2003年4月号に「アルゼンチンのオーガニック(有機等)の概要」を紹介したが、今回はアルゼンチンと並んで南米における主要農業大国であるブラジルのオーガニック(有機等)について調査した。
しかし、本文でも触れているがブラジルには最近までオーガニックに係る法律がなく、農務省訓令がその権威となっていたが、生産者や販売者等の報告義務がなかったため国として体系だった統計がなかった。よって今回は有機畜産を地域で振興している同国中西部にあるマットグロッソドスル州のパンタナル有機子牛生産を中心に紹介していくこととする。
ブラジルでは、1992年ECO '92(環境と開発に関する国連会議(UNCED))がリオデジャネイロで大々的に行われたことにより、1990年代から農業に対する見方が変わり有機農業に対する関心が高まった。
ブラジルにおける有機市場の変遷としては、(1)地域で直接販売していた、(2)消費者グループが生産者グループに有機農産物を栽培することを依頼するようになった、(3)特別な専門店で扱うようになった、(4)国際的なシステムが構築されるとともに、市場における規則が必要となっていき、90年代終わりにはスーパーマーケットにおいて有機農産物および加工製品(以下「有機製品」という。)が見られるようになっていた。
有機製品は、一般的に質が高く量が少なくかつ有機に係る規則を守って有機証明機関(以下「証明機関」。)の認定を受けているもので相対的に価格は高い。当然、有機製品を認定するためにはそれに係る規則が必要になるが、ブラジルでは農務省訓令第7/1999号(1999年5月17日付け)により、有機製品の生産・流通・品質等に関して規定されている。その他、証明機関を認定する基準や有機製品に係る用語等を定めた省令第17/2001号(2001年4月10日付け)がある。
なお、有機製品に係る生産、証明、販売等について規定しようとした法案第659/1999号は、2003年11月28日にやっと国会を通過しその後大統領が署名して法律第10831号(2003年12月23日付け)として正式に制定された。生産、加工、貯蔵、流通、販売・証明等の詳細については今後行政規則によって定められることになるが、当法律では違反した場合に、警告や最高100万レアル(約3,800万円;1レアル=38円)の罰金が科せられることになり、訓令第7/1999号より規制が強化されることになる。
ブラジルにおいては有機製品の生産量や市場はまだ小さく、それは大消費地サンパウロであっても同様であると言われ、冒頭で述べたような理由と相まって公的でかつ国全体の生産・販売・輸出等に係る統計は存在していない。
今回は参考に、社会経済開発銀行(BNDES)が2001年にブラジルで営業している主要証明機関や一部の生産・販売部門の企業などから提供された情報をもとに推定した有機生産に係る統計とレポート概要を紹介する。生産に関してレポートは「農業部門において、農家数は大豆、野菜、コーヒー、果実が多いが、面積は果実、サトウキビ、パルミート(椰子の若葉芯の可食部)、コーヒー、大豆の順となっており永年(多年生)作物の面積割合が多くなっている。なお、第1次産品の取引が大部分を占めているため加工部門の工場数はわずかである。一方、紹介した統計を大きく上回るという情報もある。例えば、ブラジル有機畜産協会(ABPO)によると、有機生産の条件下で飼養される牛の頭数は21万頭で、1頭当たりに2へクタールが利用されているとされ、この場合単純に計算して42万へクタールとなる。またリオグランデドスル(RS)州及びサンタカタリナ(SC)州の技術普及公社(EMATER−RS、EPAGRI−SC)によると、南部3州で
9,447農家が有機生産を実施している。(表1)
(表1)有機生産を行っている農家数および面積
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資料:BNDES
注1:有機認証されているまたは認証期間中のもの
注2:一部の証明機関が公表を避けたこと、特に外国に輸出する大中生産者の中には輸入市場に応じて、複数の証明会社と契約しているものあるため、一部重複している可能性がある。
注3:加工部門の「戸数」は、「工場数」と読み替えるものとする |
これら生産者団体や公共機関の情報と証明機関との数値の格差を考察すると、認定コストを低減する方法として、生産者団体や生産者&消費者の団体などが有機としての認定を任意に行っているためであるとみられる。よって当然それらの認定は国内市場のみで通用するが、外国市場では通用しない」としている。なお、家族経営生産者が消費者に直接販売する場合の有機製品の認定方法は、今回制定された法律第10831号第3条補項1により今後新たに規則を制定することになっており、施行後の状況は変わってくるのかもしれない。
次に生産額や価格であるがレポートでは、「ITC(International Trade Center)や IBD (Instituto Biodinamico)が
1998年に行った推定によると、ブラジルの有機製品生産額は9,000万〜1億5,000万ドルで、そのうち2,000万ドルが外国向けとなった。またBNDESが2000年に行った調査によると、生産者価格の段階で有機製品は普通製品より30%程度高く取引されており、この価格差は有機農業において労働力が増加する一方、減少する収穫量や認定費用の増加などをカバーするものとなる。一方、スーパーで販売されている有機製品の半分以上は普通製品と比較して100%以上、中には200%以上高く売られていたものもあった。このことは、小売部門のマージンが大きいことによると推察できるが、これは普通製品が包装されないで販売されているのに対し有機製品が包装されていることもその理由の1つではあるが、主な要因は有機製品の回転率が悪いため利益を確保する必要から発生している」と分析している。
