特別レポート 

米国食肉産業と大手食肉パッカーの買収・合併の動き

ワシントン事務所 道免 昭仁、犬飼 史郎




1 はじめに

 米国では近年健康指向などで国民1人1年当たりの食肉消費量が伸び悩んでいる。
しかし過去も現在も、米国では「食肉」が食生活の中心であることには変わりは
なく、米国民の1人1年当たりの食肉消費量は、日本人の約3倍(牛肉3.6倍、豚肉
1.8倍、鶏肉3.6倍)の約124キログラムとなっている。

 本号は、米国の牛肉、豚肉、鶏肉産業におけるそれぞれの生産、食肉処理段階
の概要を整理するとともに、食肉産業を代表する大手パッカー(食肉処理業者)
の概要と現在に至るまでの過程で行われてきた企業買収などの事例を整理し、こ
れら食肉パッカーの企業戦略の一端を紹介することとしたい。

2 食肉産業別の概要(パッカーの概要を含め)

(1)牛肉
ア 牛肉産業の概要
(ア)国内消費の動向
 米国人というと牛肉を中心とした食生活を想像するが、牛肉の1人1年当たりの
消費量は、健康志向の高まりや豚肉・鶏肉との価格差などから、1976年の95ポン
ド(約43キログラム、精肉ベース)をピークに減少に転じ、2000年には約65ポン
ド(約30キログラム)とピーク時の7割弱となっている。また、1993年以降、1人
1年当たりの牛肉消費量は鶏肉を下回って推移している。
図1 1人1年当たりの食肉消費量の推移
Source:SCI

(イ) 国内生産の状況
 2003年1月現在の牛の飼養頭数は前年比99.4%の9,611万頭となっており、1996年
以降前年を下回って推移している。総飼養戸数も毎年減少傾向にあり、2002年の総
飼養戸数は前年比98.4%の103万戸となった。肥育部門においては、全飼養頭数に占
める大規模経営体の飼養頭数の割合が年々増加しており、飼養頭数規模が3万2,000
頭を超える経営体における飼養頭数が全飼養頭数に占める割合は、1990年は28.2%
であったが2001年には41.9%となっている。

表2 フィードロット飼養規模別の飼養頭数の割合
Source: Nebraska Agricultural Statistics Service. Nebraska Agricultural Statistics, Nebraska Department of Agriculture,1996 and 2000 issues; Agricultural Statistics Board, Cattle on Feed, Mt An 2-1 (2-02) NASS-USDA, February 15, 2002.

 また、2001年のフィードロット収容能力上位10社の収容能力は310万頭に達し、
1988年に比べ53%増となっている。米国での平均的な肥育期間等を用いて、これ
ら上位10社の年間出荷頭数を試算すると約850万頭となり、全米の肉用牛(去勢
および未経産)の年間総と畜頭数の約24%を占めることとなる。これは1988年の
約16%に比べて増加している。また、上位20社の収容能力は1988年に比べ約39%
増となっており、年間の肉用牛と畜頭数に占める割合も約35%と1988年の約25%
に比べて増加している。

 しかし、2001年のフィードロット総数94,110カ所のうち、飼養頭数1,000頭未
満のフィードロットは9万2,000と全フィードロットの約98%と相変わらずその
大半を占めており、飼養頭数32,000頭以上の大規模フィードロットは118と全フ
ィードロットの約0.1%を占めるに過ぎない。これは、飼養頭数1,000頭未満の
小規模家族経営では、とうもろこしや大豆などといった作物との複合経営が多く、
穀物価格が堅調であれば飼料販売を優先して肥育期間を短縮し、穀物価格が低迷
した場合には肥育期間を延長して、仕上げ体重を増大することにより穀物価格の
変動による経営リスクを緩和するという目的でフィードロット経営を行っている
ためである。

