特別レポート
アルゼンチンのオーガニック(有機等)の概要
ブエノスアイレス駐在事務所 犬塚明伸、玉井明雄
アルゼンチンでは近年、輸出向けを中心にオーガニック製品の生産が増加傾
向で推移している。同国は1991年に制定されたEU有機農業規則(2092/91)に
対応するように、翌年から有機生産に係る決議を制定していった。そのためEU
向け輸出をラテンアメリカ諸国の中でも早くから認可された国の1つとなって
いるが、その後決議を法律化する動きが起こり1999年には法律が制定され、有
機生産に係る法体系が整った感がある。今回は有機農畜産業に係るこれら制度
を記述するとともに、近年増加している生産の概要を紹介する。
アルゼンチンの有機認定に係る制度は、1992年に植物性有機食品(1992年6
月3日付けSAGPyA(農牧水産食糧庁)決議第423/1992号)、1993年に動物性有
機食品(1993年11月19日付けSENASA(農畜産品衛生事業団)決議第1286/1993
号)に関する決議が制定されている。
有機農畜産物として認められる条件の概要は次の通り。
(1)植物性の場合、種子は有機栽培種子を使用するが、入手不可能な場合は
従来種の使用も認められる。当然、遺伝子組み換え体は認められない。また、
利用が許可された肥料、治療薬、防虫薬しか使用できない等となっている。
(2)動物性の場合、自家生産の有機飼料を給与、自然交配が原則となってい
る。また自家生産飼料が冷害等で不足する場合や養豚・養鶏業の場合は購入
飼料が許可されるが、その場合でも有機生産農場から調達されなければなら
ない。
文末に参考として有機畜産に係るSENASA決議を紹介する。
その後、有機生産に係る決議が多々行われたが、それらを法律化したものと
して「有機食品等生産法」(1999年8月4日付け法律25,127号)が制定された。
なお、政令第206/2001号(2001年2月16日付け)第6条において、過去に制定
された決議等は有効である旨が規定されたため、文末のSENASA決議第1286/19
93号は多少の改正はあるものの、現在でも有効となっている。
法律では、自然資源の適正な管理を通じ、持続的農業によって生産された農
畜産品およびその加工品、または採集・捕獲・狩猟によるものであっても以下
の条件を満たすものは、「有機」、「環境保全」的生産と見なされることとさ
れている。
・健康的な、健全な製品であること。
・製品の生産活動が土地の肥沃度と土地に生息する生物の多様性を維持・増進
すること。
・水資源を保全するものであること。
・植物や動物に栄養を供給する土壌の生物学的な循環を適正に維持し、または
強化すること。
・農作物または家畜の基本的特性を発揮するための、生理的・生態学的必要条
件を満たしていること。
なお、法律では羊毛、綿花、木材など食品ではないものも、概念上対象とな
っているところが、以前の決議との違いである。
認定制度に係る規定は第8条にあり、認定機関はSENASAから認定を受け、
「有機製品認定機関の国家登録簿」に登録される。製品のオーガニック認定ま
での流れは図1の通りである。2003年2月現在、この登録簿には以下の15機関が
登録されている。
@ Agros Argentina S.R.L.
A Ambiental S.A.
B APROBA
C A.P.P.R.I
D Argencert S.R.L
E BSI Inspectorate de Argentina S.A
F Convenio de certificacion conjunta Argen INTA-IRAM
G Certificadora Mediterra'nea
H Food Safety S.A.
I Fundacio'n de lucha contra la fiebre aftosa (FU.CO.F.A.)
J Fundacio'n Mokichi Okada (MOA)
K Letis S.A.
L Organizacio'n Internacional Agropecuaria (OIA)
M Surveyseed Services S.A.
N Vihuela S.R.L.