なおBNDESのレポートは、「ブラジルの有機市場の中で一つの悪循環があることは事実である。生産者は高い小売価格が消費量を押さえ低所得層の購入を妨げていると非難し、小売部門は不安定で不足する今の供給状態では安く売れないと反発し、消費者は普通製品よりかなり高い価格と有機製品に係る情報が不足していることを抗議しており、三者の立場は平行線を辿っている」と問題点を指摘しており、国内における消費量の増加には3者の相互理解と有機製品に対する認識の高まりが重要のようである。
マッドグロッソドスル州にある農務省州代表部(後述)の説明によれば、有機農業を実施するためには3つのポイント、(1)環境に適合しているか、(2)社会的に見て正しいことを実施しているか、(3)経済的に経営が成り立つか−が重要となる。特に、(3)において経営を継続・安定させるためには、i
)生産性:生産物の価格と生産コストのバランス、ii )持続性:持続のある経営の成長、iii )公平性:生産販売の各段階において平等に利益を配分する−の3つが必要である。また、(2)の「社会的に見て正しいこと」とは、経済的な社会貢献、地域社会への教育的貢献、健康面への寄与など社会全体が向上するようなことを指している。
上記のような有機農業を実現するためには、有機製品を差別化する証明機関に対し、(1)市場に早く受け入れられる信頼性、(2)評価・審査の適確性、(3)市場へのアクセス能力など−が要求される。また通常の生産方法から有機生産へ転換する場合、証明機関と生産者の間には、i
)技術的・経済的なアドバイス(初めにどのような方向にしたいか、実際にどのようにやるのか、社会や環境との関係は大丈夫かなど)、ii )証明機関の考え方に基づいた方針の理解と実施、iii
)土壌や製品に対する物理的な証明(化学製品を使っていない、人畜共通伝染病を含め病気に対して禁止された薬品を使っていない、重金属・毒素が存在しないなどがあるが、これらは巡って生産者への健康面へも寄与することになる)−が存在することになる。
有機製品の認定は証明機関が実施するものであるが、まず訓令第7/1999号に基づいた証明機関の承認プロセスについて参考に見てみる。
(1) 証明機関は自らの規則を作り、州の有機に係る委員会に申請をする。
(2) 州の委員会が審査しパブリックコメントを経て報告書をまとめる。
(3) 報告書は国の有機に係る委員会へ提出され審査される。
(4) 農務省へ報告書が提出され分析される。
(5) 農務省の分析結果が付され国の委員会へ提出され再度審査される。
(6) 承認に異論がない場合、農務省が官報を通して証明機関を告示する。
次に農場等の有機認定に係るプロセスとしては、
(1) 証明機関へ生産者等が申請(栽培計画や土地転換計画なども含む)
(2) 証明機関の技師が農場等を訪問・審査し、有機認定に向け問題となる事項を指摘
(3) 有機認定の条件がそろい、証明機関が認定
となる。
なお、いくつかの証明機関が州および国家委員会に対し申請中であったが承認された機関は未だになく、今回の法律制定に伴い新たな規則で承認されていくことになっている。
先に述べたように、ブラジルには確たる統計がないため有機畜産の全体像は定かではない。
よって今回は、ブラジル最大の牛飼養頭数を有するマットグロッソドスル(MS)州(IBGEによれば2002年に2,300万頭強、全体の12.5%を占める)において実施されている「パンタナル有機子牛(VITPAN)生産プログラム」を中心に事例等を踏まえ紹介していく。なお、後述するブラジル有機畜産協会(ABPO)もMS州の州都カンポグランデに所在している。
まずはじめに、農務省MS州代表部で取材対応してくれたヘリントン・ロッチャ(Helinton J.Rocha)氏の話を紹介する。彼いわくブラジル有機牛肉を輸出促進するためには、(1)品質および安全性を確保、(2)ブラジル産牛肉のイメージを転換する宣伝を実施(世界の人々は、ブラジルではアマゾンのジャングルで牛を飼養していると思っており、それが安全ではないイメージにつながっている)、(3)利益が公平に分配されるように制度を適正に運用(パッカーのみが利益を独占しないようにするなど)、(4)生産者に対して有機とは何であるかを教育(認定書がない「緑の肉牛(=Boi
Verde)」と認定書がある「有機牛肉」は異なることなど)−することが必要であると話していた。
この話の中で注目する点は、ブラジル国内でも「緑の肉牛」と「有機牛肉」は生産者でさえも同じものであると認識されることが多いということである。「緑の肉牛」という言葉は、ブラジルの肉用牛が天然牧草で飼育され、肉骨粉などは給与されていないことを強調し輸出を促進するため2001年から多く用いられるようになった。ちなみに「緑の肉牛」生産では、放牧地への化学肥料の散布や、受精卵移植も認められており有機生産の基準とは異なっている。
(1)パンタナルとは
パンタナル地域は、ブラジル、ボリビア、パラグアイの3カ国にまたがり、パラグアイ川の上流に位置する約20万平方キロメートルの大湿地帯で、ポルトガル語の「大湿地帯・大湿原」を意味する「パンタナル」がそのまま地名となっており、パンタナルの定義としては周期的に冠水する平原地帯である。(なおパンタナルの語源はイタリア語で、古代にあった「パンターノ湖」であると言われる)。
パラグアイ川の東側にあるブラジル国内のパンタナル面積は、約13万8千平方キロメートル(全体の約7割程度)で、土地は北から南へ(IPPによれば6cm/km、環境省によれば1〜2cm/km)、東から西へ(IPPによれば25
cm/km、環境省によれば6〜8cm/km)非常に緩やかな勾配となっている。よって雨期(IPPによれば降雨が多いのは11〜4月。ただし説明者により前後1カ月程度期間が異なる)に年間降雨量(IPPによれば、900〜1,200mm程度)のほとんどが降り大湿原へと変貌する。なお「雨期の開始時期や降雨量がどうなるかは毎年はっきりとはわからない」とのことである。
