米農務省、 1 年半ぶりに乳製品の買上価格を改定


政府在庫削減のため、脱脂粉乳の買上げ価格を引き下げ

 米農務省(USDA)は11月15日、いくつかの酪農・乳業政策の実施に
関する発表をまとめて行った。この中には、過剰な政府在庫の削減を図るため
の脱脂粉乳買上価格の引き下げや、一部のチーズに対する数量ベースの特別セ
ーフガード(SSG)の発動などが含まれている。今回の発表に際し、ベネマン
農務長官は「酪農は、米国の農業経済上最も重要な部門の1つであり、政策運
営の面で最も複雑な部門の1つである」として、「相互に関連したこれらの政
策について同時にアクションを起こすことは、酪農家や乳業にとって長期的に
も最善の効果をもたらすものである」と述べた。

 国内の酪農・乳業関係者から最も大きな注目を集めたのが、およそ1年半ぶ
りに実施されることとなった脱脂粉乳とバターの政府(商品金融公社:CCC)
買上価格の見直しである。これは「ティルト」と呼ばれるCCCの運営コスト削
減のための手法であり、農務長官には、加工原料乳の支持価格の水準を固定し
たままでこれらの買上価格を年2回以内変更できるという権限が与えられてい
る。前回2001年5月末の見直しでも、脱脂粉乳の過剰在庫削減のためにその買
上価格を引き下げる一方でバター買上価格を引き上げるという価格操作が行わ
れた(「畜産の情報・海外編」2002年4月号・特別レポートを参照)。しかし、
それでも脱脂粉乳在庫は、減少するどころか逆に増加し、2002年10月末現在で
は、1年半前のほぼ2倍の約50万2千トンにまで積み上がっている(この水準は、
脱脂粉乳の年間国内消費量の実に166%に相当する)。このため、先ごろ決定さ
れた干ばつ対策の一環としての脱脂粉乳在庫の補助飼料としての活用や、海外
食糧援助への仕向けなどに次ぐ今回の買上価格引き下げとあいなったのであり、
乳業団体の国際乳食品協会(IDFA)からは、前回同様「感謝する」とのコメン
トが発表された。

○乳製品買上価格の見直し状況(単位:ドル/100ポンド)

         <前回>     <今回>

 ・脱脂粉乳:90.00(△10.32)→ 80.00(△10.00)
 ・バター :85.48(+19.99)→105.00(+19.52)

(加工原料乳支持価格:9.90ドル/100ポンドで不変)


生産者団体は、酪農家の下取りが減るとして失望

 一方、生産者団体の全国生乳生産者連盟(NMPF)の見方は、今回も否定
的である。11月20日のNMPFの声明文によれば、低迷する乳価に追い討ちをかけ
るように、@今回の脱脂粉乳買上価格の引き下げは、(連邦ミルク・マーケテ
ィング・オーダー制度における最低取引価格の低下を通じ)2003年の農家生乳
販売価格を平均0.74ドル/100ポンド(約2円/kg:1ドル=122円)引き下げ、
全米の酪農家の収入を総額12億ドル(約1,460億円)減少させる、Aこのうち
の3億3千万ドル(約400億円)は、2002年農業法で創設された生乳所得損失契
約(Milk Income Loss Contract:MILC。同法条文上の「全国酪農市場損失支
払い(National Dairy Market Loss Payments)」に同じ)プログラムによる
追加的な価格補てんによって埋め合わせされるとしても、残りの8億7千万ドル
(約1,060億円)は、実質的な酪農家の損失になる、B政府の支出も、こうし
たMILCプログラムの追加額に加え、脱脂粉乳在庫が減っても、冷蔵によるため
保管料がかさむバターの買上げ量が増えることなどから、さらに財政負担が増
えると指摘している。


SSGの発動やDEIPの追加交付も併せて発表

 また、今回USDAは、輸入が急増しているアメリカンタイプのチーズに対
する数量ベースSSGを同日付けで発動する旨、さらには、今年9月に続く今年度
(2002年7月〜2003年6月)2回目の米国産乳製品に対する輸出補助金(乳製品
輸出奨励計画:DEIP)の交付を行う旨を併せて発表した。

 このSSGの発動は、今年の夏以降、NMPFがUSDAに対して求めていた措置であ
り、今年の発動水準3,600万ポンド(約1万6千トン)を超える4,800万ポンド
(約2万2千トン)の輸入が9月末現在で行われたため、今年12月末までの間、
関税割当数量を超える輸入に対し、通常の関税水準の3分の1が上乗せされた1.
407ドル/kg(約172円/kg)が適用されることとなった。しかしNMPFは、この
決定を歓迎しつつも、適用期間が短すぎるため、今回のティルトの影響を和ら
げるには十分ではないとして、いささか不服の面持ちである。

 DEIPの追加交付については、NMPFと米国乳製品輸出協会(USDEC)が、前回
分も含め、補助金受給のための入札案内が脱脂粉乳とチーズだけでなくバター
に対しても早期に行われるべきであるとコメントしている。なお、USDECは今
年3月以降、日本向けの脱脂粉乳とチーズを新たにDEIPの対象とするようUSDA
に要請を行っているが、これは今回も認められていない。

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