見直しは動物福祉を焦点に
連邦政府トラス農相は1月8日、生体家畜輸出規制の見直しに関する「ケニリーレポート」を発表した。この報告書は、昨年、豪州からサウジアラビアに生体で輸出された羊が疾病を理由に陸揚げ拒否されたため、船上で多数死亡したコーモ・エクスプレス号事件を契機に、農相が外部の委員会に生体輸出規則などの見直しを諮問していたものである。委員会では、ケニリー元豪州商工会議所代表を中心に動物福祉分野に高い知見を持った専門家の参加を得て、検討が行われた。現在、豪州の生体家畜輸出は、東南アジアや中東向けが主で、2002年には羊が600万頭、肉用牛が100万頭輸出され、輸出額は10億豪ドル(830億円:1豪ドル=83円)に上る主要な輸出産業となっている。
農相は、この報告書の勧告内容を踏まえ、政府高官を中東に派遣するなど既に勧告内容の一部を実施に移しており、2月中にも改革案を閣議に提出すると述べている。
ケニリーレポートの概要
委員会は、報告書作成に当たって、(1)現行の動物福祉の慣行や規制の適切さ(2)輸出に適した家畜の種類(3)輸送中の監督方法(4)コーモ・エクスプレス号事件で多数の羊が死亡した要因−などの調査を行い、動物福祉を最優先に考慮した次のような勧告を行った。
・ 家畜の健康や動物福祉に重点を置いた、国家基準としての生体家畜輸出規則「Australian Code for Export of Livestock」を制定すること。
・ 政府は、生体家畜輸出の許可や国が定めた規則の遵守に責任を持つこと。産業界は調査研究や品質管理に責任を持つこと。調査研究などの財源は、課徴金によること。
・ 輸出認可を与える際には、規則を厳格に適用すること。
・ 獣医師は、豪州検疫検査局(AQIS)から派遣され、AQISが定めた仕様に基づいた報告義務がある。報告内容は、家畜の死亡数、疾病発生状況、給餌、給水、換気状況などの動物福祉に影響を与える事項などとなる。
・ 10日以上を要する家畜の輸送には必ず、獣医師を乗船させること。その費用は輸出業者が負担すること。
・ 産業界は異なる種類の家畜の適切な輸出方法について研究を継続する必要があること。問題が発生する危険性の高い時期(北半球の夏季)は、豪州南部のポートランドやアデレードなどの港からの出荷を停止すること。
・ 政府は産業界と協力して、2004年12月末までに中東のいずれかの国から、家畜が陸揚げを拒否された場合、一時的に陸揚げできる検疫施設建設の合意を得ること。この合意が得られない場合は、輸出を再検討すること。
サウジアラビアへの家畜輸出は、豪州とサウジアラビア両政府間で検疫などの条件に合意し、それが成文化されない限り輸出を再開しないこと。
・ 将来の生体家畜輸出時に発生する緊急事態に対応できるシステムを構築すること。
食肉生産者団体はケニリーレポートを歓迎
豪州家畜生産者事業団(MLA)では、「家畜の動物福祉を改善する制度措置を歓迎する」と述べている。さらに、この報告書の中で適切な家畜輸送方法などの研究開発の必要性が指摘されているが、MLAでは、この研究開発分野で重要な貢献ができると述べ、その実行に当たっては、「報告の内容を詳細に検討し、政府と協力して生体家畜輸出の改善を図っていく」と述べている。
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