大手乳業の乳価引き下げをめぐる論議  ● 豪州


大手乳業会社が乳価引き下げを発表

 豪州の大手協同組合系乳業会社であるデイリーファーマーズ(本社:ニューサウ
スウェールズ(NSW)州)は5月30日、7月1日から始まる2003/04年度の酪農家に対
する支払乳価について、9%(1リットル当たり約3豪セント(約2円:1豪ドル=
78円))引き下げることを発表した。

 同社では、引き下げの背景として乳製品の国際価格の低迷と豪ドル高を挙げ、同
社が豪州乳業界で競争力を持ち成長する企業として生き残るためにはやむを得ない
としている。同社は豪州の乳業会社の中でも、飲用乳のウェイトが高いとされるが、
同社は「国内向け製品は現状を打開する手段とはならず、国際市場に起因する圧力
からは逃れられない」と輸出環境の悪化による影響が大きいとしている。

 また、昨年大手スーパーマ−ケットであるウルワースのプライベートブランド牛
乳の供給契約をすべて失った(「海外駐在員情報」平成14年7月2日号参照)こ
とも影響しているとの見方もある。

 新たな乳価については、集乳地域や季節によって異なるが、引き下げ後の平均価
格で1リットル当たり27.02豪セント〜30.64豪セント(約21円〜約24円)の範
囲となる。


 現在、同社は酪農家に対して乳価引き下げの説明を行っているが、酪農家を構成
員とする協同組合系の乳業会社であるだけに、傘下の酪農家の間には不満が広がっ
ている。この引き下げで、酪農家1戸当たり年間おおよそ2.5万豪ドル〜3万豪ド
ル(約195万円〜約234万円)の減収が見込まれている。

農相は引き下げ再考を要請

 こうした中、豪州連邦政府のトラス農相は6月4日、同社の決定に対して、「干
ばつの影響下にあるこの時期に乳価を引き下げることは、多くの酪農家にとって深
刻な打撃となる」と乳価引き下げを再考するよう求める声明を発表した。

 同農相は、「連邦の干ばつ救済対策は多くの農家に支援を提供するが、連邦は農
家収入を向上させることはできない」と政府としては所要の干ばつ支援を実施して
いるとした上で、「乳業会社は、干ばつによって農家コストが増加していることを
思い出すべきである」と他の乳業会社が追従しないようけん制している。

 また、「農家に支払われる乳価が乳製品の国際価格に密接に関連するという輸出
依存度の高さを十分に承知しているが、乳業会社が大局的かつ長い目で考慮するこ
とを主張したい」と現状を以下のように分析している。

@ 飼料穀物価格はわずかに値下がり始めたが、コスト低減の効果が表れるまでに
 はまだ時間を要し、今後の飼料価格は、穀物生産地域における降雨に高く依存する。


A 全体的に乳製品の国際価格は、2002/03年度において大きく上昇する見込み
 はなく、今後の国際価格は、米国とEUにおける脱脂粉乳とバターの大量の過剰在
 庫により緩和する可能性が高い。

会社側は改革後の当然の姿と反論

一方、同社は6月6日、「トラス農相が新しい乳価についてなぜそのように言うの
か理解できない」と同農相の再考要請に対して、次のように反論している。

・ 牛肉や穀物のような他の農村地域産品と同様に、循環する市場の動きの1つと
 して酪農家に支払う乳価を調整することは、同農相が推進した酪農乳業制度改革に
 よるものである。

・ 酪農乳業改革後の現実の姿として、乳価は、内外市場におけるさまざまな要因
 により決定されるため、上昇したり下降したりする。

 改革に最後まで抵抗していたNSW州に本拠を置く同社の反論だけに、辛らつな
ものがあるが、同社では市場実勢を反映した現実に立脚して行動するとし、再考す
ることを否定している。

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