豪州、米国とFTA交渉開始に合意
米大統領選前の合意を目指す
豪州連邦政府のハワード首相とベール貿易相は11月14日、世界貿易機関
(WTO)非公式閣僚会合出席のため訪豪した米通商代表部(USTR)のゼーリッ
ク代表と会談し、両国間の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を始めるこ
とで合意した。両国間のFTA交渉については、約2年前に豪州から米国に対して
提案されていたもので、両国政府とも2004年11月の米大統領選の前までに合意
することを目指している。
ベール貿易相は、米国とのFTAの豪州経済への効果について「長期にわた
り何十億豪ドルもの利益がある」とし、その交渉自体の意義も「両国にとって
WTO交渉における勢いを後押しするもの」と語っている。交渉開始に当たって
は、米国側での所要の手続きの終了後、速やかに最初の正式交渉を持つことも
合意されている。同貿易相は、「2003年3月までには最初の交渉を持ち、関係す
る問題の複雑さと範囲を考えれば、時期に言及するには早計ではあるものの、
2004年までに合意形成が図られることを期待している」としている。
また、連邦政府のトラス農相は、「FTA による豪州の経済効果の大部分が米
国にとって最もセンシティブな部門である農産物市場へのアクセス改善によっ
てもたらされると認識されているため、農業が交渉のカギを握る部分であると
いう双方の認識を歓迎する」と交渉開始に意欲を示している。また、米国は豪
州の農産物にとって(日本に次いで)2番目に大きい市場(主要製品は、牛肉、
魚介類、乳製品、砂糖類)であるが、米国への豪州産の牛肉や乳製品などの輸
出が、現在、関税割当制度のもとで制限されているため、「これらの割当枠の
増加や可能な限りの関税率の削減がなされれば、豪州の農家が米国市場へのよ
り大きいアクセスを得る極めて高い可能性がある」としている。
巨大な米国経済に高まる豪州側の期待
豪州は主なFTAとして、83年にニュージーランド(NZ)との間で豪州
・NZ経済緊密化協定(ANZCERTA)を締結し、今年10月初めにはシンガポールと
の間でFTAに最終合意している。今回の交渉開始合意によって、豪州への最大
の直接投資国であるとともに、主要な市場である米国とFTA締結を目指すこと
になるが、NZなどに比べ米国経済ははるかに大きいため、豪州側の期待感は高
い。
米国とのFTAについては、米国内において豪州産農産物の競争力を懸念する
米国農業部門の支持を得るのが困難な環境ということから、ベール貿易相は、
今年10月初旬にFTAとWTO交渉について米国首脳と会談するため訪米した際に、
両国間のFTAについては進展がなかったため、交渉の早期開始に悲観的な見方
を示していた。特に、米国農業団体は豪州の衛生植物検疫(SPS)基準が厳し
すぎると問題視していた。その後、両国の担当局によって検疫問題への取り組
み方針に関する非公式な合意が成されたことから、事態は進展したとされるが、
トラス農相は、「米国との交渉に入ることは、決して検疫に対する豪州の慎重
な取り組み方法を危うくするものではない」と言っている。
豪州産農産物にとっては米国流通・消費部門の支持が頼りか
しかし、全国農業者連盟(NFF)では、SPS問題は米国が作り出した口実とし
ての貿易障壁であるとして「米国農業部門が簡単には市場アクセス改善を豪州
に与えはしないだろう」と見ている。また、NFFは、両国の農業部門間での連
携よりむしろ「米国の豪州産製品の輸入業者や、潜在的なユーザーからの支持
を見出す必要がある」と米国の流通・消費部門からの支持を得ることに傾注す
る構えを見せている。
なお、豪州の対米輸出をめぐっては、牛肉の輸出割当枠の超過・配分問題が
記憶に新しいが、肉牛・牛肉業界では今回の交渉開始合意を歓迎している。
豪州政府は、交渉を進める上で、関係業界などとの直接的な協議を実施する
方針であるが、加えて現在、各方面からのパブリックコメントを2003年1月15
日まで募集している。
元のページに戻る