パンタナルをおおまかに区分すると、(1)いつも冠水しているところ、(2)まったく冠水しないところ、(3)(1)と(2)の間で雨期には冠水するが乾期に向け徐々に水が引いて行くところ、(4)湖沼(常在、一時的、塩湖)があり、植生としては(ア)定期的に冠水する草原(Campo
Limpo)、(イ)冠水しにくく潅木や木がまばらに生える草原(Campo cerrado,Caronal,Carandazal)、(ウ)草原の中にあってやや密に木が生えている場所(Capão)、(エ)湖沼の周囲(Borda
de Baía)、(オ)森林地帯(Mata、Cerradão)がある。
また、パンタナルには多くの種が生息しておりブラジル農牧研究公社パンタナル(Embrapa Pantanal)によれば、鳥650種、は虫類162種、両生類40種、ほ乳類95種、魚263種、雑草から樹木、飼料として利用できる草などの植物が1,863種となっている。
(2)パンタナルにおける一般的畜産の概況
Embrapa肉用牛センター(Embrapa Godo de Corte)によれば、MS州の一般的な繁殖サイクルは、乾期5〜10月のうち8〜10月ごろに出産が多くなる。これは雨期の11〜4月、特に12月頃から草の状態が良くなり交配が盛んになるからである。なお、草の栄養価が高い時期に出産時期をあわせた方が母牛の栄養状態にとって良いのではないのかとの質問に対し「雨期は子牛の細菌感染率が高まるため、乾期においてサプリメントを用いて栄養管理した方がより簡単である。従って交配時期を人為的にコントロールすることはしていないが、出産時期をもっと集中させ牛群管理をしやすいように技術普及したいと考えている」とのことであった。なお、サプリメントはあくまで飼育の継続、体重の減少を防ぐために使うものであり、増体させるためではないと強調していた。
パンタナルの牧場面積は、開設当時で平均10,000〜20,000ヘクタールであったが、財産分与により小規模化しつつある。牧場内にも普通高い土地と低い土地があり、低い土地には雨が降って水がたまり、高いところに家と人、そして牛が集まる。なおEmbrapaパンタナルによれば、牧場には次の3タイプ、(1)伝統型(traditional):現地資源を粗放的に利用する農業だが生産性が低い、(2)生産強化型(intensificando):人工授精、外来種の導入等の技術を導入して伝統型より生産性を向上、ただし生産性を継続できないこともある、(3)維持継続型/有機型(sustentavel/organico):パンタナルの自然に適合した農業経営タイプで、環境・経済・社会など全てが調和したシステムで動物も植物も土地由来のものを利用−がある。なお、Campo
cerrado よりはCampo Limpoなどに家畜が好む牧草("ミモザ"または"カピミモザ"と呼ばれる草)があり、また一時的に冠水する土地がある農場の方が牧畜に適している。
パンタナルで飼養されている頭数はMS州の10%強、ネローレ主体に約250万頭前後(繁殖雌牛、種雄牛、育成牛、子牛の合計で季節により200〜300万頭の間で変動するとのこと)と言われている。なおMS州は2001年5月に国際獣疫事務局(OIE)から口蹄疫ワクチン接種清浄地域として認められているが、パンタナルおよびそれを囲む14の郡は1991〜1992年にかけて来たヨーロッパの調査団が、野生動物からの口蹄疫感染の可能性が否定できないとしたため、それ以降EUへの牛肉輸出は禁止されている。現在、輸出解禁に向けEUに働きかけを行っているところであり、パンタナルとその周囲にある輸出禁止地域を含めると約30%程度が飼養されていると言われる。
ちなみにMS州産牛肉の5%が州内消費、残り95%が州外の国内消費または輸出向けとなっている。
(3)パンタナルにおける有機子牛生産(VITPAN)
パンタナル有機子牛(VITPAN:Vitelo Organico do Pantanal)はパンタナル公園(PRP=Parque Regional
do Pantanal)において生産されており、PRP自体はパンタナルの環境保全を重視した発展等の目的のために設立された私立公園で、パンタナル全体面積の3分の1を占め、パンタナルパーク協会(IPP:Instituto
Parque do Pantanal)が管理・研究等を行っている。この構想に賛同している農場は2004年1月時点で全138件で、VITPANを生産しているのは60件、有機農場面積156,466ヘクタール(有機認定期間中も含む)、有機雌牛約41,000頭が飼養されている。なお、子牛には全てトレーサビリティが実施されている。証明機関はいろいろあるが、パンタナルではEcocert(フランス系の会社)への依頼が多い。
PRP において"VITPAN"を生産する目的は、子牛に付加価値を付けて販売することであり、そのための条件は、当然有機条件で飼養され、12カ月齢以下で180kg(雌雄ともに)以上、骨格が完成しており、脂肪が少ないことなどである。パンタナルにおける子牛生産頭数は1年間で約60万頭、そのうち10〜15%しか1年で180kgに達しない厳しい飼育環境であるため、パンタナルで有機子牛を継続して生産していくためには、(1)技術の普及、(2)経営の成立、(3)社会的貢献、(4)エコロジー的な正確さ−が重要となってくる。特に・の技術的な面においては、i
)繁殖をコントロールし、子牛の販売収入がない期間を短くする、ii )有機のミルクや牧草等を与える、iii )8〜12カ月齢で随時と畜していくこと−などに注意して指導している。なお、VITPAN生産の認定農場になるまでに、牧草地の転換に24カ月、繁殖雌牛が有機牧草で飼育されるのが1年、合計3年が必要であるが過去3年間牧草地に化学肥料などを使用していない場合、牧草地の転換期間を12カ月に短縮することができる。
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PRPの範囲とVITPAN牧場の所在地(2003.8月現在のもの)
