昨年暮れからからアジアを中心に拡大した鳥インフルエンザについて、2004年3月19日国連食糧農業機関(FAO)と国際獣疫事務局(OIE)によるアジアにおける鳥インフルエンザの警戒宣言に対する一応の終息が発表されたが、その内容は今後も発生国に対し調査や検疫体制を引き続き行うよう注意喚起をうながすものとなった。これらをうけて当機構駐在員事務所が所掌する地域における鳥インフルエンザの発生、拡大、対応、終息を過去のトピックスを総括する形で掲載する。
アジア
今年の1月以降、アセアン(東南アジア諸国連合)10カ国のうち、ベトナム、ラオス、タイ、カンボジアおよびインドネシアの5カ国において鳥インフルエンザの発生が確認されている。4月の初めの段階では、このうちベトナムが政府としての終息宣言を行ったのみで、東南アジア地域全体としての終息までにはまだ時間がかかる見込みである。各発生国におけるこれまでの経緯等の概要は次ぎのとおりである。
1 タイ
大きい日本の鶏肉需給に与える影響
タイは大量の鶏肉及び鶏肉調製品を日本に輸出しており、日本の鶏肉需給に与える影響は非常に大きい。ちなみに2003年に日本は同国から約17万5千トンの鶏肉と同9万1千トンの鶏肉調製品を輸入した。
発生の経緯については、タイ中部における多数の鶏の病死が2003年の11月中ごろから報告され、農業協同組合省畜産開発局の説明では、冬への気候の変わり目に発生した鳥コレラが主な原因で、小規模生産者が鶏の死骸を河川や用水に捨てたため、採卵鶏農場に拡大したというものであった。その後、1月22日、日本政府がタイ産家きん肉等の一時輸入停止措置を発表した。23日、公衆衛生省は、鳥インフルエンザの患者2名が確認されたことを発表し、これを受け、EUなども同国からの鶏肉輸入を停止した。
同国政府は、殺処分により対応することとし、発生施設から半径5キロ以内の家きんの殺処分と飼養施設の消毒を行い、同50キロメートルを監視下に置き、同60キロメートルを鳥類の移動禁止区域とした。
この結果、タイは鶏肉製品の輸出市場の多くを失うとともに、シップバックされた製品の在庫や、鶏肉輸出企業の株価の大幅な下落が発生するとともに、鶏肉の国内消費も一時大きく減退した。また、鶏肉関連産業ばかりでなく、観光産業なども大きな影響を受けた。
現在、事態は平常化の方向に向かっているが、3月初めまでの段階で76の市と県のうちの43で発生が確認され、8人の死者が発生し、約3千6百万羽場の鶏が殺処分された。
一方、2月末から3月の初旬にかけて日本向け加熱処理家きん肉などの指定施設として22工場が指定され、輸出が再開されている。ちなみに、鳥インフルエンザによる日本とEUなどの輸入制限措置が実施される直前3カ月間の鶏肉製品の平均輸出実績をタイ関税局の公表数値からみると、タイは月間約3万3千トンの冷凍鶏肉と同1万4千トン弱の鶏肉調製品を輸出していた。金額にするとそれぞれ、約23億バーツ(62.1億円:1バーツ=2.7円)と17億バーツ(45.9億円)になる。これらの品目の日本とEUとの合計シェアは、それぞれ8割と9割を占めていた。
4月の初めに予定されていた終息宣言は新たな鶏の死亡発生により延長されており、最終局面ではあるものの、終息宣言まではもう少し時間がかかる見込みである。
2 インドネシア
ワクチンも使って対応
日本は、2003年にインドネシアから約3千8百トンの鶏肉と同5百トンの鶏肉調製品を輸入した。
同国農業省畜産総局(DGLS)発表による2003年(暫定値)の鶏飼養羽数は大手企業によるブロイラーが約9億2千万羽、採卵鶏で8千5百万羽、零細農家による庭先養鶏の雑種を含むいわゆる地鶏が2億9千万羽となっている。
インドネシア政府は1月25日に同国での鳥インフルエンザ発生を発表したが、同国農業省畜産総局長によると政府は昨年8月29日の段階で、中央ジャワ州ペカロンガン県で既に最初の感染が確認されていたとされた。政府はそれまで発生を公表しなかった理由として、関連業界に多大な損失を与えることや、人への感染が報告されていないことをあげている。