下線:動物性製品認定機関
有機食品等生産法
法律第25,127号(1999年8月4日制定)
(1999年9月13日公布)
「環境保護」、「有機」に係る概念、範囲、所管機関、奨励・管理システム
を定めるとともに、農牧水産食糧庁(SAGPyA)に有機生産のための諮問委員会
を設置する。
第1章 概念、範囲、所管機関
第1条 本法律における「環境保護」、「有機」とは、自然資源の適正な管理
を通じて、人間の健康に対して有害な化学物質を含む製品を回避するよ
うな製品を提供する一方、土地の肥沃度および生物多様化の維持・増進、
水資源の保全、動植物に栄養を与える土壌の生物学的循環の強化、生理
学的および生態学的要求を満たす動植物の先天的行動・基本的特質を発
揮させ得る条件を与えて、自然資源の有効活用を図る農畜産物の生産か
ら関連産業までの全生産システム(採取、捕獲等も含む)を指すもので
ある。
第2条 消費者が有機製品を明瞭に識別でき、損害や不正を回避するために、
生産、分別、加工、包装、識別、流通、販売における有機製品の品質証
明が、本法律と監督官庁の規定に従って行われるものとする。
第3条 有機製品を認定する権限は監督官庁にあり、その認定の対象は、本法
律および監督省庁が定める規定に従って生産された原料、中間製品、最
終製品及び副産物を対象とする。
第4条 本法律の所管はSAGPyAであるが、執行機関は農畜産品衛生事業団(SE
NASA)とする。
第5条 SAGPyAに有機生産のための諮問委員会を設置するものとする。同委員
会の構成員は同庁、他公共機関ならびに、主に有機生産活動に直接関係
する信頼がおける経歴を有するNGOの代表から構成されるものとする。
本諮問委員会の機能は、有機製品に関係する規定について、現状に
適した変更に係る助言および指摘を行うことである。大統領が委員数お
よび諮問委員会の会則を定めるものとするが、委員会に会則の策定を委
任することもできるものとする。
第2章 振興
第6条 SAGPyAは、全国において「環境保護」「有機生産」を振興するものと
する。ただし、特に自然環境と社会経済活動が適応するように注意する
とともに、生産活動の変革を必要とする農業地帯を対象とするものとす
る。
第7条 製品の販売を正しく分別するために、有機製品に対する関税率表の作
成を推進するものとする。
第3章 管理システム
第8条 規定された品質条件を満たす製品の証明は、目的に合致し、特別に資
格を与えられた公的および私的機関により行われるものとする。なお、
監督官庁が私的機関に対して機能を付与するためには、有機製品認定機
関の国家登録制度に係る登録要件を定めるものとする。
本認定機関は当該製品の条件と品質を証明する責任者となるものと
する。
第9条 本法律の監督官庁は、諮問委員会の助言を得て有機生産のために使用
許可し得る資材リストを策定し、常に現状にあった改訂を行うものとす
る。
第10条 監督官庁は必要に応じて、有機生産農場の状況、有機製品の加工・保
管・販売・輸送等に係わる施設の状況、認定機関が実施する管理システ
ムが有効に機能しているかを監査する権限を有するものとし、一連の行
程に関連する組織の販売および納税状況の管理を容易にするために、す
べての関係書類を提出させる権限も有するものとする。
◇図1 有機認定までの流れ◇
アルゼンチンのオーガニック生産は、自国での消費というよりも輸出向けと
言う性格が強い。輸出先の中心はEUであり、同地域の消費者の関心が高まるに
つれ、生産量を増加させてきている。
SENASA決議第1286/1993号第4条にあるように、オーガニック認定を受ける
ためには、農場は過去からの状況も含めて調査される。このことからSENASAに
は、「追跡調査対象農場数」および「追跡調査対象面積」という実際に収穫ま
たは生産した農場数・面積とは異なる統計がある。追跡調査対象農場数は1998
年には1,257であったが、2001年には1,664に増加し、追跡調査対象面積は1998
年の29万ヘクタールから2001年には320万ヘクタールとなっている。
追跡調査対象農場数および面積が1999〜2000年に顕著に増加したが、これは、
@アルゼンチン国内での法制化に伴い社会的認知度が高まったこと、AEUの規
定に準じているため輸出が容易であることに加え、英国以外のEUにおける牛海
綿状脳症(BSE)の発生増加に伴い、食品への安全性への関心が高まったこと、
B世界的に需要が高まってきていることが理由ではないかと関係者はみている。
州別に面積を見ると、1位がサンタクルス州で127万ヘクタール(40%)、2
位がチュブト州で90万ヘクタール(28%)となっており、このパタゴニア地域
にある2州には大規模な牧羊のオーガニック農場が存在することがその理由と
なっている。
