海外駐在員レポート
豪州の全国家畜個体識別制度(NLIS)の最近の動向について
〜ビクトリア州の義務化を中心に〜
シドニー駐在員事務所 粂川 俊一、井上 敦司
トレーサビリティーと言えば、ほんの数年前までは、家畜のトレーサビリテ
ィー、すなわち家畜の個体識別を指していたが、牛海綿状脳症(BSE)発生後、
EUにおける牛肉のトレーサビリティー規則の導入やわが国でも食品安全性に対
する関心の高まりを受けたトレーサビリティー法案の導入など、トレーサビリ
ティーは最終製品である食肉とその表示までを含めた1つの品質保証を追求す
るものとなっている。
豪州においては、牛肉の輸出国として、相手国のニーズに対応するため、電
子標識(耳標)を利用した牛の全国家畜個体識別制度(National Livestock
Identification Scheme:NLIS)が99年12月に導入された。最近では、豪州食
肉家畜生産者事業団(MLA)の販売促進活動においても、豪州の全体的なトレ
ーサビリティーシステム(下図参照)の説明に力点が置かれ、NLISはその重要
な構成要素となっている。
NLISは、EU向けとビクトリア(VIC)州で義務付けられているほかは任意の
制度であるが、今後州単位で義務化に向けた取り組みが進んでいくことが予想
される。本稿では、過去の経緯や基本的な概要(詳細は「畜産の情報(海外編)」
2000年6月号参照)については簡単に説明することとし、VIC州における義務化
を中心に最近の動向を報告する。
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【ビクトリア州の農場における
放牧風景。子牛の右耳にわずか
に白く見えるのがNLIS耳標(左
耳に装着されているのは自家耳
標)。】
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豪州におけるトレーサビリティーとNLISの位置付け
農場識別番号(PIC)
・各農場は、各州政府が発行・管理する8桁のコードで識別されている。
・農地識別コードPICは、豪州の家畜追跡システムの基盤となっている。
テールまたはイヤー・タグ・システム
・各農場に、PICが印刷された「テールまたはイヤー・タグ」が発行される。
・農場から出荷される牛にはすべて、テールまたはイヤー・タグを付けなけれ
ばならない。
・PICは中央のデータベースで管理され、残留物の状況をチェックする。
全国出荷者証明書(NVD)
・牛の所有者は売買に先立ち、全国出荷者証明書を作成する。
・証明者には必ずPICを記入する。
・出荷者の契約内容に関する情報も盛り込む。
・安全性に関わることはすべて、もれなく記載する。
・虚偽の記載をした出荷者は厳しく処罰される。
・輸出加工業者は例外なく、牛の購入先を示す全国出荷者証明書の提出を要求
する。
・全国出荷者証明書により、牛の履歴を追跡調査することができる。
全国家畜個体識別制度(NLIS)
・PICシステムをアップグレードしたもので、電波(RP)を使うことにより、P
IC情報の収集と保存を電子的に行うことができる。
・データを電子的に転送するので、インプット・エラーが少ない。
・NLISは牛の全履歴を記録する。
・全国7,000カ所の農場で導入され、登録家畜数は450万に上る。
食肉加工場の追跡システム
・家畜のPIC番号はと畜室から出荷されるすべての枝肉に添付される。
・連邦政府により、枝肉とPICの正確な照合が求められる。
・と畜場に常駐する政府検査官が、上記事項が実施されているかを確認する。
輸送
・輸出牛肉のコンテナ番号はすべて、中央のデータベースに保存される。
資料:MLA(一部の固有名詞について、本稿の表現に合わせた)
注:なお、豪州では、品質保証(QA)システムとして、農場におけるキャトル
ケア制度、フィードロットにおける全国肥育場認定制度(NFAS)、輸出向
け食肉処理場における食肉安全品質保証(MSQA)がある。
(1)制度導入までの経緯
NLIS制度導入までの動向を、まとめると下表のようになる。
@ NLISの導入まで
・農場識別番号(Property Identification Code:PIC)
豪州では、1960年代から主に疾病予防管理の面(ブルセラ病、牛結核など)
で牛の個体識別の重要性が認識されていた。このため、州政府は、農場だけで
なく、と畜場、家畜市場など畜産関連施設を、固有の識別番号(PIC)で識別
し、疾病・農薬の残留などの問題が発生した場合、農場を特定し、速やかに対
策を講じる体制を構築した。併せて、PICを表す標識として尾標(テールタグ)
などが開発された。
・全国出荷者証明書(National Vendor Declaration:NVD)
