EU農相理事会、CAP改革に合意


CAP改革が決着

 EU農相理事会は2003年6月26日、共通農業政策(CAP)の改革に合意した。
これで、昨年7月にEU委員会よりCAPの中間見直しに関する提案が出されてから
議論を重ねてきたCAP改革が実質上、決着した。今回のEU農相理事会は、6月11・
12日、18日・19日に議論され結論に至らなかったため25日再び開催され、夜を
徹しての議論の末、26日朝合意に達した。

 今回の合意を受け、EU委員会のフィシュラー委員(農業担当)は、「今回の合
意は、新たな時代の始まりを示すものである。われわれの農業政策は根本的に変わ
った。直接支払いの大部分は生産と結び付かなくなる。今回の改革は、全世界に強
いメッセージを送るものである。われわれの新たな政策は、世界貿易に役立つもの
である。今日の合意でEUは、世界貿易機関(WTO)交渉において非常に有利とな
る。EUは自分たちの宿題を済ませた。WTO交渉を成功させるためには、今度は他
の国が行動を起こす番である。ボールは他の国にある。例えばアメリカの農業政策
は、非常に貿易わい曲的であり、その程度を強めている」とコメントしている。

直接支払いは例外措置を定める

今回の合意の概要は以下の通りである。
単一の直接支払い


 今年1月にEU委員会が公表したCAP改革規則案(本誌2003年3月号参照。)
通り、2000年から2002年の間の受取実績を基に、生産とは切り離した直接支払い
を2005年から実施する(加盟国の農業の状況で実施が遅くなる場合は、遅くとも
2007年までには実施)。

 ただし、EU委員会の規則案では、すべての直接支払いを単一の直接支払いに統
合することとしていたが、EU最大の農業予算受け取り国であるフランスなどの反
対で耕作部門や肉用牛部門で以下の例外措置などが取られた。

・ 耕作放棄を防ぐため、加盟国の裁量により、穀物への直接支払いの一部を生産
 とリンクした直接支払いとすること、また、肉用牛部門のと畜奨励金については金
 額を減額した上で、継続することを可能とする。


・ 肉用牛部門の繁殖雌牛奨励金は現行のままとする。

 一方、酪農家に対する直接支払いは、1月の規則案で示された額よりも引き上げ
られ、2004年の酪農家に直接支払い額は、生乳出荷量1トン当たり11.81ユーロ
(約1,630円、1ユーロ=138円)、2005年は23.65ユーロ(3,260円)、2006
年以降は35.5ユーロ(4,890円)とする。また、2008年から酪農家に対する直接
支払いは、単一の直接支払いに統一する。

価格支持政策(酪農関係)


1 生乳生産割当(クオータ)制度

  1月のEU委員会規則案では、既に予定されているものに加え、2004年から3
 年間、毎年枠を0.5%ずつ拡大することとしていたが、今回の合意では、2006年か
 ら3年間0.5%ずつ拡大することとしている。また、クオータ制度は2014年度ま
 で継続する。

2 乳製品の介入買い入れ価格等

  乳製品の介入買い入れ価格等の引き下げについては、規則案に比べ下げ幅を縮
 小することなどで合意した(規則案では、バターは2008年までに100キログラム
 当たり213.95ユーロ(約2万9,500円)、脱脂粉乳は同年までに169.74ユーロ
 (2万3,400円)まで引き下げを実施)。

 また、規則案では、バターの介入買い入れ限度数量を新たに設定し、年間3万ト
ンとしていたが、合意案では2004年度は7万トン、2005年度は6万トン、2006
年度は5万トン、2007年度は4万トン、2008年以降は3万トンと設定された。

関係団体からは批判

 しかし、今回のCAP改革合意について、関係団体からは合意内容を批判するコメ
ントが発表されている。

CAP改革全般に対する批判

欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)


1 欧州の農業者と欧州の農業協同組合は、今回のCAP改革の結果に失望している。
 今回がこれまでで最もドラマチックな改革であるが、同時にCAPと農業の将来を傷
 つけるものである。欧州の農業の競争力は現在、危険な状態にある。


2 今回の改革で、生産コストに対して、農産物の販売価格が低くなり、このこと
 が農業者の生産中止につながり、協同組合にとって非常に厳しい結果となる。

欧州消費者協会(The European Consumers’ Organisation)


1 欧州の消費者は引き続き、国際市場に投げ売りする食料のために負担を続けな
 ければならない


2 欧州の農業政策は、少数の関係者によって支配されており、欧州連合全体の利
 益のためにはなっていない。今回の改革は不十分で、今後とも真の改革のため精
 力的に活動を続ける。

国別または地域別に生産に結び付いた直接支払いを継続することに対する批判

COPA/COGECA


1 今回の合意は、ア・ラ・カルト(a la carte)と呼べるほど、直接支払い制度に
 ついて、多くの選択肢(option)があり、施策の国別実施(renationalisation)と
 なりかねない。このことがCAPを著しく害することになる。


2 (国別に選択肢を選べることとなることから)農業者同士、各部門同士、地域
 同士、国同士の競争をゆがめることとなる。

イングランド全国農業者連合(NFU)


 各国が生産と結びついた直接支払い制度を継続できる多くの選択肢があることか
ら、各国が異なる施策を実施し、このことが、市場競争をゆがめるおそれがある。
このようなことから、EU委員会とイギリス政府に各国の政策を監視するように求
める。しかし、直接支払い制度に関し、生産からの切り離しを一層推進することに
より、農業者が市場動向に応じた農業の取り組みを行うことは歓迎する。

酪農関係団体の多くが、強く非難

 また、各国の酪農関係団体の多くが、乳製品の介入価格や酪農家に対する直接支
払い制度の合意内容は、酪農に重大な悪影響を及ぼすと強く非難するコメントを発
表している。

 その内容は、@バターと脱脂粉乳の介入買い入れ価格が引き下げられ、バターに
ついては、買い入れ数量に上限が設けられたことなどから酪農家の収入が減るA酪
農家の生乳出荷量に対する直接支払いの金額は少なく、買い入れ価格の引き下げに
見合っていない−というものである。

 また、改革実施に備えた経営改善が必要とする意見がある一方で、クオータ制度
が継続されることや、今後の施策の運用等が不明であることから、酪農家に直接支
払いが適用されるまでは経営改善に取り組まなくても良いとのコメントを発表して
いる団体もある。

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