昨年8月以降の被害状況については、少なくとも400以上の養鶏場で被害が確認されたとし、そのうち6割がニューカッスル病による被害、4割が鳥インフルエンザによるものとしている。また2月末現在の被害総数は約600万羽とされている。国連食糧農業機関(FAO)は2月13日の発表で、インドネシアの鳥インフルエンザ対策によるとう汰羽数が1,500万羽に達したと報告しているが、消息筋によるとこれは最終的に同国全体でとう汰が見込まれる羽数で、現在その予測はおよそ1,000万羽に収まるとされている。また、1月末の発表の段階で深刻な被害が生じているとされた地域は、中央ジャワ州の17県、東ジャワ州の13県、西ジャワ州の3県、ジョグジャカルタの6県、ランプン州の3県、バリ州の5県、バンテン州1県、南、東、中央カリマンタン州の各1県となっている。
同国政府は当初、養鶏農家への配慮から大量殺処分による防疫措置を行わず、ワクチンの接種のみにより対策を進めるとし、ワクチンを製造する国内3工場の生産効率の向上を図ると同時に海外からの輸入を手配するなどの対策を行っていた。その後、29日にメガワティ大統領は全国でり患鶏の選択的とう汰とワクチン接種を組み合わせた制圧を行うと発表し、農業相は同日の閣議で養鶏農家緊急支援対策としてとう汰補助、ワクチンの確保、検査機材の拡充などのため2,120億ルピア(約30億円:100ルピア=1.42円)の予算が閣議で了承されたと発表した。
また、鳥インフルエンザによる財政的損失は7兆7千億ルピア(約1,093億円)に上り、全国で約125万人が職を失うと試算している。なお、予算について、財政当局は3月中旬にこのうち900億ルピア(約12億1千万円:100ルピア=1.42円)を承認している。
3 ベトナム
終息を宣言
2003年の日本のベトナムからの鶏肉製品の輸入量は、鶏肉調製品24トンであった。
昨年12月末に北部のハ・タイ県と南部のメコン川デルタ地帯の県で発生し、今年の1月の中頃にはホーチミン市と東南部の県と東部の県へ、そして1月の終わりには中央海岸地帯と中央高地の県に広がった。日本には1月の9日に報告されている。
1月28日、政府は農林水産大臣を委員長とする「鳥インフルエンザ国家対策委員会」を設け、2月5日に、殺処分による対応を行うとする対策ガイドラインを発表した。
FAOなどの国際機関の支援を受けながら対応し、2月26日の発生を最終とし、政府は3月30日に終息宣言を行い、これまでの家きんの移動措置などを解除した。この措置に対してFAOの担当者は、時期尚早との見方を示している。
終息宣言に至るまでの間、64の市および県のうち57で発生し、16人の死亡が確認されている。
また、家きんの全飼養羽数の15%に当たる約3千8百万羽が処分された。これまでの損失は13兆ドン(910億円:1ドン=0.007円)で、そのうち処分された家きんによるものは10兆ドン(700億円)になるとされている。
政府は補償として、処分された家きん1羽当たり5千ドン(35円)と再導入に当たっては、1羽当たり2千ドン(14円)を支給するとしている。
また、今後の対策として、短期的には監視体制の強化などを行い、長期的には大規模養鶏を人口集中地域から遠ざける等の措置をとることとしている。
4 カンボジア
対応中
近年における日本のカンボジアからの鶏肉製品の輸入はない。
今年1月12日に発生の疑いが報告され、同23日に発生が確認された。前日の22日には農林水産大臣を長とする対策委員会が設置されている。
まん延防止対策としては、殺処分を採用することとしており、発生施設の半径3キロメートル以内の家きんの殺処分と同7キロメートルの監視地域の設定となっている。
同国の家きんの2003年の飼養羽数は1,600百万羽となっており、全飼養戸数の8割以上が12〜13羽程度の規模で、ブロイラー経営135(68万7千羽)、採卵経営67(36万8千羽)およびあひる経営976(87万9千羽)があることが報告されている。
3月中旬にもタケオ県などでの発生の報道がなされており、終息の見通しは立っていない。
5 ラオス
対応中
近年における日本のラオスからの鶏肉製品の輸入はない。
