パタゴニアにおける牧羊とGPSを用いた研究(アルゼンチン)
ブエノスアイレス駐在員事務所 犬塚明伸、玉井明雄
ひとくちMemo
アルゼンチンでは2001年4月、粗放経営における適正な放牧技術の導入
の推進、生産物価格の急落時における生産者への支援などにより、牧羊業の復
興を図る制度を定めた牧羊業復興法(法律25422号)が制定、2002年6月18日付
けで施行規則(大統領令1031/2002号)が公布され実施段階に入った(詳細は
海外駐在員情報通巻第541号)。
牧羊の中心であるパタゴニアを含む4州(地図の太線で囲まれた部分)には、
全体の約6割を占める820万頭が飼養されている。
牧羊業の復興を国を挙げて図る中、どのような牧羊が行われているのか、また
環境保全に配慮しつつ生産性の向上を図るために、アルゼンチン国立農牧技術
院(INTA)が全地球測位システム(GPS)を用いてどのような研究を実施して
いるのか紹介する。
なお、2002年5月、国際獣疫事務局(OIE)の総会において、南緯42度(チュ
ブト州)以南が口蹄疫ワクチン不接種清浄地域として承認されている。
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南パタゴニアにおける放牧風景。今回の訪問先であるサンタクルス州は、チ
ュブト州(400万頭)に次ぐ約200万頭が飼養されている。チュブト州では羊毛
用のメリノー種が、サンタクルス州では、羊毛肉兼用種のコリデール種が多い
とのことである。
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アルゼンチンの羊の飼養頭数は、60年
代は約5千万頭近かったが、近年は約1千
3百万頭で推移している。
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INTA支所長(左)とGPSプロジェクトの担当者
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INTA支所事務所全景
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サンタクルス州都リオガジェゴスにあり、サンタクルス州およびフエゴ島の
南パタゴニアを管轄しているINTA支所。ここでは、持続的な牧羊業の発展のた
め、海外の研究機関などとタイアップしGPSを用いた研究などを実施している。
日本からの共同研究も期待しているとのことである。
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装着風景。目視でも確認できる
ように毛に色をつけている
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環境保全および自然との共生を目指しているため、パタゴニア地域の草量は
多くないが草地改良や肥料散布などは実施してない。また、風が強く低い草丈
が一面を覆う当地では、羊の習性として、10数頭程度からなる群で移動し、
「特定の場所(し好性の良い草がある、風を避ける岩場があるetc)」を好む
ため、「特定の場所」は裸地化が進行しやすくなる。GPSを用いた研究は、羊
の行動パターンが何に起因しているのか分析し、その問題点を解決して放牧地
全体の利用率を向上させ、産肉性、産羊毛性、出産率などの生産性を向上させ
ることが目的である。
現在、南パタゴニアにおいて牧羊業が盛んなのは、サンタクルス州南部およ
びフエゴ島北部である。以前はサンタクルス州北部にも多くの羊が放牧されて
いたが、羊毛価格が低下した際に頭数増で収益を補おうとして過放牧となり裸
地化が進んだため、衰退してしまった。このことが環境保全や自然と共生しな
がら持続的に牧羊業を発展させようとする研究背景、そして牧羊業復興法の制
定にも関係していると言えよう。
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2001年7月:研究放牧地は雪が多
く2つの群は交わることなく、そして
移動もほとんどしていないことが分
かる。
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2002年1月:2つの群は交わるように
行動しているが、牧区すべてを移動
または利用していないことが分かる。
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INTA支所の研究放牧地ではG
PSを用いた研究の他に、リャマ
(ラマの一種でアルゼンチンで
は北部のアンデス山脈地帯の州
に生息)を放牧し、その適用性
についても研究している。リャ
マは羊と同様、毛と肉が利用で
きる。
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