昨年9月11日の同時多発テロ事件の発生から1年を迎えた米国では、テロ対策の 強化を図るため、連邦の関係省庁の組織・機能を一元化した機関として、新たに 国土安全保障省の設置が予定されており、そのための法案が成立間近という状況 にある。 こうした中で、米会計検査院(GAO)は8月26日、米国政府が講じている口蹄疫 の侵入・まん延防止策に関する評価報告書を公表した。これは、欧州における口 蹄疫の発生を契機として、連邦上院議会のイニシアチブを握るダッシェル院内総 務(民主党・サウスダコタ州)が昨年5月末に、GAOに対して行った要請に基づく ものである。
今回の報告書でGAOは、これまでの米国政府の対応について、1929年以来1度も 米国内での口蹄疫の発生を許していないことから一定の評価をしつつも、今後と もさらに万全を期すため、次のような3つの勧告を行っている。
@ 米農務省(USDA)は、米関税局(税関)と協力して、海外での口蹄疫発生状 況に関する最新情報が税関の検査官に行き渡るような正式手続きや、これらの 検査官が口蹄疫汚染国からの貨物や乗客を選別できるような非技術的な(家畜 疾病の専門知識を必要としないような)手続きを策定すること。 A USDAは、海外からの乗客が輸入禁止品などを国内に無意識に持ち込まないよ う、空港や港での表示をより効果的なものに変更すること。 B USDAは、米国内に口蹄疫が侵入した場合の、より迅速かつ効果的なまん延防 止・撲滅を可能にするような対策を構築すること。 |
まず、@に関し、現在USDAは、海外27カ国に家畜衛生の専門家を、129カ国に 農業貿易に関連する職員をそれぞれ駐在させることなどにより、疾病発生に関す るタイムリーな情報収集に努めているが、昨年2月のイギリスでの口蹄疫発生の 際に、水際での侵入を防止するべきはずの税関の検査官に対し、情報提供が1カ月 以上も遅れたことなどが背景にある。 次に、Aに関し、米国では、南の国境を分かつメキシコからの侵入防止策に大 きな力点が置かれているということに着目したい。USDAの協力により、メキシコ も1954年以来、口蹄疫清浄国のステータスを保持しているが、USDAはさらに、中 南米の関所ともいえるコロンビアとパナマを緩衝地帯(フリーゾーン)にするた めのプログラムを実施して口蹄疫の北上阻止に取り組んでいるなどとして、好意 的な評価をGAOは下している。一方、入国者に対して輸入禁止品の申告を求める ポスターなどが、カナダやメキシコで用いられているものよりも、小さくて地味 なので見過ごされやすいと指摘している。 さらに、Bの関連では、仮に国内で口蹄疫が発生した場合、少なくとも追加で 1,200人は必要と見込まれる専門的な訓練を受けた獣医師や、検査・診断のため の施設の不足に対し、USDAの対処方針が不明であること、迅速な発生源の特定や 根絶のために有効な個体識別や追跡のシステムが、コスト増などを懸念する業界 からの反対で、現在も導入されていないことなどが指摘されている。 以上のような報告書の内容については、USDA、米関税局とも異議を唱えていな い。 前述の国土安全保障省設置法案においては、USDAのプラム・アイランド動物疾 病センターや動植物検査局(APHIS)の動植物の輸入検疫業務および、米税関局 の組織・機能が国土安全保障省に移管されることとなっており、今回の口蹄疫対 策に関するGAO勧告の一部は、期せずして、このテロ対策の一環で現実化・具体 化が図られることになりそうである。
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