全国出荷者証明書(NVD)は、肉牛の出荷者が自らその出荷牛の品質を保証
するもので、具体的には、生産者が自分の飼養する家畜について、使用禁止飼
料を給与していないこと、農薬・動物用医薬品の残留の危険性がないことなど
を証明し、販売を行う出荷者証明書である。NVDは、取引単位ごとに添付され
るが、法的な義務付けはない。ただし、NVDが添付されない場合、実質的に家
畜の売買が困難となるため、実施率は9割となっている。(NVDについての詳細
は「畜産の情報(海外編)」2002年1月号参照)
このように、豪州ではNLIS導入以前に、PICによる牛の出身農場の特定とNVD
による安全性に関する事項の生産者自らによる証明が実施されていた。
A NLIS導入の背景
豪州では、早くからPICの導入など疾病管理面において個体識別の重要性は
認識されていたが、近年の安全性への関心の高まりから新たな個体識別のシス
テムとして90年からNLISの開発が進められていた。
結果的にはEU向け牛肉の検査体制の見直しがNLISの導入を促進した。
EU向け牛肉については、豪州連邦の輸出規制法(Export Control Act '82)
に基づき、豪州検疫検査局(AQIS)によりEUの条件に合致することが証明され
ていたが、EUは98年、域内での牛肉の安全性への関心が高まったことを理由に、
AQISによる従来の検査体制とテールタグ装着による個体識別システムでは不十
分であるとし、EU向け肉牛を生産農場まで確実にトレースできる個体識別制度
と、流通・と畜段階を通じて一般の肉牛から完全に隔離する制度(クローズド
システム)の確立を要求した。これを受けて、豪州政府・業界関係者はNLISの
システム開発状況を勘案の上、99年に電子標識を用いたNLISの導入を決定する
とともに、クローズドシステムを法制化する(輸出規正法を改正する)ことを
決定した。
99年の輸出規制法改正により、EU向け輸出に携わろうとする者は、肉牛生産
者から家畜販売業者、家畜市場、フィードロット、パッカーに至るまで、すべ
てAQISの審査に合格して「EU輸出農場・施設」の承認が必要になるとともに、
EU向けのクローズドシステムが完全に機能していることを保証するために、登
録肉牛の販売、移動、と畜などの付加情報をすべてNLISデータベースに入力す
る義務を負うこととなった。
なお、連邦政府の担当者によれば、NLISの適用に関して、連邦政府は輸出向
けの義務化については権限を持つが、国内向けの義務化については各州政府の
所掌であり、連邦政府はこれに関与することができないとしている。
(2)導入後の動向
NLISのデータベースをEU向け肉牛だけでなく、全国版に拡張することについ
て関心が高まり、2001年には、と体情報(枝肉重量など)の生産者へのフィー
ドバック・システムや各農場の残留農薬問題についての履歴などをも含めたデ
ータベースが構築された。現在では、枝肉情報などもインターネットを通じて
利用可能となっている。
このようにシステム面での展開が進む中、VIC州では2001年11月下旬から12
月上旬にかけて、州議会が下院、上院と相次いで同州におけるNLISを義務化す
る法案(改正家畜疾病管理法案:Livestock Disease Control Amendment Bill)
を可決し、他の州に先駆けてNLISを法的な制度として実施することとなった。
○NLIS(National Livestock Identification Scheme)の現況
(1)NLISの管理運営体制
・NLISは、AFFA(農漁林業省)、AQIS、MLA、豪州肉牛生産者協議会(CCA)、
豪州食肉処理業者協会(AMPC)、豪州フィードロット協会(ALFA)など、政
府・業界の代表で構成する「セーフミート」が管理運営の責任を負う。ただ
し実際には、そこから指名されたメンバーで構成されるNLIS委員会によって
運営される。
・NLIS委員会は、NLIS推進事業計画の作成、事業費財源の確保、NLIS認定業者
(電子標識の製造者、コンピュータ・ソフト業者など)の選定、NLISに関係
する多くの課題について検討し、方針決定を行う。
・MLAは、セーフミートから委託された代理機関として、NLIS委員会の事務局
機能を担当する。
(2)電子標識(耳標など)
@ 個体識別番号
NLISではマイクロチップ内蔵の電子耳標と胃内カプセル(あまり利用されて
いない)を採用しており、耳標には外側に15または16桁の英文字を含む番号が
印字されている。マイクロチップに内蔵されている電子番号は国コード3桁+
国内個体番号12桁の数字番号であり、ISOの基準に準じている。従って、NLIS
では、電子耳標の場合、1頭の牛に耳標の外側に印字された個体番号とマイク
ロチップの電子番号の2種類が存在することになる。