 一方で、数千から数万頭規模の企業的フィードロットでは、飼料や肥育素牛の
大半を外部から調達しており、これらの市況が直接経営に影響を与える。このた
め専業的にフィードロット経営を続けて行くためには規模拡大によるコスト低減
を図らざるを得ないと考えられる。
表3 フィードロット収容能力上位10社一覧 (2001年)
Source: Feedstuffs
(ウ)と畜施設の大型化と大手パッカーによる寡占
 1980年代以降、牛肉パッカーの1施設当たりの処理能力は増加し、1980年代に
は年間処理能力100万頭を超えるものは無かったが、2000年には16カ所となって
いる。1980年から2000年までの20年間で、年間処理能力が50万頭を超えると畜場
は8カ所から22カ所に増加するとともに、と畜場の総数は626カ所から143カ所と
約5分の1まで集約化が進んでいる。2000年の年間処理能力50万頭以上のと畜場に
おけると畜頭数は全体の約84%を占めている。

表4 と畜場規模別年間と畜頭数の推移(去勢、未経産)
Source: GIPSA/USDA

 と畜施設が大型化し施設数が減少するのと合せ、牛肉パッカーの寡占化も急激
に進んだ。1980年のと畜能力上位4社の総と畜処理頭数が全と畜頭数に占める割合
は約36%であったが、2000年には約81%となっており、牛肉が食肉産業界の中で
も最も寡占が進んだ。しかし、直近では上位4社のと畜頭数が全と畜頭数に占める
割合はほぼ横ばいとなっており、この4社による寡占は安定したものとなっている。

表5 牛肉主要パッカーのと畜頭数が全と畜処理頭数に占める割合
Source: Packers and Stockyards Administration. GIPS/USDA

 次に牛肉パッカーの上位4社と上位40社との間で売上高における費用・収益を
比較してみる。上位4社の売上げに対する操業費用の割合が約17%であるのに対
し、上位40社では約20%となっている。このことから規模の優位性によるコスト
削減効果の追求がパッカーの寡占の理由の1つとして考えられる。



イ フィードロットとパッカーとの取引(契約)形態と垂直的調整について


 食肉処理における寡占が進む中で、パッカーとフィードロットの取引形態に変
化があったのか、またそれは垂直的なつながりへと進んだのか検証してみたい。

 牛肉パッカーによる肥育牛購入は、 一般的には、何らかの契約に基づく「事前供
給確保 (Captive Supplies) 」と、と畜の2週間前以降にフィードロットまたは家
畜市場などから肥育牛を直接購入する「スポット取引」とに大きく区分することが
できる。このうち、特に「事前供給確保」は、・と畜の2週間前以前に肥育農家と購
入契約を結ぶ「事前供給契約」、・自己または契約フィードロットから自己所有の
牛を肥育し供給する「パッカー自社供給牛」、・パッカーと肥育農家との間で、特
定期間(1週、1月または1年など)に一定の頭数の肉牛を購入することを事前に取り
決める「供給取り決め」の3形態に区分される。

 大手4大パッカー(と畜処理能力)における取引形態の推移を見ると、最も主
要な取引形態であるスポット取引は1988年には取引全体の約80%を占めていたが、
2000年には約62%となっている。他方、事前供給確保は1988年の約21%から約38%
へと増加している。このうち、パッカー自社供給牛の割合は1988年に取引の約5%
であったものが2000年には約9%となった。

 牛肉パッカーとフィードロットが事前供給確保に期待する効果について、食肉パ
ッカーの団体である米国食肉協議会(American Meat Institute)が行った調査は、
牛肉パッカーが期待する効果として高品質で均一な肥育牛確保や食品安全性の確保
などを挙げており、他方のフィードロットが期待する効果として、肉質等級チョイ
スの割合が何割といった契約条件を上回る供給が行えた場合の割増金支給などの契
約プレミアム、肉質などの改善のための枝肉情報のフィードバック、価格優位性な
どを挙げている。

