余乳問題が再び深刻化   ● タ イ


脱脂粉乳国際価格の下落で、学乳の国産生乳使用が減少

 タイの生乳生産量は、1日当たり約1,300トン程度とされているが、輸入脱脂
粉乳などから還元乳を製造した方が低コストのため、余乳の発生が恒常的な問
題となってきた。農業協同組合省畜産開発局(DLD)は、この余乳問題を解消
し、酪農振興を行うため、2001年から、学校給食用牛乳(学乳)として供給さ
れる牛乳については国産生乳100%使用とすることを義務付けた。これにより、
学乳供給期間中には1日当たりの生乳生産量の約92%が学乳に消費されること
になり、余乳問題は学校休業期間中だけの問題となった。

 昨年、この制度がうまく機能した背景には、同年上半期までの脱脂粉乳等の
国際価格が極めて高い水準で推移しており、還元乳が生乳を使用した場合より
も高コストになったという事情がある。しかし、2001年下半期以降、2002年上
半期末までは、脱脂粉乳などの原料乳製品の国際価格が前年同期の半値程度に
まで大幅に下落したため、還元乳のコストが再び低下し、利幅が拡大している。
このため、学乳供給業者の中には、国産生乳の買入れ量を大幅に上回る量の学
乳を供給する者も現れて、余乳が再び大きな問題となり、何らかの対策が求め
られている。


余乳処理を目的として買い戻しを条件にLL牛乳へ加工

 また、酪農協の全国組織であるタイ酪農協同組合協会は、学校の休業期間の
余乳処理を目的として、大手乳業7社と協議し、10月8日以降、7社による余乳
のロング・ライフ(LL)牛乳への加工について合意している。しかし、7社は
処理を行う条件として、生乳1キログラムに対し、200ミリリットル容のLL牛乳
5本を酪農協が買い入れることとしたため、現在、酪農協には100万カートンを
超えるLL牛乳が滞留している。余乳問題が一気に深刻化したのは、10月中旬か
ら1ヵ月間にわたる学期間休業(いわゆる洪水休暇)期間であり、11月19日に
は、バンコク市の北方にあるサラブリ県のモクレク酪農協同組合が生乳20トン
以上を同県の政府機関庁舎前でまき散らすという抗議行動を行った。同酪農協
は、組合員数が1,200名であり、国内生産量の1割程度に相当する1日当たり130
トン程度の生乳を生産しており、余乳は同組合の存立を脅かす深刻な問題とな
っている。


政府の不正や酪農協の負債など、学乳をめぐる厳しい状況

 一方、政府においても、学乳の納入業者決定をめぐる不正が発覚し、その責
任を問われる形でDLDの局長が更迭されるなど畜産をめぐる問題が相次いでお
り、大幅な機構改革を行ったばかりのDLDにとって厳しい状況が続いている。
このような状況からも、協会は11月29日、今後の学乳事業の推移いかんによっ
ては、16酪農協が破産するとの見方を公表しており、残りの10酪農協も負債額
は1,500万バーツ(約4,200万円:1バーツ=2.8円)以上と、危機的な状況にあ
るとしている。


学乳の国産生乳使用の徹底を図るため、政府が対策

 このような状況をふまえ、農業協同組合省は、早急に国内75ヵ所の生乳処理
施設の検査を行って生乳使用状況を把握するとともに、@学乳供給業者の登録
に祭し、生乳調達酪農家と乳牛頭数のリスト提出の義務付け、A学乳供給業者
に年間を通しての生乳買入れを義務付け、販売額の5%相当額を各県の学乳運
営機関に預託、B2003年1月1日以降、学乳の容器に牛乳の種類別シール貼付を
義務付け、C学乳供給区域の線引きの変更、の4項目の対策を実施し、余乳問
題の解決に努める方針であることを表明している。

 しかし、余乳問題の解決には、タイで進行中の1村1品運動に牛乳を含め、需
要の底辺を拡大することが必要であるという意見や、まずは粉乳類の輸入規制
を強化することが必要であるという意見も根強くあり、今後の推移が注目され
る。

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