1%に満たない自給率
フィリピンでは、2003年に生乳換算で約130万トンの乳製品が消費されたが、そのほとんどは輸入されたものであり、生乳の国内生産は1万1千トンで、自給率は1%にも満たない状況である。
生乳生産の内訳をみると、乳牛からのものが55%、水牛が44%となっており、他は山羊からのものである。また、同国は熱帯地域に属しており、乳量に優れるホルスタイン純粋種の飼養は無理で、耐暑性を備える品種との交雑種が必要とされる。いずれにせよ、生乳生産に関しては、気候的に乳製品主要輸出国に比較して大きなハンディを背負っている。
今般、国立酪農公社(NDA)は、乳量確保の直接的な対策として昨年に引き続き乳牛の輸入を行うことを明らかにした。
NDAを設立し増産を計画
政府は、酪農乳業の振興政策を実施する組織として1995年にNDAを設立した。この組織の目的は、国内酪農乳業の育成により、子供などの健康の増進と農家の所得向上を目指したもので、具体的には、乳牛群の拡充と農家および乳業者に対して技術を提供することにより、牛乳を普及し、国民の栄養状況を改善しようというものである。
その後政府は、1997年には学童への供給プログラム(SMFP)を開始し、1998年には外国の援助のもとに牛乳生産事業や生乳処理プラントの設立を行った。2000年には約1,200頭の乳牛を海外から導入するとともに、「白の革命」のスタートを宣言している。「白の革命」とは、60年代から70年代にかけてインドで成功した酪農乳業振興策計画を引用したものである。このような背景の下で、政府は水牛の改良や耐暑性と泌乳能力の高い乳牛の開発に力を入れてきた。
乳牛輸入による乳量確保
しかしながら、現状は自給率が示すとおり、国内生産の伸びは思ったようには増加していない。何よりも3%〜5%のという低関税率での乳製品輸入による需給構造が定着しており、自ら酪農事業に積極的に取り組む事業者の確保が困難であるためと考えられる。
政府はもともと暑熱に強い水牛の乳量の増加を図るとともに耐暑性に優れた品種とホルスタインの交雑種の改良を行っているが、資金の問題もあり、十分な供給には至っていない。このため、米国の食料援助を活用することとし、援助乳製品の売却収入により乳牛を外国から購入することを計画し、2003年にホルスタイン種とサヒワール種との交雑種をNZから495頭輸入した。これらの牛はルソン島に導入され、農家は1頭当たり6万8千ペソ(13万6千円:1ペソ=2円)のローンで購入している。
2004年の計画では、500頭の初妊牛交雑種がネグロス島の西部地域ほか2地域に導入することとなっている。
なお、サヒワール種はゼブ系の牛で耐暑性がある牛の中でも泌乳量が比較的多く、ホルスタインとの交雑種は1日当たり15〜20リットルの乳量が期待されている。
NDAによれば、過去2年間に輸入された約1千頭の乳牛の搾乳が開始されれば、1日当たりの乳量が以前に比較して20トンほど増加するとしている。年間にすれば大幅な増加となる。
また、NDAはせめて飲用牛乳分の生産は国内で行いたいとし、政府に輸入飲用牛乳の関税の引き上げを申し入れているものの、フィリピンは自由貿易を標ぼうするケアンズグループの一員であり、実現の可能性は低い。
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