ブラジルとアルゼンチンにおける乳製品価格をめぐる紛争


ブラジル、価格協定の再検討を決定

 ブラジル開発商工省は、ブラジルがアルゼンチンの輸出乳業メーカー(以下「輸出会社」という。)8社と結んでいる粉乳の価格協定の期限が迫る2月20日に、「価格協定について再検討するための交渉を開始する」ことを官報に掲載したと発表した。

 ブラジル政府とアルゼンチンの輸出会社8社は、アンチダンピング課税を避けるため価格協定を結び、2001年2月23日から実施してきたが、その満了期限の2004年2月23日が迫っていた。

 ブラジル全国農業連盟(CNA)は2003年11月、独自に粉乳の価格を調査しダンピングの可能性を政府に訴えていた。これを受け開発商工省貿易局(SECEX)は今回、2003年1〜12月を調査対象期間とし、見直しに要する期間を12カ月間、かつその期間中は価格協定が継続して適用されるとした。また再検討に当たっては、アルゼンチン政府を除いた関係者に対する調査を実施し、40日以内に回答を得るとしている。

価格協定締結の経緯と協定内容

 CNAは1999年1月、アルゼンチン、ウルグアイ、オーストラリア、ニュージーランド、EUから輸入されている乳製品にダンピングの疑いがあるとして、関係閣僚が集まり開発商工相が議長を務める貿易審議会(CAMEX)に調査を要請した。CAMEXはこれを承認し、同年8月にはSECEXの貿易防衛部(DECOM)による調査を実施することが決定された。

 ブラジル政府は大統領令第1602号第27条の規定に基づき、製造業者、輸出業者および自国の輸入業者等にダンピング調査の実施を通知し、外国の輸出業者52社、自国の輸入業者134社に調査票を送付した。そのうち輸出業者13社、輸入業者44社から回答があり、回答のないものについては、当該国の統計機関によるデータなどで価格が調査された。

 そして2000年12月に、アルゼンチン、ニュージーランド、EU、ウルグアイの製品についてはダンピングが確認され、オーストラリアについては、同国からの乳製品輸入が全体の2%と少なく、対象とする必要性がない−とした結果を発表した。

 アルゼンチンについては、ブラジルへの輸出会社8社がブラジルとの間に3年間の価格協定を結び2001年2月23日から実施されてきたため、アンチダンピング課税は適用外とされていた。またEUの中ではデンマークのArla Foods社1社が価格協定に応じたので、アンチダンピング課税の適用外とされている(また、少し遅れてウルグアイの 4社が3年間の価格協定を締結したため、2001年4月4日からウルグアイ産粉乳に対するアンチダンピング課税(16.9%)の適用は中止された)。

 なおニュージーランド、EU(前述の1社を除く)については、2001年2月2日付けCAMEX決議1号によりアンチダンピング課税が設定された。 対象品目は小売用に包装されていない全粉乳および脱脂粉乳(メルコスル関税番号(NCM):0402.10.10, 0402.10.90, 0402.21.10, 0402.21.20, 0402.29.10, 0402.29.20)で、ニュージーランドではNew Zealand Dairy Boardおよびその他の会社の製品に対して3.9%、EUの製品に対しては14.8%となった。なお、この措置は大統領令第1602号第51条に基づき5年間有効となっている。また、メルコスル以外の国からの輸入には、アンチダンピング課税のほかメルコスル共通関税が課税される。

 アルゼンチン8社、ウルグアイ4社と行われた価格協定は、米農務省(USDA)が発表する全粉乳および脱脂粉乳の国際価格を基に算出され、原則として算出価格が1トン当たり 1,900ドル(21万1,000円、1ドル=111円)以下であった場合 は11%を加算した価格を輸出価格とし、かつ加算の上限を同1,900ドルまでとしている。よって計算上は、同1,712〜1,900ドル(19万円〜21万1,000円)までは輸出価格は同1,900ドルとなり、同1,712ドル以下の場合は11%を加算した価格が、同1,900ドル超の場合はその価格自体が輸出価格となる。ちなみに、デンマーク1社は最低価格同2,000ドル(22万2,000円)で協定を結んでいる。

アルゼンチンの輸出乳業メーカーは反発

 ブラジルが価格協定の再検討をすると決定したことに対し、アルゼンチンの輸出会社で組織する団体(Centro de la Industrial Lechera:CIL)は、「今回の措置は、ブラジルにおけるParmalat社の経営危機により乳価が下がっているため、生産者に対する影響を配慮したことが原因で、新たな障壁である」とし、アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)等にブラジルとの交渉に当たり支援を求めた。

 ブエノスアイレスにおいて3月8日、民間ベースの交渉が行われ、アルゼンチン側からはCILとともに外務省、工業・商業・鉱業庁、SAGPyAの代表が、ブラジル側からは民間企業および政府の代表が出席し、見直しに要する期間12カ月を120日に短縮することが協議された。CILによれば、この期間短縮案は受け入れられる可能性が高いが、来月末には再度交渉が予定されており、そこで正式な回答が得られない場合は、CILは世界貿易機関(WTO)の場にまで問題を持ち込むと話している。

 なお、ウルグアイとの価格協定も4月当初には満了となったため、SECEXは4月5日の官報において2月にアルゼンチンに対して講じた措置と同様の措置を講ずることを公布している。


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