(1)オーガニック農産物の概要
2001年の追跡調査対象面積320万ヘクタールのうちオーガニック農産物生産
を目的に作付けされた面積が、22万5千ヘクタール程度といわれ、さらに経過
期間中の面積や水害等で収穫できなかった面積を除く「収穫面積」は6万4千ヘ
クタールとなっている。これは2000年の3万9千ヘクタールに対して62%増、19
99年の2万4千ヘクタールに対して169%増となっており、2000年から急増して
いる。
品目別に見ると、2001年の穀類および油糧作物(大豆、とうもろこし、小麦、
ひまわりなど)の収穫面積は4万2千ヘクタールと収穫面積全体の66%を占め、
生産量は24,533トンと全体の56%を占めている。次いで洋ナシ、りんご、レモ
ンなどの果物、タマネギ、ニンニクなどの野菜および豆類などとなっている。
また、州別に見ると、1位はブエノスアイレス州で1万7千ヘクタール(全体
の26%を占める)、2位はサンルイス州で1万ヘクタール(同16%)、3位がコ
ルドバ州で8千ヘクタール(同12%)となっており、収穫面積のうちやはり農
業地帯であるパンパ地域(ブエノスアイレス、コルドバ、ラパンパ、エントレ
リオス、サンタフェ)が47%を占め、中心地帯となっている。
次に、オーガニック農産物とその加工品の輸出量を見てみると、2001年は4
万8千トンで、前年比60%増となっている。主要な輸出先は、EU(80%)、ア
メリカ(9%)であるが、2001年はスイスが4,191トン(9%)でありアメリカ
と並ぶようになった。主力商品は、大豆、トウモロコシ、小麦、洋なし、リン
ゴとなっており、穀物および果物が中心である。また、有機農産加工品のなか
で注目されているのは有機ワインで、2001年は対前年比で7倍輸出している。
表1 有機農畜産物の生産および輸出に係る全体像
資料:SENASA
注)農産物等には、穀物・油糧種子・果物・野菜・工芸作物・加工製品を含む。
畜産物計には、ハチミツ・生体・鶏卵は含まない。各数量は、製品ベース。
(2)有機畜産の概要
2001年の有機畜産に係る追跡調査対象面積は290万ヘクタールで対前年比9.6
%増加した。これは、パタゴニア地域の牧羊関係の面積増加(チュブト、サン
タクルス)が主因である。また、オーガニック畜産の畜種別飼養頭数を見ると、
肉用牛が前年比7.2%減の12万6千頭、乳牛が同30%減の5千頭となっている。S
ENASAはこの減少理由として、2001年は経済情勢が不安定であるとともに、@
口蹄疫発生のため輸出ができなかったこと、A農作物の方が畜産より収益が大
きいため、牧草地を耕作地に転換したこと、B認定料金を支払う経営的余裕が
なくなったこと、を挙げている。一方、有機養蜂は盛んで2000年の11,900箱か
ら2001年には22,000箱以上となっている。
輸出される主な動物性の有機製品は牛肉とハチミツであり、主要輸出先はEU
である。2001年のEU向け牛肉の輸出量は147トンで、これは対前年比で72%減
であったが、これは、アルゼンチンの口蹄疫発生のためEUが牛肉輸入禁止措置
を取ったためであり、1999年は前年比200%増の452トン、2000年は同15%増の
522トンとなった。なお、ハチミツの輸出量は2001年は前年比66%増の265トン
となっており、そのうちEUは約8割となっている。
1.有機認定機関
有機認定機関は前述の通りであるが、その中で最大手のArgencertを紹介す
る。有機製品関連の法令は、当初、植物性と動物性に分かれていた(既述)た
め現在もその影響があり、SENASAに登録されている機関は植物関係が13機関、
動物関係が10機関となっている(8機関が重複)。このうち3機関(Argencert,
OIA, LETIS)がEU向け輸出の許可を持っており、IFOAM(国際有機農業運動連
盟)認定を得ているのは2機関(Argencert, OIA)で、さらにISO65(製品認証
機関に対する一般要求事項)に基づく認定を取得しているのはArgencertのみ
である。なお、参考に認定農場1664のうちArgencertは560農場を認定している
とのことであった。
Argencertは、EUに92年から認定機関として承認され、2002年にISO65を取得
し、またUSDAから有機認定機関として認定されている。
アルゼンチンの有機製品輸出量4万8千トンのうち76.5%はArgencertが認定
したものとなっており(図3)、有機製品の主力は、大豆、とうもろこし、ひ
まわり、オリーブオイル、リンゴ、なし、ジュース、ハチミツ、牛肉である。
アルゼンチンで生産されている大豆の95%が遺伝子組み換え(GM)であるが、
その一方で有機大豆輸出とその生産農家は増えているとのことである。GMが多
いことは世界的に周知の事実であるため、有機大豆の認定のための検査は厳し