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VITPAN生産プログラムは、Embrapa パンタナルにおいて2001年7月から開始され19の牧場が参加し、1牧場当たり25頭、全475頭の子牛が集められた。そのうち15頭が途中で死亡し(死亡率3.2%)、2002年に208頭を初めてと畜した。そのうちの56頭からデータを取り以下の結果を得た。
○2002年 有機子牛56頭の平均と畜体重(牧草によってと畜体重に差がある)
メス 197.2 kg(21頭)
オス 199.9 kg(35頭)
自然草地 181.5kg(12頭)
改良草地 194.0kg(22頭):プラキャリア草地
自然+改良213.3kg(22頭):プラキャリア利用
○と畜月齢別のと畜重量
10カ月 204.8 kg(20頭)
9カ月 197.2 kg(26頭)
8カ月 191.7 kg(10頭)
○枝肉歩留り:メス51.9%、オス54.4%
○販売価格528レアル/頭(雌雄同額、枝肉ベース)
VITPANの販売価格は枝肉ベースで528レアル(2003年は750レアル前後だった)で、普通、肥育素牛は雄で約350レアル、雌で約250レアル、そして肥育牛が400〜500レアルなので肥育期間が不要であることを踏まえ、高い付加価値を有したと言える。
なお、Embrapaパンタナルは、これらの結果等を受けIPPに対し以下の提案や今後の活動方針を提示した。
1)子牛の飼育について
(1) 12カ月齢ではなく10カ月齢以下にすること。10カ月齢でも目的とする体重に達することは可能であり、雌牛の繁殖率向上につながる。
(2) パッカーがよく要求してくる脂肪層を3mm以上にすること。なおこれについて超音波測定することを検討中である。
(3) 子牛に対する補助飼料を適切に与えるためクリープフィーディングを実施することおよび特別な牧草地帯を子牛専用に設けること。これにより親牛の侵入を防ぎ子牛が適切に栄養を摂取できるようになる。
(4) 野生豚が子牛のえさを食べに来るのを避けるため、穀類を与えないこと。
2)と畜前の運搬について
(1) 人工衛星を活用した追跡手法により、(1)牛を歩かせる、(2)車で移動する、(3)船で移動する−のどの移動手段が良いか検討したが、地理的な条件などを加味してこれらの組み合わせが良いと分った。これからは、どのルートを利用して牧場と牧場などを結ぶのが良いのか、また、もしそのルートが浸水等で利用できなくなった場合に備えどのようなルートが確保できるのかがわかる地図を作る研究をしている。
(2) と畜前の運搬ではないが、離乳後の子牛を簡単に運搬するようにしたいと考えている。
3)その他の問題点
(1) 子牛に対する衛生管理に有機的な手法が取り入れられていない。特に死亡の3大原因である臍帯の衛生管理、寄生虫病および下痢への対処において、有機的・効果的な治療方法が確立されていないため、薬草治療法を民間企業と研究しているところである。
●パンタナルパーク協会 (IPP=Instituto Parque do
Pantanal)について
〜取材を中心として〜
○概略
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IPPや牧場を案内してくれたサントス氏(Dr.Santos、右)とフランスからの研究者(左)
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IPPはパンタナルパーク(PRP=Parque
Regional do Pantanal)の管理等を行う私的機関であるが、2002年12月4日に法律第9790号により法務省国家法務局から認められた公益法人となり、(1)税制の優遇措置、(2)他の公的機関からの資金の提供を受けることができる団体である。活動資金としては、i
)国や州などからの提供、ii )海外からの寄付、iii )サービスを提供しているプロジェクトからの収入、iv)生産者が販売する際のPRPマークの使用料(販売額5%を徴収。なおViteloの場合のみ、食肉パッカーがIPPに納める)、v)VITPAN
の流通に係る州税ICMS(商品流通サービス税)のうち33%を生産者が納付−である。(参考:MS州ではVITPANの取引に係るICMSは減税の対象となっており、食肉パッカーが納税額の100%を州政府に納め、そのうちの67%が生産者に還付されることになっている。IPPの活動資金はそのうちの33%を生産者がIPPに納付することになる。)
なおPRPは、(1)環境の保全、(2)自然と人間の共生、(3)パンタナル文化の保護、(4)社会的・経済的発展を目的とした5年間プロジェクトとしてMS州政府に認められているため、5年後(2002年8月29日設立〜2007年8月)に結果を出さないと組織自体の存続が危うい。
IPPの構成部門としては、組織管理&財政部門、畜産部門、教育&保健部門、観光事業部門、 2つの補助部門(技術関係とその他)からなっている。なお、理事長以下全12名の理事はすべて生産者で無報酬である。
○設立経緯および背景
設立の経緯としては、1988年にフランス大使がパンタナルを訪問した際に、公園とする構想が浮かび上がった。フランスでは当時、現IPPと同様のシステムがあり、大使はそれを模範として同システムが適用できると考えたのが設立のきっかけであった。しかしその後ブラジルは、超インフレや1992年には汚職のため議会により大統領が解任されるなど政治的に安定しなかったため、実現には至らなかった。
その後1996年に先のアイデアが復活しフランスとMS州の間で設立に向けた調印が、1998年には設立のための融資に関する調印がされた。その後2001年2月にIPPが成立し、2002年8月にはMS州がPRPを正式に設立し現在に至っている。なおスタッフは27名(2004年1月時点)となっている。