今年1月初めに首都ビエンチャンにおいて鳥の異常死が報告され、同27日に鳥インフルエンザと確認された。その後ビエンチャンのほかサバナケット県とチャンパサック県に拡大した。同国で飼養されている家きんは2003年のセンサスベースで約2千万羽となっており、その多くは家庭での飼養である。企業経営による養鶏場も約百カ所あるが、そのほとんどがビエンチャンなどの都市部の周辺に位置している。
鳥インフルエンザのまん延対策として、政府は殺処分を採用しており、発生施設の5キロメートル以内の家きんの処分と施設の消毒の実施と同50キロメートルの監視地域などを設けて対応している。
3月の初め段階で、14万5千羽の処分が報告されているが、これは大規模養鶏場での数値であり、小規模または家庭での飼養しているものについては含まれていない。また、現段階で終息の見通しについての報告はない。
6 韓国
韓国で初の鳥インフルエンザ発生
韓国農林部は2003年12月11日、首都ソウルの南約100キロメートル離れた忠清(チュンチョン)北道、陰城(ウムソン)群の養鶏場において鶏1万9,000羽が死亡した事例について検査の結果、2003年の初めに香港で発生したものと同じH5N1型の高病原性鳥インフルエンザと確認し、12月16日には、同農場から2.5キロメートル離れたアヒル農場でも同型の鳥インフルエンザが確認されたと発表した。
韓国農林部は当該養鶏場に生存している鶏をすべて殺処分とし、この農場から出荷された鶏卵についてもすべて処分するとともに、発生農場を中心に半径10キロメートル以内の地域を危険地域とし、鶏、ガチョウ、アヒルなどの家きんをの移動制限を行った。
鳥インフルエンザ拡散
韓国農林部は発生農場から半径3キロメートル以内のすべての家きんを鳥インフルエンザの拡散防止のため殺処分(埋却)すると発表した。しかし、同地域では12月16、17日に相次いで別の農場からも鳥インフルエンザの発生が確認され、事態を重く見た行政自治部は12月19日、鳥インフルエンザ防疫対策費として忠清北道に5億ウオン(約4,710万円、100ウオン=9.42円)を特別交付税として緊急支援することした。その後も西隣の忠清南道天安市、日本海に面する慶尚北道慶州市、半島南端の全羅南道、ソウルを囲む京畿道など2月6日現在16地域で鳥インフルエンザが確認され、韓国ほぼ全域で発生する事態となった。
鶏肉業界、消費拡大キャンペーンを展開
鳥インフルエンザの発生に伴い韓国における鶏肉やアヒル肉の消費は大きく落ち込み卸売価格も大幅に下落した。韓国の伝統的な料理の一つであるサムゲタン(丸と体の中にもち米などの穀類、朝鮮人参などを詰めて煮込んだもの)の料理店も開店休業状態となった。・恥部報道によると、鶏肉の2月第1週の販売数量および金額ともにヘッセ今江の3割程度までに落ち込んだ、このような消費低迷を受けて韓国養鶏協会など関係団体は2月11日、国産家きん肉を食べて鳥インフルエンザが発生した場合20億ウオン(2億円)を支払うというキャンペーンを展開、また韓国農林部、道、農協なども消費拡大キャンペーンを展開した。官民挙げた消費対策が奏効し鶏肉消費は回復しつつある。
3月に入り新たな感染は確認されておらず韓国における鳥インフルエンザもほぼ沈静化したと考えられる。
7 中国
中国本土で鳥インフルエンザ発生、中国全土に拡大
中国農業部は1月27日、広西チワン自治区、隆安県丁当鎮の家きんがH5N1型高病原性鳥インフルエンザに感染し死亡したことを確認した。1997年および2003年2月に香港での発生は確認されていたが、中国本土での最初の鳥インフルエンザ感染事例となった。
これを受けて、中国政府は発生農場から半径3キロメートル以内の全ての家きんの殺処分や発生農場および擬似病例のある農場から半径5キロメートル以内のワクチン接種などの防疫対策を講じた。2月14日現在、鳥インフルエンザの発生の地域は、広西チワン自治区で最初に確認されてから半月のうちに全国31の省・自治区・直轄市のうち16地域、49カ所に拡大した。
中国政府などの対応
事態を重く見た中国政府は、温家宝総理自ら国務院常務会議を主催し、鳥インフルエンザ対応策を発表した。