くなり、厳しいがゆえに信頼性が高まり、輸出が増えるという結果となってい
る。以前、コンテナサンプリングで1粒だけGMOが混ざっていたため、有機認定
を受けられたかったこともあるそうである。2001年における日本への輸出はマ
テ茶などの茶であったが、2002年にはブドウ濃縮ジュースを輸出したとのこと
である。
人員は、本部事務所に15人、地方在住で3年交代の検査員がアルゼンチン側
に15人、チリ側に2人の17人いる。パラグアイにおいても認定業務を行ってい
るが、生産規模が小さいのでアルゼンチンから調査員が認定に出向いている。
およそ1千ヘクタールを1日で検査するのが目安である。
認定のための農場検査は、最低年1回は実施することが法令上規定されてい
るが、検査回数の上限は規定されていない。Argencertでは製品等により検査
回数を決めている。例えば、回転の速いブロイラー農場では年3〜4回実施する。
また、疑わしい情報がもたらされ、必要があると認められる場合には臨時検査
も実施する。
認定手続きに必要な書類は、@農場に関する事項(検査員が規定の用紙に記
入)、A農場に関する検査員の報告書、B生産者が作成した生産プログラム、
CArgencertが作成する申請牧場の状況(過去の問題点や違反状況)である。
手数料は、@年会費:1社当たり300ペソ(約11,100円、1ペソ=37円)(た
だし、1社が多数農場を持っていても、1社当たりなので料金は300ペソ)、A
検査手数料:1日当たり450ペソ(約16,650円)(ただし、1日に複数農場を見
ることができれば、農場数に応じ負担額を分割)、B認定料:有機製品として
販売した製品のFOB価格の1%、国内売買の場合は生産者販売価格の1%(ただ
し、販売量が増えれば、パーセンテージは下がる)となっている。
認定機関の国家年間登録料は、農産物関係が初年度および次年度以降ともに
100ペソ(約3,700円)、畜産関係は初年度2,000ペソ(約74,000円)、次年度
から1,000ペソ(約37,000円)となっている。
Argencertは各種講習会を開催しているとのことで、年1回、州ごとの生産者
向け講習会において、法律改正などについて説明している。また、リオネグロ
州など生産者が分散しているところでは、地域ごとに講習会を開催することも
ある。調査員に対しては、ブエノスアイレスで講習会を実施し教育していると
のことであった。
◇図2 アルヘンサートの認証一覧◇
Agrencertのシンボルマークはアンモナイトである。貝の渦巻き模様が「調
和的成長を示す」と本で読んだことがあることから、会社のシンボルマークに
決めたとの話であった。
◇図3 輸出有機農産品におけるArgencertの認定シェア◇
2.有機牛肉生産農家
(1)概要
今回取材した農場は、「Estancia Las Dos Hermanas (「二人姉妹農場」の
意)」と言う。コルドバ州南東部でサンタフェ州境に近いアリアス市近郊に位
置(ブエノスアイレスから約450キロメートル)し、総面積4,189ヘクタール、
農場従事者14人(総括責任者1、牧羊・野菜関係の責任者1、自然教育関係の責
任者1、作業員11)で作業している。ただし、夏場は雑草除去などの手作業に1
5〜50人の臨時雇用を行っている。
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【Estancia Las Dos Hermanas
の入口】
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(2)農場の設立経緯
農場の元の所有者は88歳と85歳のイギリス人姉妹(注:これが農場名の由来
である)で、1926年に祖父から農場を譲り受けた。イギリスに在住である。環
境保護の考え方が進んでいたヨーロッパに住んでいた彼女たちは、環境問題を
提起したレイチェル・カーソンの「沈黙の春」に影響を受け、環境を保護しな
がら生産活動をしたいと考えて有機生産農場に関する情報を集め、1963年から
除草剤散布量を減した生産活動を始めた。
1992年に有機認定を取得し、初めて有機大豆を輸出している。1995年には、
将来にわたって自分たちの理念が維持されるようにと、私有財産を寄付して、
パンパにおいて環境を保護した生産システムを開発するための財団(「Fundac
ion Rachel y Pamela SCHIELE(=ラシェル&パメラ・シィェレ財団)」を)
設立し、理事となっている。
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【元オーナーのRachel y Pamela
SCHIELE姉妹。】:
現在は6名いる財団理事のう