 牛肉産業においては、豚肉、鶏肉産業に比べ、生産から食肉処理にかけた垂直的
なつながりは弱いものとなっている。これは、子牛の生産から食肉処理まで約2年
間を要し、投資回収までの期間が長いことやフィードロット経営、パッカー経営と
もマージン率が低いことなどから、前述の事前供給確保で説明したような自社肥育
などによる垂直的調整は増加傾向にあるとはいえ、市況の動向を見ながら購入頭数
を調整した方が経営上得策との判断が働いているためと考えられる。

(2)豚肉
ア  豚肉産業の概要


(ア)国内消費量の動向


 豚肉の1人1年当たりの消費量は、これまでおおむね50ポンド〜60ポンド(約22〜27
キログラム、精肉ベース)と安定的に推移している。この要因としては、養豚生産者
が消費者の健康志向の高まりをとらえ、背脂肪の薄い均一性に優れた品種への改良に
より脂肪の少ない赤身肉生産に対応したことや、豚肉生産者団体などが消費者に対し
て食肉としての健康的なイメージをアピールするために豚肉を「The Other White Meat」
と銘打ってキャンペーンしてきたことなどが挙げられる。また、価格面においても牛
肉より安価に供給できたこともその要因と考えられる。


(イ)国内生産の動向


 肉豚の生産は、アイオワ州やイリノイ州を中心とするコーンベルト地帯でトウモ
ロコシや大豆などとの複合経営を中心とする家族的経営を中心に行われてきた。ア
イオワ、イリノイの両州は現在でも全飼養頭数の約33%を占めているが、1990年代
以降、ノースカロライナ州などで企業経営による効率的な設備と最先端の技術を有
した大規模経営も急速に進展している。現在、ノースカロライナ州の飼養頭数は全
米の飼養頭数の約17%を占め、アイオワ州に次ぐ飼養頭数となっている。

 飼養規模100頭未満の小規模経営は、1995年に約10万戸あったが、2001年に
は約半分に減少した。飼養規模5,000頭以上の大規模経営は、1995年に約1,400
戸あったが、2001年には約2倍となって、全飼養頭数の半分以上を飼養しており、
米国の肉豚生産の主体となっている。

表6 肉豚飼養規模別の経営体数と飼養頭数割合
Source: NASS/USDA

イ と畜施設の大型化と豚肉パッカーによる垂直的調整


 と畜施設については、1980年には510施設あったが、2000年には187施設まで
減少した。年間100万頭以上のと畜能力を有すると畜施設は2000年には29施設
稼動し、これら29施設で全と畜頭数の約89%が処理されるなど、と畜施設の大型
化と集約化が進んでいる。

 豚肉パッカーについては、2001年におけると畜処理能力上位4社のと畜頭数が
全と畜頭数に占める割合は約57%にとどまっている。これは1980年の約34%か
ら寡占が進展したことを示しているが、1998年以降は大きな変動は見られない。


表7 豚肉主要パッカーのと畜頭数が全と畜処理頭数に占める割合
Source: GIPSA/USDA, Packers & Stockyards Administration

 豚肉パッカーの肥育豚の取引形態は、「スポット取引」と「販売契約」に大きく
分けられる。1993年に約87%を占めていたスポット取引は、2001年には約17%まで
大きく減少し、代わって販売契約による取引の割合が1993年の約13%から2001年に
約83%と飛躍的に増大している。

 販売契約では、肥育豚はと畜場に出荷されるまで生産者に帰属しているが、出荷
頭数、出荷体重、出荷場所、出荷時期、価格の設定方法などがあらかじめ契約で取
り決められている。これは、いわゆる生産部門・処理加工部門・販売部門に至る食
肉供給チェーンの中で隣接する部門同士が密接に結びつく「垂直的調整」の一形態
といえる。

 また、生産者段階においても、大規模繁殖経営体が、自己の所有する素豚の肥育
を経営管理技術の指導や動物用医薬品などの資材提供を伴って生産者に委託する生
産部門の中での垂直的な調整も行われており、アイオワ州立大学の調査によれば肥
育豚の約55%(2000年)がこのような生産契約によるものとしている。