その内容は、(1)科学に基づく方法による鳥インフルエンザのまん延防止対策の実施により清浄な鶏肉生産と国民生活および社会の安定を維持(2)鳥インフルエンザの拡散防止と人への感染の防止(3)鳥インフルエンザの撲滅と鶏肉の増産、養鶏業の増収(4)鳥インフルエンザワクチンの生産、調達、備蓄(5)家きんと畜補助金の創設(6)大規模家きん経営、加工業、家きん繁殖場など大きな被害を受けた企業および生産者に対し免税や利子補給などの支援の実施・家畜防疫体系の整備−となっている。
中国政府終息宣言もWHOは警戒を呼びかけ
中国農業部は3月16日、これまでに鳥インフルエンザの発生が確認された49カ所で中国の家きん飼養羽数の約2%に当たる900万羽の家きんを殺処分し、すべての発生カ所においてその封じ込めが成功したと発表した。
なお、国際獣疫事務局(OIE)への報告によると2月19日現在、796万羽の家きんを殺処分するとともに1,021万羽の家きんにワクチンを接種したとしている。
一方、世界保健機構(WHO)は3月18日、中国の現段階での鳥インフルエンザ対策の成果を肯定的に評価したが、鳥インフルエンザは地域的規模の伝染病であり、アジアでの感染が続く限り、中国にウイルスが再上陸する可能性を示唆するとともに、感染の再発を防ぐため、引き続き高い警戒を維持することを呼びかけた。
北 米
米国での高病原性鳥インフルエンザの発生
米国農務省動植物検査局(USDA・APHIS)は2月23日、テキサス州で発生した鳥インフルエンザ(H5N2)は高病原性であったことを公表した。米国では、アジアでの鳥インフルエンザのまん延を受け、サーベイランスが強化され、デラウエア州等で低病原性鳥インフルエンザの発生が摘発されていたところであった。
2月17日、通常のサーベイランス用に採材されたサンプルのうち、テキサス州ゴンザレス郡にあるサン・アントニオから約60キロ東にある農場(飼養羽数;6,608羽)からのサンプルについて鳥インフルエンザ(H5)を摘発。当該農場を検疫下に置くとともに(全羽の殺処分は2月21日に終了、清掃・消毒も3月10日までに完了)、当該農場から半径8キロ以内にある鶏群(商業用・非商業用共)、鶏生体市場について移動制限を実施した。当該農場からはヒューストンにある生体市場に出荷されていた。
2月23日、APHISの全国獣医研究所(NVSL)は分離した鳥インフルエンザウイルスのDNAの配列を分析し、OIEの定義する高病原性株であることを確認した。ウイルスの分子型は高病原性であるものの、病状はアジアでまん延している高病原性株とは異なる。また、デラウエア州等の東部地域で発生している低病原性鳥インフルエンザとの関連性を示すものはないとした。
USDAとテキサス家畜衛生委員会は同日、ゴンザレス郡に対策本部を設置。発生農場から半径8キロ以内を汚染地域、同半径8キロ以上16キロ未満の地域をサーベイランス地域、同半径16キロ以上50キロ未満を緩衝地域として指定した。汚染地域及びサーベイランス地域内の全ての養鶏施設は商業用・非商業用を問わずサーベイランスの対象とされた。総排泄腔および気管からのサンプルを、汚染地域については週1回、サーベイランス地域については2週間に一度採取した。また、緩衝地域については、サーベイランス地域内にある商業養鶏から半径1.5キロ以内にある非商業施設について1度のサンプリングを行った。5回のサンプリングが汚染地域について行われたが、検査結果はいずれも陰性であった。清浄化終了後も90日間は3つの地域におけるサーベイランスは継続される。
今回の発生の感染源に関する疫学調査を実施したが、発生農場からはテキサス州ヒューストンにある2つの生体市場に出荷されていたため、これらの市場を検疫下に置くとともに殺処分などを実施した。念のためにヒューストンにある他の3つの生体市場についても検疫下に置くと供に殺処分などを実施した。これらの生体市場に出荷していた農場への立ち入り調査を実施するとともにサーベイランスの対象としたが、いずれも鳥インフルエンザ陰性であった。
米国での高病原性鳥インフルエンザの発生に対し、輸入国が講じた検疫措置は、(1)米国全土からの輸入を停止(EU、日本、メキシコなど)、(2)鳥インフルエンザの発生州からの輸入を停止(フィリピン、ロシアなど)、(3)高病原性鳥インフルエンザが発生したテキサス州のみからの輸入を禁止(カナダ)の3つに大別された。