ちの2人。夏期には農場を訪問
し、数週間を過ごす。取材に対
し「近隣農場ではGM作物を生産
することが多くなり、また最近
は非GM種子が入手し難くなるな
ど日を追って孤立してきている。
しかし、環境保護、生態保全に
ついて一般的に理解されるよう
になったので、以前より変人扱
いはされなくなった」などの話
をしてくれた。
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(3)土地の利用形態
農場の総面積は4,189ヘクタールで、湖沼305ヘクタールを除くと3,884ヘク
タールとなる。そのうち1,617ヘクタールが環境保護地域であり、残りの2,267
ヘクタールを農業使用可能地と定め、前者のうち1,567ヘクタールには期間を
限定して放牧(改良草地等の草量に応じて使用するかしないかを決めるが、6
カ月以上使えない)することが可能となっている。また、後者の6割に当たる1
,384ヘクタールは主にアルファルファの改良草地として利用している。
農地の基本的な輪作方法は、「改良草地(5〜7年)→大豆→小麦→トウモロ
コシ→ひまわり→改良草地」であり、5年後には再び草地となる。
農場の面積構成(2002年)(単位:ha)
湖沼(塩水湖) 305
環境保護地域 1,617 環境保護面積 1,927
(立入禁止地 50 )
(放牧可能地 1,567 )
改良草地 1,384 放牧利用可能面積 3,150
自然草地 199
農 地 561 農業使用可能地 2,267
休 耕 地 106
家屋・道 17
合 計 4,189
(4)畜産部門の概要
飼養している牛の品種は無角ヘレフォードで、2002年6月時点の飼養頭数は5,
402頭となっている。その内訳は繁殖雌牛1,964頭、未経産牛810頭(交配済み4
50、未交配360)、肥育牛1,089頭、離乳子牛1,429頭、種雄牛110頭(育成中)
である。
繁殖サイクルとしては、11月1日〜1月31日に経産牛群の交配を実施し、8月
〜11月に出産、3月末に160〜170キログラムで離乳する。未経産牛群(18〜20
カ月齢)は経産牛群より早い6月15日〜8月15日に交配し、3月下旬〜5月下旬に
出産、10月に離乳、そして経産牛群に編入している。
肥育牛は20〜24カ月齢、430〜480キログラムで出荷する。肥育の仕上がりが
かなり遅いときにだけ穀物を使うが、生態系にあった肥育をすることが大事だ
と考えており、また非営利団体なので利益を急ぐ必要もないので穀物肥育は極
力しないとのことであった。有機牛肉は輸出用に限られ、有機畜産物を取り扱
う最大手のエコパンパ社が「エコビーフ」の銘柄で売った場合にオーバープラ
イスがつくが、有機牛肉として取引されなかったものは普通の牛肉として販売
されている。元オーナー姉妹およびこの農場は地元でもかなり有名なので、ア
リアス市の食肉店では「Las Dos Hermanas 農場で生産された牛肉」として売
られている。ただし、有機に係る承認(SENASA決議第1286/1993号第6条b項)
を受けていない処理場で加工されているため、有機牛肉としてラベルを添付し、
販売することはできない。
以前は血統登録された購入種雄牛を選別した雌牛群に交配し、まき牛用の種
雄牛を生産していたが、ブルセラ病検査の際に雌牛で数頭陽性が見つかったた
め、雄牛も一緒にとう汰した。現在は人工授精(AI)を用いて種雄牛を作出し
ている最中である。有機畜産は自然交配が原則であるが、理由があればAIが認
められており(SENASA決議第1286/1993号第5条e項)、当農場では衛生対策と
後躯の充実などの改良を目的としてAIを実施している。
|
【食肉店のチラシ】:
赤字部分には「ドンパブロ食肉店。100%
有機牛肉をおいています。「Las dos Herma
nas牧場」のものです。あなたは、厳格に衛
生管理されたすばらしくて安い牛肉を食べ
ることができます」と書いてある。
|
(5)放牧地管理について
当農場はパンパにおいて、環境を保護した生産システムを開発するという目
的を追求しているが、そのために畜産は不可欠な存在であると考えている。
土壌の回復は有機生産システムのキーポイントであるが、畜産は農業が消耗
した土壌を回復させる機能を有しており、輪作にはなくてはならない存在であ
る。そのためには牧草管理が重要であり、一般的にはアルファルファ、白クロ
ーバーを主体とした放牧地に、放牧強度は1ヘクタール当たり1.62頭を上限と
するという基準を持っている。この基準を採用するとアルファルファの寿命が
延びるようであるとも話していた。肥料はSAGPyA決議で認められている高リン
酸塩を用い、施肥量は土壌分析の結果によるが、作付年の播種時に1ヘクター
ル当たり70〜150キログラムである。必要最低限ではあるが、今後まだ研究の
