豪州における羊の識別制度



ひとくちMemo

 豪州では2002年 7 月から羊の識別について全国羊群識別制度(National Flock Identification Scheme:NFIS)として開始された。業界主導による任意制度ではあるが、粗放的な小動物における識別の例として農場現場での取り組みを通じて制度の概観を紹介する。
 NFISは、電子耳標を使用した牛の全国家畜個体識別制度(NLIS)のような大掛かりな制度ではない。視覚的に読み取り可能な耳標が使用される。耳標情報は@出生牧場、A出生年、B移動した場合は飼養牧場、C牧場内の管理番号(任意表示)である。したがって、制度の基本は「識別=耳標装着」にあり、飼養されている牧場において生まれた年ごとの羊群が識別される。これに、農家が牧場内で個体の管理番号を採用した場合、個体識別まで行われることになる。そして、この耳標が羊の全国出荷者証明書(NVD)と連結すれば、最終出荷先から農場までのトレースバックは容易になる。

 ニューサウスウェールズ州ダボで羊と牛の複合経営を行うピーター・シュスター氏。
 同氏は、約6,000エーカーの農地に羊毛用の羊約3,000頭、牧草肥育用の肉牛約250頭を飼養している。趣味は絵画で、農場内にアトリエを持ち、趣味というよりも「二束のわらじを履くファーマー」という風情である。
 広大な牧場は数ヵ月前から降雨に恵まれ、現在では写真のとおり青々としている。放牧中の羊は羊毛用でメリノー種。従前は耳に切れ目をつけ、その角度によって生年を分かるようにしていたが、耳標装着により耳標の色で生年が表示されるようになった。
 耳標装着後の羊。オレンジは2002年生まれを示す。ピーター氏はNFISのメリットとして「飼養管理上の精度を高めるとともに、最終的に食肉(マトン)になるためフードチェーンの安全問題にも貢献できる」と語っていた。    この耳標装着器で羊の耳を挟んで装着する。
 装着前の耳標の拡大図。NFISには2種類の耳標がある。この牧場では羊繁殖農場タグ(Sheep Breeder Tags)を装着。NLISロゴ(NFISはNLISの中の羊バージョンという位置付け)、農場識別番号(PIC)、個体番号が表示される。ライト・グリーンは2003年生まれ用。なお、別の牧場に移動した場合には、羊農場タグ(Sheep Property Tags)としてピンクの耳標が反対側の耳に装着される。
 羊のNVD。ピーター氏のお母さんも「これがないと市場で売れないのよ」と、義務付けられてはいないものの、豪州の家畜売買における浸透ぶりがうかがえる。
 NFISを主導するセーフミート(事務局は豪州食肉家畜生産者事業団(MLA))では、「NFISは病気を予防することはできないが、個体識別の改善やトレサビリティーによって伝染病による経済損失や社会的影響を低減することができる」と普及に努めている。


シドニー駐在員事務所 粂川俊一、井上敦司


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