口蹄疫発生の誤報により生体牛価格が急落 ● 米 国


口蹄疫の疑いのある牛発見のうわさがCMEを直撃

 3月13日、口蹄疫の疑いのある牛がカンザス州で見つかったといううわさが、
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)を直撃し、生体牛の先物市場価格を、今
年4月取引の終値(100ポンド当たり)で前日から1.12ドル(約3.3円/kg:1ドル
=134円)下げの74.5ドル(約220円/kg)に急落させるという事態を招いた(注
:ストップ安は1.5ドル下げ)。このうわさはさらに全米を駆け巡り、他の取引
市場におけるトウモロコシ価格や食肉関連企業の株価などを軒並み引き下げる結
果ともなった。

 米国の肉牛業界紙「キャトル・バイヤーズ・ウィークリー」は、事実関係を次
のとおり報じている。3月12日にカンザス州ホルトンにある家畜市場で取引され
る予定だった9頭の牛の口部に炎症が発見された。同州農業省家畜衛生局の獣医
師によって同日中に、給与された飼料に関連した炎症であり、同様の症状が出荷
農家で飼われている数頭の馬にも見られたことから、口蹄疫ではありえないと診
断されたものの、確定診断のため、ニューヨーク州のプラム・アイランドにある
米農務省(USDA)の検査施設にサンプルが送付された。USDAによれば、今回の検
査も通常のサーベイランス業務の一環として実施されたものであり、2001年には
約800頭が検査され、そのすべてが陰性であったとされている。翌13日朝、こう
した事細かな事実がどこまで認識されていたのかは定かでないが、いずれにせよ、
開場したばかりのCMEのトレーダー達の耳に飛び込んできたうわさは、前日まで
強含みだった相場に冷や水を浴びせる結果となった。


検査結果が陰性となった後も、相場は下げ基調

 同13日夜、USDAが検査は陰性であったとの結果を公表したことによって、こう
した懸念材料も除去されたはずであったが、14日の生体牛価格は、さらに1.3ドル
(約3.8円/kg)下げの73.2ドル(約213円/kg)となり、その後も下げ基調が続
くなど、今回の誤報が相場を反転させるきっかけともなっている。また、報道に
よれば、生体牛価格が1.5ドル(約4.4円/kg)下がることによる全米の業界の損
失は5千万ドル(約67億円)にも上ると推計されている。


生産者団体や関係議員が連邦政府に対し調査を要請

 こうした中、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は15日、商品先物取引委員会
(CFTC:米国議会により先物取引規制のために創設された連邦政府機関)に対し、
今回のCMEにおける騒動は市場操作やインサイダー取引などの不当な取引行為の疑
いもあるとして、調査の開始を要請した。また、ロバーツ上院議員(共和党・カ
ンザス州)も19日、口蹄疫に関しては、今回のように部分的で不完全な情報であ
っても、農家に対して深刻な経済的損失を与えるおそれがあるため、適切な決定
や行動がなされるまで情報が漏れないよう管理されるべきであるとしてベネマン
農務長官に対し、情報の意図的な漏洩がなかったかについての調査要請を行った。
これら2つの調査要請はいずれも受理された模様であるが、さらに28日には、上院
のハーキン農業委員長(民主党・アイオワ州)が、アシュクロフト長官に対して
本件の違法性に関する調査を要請するなど、米国に与える口蹄疫のインパクトの
大きさをあらためて考えさせられる事例であるといえるだろう。

 なお、カンザス州家畜衛生局長は、人々の不安を和らげるため、「検査の実施
自体は異常なことではない」といった声明を発表すべきであったとして、こうし
た誤報に対処するための適切なプランをあらかじめ整備する意向を明らかにした
とも報じられている。

元のページに戻る