余地はあると考えている。
また、もう1つの役目としては、「生産を伴う自然環境の保存」という考え
方である。環境保護地域の放牧可能地にも家畜を放牧することができると説明
したが、放牧しつつその地における種の多様性を維持しようとする考えである。
そのため、リオクアルト大学と共同で実施した調査に基づき、牧養力を測定す
るとともに、個体数が減少しているため保護すべき優先種を決定し放牧管理に
より細心の注意を払っている。なお、改良草地の種子が、牛の体内で未消化の
まま、放牧とともに環境保護地域に侵入する可能性があるが、環境保護地域の
土質では成育できないとの調査結果を得ているとのことであった。
(6)問題点
有機生産システムには問題は無いと考えている。しかし、近年の降水量、つ
まりこの地域の年間降水量は850ミリであるが、最近5年間は平均1000ミリを超
え、徐々に農作物適地となってきている。いつ、以前の乾期に戻り、生産性が
低下するか分からないのが環境面で懸念されるところである。
販売面の問題としては、有機牛肉の販売額を伸ばすことができないことであ
る。せっかく、有機牛肉を生産しても普通の牛肉として売ることが多い。EUに
おける有機畜産の需要は多いだろうが、アルゼンチンの有機畜産業全体が成長
していない。要するに輸出を対象とした生産者も企業も少なく、大きな需要に
応じる能力がないため小規模なビジネスでとどまってしまっているためである。
アルゼンチンの新聞誌上には、「日本に有機製品を輸出するためのセミナー
が開催され、その席上、日本の有機JASマークを取得し輸出するために企業は、
JASマーク取得手数料や有機製品認定に係る検査官旅費等に約6,600ドルの経費
が必要になる」と紹介されたり、「在日本アルゼンチン大使館の情報によると、
有機製品の消費者は普通の製品に比較して20%多く支払っても良いと考えてい
る」など、日本市場を今後積極的に開拓しようとする記事が良く見受けられる。
また、アルゼンチンの2001年有機認定面積は、オーストラリアに次いで世界
第2位という報告もあるが、2002年は経済危機と相まって農薬や化学肥料とい
った生産資材を使わない農業体系に変更されたと言われている。しかし認定手
数料を払って有機認定を得ようとするかは別の話であるが、アルゼンチンの有
機生産の増加傾向は今後とも継続すると予想され、それに伴う輸出動向がどう
なるのか注目されるところである。
有機食品等の生産および加工に係る決議(概要)
SENASA決議第1286/93号(1993年11月19日制定)
(1993年12月22日公布)
有機農畜産物ないし有機食品の生産加工に対して以下の観点から規定を定める
必要がある。
・ 有機、環境保全に合致する方法で生産された新しい市場を形成する有機食
品の需要増進に対応すること
・ 有機食品は環境保全と資源保護の効果を有していること
・ 世界の需要が有機生産方式による食品の品質保証を求めていること
・ 環境保全に資する生産は、従来の生産システムとは異なるため、個々の規
制を順守すべきであること
・ 有機食品は一般的に比較的高値で販売されるため、生産者間での公正な競
争を保証し、生産から販売にいたる過程の透明性を確保しつつ、環境保全を
図る畜産業を保護する規定を策定すること
・ 環境保全に資する食品を生産から加工・販売に従事する者が、事前に定め
られた規定に従うべきであること
(適用範囲)
第1条 環境保全に資する家畜から生産される食品の、生産・加工・包装・流
通・品質および証明については、本決議およびSENASAが定める規則に従
うものとする。
本決議は、家畜の直接的・間接的な食品への利用のすべてに適用される
ものとする。
家畜とは、食品としてまたは食品の一部として使用される牛、野牛、羊、
豚、馬、らくだその他農場の四足動物や鳥類、さらには産業用として飼育
されるあらゆる野生動物を含むものとする。この呼称には、食用に供され
る魚やカエル、カタツムリ等も含むものとする。
有機、環境保全を旨として生産される動物は、その誕生から消費にいた
る過程を個々に、鶏の場合にはロットごとの追跡が証明できる手段を講じ
る義務を負うものとする。
本規定を満たさぬものは、有機、環境保全(以下「有機等」と略す)な
どと同様な概念を含む呼称の対象から除外する。
なお、本決議の本条以降は販売される動物を対象とするものであり、関
係食品または半加工品については、生産・加工・販売の各過程を含む証明
システムによる保証がなされるものとする。
(定 義)
第2条 有機等に基づいた食品とは、人間にとって有害またはその可能性のある
化学物質を使用せず、自然資源の合理的な利用により、動植物に養分を与
える土壌の健全化・多様化を図り、土地の肥沃さを維持・活性化する期間