耳標の外側に印字された番号は以下のように構成される。
8 桁 :PIC番号
1 桁 :耳標メーカー識別番号(英文字)
1 桁 :耳標の種類
1 桁 :製造年(英文字)
4 〜 5 桁:個体番号(生産者が4桁または 5 桁を選択)
A 耳標の種類
耳標は、生産者耳標(ブリーダータグ:白色)と購入者耳標(ポストブリー
ダータグ:オレンジ゙色)の2種類である。
・ブリーダータグ:農場内で出生した牛に装着
・ポストブリーダータグ:他農場から購入した未登録牛に装着
(3)NLISデータベース
@ データベース
ア 標識(耳標)情報
イ 枝肉フィードバック情報
と畜日、と体番号、性別、脂肪厚、歯の数、半丸ごとの枝肉重量、打ち
身の有無、肉の等級など
なお、枝肉フィードバック情報については、取り組みとしては開始され
たばかりで、個々のと畜場の判断で情報管理している。
ウ 残留農薬プログラム(Extended Residue Program)
このプログラムは州政府が管理しているが、NLISデータベースのPICデ
ータにもリンクしている。
A データベースへの報告とその方法
ア 登録牛をEU認定農場へ売買・移動した場合………購入者
イ EU認定農場以外へ登録牛を販売した場合………販売者
ウ 電子耳標が読み取れなくなったり、脱落・紛失した場合………所有者
なお、報告方法は、インターネット、郵送、FAXのいずれか。
B データベースの利用とその方法
・データベースへは、PIC番号でアクセスが可能だが、自分の農場で所有し
ている牛についてのみ閲覧可能であり、他の農場のものは見ることができ
ない。
・枝肉情報等を入手できるのは最終的な牛の所有者であり、その者の了解が
あれば、それ以外の者も情報を入手することは可能である。
なお、入手方法は、基本的にインターネットだが、FAXでも対応は可能。
(4)費用負担
原則として受益者(肉牛・牛肉業界)負担。
@ 耳標、読み取り機器(リーダー)………生産者負担
ただし、耳標代については、VIC州で州政府が一部費用負担しており、同州
の生産者は約3.5豪ドル(245円: 1 豪ドル=70円)といわれる耳標を2.5豪ド
ル(175円)で現在のところ購入している。
A システム運営管理費(メンテナンスやアップグレード費用など)………生
産者や関連企業がMLAに支払う課徴金や分担金で負担。
(1)ビクトリア州のNLISに対する取り組みの経緯と義務化決定後の計画
@ NLISに対する取り組みの経緯
VIC州のNLISに対する取り組みは、システム開発中の95/96年度、州政府が
導入の検討を開始したことに始まるが、NLIS制度化とともに、99年以降次のよ
うに急速な導入推進を行った。
・当初の99年において、州政府が100万個の電子耳標を生産者に無償で配布
・その後も、州政府は1個当たり約3.5豪ドル(245円)の電子耳標に対して1豪
ドル(70円)の補助(毎年度予算化)を実施
・2000年以降は、家畜市場、と畜場、酪農産業におけるインフラ整備に対する
補助を実施(主に各現場における電子耳標の読み取り機器を対象とし、補助
率は1/2または定額。補助総額は、家畜市場:総額10万豪ドル(700万円)、
と畜場:総額100万豪ドル(7,000万円)、酪農産業:総額15万豪ドル(1,05
0万円))
このような積極的な財政支援の下、生産者も同州政府の取り組みに対する姿
勢を支持し、品質の高い製品の供給元としての自らの評価を守ることを認識し
ていたとされる。また、同州ではEU向け輸出が多かったこともあり、パッカー
(と畜場)においても、NLISを完全実施しているところがあった。このように、
同州は全州の中でNLISへの取り組みが最も積極的であったことから、NLISのペ
ースメーカーとも言われた。
なお、義務化の法案通過に際して、同州政府関係者は、「費用の一部負担と
いう犠牲はあるが、すべての牛が追跡できることになる」と語っていた。
A 義務化決定後の計画
同州におけるNLIS義務化は3つの段階を経て実施され、すべてのデータがNLI
Sデータベースに入力されるのは2005年1月以降となる。その概要は以下のとお
りであるが、まず、NLIS耳標の全頭装着、次に、と畜情報の入力、最後に、移
動記録の入力という順に実施される。
ア 第1段階(2002年1月1日以降)
・2002年1月1日以降生まれたすべての牛は、NLIS耳標を装着する必要がある。
・例外は、繁殖農家から直接と畜場に出荷される牛と生後すぐにと畜される
(子牛肉用の)子牛だけである。
イ 第2段階(2003年1月1日以降)
・PIC番号の異なる農場へ移動するすべての牛は、と畜されるまでNLIS耳標を
装着しなければならない。
・NLIS耳標によって識別されずに2003年1月1日以降購入された牛は、NLISポス