設立背景としては、まずパンタナルの気候の厳しさがひとつにある。雨期中の12〜2月には雨にも増して50℃にもなるため生産活動は難しい。
厳しい自然の話として次のような話がある。パンタナルの農場は以前はたいへん大きかったが、相続による分割のため10,000ha以下となってしまった(この規模が経済的なリミットであると思われる)。農場を相続した子供たちは小さい土地となり生産性が低下したため、パンタナル以外の住人にまとめて売った。買手はパンタナルの自然を知らず、ただ生産性を高めることしか考えなかったため、外部から牧草を導入し一時的に生産性を高めることに成功した。しかし、6年で草は再生しなくなりかつ土壌がさらに悪化して裸地化が進んでしまった。このように、パンタナルの土地では厳しい気候に耐え得る草しか生えないため草量は十分なく、子牛を大きく育てられなかったため、パンタナル周辺の牧場に子牛を売っていたが、販売価格が高くはなかった。
また、1999年の変動為替相場制への移行による実質的な通貨切り下げで自国通貨レアルが下落し、生産資材などコスト高となったため、生産継続がますます困難となった。
そこで、(1)競争性を高める、(2)生産性を高める、(3)品質を高める、(4)コストを下げる−必要性が生じた。(1)の実現については土のミネラルが少ないため飼育方法を改善する、(2)〜(4)の実現には環境を守りながら消費者に受け入れられる製品を生産することが念頭に置かれ、IPPの方針である「自然と共生しながら、経済活動をする」という考えの必要性が高まっていったことが設立背景である。
○活動内容 他
昔、牛は600万頭いたが今は減って全部で300万頭弱になってしまった。頭数が減った理由としては、(1)パンタナルに残った生産者達は生産を最小限に留めるようにした、(2)前述のように外部から人が来たことで使用できなくなった土地が発生し草量が全体的に減った−ことなどである。しかしIPPとしては、もっと頭数を増やせる潜在能力があると考えている。生産性を高めるためには生産能力の低い雌牛を更新し、かつ子牛を早期に離乳させることなどを推進している。なお子牛の生産状況としては、繁殖雌牛の出産率は約50%(農務省データによれば55%)ぐらいで、子牛は1年に約60万頭生まれる。栄養状態が良くないので、だいたい3年で2頭生まれる計算となる(農務省によれば22カ月の繁殖サイクル)。
IPPのプロジェクトとしては、(1)VITPAN生産(既述)、(2)パンタナル保護教育の支援(パンタナルに残り自然を守りつつ生産活動するための文化などを教える。1年のうち8カ月程度の教育期間だが、1日の授業時間は7時間と長い)、(3)エコツアー(ポサダ(小さな宿屋の意で牧場民宿といったところ)に泊まって生産活動や自然の動物植物を観察する)、(4)野生豚の利用(後述するEmbrapaパンタナルやフランスの研究者も参加している)、(5)有機子羊の生産振興プログラム(肉と皮の生産が主目的)−などがある。
また現在の検討課題は、年間を通しての生産活動を安定させ、それにより収入を安定させることである。子牛の出荷は作業がしやすい乾期に集中しているため収入は年1回しかない。これでは収入が途切れる期間があまりにも長くなるので、繁殖時期を年2回にしたいと考えている。またパンタナルは北から南に、東から西へゆるやかな勾配により周辺地域の牧場から水が引いて行く。このことも念頭にいれた地域全体の繁殖サイクルをつくり、子牛の販売収入が途切れる期間を地域全体で短くなる研究をしたいと考えている。またこの繁殖システムが構築できれば、年間を通して有機子牛肉を安定的に供給できる可能性があり、販売活動がしやすくなるとも考えている。
なお、パンタナルを守るためには、(1)自然草を利用すること(有機として価値を高めることにもなる)、(2)耕種ではなく畜産を続け化学製品を使わないこと、(3)パンタナル文化の保護を行うことにより社会的に受け入れられること−が大切であると考えている。
○有機認定に関して
IPPには有機認定に必要な情報が農家から送付されてきており、それらを整理して証明機関Ecocertに提供している。有機認定されるには、(1)品質が高いこと、(2)トレーサビリティが実施されていること、(3)証明性が確実であること(要するに同一のものであるか、化学薬品が使われていないかなどを証明できること)、(4)信頼性が高いこと−が重要である。(2)のトレーサビリティの手法としてマイクロチップを現在使用していないが、Embrapa肉用牛センターで研究しているので今後利用することも考えている。しかし今は1個当たり5〜8レアルと高く、1レアル程度でないと汎用できない状況である。(なおIPPはSISBOV(ブラジルにおける牛の個体識別制度)の証明機関として政府に登録されている)。
2003年12月にVITPANとして初めて販売され(有機認定期間中でないという意味)ており、そこにはPRPのマークとVITPANの文字がつけられている。
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●EMBRAPA PANTANAL研究所の活動
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EMIKO
KAWAKAMI DE RESENDE所長:所長は日系人で生物学者。 |
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研究所風景:スタッフは研究者30名、事務員115名の計145名。この研究施設以外にネコランディア地区に4,000ヘクタールのニューミリン牧場(畜産、野生動物の研究)を所有している。 |
○目的 他
当研究所はマットグロッソドスル州のボリビア国境近くにあるコルンバ市にあり、世界に類を見ない大湿原パンタナルにおいて、経済活動をしつつも自然を維持することを目的に研究を進めている。