を考慮して許容範囲内で牧畜生産システムによりもたらせる産物である。
(輸 入)
第3条 有機等の名称が付されて輸入される食品は、本決議と同等の規定を適用
する国からのものとする。同食品はSENASAからの事前承認を取得した原産
地証明を添付するものとする。
(生産規定)
第4条 有機等の呼称を得るためには、本決議に定められた基準の生産サイクル
を2年以上継続実施したものとする。なお、途中の期間に生産されるものは
経過期間として証明されるものとする。
上記期間は、SENASAの承認を得て各農場の過去の経緯に応じて、短縮ま
たは延長することができるものとする。
(第一次生産)
第5条 次の条件に従うものとする。
a)項 家畜の飼料は、SAGPyA決議第423/1992号の規定に従うものとする
(筆者注:飼料も有機生産されたものであるという意)。
給与される飼料は自給されるものとし、有機等に対応した飼料は消費量の最
大20%まで外部からの供給が認められる。
飼料は基本的に牧草(生または乾燥)とする。濃厚飼料給与は牧草が不足す
る場合にのみに限定され、必要な飼料の乾燥全重量の30%を限度として使用す
ることが許される。
サイレージは、基本飼料(=牧草)の乾燥全重量の50%、または基本飼料お
よび濃厚飼料の乾燥全重量の33%以下をその使用限度とし、いずれも年間を通
じての使用は認められない。
他の農牧場から、通常の方法により生産された乾牧草を購入することは、不
可抗力により有機生産牧場からの飼料が入手できない場合に限られるものとす
る。この場合、事前に宣誓書を認定機関に提出し、正当な理由があることを公
式に説明する必要がある。なお、牧草購入の限度は、乾燥全重量の10〜15%、
天災が継続する場合は25〜30%とする。
養鶏場および養豚場における外部調達飼料は、有機生産農場からに限定され
るものとする。
b)項 家畜が飼養されるべき環境条件
・ 十分な行動の自由を与えること。
・ 家畜が必要とする涼しい空気と自然光を与え、人工光線を利用する場合
は、1日当たり16時間を超えないこと。
・ 家畜に対する過剰な太陽光線、極度な気温と風から保護すること。
・ 家畜が必要とする十分な面積を与え、必要な場合には天然資材を用いた
床を整備すること。
・ 飲水および採食行為の際、ゆとりあるアクセスができるようにすること。
・ 最終製品に悪影響を及ぼさない環境を整備すること。従って動物性食品
への毒性が危惧される建築資材や防腐剤の使用を回避すること。
c)項 家畜の飼育環境上、群頭数を各個体の行動を妨げない範囲とするこ
と。また、各動物の生物学的な行動様式に応じて野外へのアクセスが確保
されていること。
d)項 去勢、角・尾・歯・羽・嘴の切られたものは不具動物と見なされる。
従来、これらの行為は推奨されざるものであり、他の対策を講じるべきで
ある。しかしながら、去勢および除角は一般的な管理であることを考慮し、
生産者の申請により許可するものとする。
e)項 交配は自然交配が望ましいが、生産者の申請により人工授精が承認
されるものとし、その際には当該牧場の登録簿に記録されるものとする。
f)項 動物の治療は自然治癒とし、通常の予防対策は認められない。好ま
しい方法は自然に任せることである。
しかしながら、自然治癒では対応不可能な特殊な傷病治療については、従来
からの治療手段が認められる。その際には当該牧場の登録簿に記録されるもの
とする。ただし、風土病対策の予防注射は認められるものとする。
体内外の寄生虫駆除剤は、付則Aに定める内容に従い承認されるものとする。
本決議にて承認されていない治療または禁止された治療を採用せざるを得な
い特殊な場合、当該動物を群から隔離し、再度有機生産を目的とした群には戻
せないものとする。
g)項 通常の農場から家畜を導入しようとする場合には、下記の事項を満
たすものとする。
a)本決議公布から5年間、肥育素牛を通常の牧場から購入ができるものとす
る。
上記期間中に購入された家畜のと畜には、12カ月以上の経過期間を設けるも
のとする。
b)繁殖用雌牛または乳牛の導入は、常に未交配のものとする。
c)種付用雄牛の導入は常時可能とし、と畜には当該牧場で12カ月以上の経
過期間を設けるものとする。
d)上記以外の家畜を導入する場合でも、雌家畜は常に未交配のものとする。
e)種付用羊および豚の雄は常時導入できるものとするが、12カ月経過以前
にと畜できないものとする。
f)養鶏の場合には、生後3日以内のものに限り導入可能とする。
g)養蜂の場合、年の生産新サイクルの初めに導入されるものとする。すな
わち、通常の収穫期終了直後とする。
以上により第1条の当該家畜の経歴とは誕生以降の経歴を言うものではなく、
牧場への導入時に登録簿に記載され、それ以降は定められた待機義務期間を順