トブリーダータグで識別されなければならない。
・すべてのと畜場は、NLIS耳標を読み取るとともに、と畜情報をNLISデータベ
ースに入力し、さらに、と畜された牛の枝肉重量などに関する情報をデータ
ベースに入力することを要求される。
ウ 第3段階(2005年1月i1日i以降)
・2005年1月1日までにすべてのVIC州の家畜市場は、適切な読み取り装置を設
置することを要求される。従って、家畜市場を通じて販売されるすべての牛
のデータはNLISデータベースに自動的に通知されることとなる。
現在でも、VIC州では家畜の移動は大部分が家畜市場を経由しており、既に
読み取り装置が整備された家畜市場でNLISデータベースに入力する方式を採用
しているが、2005年までは自主的な取り組みとして実施される。なお、相対取
引した場合は、購入者が報告する。
(2)各現場における実施状況
VIC州において既にNLIS実施に必要な設備が整備された農場や市場、と畜場
を訪問したので、現場における作業状況を以下に記す。
@ 肉牛農場
VIC州中西部ハミルトン近郊の農場は、約3千ヘクタールの農地に肉牛約2千
頭、羊約6千頭を飼養するEU向け認定農場であり、EU向けが肉牛年間売上の70
%を占める。
この農場では、重量、脂肪厚、打ち身の有無などと畜場からフィードバック
される枝肉情報を、繁殖や肥育など経営に活用するとともに、家畜の選別を合
理的に実施するため、可能な範囲で農場現場のソフトウエアに各家畜の固有情
報を追加するなど独自の工夫を行っている。また、キャトルケア・プログラム
の認定を受けており、生体重、投薬の有無、妊娠状況、獣医師の診断結果など
について個体ごとに記録しておく必要があるため、NLISの個体識別番号をその
管理に使っている。
農場主は、NLISの農場現場におけるメリットとして「以前は、視覚的に耳標
確認や子牛の体重測定を行い、リストをチェックし、離乳後においても同じこ
とをすべて再び行わなければならなかったが、今は、子牛の離乳後1時間以内
で、家畜を選別することができる」ことを挙げていた。また、NLISの義務化に
ついては、「国際的にも高い水準を持つ制度であるが、皆が取り組まなければ、
効果的な疾病管理はできない」と豪州全体で義務化に向けて準備をする必要性
を語っていた。
(耳標装着)
耳標は、種雄牛や繁殖用雌牛には生後すぐ、去勢牛については生後2ヵ月〜5
ヵ月経過後に装着している。子牛の右耳中央にNLISで認定されているボタン型
の電子耳標が専用のアプリケーターで装着されるとともに、左耳には農場固有
の自家耳標が装着される。自家耳標にはNLIS耳標に記されている個体番号のう
ち、下3桁が管理番号として記載される。
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【農場でのNLIS耳標装着】
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【耳標装着後の後姿(右耳にN
LIS耳標、左耳に自家耳標。な
お、この農場では自家耳標を性
別または生年によって雄牛は黒
色、雌牛は今年生まれたものに
ついては黄色というように耳標
の色で区別して視認性も確保し
ている。)】
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【農場での読み取り風景(向か
って左側に読み取り機器があり、
読み取りと同時に体重測定が行
われる)】
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(耳標の読み取り)
電子耳標の読み取りには固定型の読み取り機器を用いている。読み取り機器
の前後には可動式の柵が設けられており、一頭ずつ柵内に入れて耳標を読み取
るのと同時に生体重を測定できるような仕組みになっている。
A 家畜市場
メルボルン近郊の家畜市場は、牛の収容頭数2,500頭、年間の取引頭数が12
万頭に上る規模のもので、EU向け認定とISOの認定を受けている。牛だけでな
く、豚や羊、馬も取引される総合家畜市場である。
牛の売買は、@電子耳標の読み取り、APICによるEU向け出荷適格性や残留
農薬、疾病問題についてのチェック、B販売者から購入者への牛の移管、C売
却後の名義変更手続き、という手順で行われるが、このうち、電子耳標番号は
特にAのチェックを行う際に活用されている。
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【家畜市場の読み取り機器(牛
が移動する際に読み取れる)】
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チェックはオンラインでMLAのデータベースに照会することにより、PIC番号