パンタナルにおける経済活動の中心は畜産であり、次いでスポーツフィッシングや野生動物の飼育などが続く。野生動物としては、げっ歯類中もっとも大きいカピバラやワニを飼育しそれらの皮革を利用したり、エコツアーにおける観察の対象にするなどで活用しているが、そのためにはパンタナルの自然の営みを研究する必要がある。ワニの商業化は野生動物保護法の規制が厳しく難しいが、以前皮と肉の販売していた一部のグループがあった。しかし米国の企業等からパンタナルのワニは絶滅の危機にあるとされ貿易を規制されたため生産が減退していった。
○畜産の研究
パンタナルにおける肉牛生産の維持・可能性について研究しており、そのためには(1)「環境」、「文化・社会」、「経済」の3つを土台に考え、(2)それに加え農業、生態学、技術、システムを考慮し、(3)そしてなによりもパンタナルの大部分は私有地であることを忘れないようにしなければいけない。
パンタナルに他の土地から牧草を導入しても自然条件があわず適合しない、また柵を越えることができずに行き場所をなくし溺れ死ぬ鹿もおり、柵を作るだけでも環境に大きな影響を与える。このようにパンタナルの環境や生態系を知らないと牧畜はできない。逆に言えばパンタナルの牧畜そのものがエコロジーである。ただし、有機とみなされるには訓令第7/1999号等に適合する必要がある。
草種は地域によって異なるため、牛がどの草種を好んで食べるのか調査している。研究がまとまれば牧草の植生分布図を作りたいと考えている。なおパンタナルにおいて、外来種の牧草として定着したのはブラッキャリア(Brachiaria)だけである。実験に参加しているある農場では、農場面積の20%しか利用できないところもあり、また1頭飼養するのに自然草地では2.5〜4ヘクタール、改良草地では1〜2ヘクタール必要となっており飼育環境は難しい。
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18歳で分娩した記録があるが、繁殖能力が落ちるので普通12歳以上は淘汰している。よって生涯に5〜7頭の子牛しか生まない。すべて自然交配で交配時期を9〜2月としている。雌10頭に雄1頭の割合で、雄は牧場に30〜40頭前後飼養されている。子牛の死亡原因は、臍にハエの幼虫が寄生すること、毒蛇に噛まれることが主で、時にピューマにも襲われる。なおパンタナルでは一般的に2年間妊娠しなかった牛は淘汰される。
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パンタナルでは豚が自生しており"野生豚"と言われているが、これらは元来の野生種ではなく古来ヨーロッパ人が入植時に連れてきた畜豚が野生化したのもので、野生動物保護法の対象外となっている。この"野生豚"はたいへん美味なため畜産資源としての利用を考えているが、生息頭数や繁殖率等が不明なためどのくらい資源として活用できるか、IPPやフランスの研究者らと共同研究を始めた。生息頭数や1回の分娩頭数などのデータを収集し、ブラジル再生可能天然資源・環境院(IBAMA)に提出するのが目的。
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●EMBRAPA pantanalのニューミリン(NHUMIRIM)実験農場
Embrapa pantamal研究所があるコルンバ市から約120km、車なら悪路を6時間、小型飛行機なら40分の場所にあり、面積4,000ヘクタールの実験農場で10人の作業者が常駐しており、研究者は宿泊しながら研究する。研究の7割がここで実施され、残る3割は直接農場主と交渉をして実施している。
パンタナルには主に1930年頃ゼブーが持ち込まれた。ゼブーとパンタネイロ(最初に導入されたイベリア半島系の牛がパンタナルの野生環境に応じたもの)を交配した結果パンタネイロが絶滅の危機にあり、約300万頭といわれるパンタナルの牛のうち1万頭だと推定され、絶滅しないような研究および精液の冷凍保存を行っている。パンタネイロは耐暑性、対病性等に優れ、水に覆われた草でも食べる。しかしながらパンタネイロはゼブーより産肉性が劣るため、牧場主に重要視されていないのが現状である。
当農場の牛飼養頭数は1,200頭(うち経産牛600頭)、子牛は肥育素牛として出荷される。
フランス、イギリスなどから融資を得た研究もあり、中には、は虫類やカワウソの研究も行っている。牛以外の研究としては、野生豚の維持可能な経済的利用と野生馬を保存する研究である。
農場主は野生馬よりその他の馬を利用する傾向にあるため、野生馬(=人為的に導入された馬がパンタナルに適応して野生化したもの)の保存研究として、飼料になる草と環境の関係、天然草の栄養状態と発育に関する分析、繁殖能力、遺伝子分析等のための血液保存などを行っている。
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(4)事例紹介
●事例(1):FAZENDA ELDORAO(エルドラド農場)
オーナーは、ブラジル有機畜産協会会長のオメロ(Homero José Figliolini)氏で、農場は2001年に有機認定された。マットグロッソドスル州で有機認定を受けた唯一(2003年8月時点)の肉用牛牧場である。農場面積は14,800ヘクタール、牛飼養頭数は約4,000頭、そのうち繁殖雌牛は約2,000頭、種雄牛は150頭となっている。農場には10名が従事し、8名がカーボーイ、あとの2名が施設修理や炊事などを含んだ雑事全般を行っている。牧柵には、(1)経費節減の観点、(2)木を伐採しないようにする、(3)野生動物が通れる高さに簡単に調節できる−ことから電気牧柵を用いている箇所が多い。なお農場は30区画に分けられている。
同農場は有機認定の申請をしてから最短の1年でIBD(Instituto Biodinamico)から認定を受けた。普通は1〜2年かかる。旅費、滞在費、検査費など認定までに約4,000レアルかかり、また年1回500レアル、認定証明書付きで販売できた場合に0.5%をIBDに納付する。