 現在、Smithfield社のような大手豚肉パッカーは、大規模繁殖経営体の買収など
により生産部門に積極的に進出し、垂直的調整を推し進めており、ミズーリ大学に
よる調査では、肉豚生産に占める豚肉パッカー所有の肥育豚の割合は、1994年に
は6%だったが、2001年には27%まで増加したとしている。

表8 大規模養豚経営体上位5社一覧(2002年)
Source: Successful Farming

 このような垂直的調整の動きに対しパッカーが期待する効果について、米国食肉
協議会の調査は、@豚肉の均一性および品質の確保、A食肉の安全性の確保、B定
時定量で均一な肉豚供給による施設の効率的操業によるコストの削減などを挙げて
いる。

(3)鶏肉
ア  ブロイラー産業の概要


(ア)国内消費量の動向


 1920年代には産卵鶏の副産物に過ぎなかったが家きん肉は、第2次世界大戦中に
牛肉、豚肉と異なって食料統制品に含まれなかったことから、手軽に購入でき消費
が伸びた。需要を反映して販売価格も上昇したことから、ブロイラー生産量は戦後、
戦前に比べて3倍も伸びたとされている。1人1年当たりの消費量は健康志向の高まり
や牛肉、豚肉に比べ安価なタンパク源であったことから、1960年には25ポンド
(約11.3キログラム)だったものが、2001年には75ポンド(約34キログラム)と3倍
となっている。


(イ)国内生産の動向


 ブロイラー生産量は堅調な需要を背景に増加し、2002年は前年比3.7%増の1,465万
トン(可食処理ベース(骨付き))となっている。また2002年におけるブロイラー
ふ化羽数も対前年比1.9%増の約90億7,500万羽と増加傾向にある。ブロイラー生産は、
アラバマ、アーカンソー、フロリダ、ジョージア、ミシシッピー、ノースカロライナ、
サウスカロライナおよびテネシーに集中しており、これら8州で全米のブロイラー生産
量の約3分の2を占めている。



イ  垂直的調整と処理加工業者


 ブロイラー産業は、当初、飼料会社が農家に対しひなと飼料を提供していたもの
であるが、1958年から1961年にかけブロイラー価格が3割程度下落したことなどから、
1960年代に入り垂直的調整が推し進められた。しかし、1970年前半の穀物生産の激減
によるブロイラー生産コストの増大とブロイラー価格の低迷などから、飼料会社はブ
ロイラー産業から撤退し、代わってTyson社などの素びなから処理加工まで垂直的に
調整した企業が残る形となり、今日のブロイラー産業の大枠が確立された。

 現在では、ブロイラー生産の約98%について垂直的調整が行われており、そのう
ち約90%がブロイラー処理加工業者と生産者との契約生産、残りがブロイラー処理
加工業者の所有農場での生産とされている。ブロイラー産業の中核をなす処理加工
業者は、表9のとおりとなっている。

 生産量に占める割合を見るとTyson社約23%、Gold Kist社約9%、Pilgrim's 
Pride社約9%となっている。

 生産量に占める上位4社の割合は1980年には約23%だったものが、2000年に
は約48%となったものの、牛肉、豚肉のそれに比べ低い。

表9 ブロイラー処理加工業者上位10社一覧(2001年)
Source: Sparks and WATT Poultry USA


表10 主要ブロイラー処理加工業者の総処理羽数が全生産量に占める割合
Source: WATT Poultry USA and Sparks


企業買収・合併と規制


 米国において、企業買収・合併は1890年代に石油、鉄鋼、鉄道などの分野が始
まり、これまで数え切れないほどの買収・合併が行われてきた。ここではこの企
業買収・合併の定義などについて整理する。

 企業買収「M&A:Merger & Acquisition」は、Merger(合併)は一方の
企業が消滅する(吸収)合併、Acquisition(買収)は企業の財産権を買収側の企
業が取得することをそれぞれ意味する。Acquisition(買収)の財産権の取得には、
@株主からの株式譲渡または第三者割り当てによる新株引受けにより経営権を獲得
する手法、A特定の事業部門の営業譲渡や工場など有形固定資産や特許など無形固
定資産の買収によるものがある。