とリンクした農場のステータス評価(州政府が実施)を確認することによって
行っており、牛が売却される前に完了する。このように、このチェックは個体
ごとに問題があるかどうかを確認するのではなく、その個体が飼養されていた
農場(PIC)のステータスによって行われる。
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【家畜市場のNLIS端末コンピュータ】
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B と畜場
VIC州西部ワルナンブール郊外のと畜場は、1日当たり牛600頭、羊7,000頭を
処理する能力を持つEU向け認定工場である。
このと畜場では、と畜時に専用のタッチパネルを利用して電子耳標を読み取
り、搬入された牛について、過去に家畜疾病の発生や残留農薬問題が生じた農
場と関係がないかどうかを、データベースに照会をかけることで確認している。
このように、と畜場でのチェックも個体ごとに問題があるかどうかを確認す
るだけではなく、過去に飼養されていた農場のステータスによって行われる。
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【と畜場の読み取り機器】
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(1)現在の実施状況
MLAによれば、NLISは、2002年9月現在で、豪州全体で約7千人の生産者、49
の家畜市場、29の処理加工業者、11のフィードロットによって実施されており、
500万個近いNLISの耳標が全国の牛のおよそ20%に使用されている。
NLISの直近の実施状況を試算してみると、下表のとおりとなる(牛飼養頭数
については、登録データに対応する時点の頭数ではないため、あくまでも試算
である)。
○NLISの登録率(試算)
注1:NLIS登録データは2002年11月25日現在(MLA)
2:牛飼養頭数データは2002年6月30日現在の暫定値
(豪州統計局(ABS))。合計は整合しない。
当然ながら、VIC州における実施率がトップとなるが、牛の飼養頭数におい
て最大の州であるクインズランド州の実施率が低いことが目立ち、全国での実
施率の向上も同州の取り組みにかかるといっても過言ではない。
(2)義務化に向けたその他の州政府の動向
NLISの採用は、VIC以外の州では今のところ自主的なものであるが、各州の
農業部門における要職者によって構成される第一次産業常任委員会(Primary
Industry Standing Committee:PISC)は現在、2004年1月1日までに、すべて
の州・準州がNLISを使って肉牛の追跡を可能にする法律を持つことについて関
心を持っているとされる。
また、いくつかの州では義務的な採用が考慮されており、それぞれの予算に
おいてNLISの展開と実行に備えた計画を立案している。
各州政府のNLISに対する資金供給計画は2002年11月現在で、次のとおりであ
る。
・南オーストラリア州政府:3年間で30万豪ドル(2,100万円)
・ニューサウスウェールズ(NSW)州:4年間で540万豪ドル(3億7,800万円)
・タスマニア州:3年間で100万豪ドル(7,000万円)
これらの支出は州政府間で異なるが、技術的なインフラと情報ラインの整備
を含んでいる。なお、VIC州においても今後、家畜市場におけるインフラ整備
のために今後50万豪ドル(3,500万円)以上の資金供給が計画されている。
(3)全国的な義務化に向けた産業界の見解
生産者団体の1つであるCCAは、VIC州の義務化に向けた取り組みを模範的な
前例として挙げ、特に義務的な実施に際しては、立ち上げ時の機器・施設の取
得費用だけでなく、生産者が継続して負担しなくてはならない電子耳標経費に
ついて何らかの支援が必要であり、政府の財政支援の有無が局面を左右すると
している。
一方、食肉業界団体である豪州食肉協議会(AMC)や全国食肉連合(NMA)で
は、強力な財政支援がない限り、生産者が義務化を受け入れる可能性は低いと
した上で、義務化に先立ってはデータベースの取り扱いなど技術的な検討も必
要であるとしている。
生産者、食肉業者ともに、NLISの義務化については、食品の安全性はもちろ
んのこと、輸出依存度が高い牛肉だけに、今後の輸出相手国のニーズへの対応
を含め総論的には前向きであるが、初度経費やランニングコストに対する何ら
かの財政支援が必要としている。
(4)牛肉のトレーサビィリティーの取り組みについて
MLAは2001年11月、「ファームからフォークまで」(Farm to Fork)と銘打
