供給不足により豚肉価格高騰
フィリピン食肉産業に占める養豚の重要性は高く、2002年の1人当たり年間消費量は13.9キログラムと、鶏肉の8キログラム、牛肉の2.2キログラムと比べても突出しており、国内生産拡大による安定的供給体制の確立が課題となっている。
3月現在、首都マニラ周辺地域での豚肉に対する需要は1日当たり7,100〜7,200頭程度に対し、供給は3,300〜3,600頭程度といわれ、供給不足により価格が上昇している。
この理由として、1月以降周辺各国で発生した鳥インフルエンザによる豚肉への食肉需要の転換などが挙げられており、マニラ市場での枝肉価格は1月第1週平均で約97ペソ(197円:1ペソ=2.03円)だったのに対し、3月第1週平均では111ペソ(225円)にまで上昇している。
政府による輸入豚肉の関税引き下げ
このような状況を受けて、アロヨ大統領は3月初旬、需給安定のため輸入豚肉に対する関税率をオランダ、北米、韓国などからの特定の輸入分に限定して引き下げると発表した。この特別輸入枠に該当する約1万トンの豚肉については関税率が10%に引き下げられることとなった。
政府は同時に、養豚用飼料穀物(トウモロコシ、大豆)の関税率についても同様の措置を採ることとしているが、これを実施することで国内飼料作物生産者の栽培意欲を削ぎ、240万ヘクタールに相当するトウモロコシのほ場が放棄される可能性があるという懸念の声もある。
国内養豚振興の取り組み
政府は高まる国内需要を背景に、民間と連携しながら以下のような各種振興対策を講じている。
○ 国内初の民間種豚場の承認
同国農務省は、遺伝的能力の高い種豚を中小養豚農家に対しても安定供給するため、先に定められた種豚場承認プログラムに基づき、民間業者8社に国内初の種豚場運営承認を行った。
これらの種豚場は特定疾病に対する清浄性の維持や血統証明書の整備、平均増体重の記録など、定められた規定を遵守することが義務付けられており、これらを拠点に国産豚肉の品質向上と食品安全性の確保を図るとしている。
○ プロジェクト10-10
一方、民間部門主導で運営されるフィリピン養豚委員会は、主に国内の小規模養豚農家の生産性を高めることを目的に「プロジェクト10-10」と呼ばれる取り組みを行っている。
2003、2004年を実施期間とするこのプロジェクトにより、国内の10カ所の地域でそれぞれ中核となると畜処理施設を選定し、農家に肥育技術などを指導することとしている。
同国の食肉加工業者は仕上げ時の生体重量で120キログラム以上を望むのに対し、国内の一般的なウェットマーケットに流通するものは平均80〜85キログラムと小さい。この事業により出荷時生体重の10%向上を目指すほか、脂肪含有量の改善を図り、加工肉供給能力の向上を図ることで、従来ウェットマーケットにしか流通出来なかった小規模養豚農家の豚肉の流通先の多角化を図るとされている。
養豚委員会はこれら10カ所で中核施設となる処理場を定めており、1月現在稼働しているのはNaga 市ベアトリス・フーズ社の施設と、Bacolod市ビクトリアス・フーズ社の施設の2カ所とされている。
○ 各種疾病対策の現状
政府は各種疾病対策、とりわけ口蹄疫撲滅対策を継続的に行い、将来的には養豚を輸出産業として振興することを目指し2005年5月までの清浄化を目標とした重点対策を講じている。
畜産局によるとルソン島をはじめとする非清浄地域における2004年1〜2月の口蹄疫発生頭数は13頭で前年同期の50頭に比べ74%減少したと発表した。ただしこの主な理由として、この時期の豚肉価格と需給状況により生産者からと畜場への豚の移動量が前年に比べ減少したためとしている。
一方で、ミンダナオ島を中心とする清浄地域への汚染防止にも力を入れており、養豚農家連合などの生産者団体は汚染拡大防止のためにインド産水牛肉など非清浄地域国からの偶蹄類食肉の輸入禁止措置を政府に対し求めている。
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