USDAとテキサス家畜衛生委員会は3月26日には、発生農場の検疫を解除し、3月30日には8キロ圏内の移動制限を解除した。USDAは4月1日、OIEに対し、テキサス州を含む全米について高病原性鳥インフルエンザの清浄化を終了したと報告した。
カナダでの高病原性鳥インフルエンザの発生
カナダのブリティシュコロンビア州で2月23日、鳥インフルエンザ(血清亜型H7)の発生が確認された。カナダ食品検査庁(CFIA)および同州政府は発生農場から約5kmの範囲をハイリスク地域に指定し、当該農場の鳥の殺処分を開始した。また、当該農場から約10kmまでの範囲はサーベイランス地域としてサーベイランスの対象とした。これらの地域については、定められた条件下での食鳥処理場以外への移動は禁止するなどリスクに応じた移動制限が課された。CFIAは3月9日、初発農場において高病原性鳥インフルエンザ(AI)の発生を確認したと発表した。これを踏まえ、CFIAは3月11日、急速にAIがまん延する恐れがあるとして、ハイリスク地域およびサーベイランス地域を含む同州のフライザーバレー一帯を規制区域(Control
Area)に指定し、ブロイラーなどを含むすべての家きんおよび家きん製品の移動のための条件が定められた。更にCFIAは3月24日、ハイリスク地域の10農場などの約27万5千羽を殺処分すると発表したが、その後も29日、31日に相次いでハイリスク地域においてAIが発見された。そしてCFIAは4月2日、ハイリスク地域の12農場に加えハイリスク地域以外のサーベイランス地域の4農場、規制区域の2農場において新たな発生を確認したことにより、当該地域にAIがまん延していることが明らかとなった。
CFIAは、この蔓延の背景には当該地域の人や車などの機械設備の移動が主な要因であると考えられるとし4月5日、これまでの状況を踏まえ、フライザーバレーの規制区域のすべての民間の養鶏場および非商業的目的で飼養されているブロイラーなどの家きんを殺処分すると発表した。この決定は、ブリティシュコロンビア州および家きん業界との協議の際に行われたCFIAの提言に基づくものである。殺処分の対象羽数は1,900万羽に上るとしているが、CFIAは非感染群由来の家きんについては、登録された施設において検査後、加工・販売することが可能であるとしている。なお、殺処分に伴う家畜衛生法(Health
of Animals Act)に基づく補償額については今後決定される。併せて、AIのまん延防止のため、(1)すべての車両に対する認可された消毒薬による徹底的な洗浄、(2)訪問者に対する防護服の着用、(3)農場へ搬出入される機械設備の洗浄および消毒をおこなうこととしている。更にCFIAでは、AIが人に感染することはまれであるとしながらも、これまでにCFIAの職員2名がAIに感染していることから、感染した鳥に緊密に接触する場合、十分な防護対策を行う必要があるとしている。
欧 州
欧州委、タイ産鶏肉などおよび東南アジアからのペット用鳥の輸入を一時停止
欧州委員会は1月23日、タイにおいて鳥インフルエンザの発生が確認されたことから、家きん肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)の輸入を一時停止することを決定(委員会決定2004/84/EC)した。これにより本年1月1日以降にタイ国内で食鳥処理された家きん、野生鳥などの肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)、鳥類由来のペットフードの原料および加工されていない飼料の原料の輸入を禁止した。また、食用向け卵の輸入も禁止した。EUはタイから家きん肉や家きん肉製品を2002年に12万トン、2003年の1月から10月までに12万8千トンを輸入している。
