豪州、業界団体が連邦政府にNLIS財政支援を要請


CCAが財政支援要請

 豪州肉牛協議会(CCA)は3月25日、全国家畜個体識別制度(NLIS)の義務化導入に際して、立ち上げ期間の補助として、NLIS電子耳標の経費に3年にわたって2千万豪ドル(約16億円:1豪ドル=80円、耳標1個当たり補助換算は75豪セント(60円)相当)を措置するよう連邦政府に要請した。

 また、今回要請した連邦政府の資金負担に対応し、生産者に対する支援の公平性を確保するため、生産者が負担するNLIS耳標代の補助を行っていない(または公約してない)州政府(クインズランド(QLD)州、ニューサウスウェールズ(NSW)州、タスマニア(TAS)州、北部準州)にも応分の負担を求めるとしている。

 なお、この要請は、豪州食肉産業協議会(AMIC)、豪州フィードロット協会(ALFA)、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)、豪州酪農生産者会議(ADF)に支持されている。


初度負担は将来に向けた保険料と

 CCAのアダムス理事長は「豪州の肉牛生産者は、政府がNLIS関連の経費に対する支援について公平に分担することだけを求めており、永続的な補助金を求めていない」とした上で「その要求を実現することが牛肉産業や酪農産業だけでなく豪州経済や社会にとって最良の利益となる」と次のように述べた。

(1) NLISの義務化とこれによって改善されるトレーサビリティーは、豪州の牛肉と酪農産業の将来にとって重要である。しかし、他の国々の政府は、牛の個体識別制度の導入に当たって、その経費の全部あるいは大部分を支援している。

(2) 連邦政府と州政府は、家畜伝染病緊急対応協定(EADRA)を締結しているが、この協定では、口蹄疫(FMD)と牛海綿状脳症(BSE)の場合、連邦と州政府はその対応と補償に要するコストに対して80%(それぞれ40%負担)の共同責任を負う。

(3) NLISは疾病の発生を防ぐことはできないが、英国やカナダ、米国における先例は、個体識別制度がこれらの疾病に要するコストとその影響を大きく縮減する重要な役割を担うことを繰り返し証明した。

(4) NLISは重大な疾病発生に対する政府の将来の債務を低減する保険とも言えることから、要請している「控えめな保険料水準の」財政支援を実施することが連邦政府と州政府に最良の利益をもたらすことは明らかである。


現状の州政府の支援には濃淡が

 NLISの義務化については、昨年の第一次産業大臣会議において2005年7月までの導入が合意されたが、州単位での取り組みとなるため、州によって財政支援のあり方にも濃淡がある。特に生産者が負担することとなる耳標代(3〜4豪ドル(240〜320円))に対する支援の有無が「公平感を欠く」としてCCAの要請の背景にある。

 例えば、先行して義務化されているビクトリア州では、州内の生産者が2.5豪ドル(200円)で取得できるよう補助を行っている(具体的な補助額は非公表だが1.2豪ドル(96円)を上限)。また、同州では読み取り装置などのインフラ整備に対する補助も行っている。そのほかの州では、南オーストラリア州と西オーストラリア州が、NLIS耳標に対する1豪ドル(80円)前後の補助に加えて所要のインフラ整備を公約する一方、NSW州とTAS州はインフラ整備主体の補助のみ公約している。

 ただし、牛飼養頭数最大のQLD州と北部準州は資金的な支援措置は何も公約していない。


QLD州の生産者は義務化に難色も

 QLD州で3月上旬に開催されたNLISの推進会議において、出席した生産者の多くは経費問題をはじめ「家畜疾病発生時に市場アクセスの継続が保証されるわけではない」などの意見から義務化に否定的で、アダムス理事長は激しい集中攻撃の中で答弁したことが報道された。また、別のNLIS関連の会議では、財政支援の公約なしに義務化に合意したQLD州政府が激しく批判されたようだ。

 今回のCCAの要請は、州間の支援措置のアンバランスに加え、QLD州の状況も背景に、NLISの円滑な義務化を図るため生産者に「公平感」を与える方策を提案したものとみられる。

 なお、NLISの義務化については原則として州政府の権限によるものであることから、連邦政府は財政支援を行っていない。


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