有機生産を行うためには、(1)土壌:過去の経歴において化学肥料や除草剤が使われておらず、かつそれらの残留物等が存在しないことの確認が必要、(2)飼育法:ホルモン剤等を使用しない、またホルモン剤等の投与により土壌や環境が汚染されない飼育方法、(3)環境:生産活動によって環境に変化を来たさないこと、(4)社会的貢献:地域の子供が学校において教育を受けられるようにするなどの福祉も重視すること−の条件を満たす必要があると考えている。
有機牛には10%のプレミアが付くので、生産性は落ちるが経営は成り立つ。また、当農場の牛肉は病院の食事にも提供している。
牛の給餌場では、母親と離れて餌を食べるためのクリープフィーディングを実施している。
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農場主のオメロ氏。農場はEmbrapaパンタナルがあるコルンバ市より小型飛行機で約50分、湿地帯にあるため普通車でのアクセスは困難。同農場が所在する地域の地価は、開墾前で1ヘクタール当たり約250〜300レアル程度とのこと。なお当農場は医者でサンパウロ大学の教授だった祖父の代から始まり、65年の歴史を持つ。祖父が1939年にこの土地を買ったが当時「こんな土地を買うなんて頭がおかしい」と精神科医の友人に言われたとのこと。
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ネローレ雄若牛で有機に係る実証試験(イタリアのVitelloneに似たものをつくりたいと考えている)をしている。16〜18カ月後、260〜280kgでの出荷を目指している。写真の牛は約13カ月齢で175kg。 |
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妊娠牛群で380頭。
子牛には、臍の消毒および耳標の装着が行われる。未経産牛は、草の量と質により3歳位で交配する。雌牛の耐用年数9年で、その期間に5.4頭の子牛を出産するので18カ月に1産のペースとなる。交配時期は、9〜1月で、出産のピークは8月と10月の2回ある。同農場の経産牛1ロットの再出産率が74%、別のロットが64%。パンタナルの平均が25〜30%程度だからかなり高い。十分な牧草の給与、認定された有機補助飼料(とうもろこし、大豆カスなど植物性のもの)の適切な給与により経産牛の再出産率は高いものとなっている。飼料はすべて有機のものなどを利用。
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月齢13〜14カ月の有機子牛(VITELO)は、180kg以上、ほとんどが200kg程度で出荷している。と畜は有機認定を受けているパッカーで行う。消費地はサンパウロなどで国内市場向け100%。輸出向けは量、斉一性、供給の継続性が求められるので、これからの課題となる。ABPO会員全体で、年間5000頭の有機子牛の出荷を目指している。同農場の有機子牛(VITELO)年間出荷頭数は300頭を予定している。VITPAN計画では、生体重量が200kg、枝肉重量100〜105kg、枝肉価格が1キログラム当たり5レアルで直接農場から販売することを目標としているがまだ出荷されていない。当牧場は2004年1月からの出荷を予定している。 |
ブラジル有機畜産協会(ABPO)
当協会は2001年設立、会員は13名で生産者、食肉パッカー、証明機関からなる全国団体。会員は、パラナ州、マットグロッソ州、トカンチンス州、サンパウロ州などにいるが、市場がまだ小さいため会員数を多くしない方針。マッドグロッソドスル州に肉用牛が多いので、この州に設立した。
Embrapaには、環境を維持しながら経済性や生産性の向上を図るような畜産研究をしてほしいと要求している。なお当協会の会員は、必ず養蜂を行い有機蜂蜜の生産に取り組んでいる。
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●事例(2):Fazenda Guape(グアッペ農場)
IPPの財政部門の理事もしているSr. Dersi Barbozaの牧場。1956年生まれの47歳。1940年に父親が入植した。牧場は有機認定期間中(2003年7月現在)で、面積2,000ヘクタール、牛の飼養頭数650頭、そのうち繁殖雌牛が400頭で、この頭数が飼養限度であると考えている。子牛は年間300頭程度生まれ、250頭前後を出荷する。雌子牛50頭は更新用にしている。雌15頭に対して雄1頭の割合でまき牛放牧を実施しており、雄は1歳のときに導入し2年間飼育して有機種雄牛となり3歳から供用する。
基本的に年3回に分けて子牛を販売したいと考えており、特に出荷作業が容易な乾期を希望している。しかし、収入面からそのようなことも言っていられないのでパッカーからオファーがあるときなどには売っている。乾期には大型トラックが各牧場まで入れるが雨期には難しいので、各地域毎にパッカーのトラックが入れるアクセスポイント牧場が決っており、雨が降っていないときに小型トラックで各牧場から子牛をアクセスポイントまで運び出荷している。
子付き牛群の牧区は管理しやすいように、かつプーマがあまり近寄らない住居近くに設けている。住居近くは冠水しないため自然牧草では栄養価が低いので、IPPがEmbrapaの指導を受けて決めた指針に基づきブラキャリア・フューミジコーラ(Brachiaria
humidicola)を10%混ぜている。また牧区内には母牛にミネラルを補給する飼槽とは別に子牛にタンパク質とミネラルを補給するためのクリープフィーディングを実施しており、ともに有機認定された補助飼料を与えている。なお子牛の耳標は生後1カ月で装着する。
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オーナーのDersi