 また、双方の企業が消滅し新たな企業を設立する合併はConsolidation(新設合
併)といわれ、企業買収には含まれない。


 M&Aが進む一方で、M&Aにより寡占化した各産業分野では自由競争の阻害や価
格の硬直化などの弊害があるとして、1890年に独占と取引制限行為の禁止を制定
した「シャーマン反トラスト法」や1914年に差別価格の禁止を規定した「クレイ
トン法」が制定され、1921年には食肉パッカーの取引手数料、支払方法、会計記
録の保管、取引方法の規定、取引結果の報告などについて規定した「パッカース
トックヤード法」が制定されるなど、規制の強化が図られた。


 なお、2001年新農業法の審議過程で、食肉パッカーによる家畜所有を禁止する
条項を盛り込む動きが見られたものの、業界団体の強硬なロビイスト活動などに
より、最終的にはこのような条項は新農業法に盛り込まれなかった。




例)タイソン社におけるIBP社の買収

 最近の食肉パッカー買収のうち、インパクトがあったとされる事例として、鶏
肉パッカー最大手のタイソン社が大手牛肉・豚肉パッカーであるIBP社を買収した
ケースを紹介する。


 IBP社は牛肉・豚肉パッカーの老舗でありブランド信頼度が高いことで知られ、
食肉パッカーの優良企業の1つとされてきたが、同社の株価が低水準で推移してい
たことなどから、タイソン社は2000年12月、IBP社の買収に乗り出すと表明した。
しかしながらこの時既に、Donaldson Lufkin & Jenrette社(投資銀行)およ
びスミスフィールド(Smithfield)社が買収に名乗りを挙げていた。また、IBP側
からも1株あたりの交換価格の引き上げ要求があるなど、どの企業が勝利するのか
注目されるところとなった。


 IBP社と3社の間での買収金額および1株あたりの交換条件などについて条件交
渉の結果、タイソン社がIBP社を買収することで最終的に合意に達した。続いて、
2001年8月27日には米証券取引監視委員会(SEC)がこの買収合意を承認し、同
年9月28日にはIBP社の株主がこの買収に合意したことによりIBP社はタイソン社
の傘下に入った。


 買収条件は、@IBP社の株式の約半分を1株あたり30ドル(3600円)で現金に
より買受けるAIBP社の株主はIBP社株1株を2.381株のレートでタイソン社株に
変換できることであった。


 なお、この買収合戦において、SECがタイソン社との買収合意を承認した背景
には、牛肉部門の業務が重複するスミスフィールド社の寡占を規制する意図が
あったものと考えられる。
 

3 大手食肉パッカーの概要と企業の変遷

 ここでは、食肉部門売上高における上位4大食肉パッカーの企業概要と現在に
至るまでの企業買収などを含めた企業の変遷について整理する。
(1)スミスフィールド社
ア  企業概要と歴史


 1936年に創業を開始したスミスフィールド(Smithfield)社は、米国東部地区
のバージニア州の食肉処理加工施設をその起源としている。1969年にはLiberty 
Equities社により買収され、創業者一族は役員から退いたが、1975年には、長期
債務の超過により経営危機に陥り、創業者一族のルーター氏が役員に復帰し、組
織の大規模な再編を行い同社の基礎を再構築した。その後、1981年のGwaltney社
買収を機に再び規模拡大路線を歩むこととなる。今日では、同社は全米最大の種
豚保有数およびと畜処理能力を有する豚の生産者・パッカーであるのみならず、
全米第5位のと畜能力を有する牛肉パッカーとなっている。豚肉部門では、生産
(川上)から処理加工(川下)への垂直的調整により、約744千頭の母豚を保有し、
年間1,200万頭の豚を生産・処理加工し、これらを直接スーパーなどに販売してい
る。



