜衛生お よび農業問題のみに留まらず、社会的な要素を考慮する必要がある。疾病の予防 ・防疫・撲滅に使われる方法の改善が将来的に必要であろう。 次の事項について議論する4グループが設けられた。 1 農業者および農業 2 動物福祉 3 消費者および市民 4 社会全体 最近の口蹄疫の発生への対策は社会の全分野にわたって大きな影響を与えたと いうことが、4グループの共通認識だった。すなわち、今回の対策は、 ・動物の大量と畜・とう汰、枝肉の廃棄方法(レンダリング処理、焼却、埋却)、 それに伴う資源の無駄について感情的・倫理的な疑問を呈した。 ・環境に悪影響を与えた。 ・農業に負の印象を与えた。 ・食品の安全性への疑問とワクチン接種動物由来製品の安全性への誤解を生んだ。 ・市民および消費者の日常生活を妨害した。 また、個別事項に関する結論と勧告の要約は次のとおりである。 (知識格差の克服) 特定された問題点の多くは、@動物の健康および人の健康の観点からの疾病の 性質、A防疫・撲滅のために可能な対応方法、B防疫・撲滅方法の国際貿易との 関係での重要性、への理解不足に起因していた。 口蹄疫の防疫・予防に関する議論では、すべての関係者の利益を考慮した柔軟 で総合的な不測の事態への対応計画が必要であることが明らかになった。疾病へ の知識不足を克服するためには、すべての関係者を計画作成過程に巻き込むこと が不可欠である。 家畜疾病防疫の専門家は、市民への連絡事項ができるだけ明確かつ一貫性のあ るものとする使命がある。当局は、すべての事実が、隠しだてのない透明性ある 方法で公開されるようにすべきである。 (将来的な政策の検討) 将来的な政策は、疾病発生の社会的影響を考慮しなければならない。 当局は、疾病防疫と枝肉廃棄の政策を、疾病の防疫および撲滅を阻害すること なく、消費者と市民の関心にかなうように、十分柔軟性のあるものとすべきであ る。 疾病撲滅活動においては、動物福祉を十分優先するべきである。
以下の6人のパネラーによりパネルディスカッションが行われ、おおむね上記5 の結論および勧告が追認された。各人の注目される発言は次のとおりである。 ○バーン委員(EU委員会) ・ワクチン接種動物由来の製品販売のための明確な戦略が必要である。 ・本会議の結論と勧告は、EUにおける口蹄疫政策の改正のためのEU委員会提案の中 で考慮されることになるだろう。 ○ブリンクホルスト農業・自然管理・漁業大臣(オランダ) ・緊急ワクチン接種に関する結論は明確で前途有望である。ワクチン接種動物と感 染動物を見分ける現存する識別検査について、OIEはもちろんEUにおいても承認 されるべきである。 ・ワクチン接種動物由来の製品販売に関しては、消費者へもっとよく情報提供すべ きであると思われる。また、すべての食品関係者を巻き込むべきである。 ・工業国の貿易政策を変更すべきである。世界的な視点から、健全な食品が廃棄さ れるのは容認できない。 ○ミッチェル農村地域担当国務大臣Mr. Alun Michael(イギリス) ・イギリスで口蹄疫に関する調査が実施されており、その結果はEU加盟国で共有さ れることとなるだろう。 ・口蹄疫の撲滅についての意見一致を歓迎する。ワクチン接種は1つの道具に過ぎ ない。 ・動物の大量と畜への意見へは共感するが、勧告の実施には、より良い検査法、純 度の高いワクチン、より良い貿易規則が必要である。(イギリスでの)口蹄疫の 発生中は、市民にワクチン接種動物由来の製品を食べるよう説得することは大変 困難だった。 ○マラベリ議長Mr. Romano Marabelli(OIE) ・特に発展途上国においては、監視体制と獣医事業に適切な人材を確保することが 必要である。 ・口蹄疫発生の合間は、国内・国際政策の認識向上および見直しのために、もっと 利用すべきである。 ・OIEは過去10年間、消費者の関心および貿易政策により多くの力を注いできた。 ・新たなワクチンと正確な検査法が必要とされている。 ・ワクチン接種の適否に関しては、正しい戦略について決めるのは各国政府である と思われる。 ・科学的な証拠次第で、緊急ワクチン接種後の貿易制限期間の短縮ができるかもし れない。 ・ワクチン接種動物由来の製品のための貿易政策を研究する必要がある。 ○ベーゲ議員Mr. Reimer B喩e(EU議会) ・新たな口蹄疫政策では、家畜のと畜・廃棄を最小限に留めるべきである。OIE規 約はもっと融通のきくようにすべきである。 ○会場参加者 ・口蹄疫政策について迅速に見直すべきである。 ・家畜輸送規則を強化すべきである。 ・EUの口蹄疫政策には、動物福祉の視点を織り込むべきである。 ○ネイツ-ユイットブレック農業担当大臣(ベルギー) ・本会議の結論と勧告は、口蹄疫政策の改正のためのEU委員会提案に関する、来た るべきEU農相理事会の議論で、重要な役割を果たすだろう。
会議の間、各国および国際政府機関、並びに国際組織の代表者が、問題を率直か つ建設的に議論した。討議事項は、口蹄疫の予防および撲滅に関する技術的問題だ けでなく、動物福祉、環境、社会経済的観点まで広い範囲に及んだ。会議で得られ た多くの結論および勧告は、その主要部分について、参加者におおむね承認された。 口蹄疫の大流行が、世界中の発生地で、社会の様々なレベルに大きな影響を与え ている。このような事態は、将来的にできるだけ回避しなければならない。流行国 では防疫そして究極的には撲滅のため、清浄国では侵入予防の適切な追加措置のた め、侵入された国では撲滅のため、それぞれ異なった行動をとる必要がある。 疾病まん延への影響を考慮し、動物輸送に関する追加措置を検討しなければなら ない。 会議では、EU全体における一般的な予防的ワクチン接種の再導入については支持 されなかった。 しかし、EUは将来の発生に対し、迅速かつ柔軟に対応しなければならない。適切 な対応は状況次第であろうが、少なくとも感染のあった家畜群のと畜を義務付ける ことに加え、緊急ワクチン接種が考えられるだろう。厳格な地域限定と移動制限条 件の下での緊急ワクチン接種は、口蹄疫撲滅のための選択肢の1つである。ただし、 家畜の大量と畜・とう汰を回避するための緊急ワクチン接種の適用は、ワクチン接 種動物由来製品の貿易への影響を考慮しながら、EUおよびOIEの枠組みの中で評価 される必要がある。信用できる(ワクチン接種動物と感染動物との)識別検査法の 承認・登録、国際的な認知が必要とされている。 EUの関係部局および国際関係機関は、本会議の結論に沿って早急に適切な行動を とるとともに、会議の中で指摘された目的に到達するための適切な対策を確保しな ければならない。特に、疾病を早期に発見し対応できる、獣医事業の必要性とその ための手段を検討評価しなければならない。 特に口蹄疫を撲滅する(家畜をと畜・とう汰する)間は、社会全般および農民へ の心理的印象を考慮しなければならない。
昨年のEUにおける口蹄疫発生では、特にイギリスで、流行が長期化し史上空前の 損害を与えた。このため、本稿で紹介した国際会議のほか、現在、EU議会やイギリ スで調査委員会が設けられ、当時の対応の検証、今後の対策等についての議論が行 われている。また、EU委員会では、「口蹄疫の防疫に関する指令」の改正提案を準 備中である。歴史は繰り返すとも言われるが、今回の教訓を糧に、伝染力が強く一 度流行すれば被害も甚大な、口蹄疫の撲滅に向けた世界的な取り組みが強化・進展 することを祈りたい。 参考資料 「口蹄疫の防疫・予防に関する国際会議」最終報告書ほか同会議の資料 (インターネット・ウエブサイトは、 http://www.cmlag.fgov.be/eng/conference.html)
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