欧州委員会はタイ以外(韓国、ベトナム、日本、台湾、カンボジア、香港、ラオス、パキスタン、中国、インドネシア)での鳥インフルエンザの発生の確認に対しては、これらの国からの家きん肉および家きん肉製品の輸入実績がほとんどないため、これらの制限措置を実施する必要がないと判断し、タイと同様の措置を施していない。なお、欧州委員会は1月29日、EUにおける鳥インフルエンザ・ウイルス侵入のいかなる可能性をも排除するため、鳥インフルエンザが発生したアジア諸国からのペット用鳥の輸入を一時停止することを決定(委員会決定2004/93/EC)をした。
EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会は2月3日、欧州委員会から提案のあった、鳥インフルエンザの発生があったタイからの家きん肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)およびアジア諸国からのペット用小鳥の輸入の一時停止措置を継続する提案に合意した。これにより、タイおよび中国からの家きん、野生鳥などの肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)、鳥類由来のペットフードの原料および加工されていない飼料の原料および食用向け卵、韓国からの鳥類由来のペットフードの原料および加工されていない飼料の原料および食用向け卵およびカンボジア、インドネシア、日本、ラオス、パキスタン、中国(香港を含む。)、韓国、タイ、ベトナムからのペット用小鳥および加工されていない羽の輸入をOIEのガイドラインに基づき、2004年8月15日までの6カ月間一時停止することを決定した。この一時停止措置は、アジアでの鳥インフルエンザの状況を評価しながら見直していくこととなっている。発生が沈静化すれば、この措置の解除が早まる可能性もあるとしている。この措置に関する規則は、先に決定していた委員会決定2004/84/ECと委員会決定2004/93/ECを廃止し、新たに委員会決定2004/122/ECを2003年2月6日付けで定めた。
欧州委、ベトナムに対して支援措置
こうした中、欧州委員会は2月11日、ベトナムにおける鳥インフルエンザ対策を支援するため、100万ユーロ(約1億3,000万円、1ユーロ=130円)を支出することを公表した。この資金は、緊急に必要な防護服等の購入等のためのものであり、WHO、FAOおよびOIEからの要請に応えたものである。
この支援の公表に際し、欧州委員会のデビッド・バーン委員(保健・消費者保護担当)は、「ベトナムは世界的に取り組んでいる鳥インフルエンザとの戦いの最前線となっており、この病気は、単にその地域のみならず、全世界に脅威を与えている。この戦いを支援することはわれわれの義務である」とのコメントを発表している。なお、欧州委員会は、既にEUの3名の鳥インフルエンザに関する専門家をベトナムに派遣した。
欧州委、北米からの家きん肉などの輸入を一時停止
欧州委員会は2月24日、米国のテキサス州における鳥インフルエンザが、高病原性であることが確認されたことを踏まえ、米国からの生きた家きん、野生鳥、種卵、ペット用鳥、食用向け卵および家きん、野生鳥などの肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)のEU域内への輸入を3月23日まで一時停止することを決定(委員会決定2004/187/EC)した。EUは、米国から主に種卵と初生ひなを輸入している。2003年の種卵の輸入は、約9百万個でEUの輸入全体の25%を占めている。また、2003年の初生ひなの輸入は、約45万羽で同50%を占めている。
また、カナダのブリテッュ・コロンビア州での鳥インフルエンザが発生したことを踏まえ、カナダからの生きた家きん、野生鳥、種卵、ペット用鳥、食用向け卵および家きん、野生鳥などの肉および家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)の輸入を4月6日まで一時停止する決定(委員会決定2004/242/EC)をした。
北米産家きん肉などの輸入の一時停止地域限定