イ  買収の変遷


 同社は1981年からこれまでの約20年間に主なものだけで20社以上の企業を買
収している。

 これらは、大きく以下の3つのカテゴリーに分類される。


(ア)水平的調整によるもの


 1980年代から企業ブランドの確立のため、認知度の高い地域ブランドを持つ
豚肉食肉処理加工業者を買収してきた。特に1996年には豚肉のテーブルミート
ブランドとして米国の消費者の認知度が高かったJohn Morrell社の株式を取得
し、その傘下に収めた。さらに近年では、牛肉部門への進出を図り、乳用種
(乳去勢)専門パッカーであったPackerland Holdings社とケースレディー用
商品の処理加工などを行うMoyer Packing社の2つを買収している。

 牛肉部門へ進出した動機について、「スーパーマーケットは、これまでの
量り売りから事前に販売価格を印字したパッケージ売りへ販売方法を変えた。

 さらに、スーパーマーケットはパッカーに対し、食肉の品ぞろえも豚だけで
なく複数の商品を供給するよう求めてきている。われわれはこれに対応すべく
両パッカーの買収を決定した。」としている。この結果、同社の2002会計年度
における牛肉部門の売り上げは全体の約20%、74億ドル(約8,880億円)に達し
たとしている。


(イ)垂直的調整


 1990年代はじめ、同社は高品質かつ均一で低脂肪の商品の確立を図るため、
生産から処理加工までの垂直的調整に企業の照準を合わせることとし、Circle-
Four社をはじめ、母豚保有頭数全米第4位のCarroll's Foods社を買収するとと
もに、2001年には母豚保有頭数全米第2位のMurphy Farms社までも同社の傘下
に収めた。これらにより、2002年の同社の母豚保有頭数は、母豚保有頭数全米
第2位の養豚企業であるPremium Standard Farms社の3倍以上となっている(表9
 大規模養豚経営体上位5社(2002年)参照)。


(ウ)海外進出


 同社はカナダ、フランス、ポーランド、メキシコ、スペインの食肉処理加業者
への資本参加などを行い、2002会計年度の海外部門売上高は13億ドル(約1,560億
円)に達している。特にメキシコでは、同国最大の養豚生産者であり、処理加工
施設を持つAgroindustrial del Noroeste社とのジョイントベンチャーにより、メ
キシコと日本マーケットをターゲットとするNorson社を設立。2000会計年度には
生産量47千トン、売上高9,700万ドル(約116億4,000万円)を計上している。メキ
シコへの進出の背景には、安価な労働力の確保により、米国内より安い生産コス
トで加工度の高い商品を日本や米国へ供給できることがあると考えられる。



ウ  垂直的調整による企業拡大戦略の評価


 同社の株式に対する収益率は過去26年間では年平均26%であり、直近5年間では
23%となっている。この成績は、米国有力投資情報会社であるS&P社が発表す
る株価指数であり、機関投資家の運用実績を測定する基準として広く利用されてい
るS&P500の株式指数において、コルゲート社(歯磨き粉など製造・販売)の2.5
倍、ジェネラル・エレクトロニック社(家電など)の3倍、コカコーラ社の7倍な
どどなっており、同社の戦略は成功したと評価し得る。

表11 スミスフィールド社の主な買収企業


(2)タイソン社
ア  企業概要と歴史


 1930年代初め、タイソン(Tyson)社の創始者であるジョン・タイソン氏は、シ
カゴ、デトロイト、ヒューストン、クリーブランドの市場へ地元アーカンソー州
(米国南部)で生産された農産物やひなを運送する事業を行っていた。しかし、
1930年代中頃になるとひなの集荷が思うように行かず、運送事業が行き詰まったた
め、この状況を改善すべく自らひなを生産するためのふ卵場を購入した。さらに、
安定的な食鶏用飼料の供給のために飼料工場を買収し、コマーシャルフィード事
業をスタートさせた。こうして1940年代にはひなと自家配合した飼料を供給しブロ
イラーを集荷する体制を構築し、タイソン社のその後の基礎を固めた。さらに、1957
年にはタイソン社として始めて、食鳥処理加工施設を地元アーカンソー州に建設し
た。

