慢性消耗性疾患(CWD)の人への危険性を調査 ● 米 国
新たにイリノイ州を加え、発生州は全米で10州
米保健社会福祉省(HHS)のトンプソン長官は11月4日、近年、シカや
エルク(オオジカ)に発症する慢性消耗性疾患CWD:Chronic Wasting Disease:)
が米国内で広がりつつあることを踏まえ、この疾患の人間への危険性などにつ
いて食品医薬局(FDA)が調査を開始すると発表した。トンプソン長官は会見
で、「CWDがわれわれに脅威を与えるものかどうかを見極めた上で、疾患の拡
大を食い止める最善の策を探し出し、CWDの撲滅に奮闘している州を支援した
い」と述べた。
67年に最初の患畜が確認されたCWDは、78年に伝達性海綿状脳症(TSE)の一
種であると特定された(既報「海外駐在員情報(通巻533号)」参照)。当初
は、コロラド州北東部やワイオミング州南東部などに生息する野生のシカやエ
ルクだけに発症していたが、97年には、サウスダコタ州の農家で飼養されてい
たエルクからも発見されている。さらに、イリノイ州政府が11月1日に、10月
下旬に狩猟された野生の雌シカがCWDであったと発表したことから、発生州は
10州となった。
国立衛生研究所をはじめとする各機関で調査・研究を実施
調査は、国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)のTSE研
究予算から2,920万ドル(35億9千2百万円、1ドル=123円)が充当され、実際
には、NIHの研究機関の1つである国立アレルギー・感染病研究所(National
Institute of Allergy and Infections Diseases:NIAID)などが行うことと
なっている。調査は、CWDの感染メカニズムや発生原因となる異常プリオン
(たんぱく質の一種)の特定や異常プリオンが含まれる餌の摂取により、サル
などの実験動物がCWDに感染する可能性などについて実施される予定である。
なお、HHSは、これまでシカとの接触やそれらを食べたことにより人間がCWDを
発症した事例はないとしている。
また、NIAIDは先ごろ、コロラド州立大学と840万ドル(10億3千3百万円)、
7年間の契約を結んだ。この契約の下で、CWD専門の研究センターを設立し、治
療法やワクチンの研究などを行うこととしている。
一方、米農務省(USDA)は、97年から各州の協力を得てサーベイランスを行
っており、2003年度においてもCWD撲滅プログラム予算が計上されてい
るところである。また、USDAは、連邦議会からのCWD対策強化の要請を受け、
米内務省(DOI)との間で作成したCWDマネージメントプラン(CWDの診断方法、
個体管理の重要性、サーベイランスの強化、発症事例などについての情報の共
有など)を提出している。
患畜の動物用飼料原料への利用禁止措置も導入予定
こうした中、FDAの動物用医薬品センター(Center for Veterinary Medicine
:CVM)は11月12日、CWDの発生が増加していることや感染のしくみが不明であ
ることなどから、@CWDに感染した、あるいは感染している確率の高い動物
を原材料に用いた動物用飼料は認めない、Aこれらの原料が含まれる動物用飼
料は市場から回収されるという規則を新たに導入すると発表した。さらに、こ
の発表に関するさらに詳しい文書を後日公表するとしている。なお、2001年10
月以降、日本は米国およびカナダから日本への生きたシカ科動物および同科動
物由来の畜産物の輸出を停止している。また、発生が確認されていないケンタ
ッキー州では、他州からのシカの移動を禁止する規則を制定するなどの動きも
ある。
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