Barboza氏。この農場はポサダ(小屋や宿泊所を意味する。日本で言えば牧場民宿か。)を経営していないが将来はやりたいので、そのときはまた訪問して欲しいといわれた気さくな人物。奥さんは道を歩いていたらプーマに遭遇しビックリしたことがあり、そのときのことを熱弁してくれた。息子さんも一緒に働いており4年目になる。
牧区には野生動物のカピバラも徘徊している。
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野生豚の研究にも参加している。夕方に罠を仕掛け早朝確認する。この日は以前捕縛したことがある豚しか罠にかからなかった。
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●事例(3):Fazenda Pouso Alto(ポウサアルト農場)
牧場面積は1万ヘクタールで、雨期には50%が水没する。この牧場も有機認定期間中(2003年7月現在)で、約3,500頭を飼育しており、そのうち繁殖雌牛が約2,400頭である。子牛はおよそ年間1,200頭生まれ雄子牛約600頭は売るが、雌子牛約600頭のそのほとんどを残す。子畜用にクリープフィーディングを実施している。飼養頭数が多いことから管理を容易にするため、子牛への耳標装着は生後1週間で行っている。
当牧場の草はすべて天然草のミモザと呼ばれるもので栄養価が高く、かつ草自体の栄養状態も良いのでタンパク質含有量が10%以上ある。ただしこの草は水がないと生えない。
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中央のガウチョの鞍の下に赤色の布があるが、赤はパンタナルのシンボル色。なお角なしがネローレ・モッショ、角ありがネローレ。
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毛のない羊も飼っている。この羊はセアラ州で改良・登録されたサンタイネス種で赤、茶色、黒、斑といろいろな毛色をしておりパンタナルに良く慣れている。全部で300頭、子羊は弱いので管理小屋の近くで飼っている。現在、有機認定期間中であり、その認定期間は牛よりも短く、誤って牛の薬が使われる問題が起きることも想定し牛とは別々に飼養している。将来はポサダでの消費や販売も考えている。
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●事例(4):Fazenda Säo Josォe(サンホセ農場)
牧場面積3,400ヘクタールで小さい牧場の部類に入る。普通は1万ヘクタール以上あるが、小さくても経営的に問題ないか研究している。牧場主はPRP設立時からサポートしIPPの副会長も務めている。この牧場にはIPPのすべてのプログラムが実施されている。またこの牧場は教育水準が高いので飼養技術などの技術をいち早く導入している。
ネローレ種1,700頭そのうち繁殖雌が1,300頭で、まき牛放牧の雄の比率は5%、繁殖能力によって4%にすることもある(要するに、雌20〜25頭に雄1頭の割合となる)。
この牧場は次の条件により牧区を分けて牛を管理している。(I)雌のみで体重増加を目的とした牧区、(II)子付き牛群の牧区(牛群頭数は基本的に雌約80頭とその子牛からなるが、以下の条件により頭数は変動する。(1)牧養力に頭数を合わせる場合、(2)子牛の体格差よる競争が起こりにくいように、また出荷作業をより容易にするため子牛の月齢や大きさを合わせる場合、(3)雌牛の栄養状態等を合わせる場合(あまりに状態が良くない牛は更新する))、(III)分娩管理を十分するための分娩牛牧区、(IV)未経産の牧区−など。
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牧場主のSr.Joäo
Ildefonso Pinheiro Murano(中央)と息子さん。絶滅リストに載った鳥アララの救済活動もした。
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牧場内に学校がある。IPPが支援している教育プログラム。この地域に全部で600名ぐらい生徒がいるとのこと。この牧場では1年生から4年生まで教えており、上位学校の施設がないため、この地域内に上位学校を設立し、そこと分担して地域において一貫教育を行っていきたいと考えている。先生の派遣料は政府から出るが、その他食事代等はすべて牧場側が支出する。パンタナルの文化を教えるために大切なことだと説明してくれた。 |
このレポートを執筆中に有機生産等に係る法律第10831号が制定された。アルゼンチンでは1999年に法律がすでに制定されており4年遅れたことになる。
IPPにおいて説明を受けた際、「有機牛肉は普通の牛肉よりも付加価値がつきサンパウロなどの大消費地では需要も多くかつ高く売れるため、今後かなり成長が望めるのではないか」と話していた。
一方、Embrapa肉用牛センターで話を聞いた折には、「有機牛肉生産は始まったばかりで生産のポテンシャルは高いかもしれないが、今は輸出はできない状況にある。よって国内の消費者がターゲットとなるが、有機製品は高い値段で売られるため富裕層しか買えず、産業として育成していくには難しい面がある。サンパウロでさえも5つのスーパーぐらいにしか有機コーナーがないのではないか?また特別な食肉店で特別なカットとして販売されているぐらいでは?」と見方が厳しかった。
アルゼンチンの取材時でも感じたが、農畜産物の生産方法自体が有機生産方法と大きく違うと思う人は南米では少ないようで、国内マーケットが伸びているとは言えない状況にある。
今後有機生産が伸びていくためには、輸出に力を入れることも大事であるが国内消費者に理解されどこまで受け入れられるかが鍵のような気がする。今回の法律制定がその機会になるのか、引き続き生産動向を注目したい。 |