守してと畜から食肉として、または他の食品の一部として販売されるまでの経
緯を追跡できるようにするものである。
h)項 繁殖および肥育のために有機生産牧場から家畜を導入する場合、第
10条で定める認定機関発行の証明を必要とする。この条件を満たすものは、
g)項に定める待機期間の適用を免除する。
i)項 離乳は、豚生後35日間、ヤギおよび羊2カ月、牛3カ月までしてはい
けいない。
人工ほ育に頼らざるを得ない場合、有機生産過程にある母親牛の乳か、
または有機生産されおよび保存された牛の初乳を与えるものとする。子羊
および子ヤギには、有機生産過程にある牛の乳を与え、それが欠乏する場
合には通常の牧場の新鮮かつ薬害のない牛の乳の授乳を認めるものとする。
j)項 いずれにせよ、汚染を防ぐためのシステム導入を自ら行うものとす
る。
(と 畜)
第6条 次の通り実施するものとする。
a)項 家畜は積み込み、積み降ろし、運搬、と畜までの間、快適さおよ
び保護のための規定に従い取り扱われるものとする。
b)項 と畜はSENASA承認済みの施設で行われることを要する。
c)項 家畜は、通常の牧場から搬入されたものと混同されぬよう、明瞭
に識別されていなければならない。有機生産扱いの肉は通常の肉とは別
に処理・保管されなければならない。
(処 理)
第7条 次の通りとする。
a)項 ここで言う処理とは、畜産物の変形、保管、容器に詰める行為を
言うものとする。
有機食品として販売されるすべての製品は、本決議により生産または輸
入されたものが乾燥重量の95%以上含有されているものとする。ただし、
1つの成分に有機生産されたものとそうでないものが混ざることは許され
ない。
b)項 a)項の規定を満たさない場合、食品の成分リストの中で有機生
産されたものが使用されていることを記述することが許される。
c)項 認定された有機食品で、そのすべてが有機素材で製造されていな
い場合、成分表示のなかで該当成分が有機生産されていないことを明確
に表示する義務を負うものとする。
d)項 有機食品は、通常の食品に要求される国家基準を満たした上、さ
らに本決議の定める要求事項を満たすものとする。
e)項 有機食品は、化学製品を含むことはできないものとする。同様に、
重金属、硫黄、窒素、亜硝酸塩およびアルゼンチン食品衛生法に定められ
ているその他の有害物質を含まないものとする。
f)項 食品ないし成分とも、イオン化放射線の照射や、付則Bに示された
物質以外を含むことは許されないものとする。
第8条 有機食品の処理施設は、汚染を防ぎ有機生産にふさわしい技術と製品
で消毒されていることとする。不適切な慣行により製品の混同や汚染を受
けてはならない。この概念は貯蔵所にも適用される。なお、非有機食品に
適用されている規定についても適用される。
(証 明)
第9条 容器自体または添付ラベルにより容器の見えやすい場所に、以下の
表示をしなければならない。
a)項 最終製品については、「動物性有機食品」と表示すること。また、
重量の大きい順に記載される成分リストのなかで該当する成分に「動物
性有機食品」と表示すること。
b)項 原産地名および処理施設における処理ロット番号。
c)項 有機認定企業名および登録番号。
同様に通常の食品に適用されている規定を順守すること。
(管理システム)
第10条 有機食品の品質証明は、SENASAが別途定める要件を満たす国家また
は公営・私営の認定機関により行われるものとする。かかる目的のため、S
ENASAに付与された権限により、有機食品認定機関の国家登録と動物性有機
製品監査のための国家登録制度を法制化する。
第11条 SENASAは、附則Aに示された認可製品リストの維持管理を担当するも
のとする。
(附則の詳細は省略)
附則A−動物医療薬(寄生虫対策、獣医学的治療、予防接種で使用できる薬品名
と使用上の注意が記載されている。)
附則B−食品処理に認められた製品
附則C−待機期間(薬品等が使用された最終時点からと畜までの、またはミルク
が加工や消費に至るまでの待機期間が記載されている。なお薬剤のための
公式待機期間のリストは、SENASAが常時改定するものとする。)
有機農産物の州別・品目別生産面積
資料:SENASA (65.8%) (2.9%) (3.9%) (27.1%) (0.3%) (100.0%)
有機農産物および加工品の輸出量の推移
資料:SENASA
2001年州別・畜種別飼養頭数
資料:SENASA
有機農産物および加工品の国内消費量の推移
資料:SENASA
有機畜産の畜種別飼養頭数
資料:SENASA
有機畜産物の輸出量
資料:SENASA
有機畜産物の国内消費・販売量
資料:SENASA
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