アルゼンチン、牛乳をめぐる争いが勃発


酪農家は製品出荷を妨害する示威行動を開始

 アルゼンチンでは、酪農家、乳業メーカーともに厳しい経営状況にある。この
ような中で、同国の酪農家は、生乳価格(乳業メーカーによる生乳1リットル当
たりの生産者支払い価格)の引き上げを求め、大手乳業メーカーの工場からの製
品出荷を妨害する示威行動を3月4日から全国規模で開始した。農牧水産食糧庁は、
最低価格保証と品質を勘案し0.16〜0.20ペソ(約10〜13円:1ペソ=63円)の生
乳価格を生産者に提示するよう乳業メーカーに促すなど仲裁に乗り出しているが、
交渉は難航している。こうした状況がさらに続けば、牛乳、乳製品の品不足は必
至となり、小売価格の25〜30%の上昇が懸念されている。

 生乳価格の低迷については、98年頃から関係者の間で議論されていたが、何の
解決もないまま今回の牛乳をめぐる争いという事態に至ったようだ。


生乳価格は2001年暮れ以降採算ライン割れで推移

 91年の兌換法導入以前は、農牧水産食糧庁、乳業メーカー、生産者団体が生乳
需給を勘案し、乳価交渉の場で法律に基づき生乳価格を決めていた。しかし91年
の兌換法制定以後、アルゼンチンが新経済自由主義を標榜してから生乳価格設定
に競争原理が導入された。乳業メーカーは各社独自の品質基準に基づき生産者の
生乳の品質を検査し、格付け等級結果により、自由に価格を設定するようになっ
た。近年の生乳価格については98年後半から下降し、99年以降は0.13〜0.17ペソ
(約8〜11円)で推移し、特に2001年暮れ以降採算ラインの0.14ペソ(約9円)を
下回って推移している(上記生乳価格は主要生産地の平均値で、全国平均値より
高いと推測される)。


生産者、メーカー、スーパーの三つ巴の交渉の成り行きに注目

 アルゼンチンの生乳生産は、92年以降一貫して増加、99年に約1千万キロリッ
トルと頂点に達した後に減少に転じた。95年以降はメルコスルの発足で主にブラ
ジルへの輸出が増加し、乳業メーカー各社は需要に応じた生産能力を確保するた
め大規模な設備投資を進めた。当時、高品質の生乳価格は0.25ペソ(ドル)(約
16円)前後で、生産者の増産意欲も高かった。

 しかし99年に入り状況が変わった。生産が拡大したこの年、アルゼンチンの不
況による消費の頭打ちで国内市場が冷え込んだ。さらに以下のような要因が価格
低迷に影響したと考えられる。

@ブラジルの国内生産が伸び、同国の通貨切り下げで従来の輸出市場が競争相手
 になりだした。

A国際的に粉乳価格が低下した。

B乳業メーカーが設備投資のために借りたドル建債務の償還が始まった。

Cこの頃始まった酪農家の離農が産業全体の活力を奪った。

 今回の問題で、大手スーパーは牛乳の安売りをしてもまだ採算はとれていると
いう。生産者、乳業メーカー、大手スーパーの力関係に政府はどのような調整を
行うのか今後の対応と成行きが注目されるところだが、政府が公表した最低価格
保証と品質を勘案した生乳価格をめぐって生産者、乳業メーカー、スーパーの三
つ巴の交渉が始まるようだ。

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