 また、1950年代から1960年代にかけて、飼料会社などが農家との契約生産により
ブロイラー産業に進出したが、1970年代前半にはその多くが飼料価格の高騰による
生産コストの増加やブロイラー価格の低迷などでブロイラー産業から撤退してい
った。

 他方、タイソン社はこの時期に飼料会社に代わり多くの農場と生産契約を結び事
業の拡大を図った。タイソン社の生産契約は、同社は農家に、ひな、飼料、飼育技
術指導を提供し、農家は施設・機械と労働力の供給を行うことになっていた。特に、
タイソン社の種鶏供給会社であるCobb-Vantress社からのひなの一元的供給が契
約の必須条件とされ、これにより同社の鶏肉については高品質で均一な商品が確保
されたことから、1970年代前半のブロイラー価格低迷の中でも商品の信頼性から
優位な事業展開が図れたものと考えられる。

 今日、同社は全米のブロイラー生産量(生体重量ベース)の23%を占め、全米最
大の生産・処理加工業者となり、ナショナルブランドとして消費者から認知されて
いる。さらに2001年に大手食肉パッカーのIBP社を買収したことから、全米最大の牛
肉パッカーとなるとともに全米第2位の豚肉パッカーともなった。



イ  買収の変遷


 同社は、ブロイラー産業において自ら生産し処理加工までを行う垂直的調整を早
い段階で確立し、この過程において、同社は、食鳥製品の処理加工メーカーや大手
養鶏農家の買収を行うことで、各流通段階での市場シェアを拡大させてきた。
表12 Tyson社の主な買収企業歴

 これに加え、2001年にはIBP社を買収し、牛肉、豚肉産業にも大きな一歩を踏
み出した。

 この買収に際し、同社のジョン・タイソン会長兼CEOは、「われわれの目標は、
世界一のタンパク源供給企業となることである」と述べた。

(3)コナグラ社
ア  企業概要および買収の変遷


 1919年にネブラスカ州オマハで設立されたコナグラ(ConAgra)社は、農場から
食卓にいたる食品産業全般にわたる多角化経営を実施する食品コングロマリット
(複合企業)である。現在、35カ国以上の国で約80を超える企業により事業を展
開している。これまでの数十年にわたり多くの企業買収や非効率部門の売却など
を行っており、1998年までの10年間における企業買収やジョイントベンチャーは
約150に上るとしている。このように同社の概要は企業買収の変遷でもあることか
ら、ここでは食肉部門における買収の流れを整理することにする。

 同社は1980年代に食肉部門へ進出した。当時の売上高第1位Swift社および第
3位のArmour Food社(いずれも豚肉パッカー)を買収し、1987年には当時の3
大牛肉パッカー(他にIBP社、Excel社)の1つであったMonfort社の株式を3億
ドル(約360億円)で取得し傘下に収め、さらに、大手ブロイラー生産業者で
あったCountry Poultry社などを買収した。その後も中小の食肉パッカーやハ
ム・ソーセージ加工メーカーの買収を繰り返し、2001年には食肉取扱数量で全
米第3位の牛肉パッカー、同3位の豚肉パッカー、同2位のブロイラー処理加工
業者となっている。また、1980年代には水産部門への進出も行っている。

 このように食品コングロマリットを目指す同社は食肉部門においてあらゆる
ジャンルへの進出を図り多くのパッカーなどを傘下に収めていたが、その中に
は非効率的で小規模な施設もあった。このため1999年には、70の小規模処理加
工施設を閉鎖し、それに伴う20の食肉関連事業から撤退するとともに約7,000人
を解雇することにより効率性の改善に努め、食肉部門の再構築を図った。これ
により年間6億ドル(約720億円)を節約することに成功している。さらなる効
率化のために1999年後半にはMonfort社を始めとする牛肉部門5社を統合し、コ
ナグラ Beef社を設立した。