って、牛肉の小売販売とNLISのデータを連結し、追跡可能性をさらに高めるシ
ステムを発表した。これは、豪州食肉家畜産業食品安全追跡システム(Austra
lian Meat/Livestock Industry Food Safety Traceability Systems)と呼ば
れ、枝肉以降の追跡を、国際的な商品バーコードシステムであるEAN(Europea
n Article Number)を採用することによって実施するもので、MLAと大手パッ
カーのオーストラリア・カントリー・チョイス(ACC)社によって試行されてお
り、その他の大手パッカー4社でも取り組みが始まったとされる。
このシステムは、NLIS個体番号と枝肉番号、販売ロット番号などをリンクし
、小売店からの追跡を可能にするシステムである。解体する過程ごとに、枝肉
や梱包箱などにバーコードを添付して管理することによって行われる。ただし、
追跡に必要な付番方法は処理する時間帯によって番号化(バーコード化)する
ため、特定のロットからさらにその中に含まれる特定の個体を追跡することは
できない。従って、食品衛生や安全の面などでの問題が生じた場合に、関連商
品を絞り込んだり、原因究明を容易にすることはできるが、1頭1頭の個体情報
を最終商品まで伝えることを目的としていない。なお、と畜の際に尻尾の毛と
枝肉のDNAサンプルを個体ごとに採取しており、個体の確認が必要な場合は、
別途サンプルのDNA検査を行うことにより、製品からの追跡の精度を高めるこ
とが可能となっている。
VIC州では年明けから早速、読み取り機器を整備した家畜市場などで、NLIS
耳標の読み取り作業が開始された。報道によれば、読み取り作業自体は特段の
問題もなく実施されているという。同州の全体的な実施状況については、総じ
て良好とされるが、約300頭の牛がNLIS耳標を装着せず販売された事例も起き
ており、同州の第一次産業省は、関係する8人の生産者に対して1月中に警告文
書を発する予定である。
豪州は、畜産物輸出国であるため、一般的に家畜防疫や畜産物の安全性に対
する意識が高く、業界主導型の各種の品質保証や安全性に関するシステムが多
くある。こうした中で、VIC州は、NLISについて当初から州政府主導による積
極的な導入促進を図り、他州に先駆け義務化を実施した。他州では行っていな
かった財政的な支援を積極的に行ったため、早期の義務化を進めることができ
たとも言える。他州においてもVIC州に続いて義務化を検討しているが、何ら
かの財政支援がないと、円滑な義務化は困難のようである。
特にNLISを導入した場合、生産者が恒常的に負担することになる耳標代は肉
牛価格に比して割高と感じる農家も多いと言われている。また、EU向けやVIC
州以外であれば、PICやNVDで現状は十分なため、割高な耳標代を負担してまで
参加しないという声もあるようだ。ただし、まだ義務化されていないNSW州でN
LISを導入し、飼養管理にも活用している生産者は、「干ばつで飼養規模を縮
小せざるを得ない場合でも、繁殖成績の悪い繁殖雌牛から販売することが可能
である」と語っており、飼養管理上のデータの活用としてNLISを導入する価値
は十分にあると思える。
豪州の牛の個体識別制度は、防疫対策を中心とした家畜のトレーサビィリテ
ィーシステムであり、わが国とは導入時からの背景も異なっている。現時点で
は特に義務化という点で見ると、早急に実現しつつあるわが国と比べるとまさ
に「牛歩の歩み」とも言えよう。
牛肉輸出国として輸出相手先のニーズに応える取り組みを行ってきた実績が
あり、またそれが宿命とも言える豪州肉牛・牛肉産業にとっては、たとえその
歩みは緩慢に見えても、今後、全国的なレベルでの義務化へ向けて、取り組み
は進んでいくものと考えられる。
“Your Guide to Victoria's cattle identification legislation”
The State of Victoria, Department of Natural Resources and Environment
“NLIS implementation in Victoria”The State of Victoria, Department
of Natural Resources and Environment
“Tracing the history of cattle identification”
David Palmar/Meat & Livestock Australia
そのほか、VIC州政府およびMLAのウェブサイトなど
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