11の目標を掲げた新農地改革計画を発表
ブラジルのロセット農地開発相は11月21日、首都ブラジリアに結集した農地開放運動組織に属する農民約4千人を前に、「国家農地改革計画」の概要を発表した。この新たな農地改革計画には、ルラ大統領の任期である2003年〜06年の実施目標として、次の11項目が掲げられている。
(1) 40万家族の新規入植
(2) 正式の地券がない土地に定住する50万家族に対する地券の付与
(3) 13万家族に対する土地購入資金の融資
(4) 既入植地における経済の活性化と生産能力の回復
(5) 同計画の実施による207万5千人の雇用の創出
(6) 220万カ所の農地の区画と全国規模の土地台帳の整備
(7) キロンボ(植民地期に逃亡奴隷が作った集落)における残存地域の認知、境界線の設定、地券の付与
(8) インディオ入植地を占拠している非インディオの立ち退きおよび入植先の確保
(9) 女性が中核となる農業生産に対する支援、農地改革における男女同権の確立
(10) 入植する全ての家族に対し、技術普及、技能習得、農業融資、生産物の販売への支援を保証
(11) 入植地における教育、文化、社会保障の権利を普遍化
なお、(1)における年別の入植目標家族数は、2003年が3万件、2004年が11万5千件、2005年が11万5千件、2006年が14万件である。
組織的な農地改革運動は1930〜45年頃開始
ブラジルで、組織的な農地改革運動が始まったのは、1930年〜45年のバルガス政権時代に、同大統領が労働者の組織化を奨励する政策を採ってからとされる。以後、1955年に北東部ペルナンブコ州で農民連盟が発足するなど、土地なし農民運動が徐々に拡大した。
1985年3月に就任したサルネイ大統領は同年6月、4年間で140万家族に土地を分配して定住させる農地改革計画を発表したが、入植した家族数は、同計画の見込みを大幅に下回る結果となった。
1995年1月に就任したカルドゾ大統領は、同年から2002年までに、約52万4千家族を入植させた。しかし、この間、労働者党(PT)の支持母体である単一労センター(CUT)とイディオロギーが類似する土地なし農業労働者運動(MST)傘下の農民を中心とした農地占拠の動きが全国で活発化した。
2003年1月にはPT出身であるルラ大統領が就任したことから、MSTなどの農地開放運動組織は、農地改革に拍車がかかるものと期待して、農地の占拠活動を一時控えていた。しかし、同政権発足後に実施された2003年の入植家族数は、カルドゾ前政権による年平均入植家族数を下回る見込みとなったことなどから、MSTなどが政府に対し農地改革の迅速化に向けて圧力をかけていた。
入植地のインフラ整備に対する支援も行う
こうした中で発表された「国家農地改革計画」について、ブラジル大統領府広報庁によると、同計画の実施により、農村における平和と生活レベルの向上を図り、農業生産の持続に向けた整備に着手したいとしている。また、この計画には、既入植地における農業生産活動と生産物の販売への支援も含まれている。さらに、入植地での定着に必要とされるインフラ整備(水道、電気、道路など)に対する支援も行うとしている。植民・農地改革院(INCRA)によると、95年から2002年に入植した50万件以上の農家のうち、90%が飲用水の供給を受けられず、80%が電力の供給を受けられず、かつ、舗装道路へのアクセスが困難であり、57%は農業融資を受ける資格がなく、53%は何ら技術指導を受けていないとしている。
新農地改革計画に対してMSTなどには、しばらくの間は、成り行きを見定めようとする姿勢が多く見受けられるが、今後、ルラ政権が同計画をどのように実施・運営していくのか注目されるところである。
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