 しかし、他の部門に比べ牛肉部門の収益性が改善されなかったことや同年6月
にグリーリー工場(コロラド州)で発生した腸管出血性大腸菌O157による牛ひき
肉の自主回収により一時的に収益性が落ちたことなどから、2002年9月に、食肉
部門のうち牛肉・豚肉部門の施設設備等の資産を投資会社に売却した(現在、
Swift&Company社)。

 アナリストは、今回の牛肉・豚肉部門における資産売却は今後、小売パックさ
れた商品を扱うマージンの高い部門(2002年の同社の営業利益割合の約78%を占
める)に比べマージンの低い食肉加工部門(同営業利益割合約1%)などの施設設
備売却を促す可能性があるとし、その候補として家きん(ブロイラー、七面鳥)
生産部門と小麦精製部門を挙げている。

(4)カーギル社
ア  企業概要および買収の変遷


 カーギル(Cargill)社は世界最大の穀物メジャーとして有名であるが、その業
態は農業分野にとどまらず石油、船舶、製鉄などの分野にも進出しており、農業分
野を超えた世界最大のコングロマリットを形成している。ここでは、この巨大コン
グロマリットのうち食肉部門の中核をなすエクセル(Excel)社について、その概
要を見ることにする。

 牛肉パッカーとして1936年にシカゴで創業したエクセル社は、1971年にKansas 
Beef Indutries社と合併、さらに1974年にはMissouri Beef Packers社を吸収合
併し社名をMBPXLとした。1979年には、食肉部門への参入してきたCargill社に買
収され、1982年には社名をMBPXLからエクセルに再度変更した。

 また、それまで牛肉パッカーであった同社は1987年以降、Hormel社やOscarMayer社
から豚肉処理施設を購入し、豚肉部門にも参入した。また、この他1989年にカナダ、
1991年には豪州にそれぞれ進出している。

 同社は、国内大手の食肉パッカーでありながら、タイソン社、スミスフィールド
社などと異なり、ケースレディミートの製造や商品のブランド化に重点を置いてお
らず、ブランド化されていない商品を小売業者やフードサービスへ主に供給してい
る。しかし、最近の消費性向(ケースレディミート、商品のブランド化)に対応す
べく、国内向けにHormel社とのジョイントベンチャーによりPrecept Foods社を設立
し、「Always Tender」というブランド名で牛肉および豚肉のケースレディーミート
の供給を開始した。

 次に生産サイドについて整理したい。

 肥育牛については、カーギル社傘下の肥育牛収容能力全米第4位のフィードロッ
トであるCaprock Cattle Feeders社から遺伝形質、体質、体重、衛生条件などが集
中管理されたものがエクセル社に一部供給されるが、これ以外は中西部を中心にス
ポット取引により肥育牛を集荷している。肉豚については、カーギル社傘下の全米
第7位の母豚保有頭数を有するCargill Newtorina社から供給された肉豚を処理して
おり、牛肉と異なりカーギル社のコングロマリットとしての連携の中で一貫体制が
確立されている。

 アナリストなどによるとカーギル社の方針は、傘下企業内の原料・商品の融通を
図ることよりむしろ個々の傘下企業の利益追求を最優先としているとされる。

4 おわりに

 健康志向の高まりなどにより食肉消費量が頭打ちとなってきたことなどから、生
産、食肉処理加工の各段階における経営体規模の拡大(水平的調整)や生産から食
肉処理加工段階までの一貫した体制を整備(垂直的調整)することで各企業は利益
の確保と経営の安定を図ってきた。また、牛肉、豚肉、鶏肉について総合的な事業
展開も図られてきた。この結果、今回紹介したような大手4大パッカーが食肉市場
の中核を占めるようになったと言える。また牛肉、豚肉、鶏肉産業のそれぞれの状
況をみると、現在の大手4大パッカーを中心とする食肉産業の構造は成熟し安定し
た状態にあると考えられ、今後も米国の食肉業界はこれら大手4大パッカーに先導
される形で展開していくものと考えられる。

元のページに戻る