欧州委員会は3月23日、米国からの生きた家きん、野生鳥、種卵、ペット用鳥、食用向け卵および家きん、野生鳥などの生肉、家きん肉製品(最低70℃で加熱処理されたものなどを除く。)の輸入の一時停止を4月23日まで延長する決定(委員会決定2004/274/EC)をした。これは、米国に対して採られていた輸入の一時停止措置が3月23日で期限を迎えるため、再度EUのフードチェーン・家畜衛生常設員会において検討を行ったものである。米国衛生当局は、EUに対し、米国における鳥インフルエンザの発生状況と対策の実施状況について情報提供するとともに、今回の発生は地域が特定されているものであることから、輸入の一時停止措置などの対象地域とこれ以外の地域を区分する、地域主義(regionalization)の導入を要望していた。しかし、EUとしては、まだ米国の移動制限区域を縮小できる防疫体制になってないとして輸入の一時停止措置が延長されることとなった。
その後、EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会は3月30日、米国およびカナダからEUへの生きた家きん、家きん肉、卵などの輸入の一時停止措置を、発生のあった地域に限定する欧州委員会の提案を承認した。
同常設委員会での検討の結果、米国からの生きた家きんなどの輸入について地域主義の導入が決定され、米国からの生きた家きん、家きん肉、卵などの輸入の一時停止措置は、テキサス州産のものだけに限定され、この措置は、8月23日まで継続される。
また、同様に、カナダからの生きた家きん、家きん肉、卵などの輸入の一時停止措置についても、発生のあったブリテッシュコロンビア州産のものだけに限定され、この措置は、10月1日まで継続される。
なお、当該措置については、両国での鳥インフルエンザの発生状況を評価しながら見直していくこととしている。
EUでの鳥インフルエンザ発生状況
EUでの鳥インフルエンザ発生は、2003年3月2日にオランダにおいて確認された。その後ベルギーおよびドイツでも確認された。いずれの国でも、病気の拡大防止および撲滅のため発生農場などでの殺処分、生きた家きん、種卵および家きんのふん等のEU加盟国および第三国への輸出禁止などの対策を行った。このような各国の関係者の努力により、7月にはすべての地域で制限措置が解除されている。欧州委員会によると、鳥インフルエンザの発生農場数は、オランダで252農場、ベルギーで8農場、ドイツで1農場であり、処分羽数は、オランダでは、約2,800万羽、ベルギーでは約300万羽と報告されている。
また、最近のEUでの鳥インフルエンザ発生は、オランダにおいて昨年鳥インフルエンザが確認されて以来、定期的に実施している検査の結果、2004年3月に2例が確認されている。1件は、オランダ北部Eemsmondの鶏農場で、兆候など見られなかったが、ウイルス検査において、低病原性のH7型のウイルスが検出された。オランダ衛生当局は3月13日、この農場に飼育されていた鶏2万2千羽を予防措置のため処分した。もう1件は、オランダ中部Lopikのカモ農場からH5型のウイルスが検出された。オランダ衛生当局は3月15日、この農場に飼育されていたカモ800羽を予防措置のため処分した。
オセアニア
豪州隣国の発生で警戒強化
鳥インフルエンザの発生がアジアで拡大した1月下旬、豪州も同病に対する警戒を強めた。
豪州において同病は、最も直近ではニューサウスウェールズ州タムワースで1997年、そのほかビクトリア州で1976年、1985年、1992年の3回、クインズランド州で1994年の計5回発生しているが、すべて撲滅しており、人間への感染例はない。豪州の鶏肉や鳥類の検疫は厳しく、一部調理済み製品を除き原則として生鮮鶏肉や生きた鳥類の輸入を認めていない。
しかし、隣国であるインドネシアでの発生が確認されたことから、発生リスクが高まったと認識され、豪州検疫検査局(AQIS)は「警戒強化」を呼びかけた。
農相は過度な不安は不要と
このような中、連邦政府のトラス農相は1月29日、次のような声明を発表した。
(1)豪州の検疫や家畜衛生の機関は、最初の発生が報告されて以来、この状況を監視しており、一層の検疫体制の強化を図るため、AQISはリスクの高い国々からのすべての航空便の乗客や荷物をスクリーニングしている。
(2)豪州国民は鳥インフルエンザに過度に不安になる必要はないが、この病気がアジアで広がっており、豪州で起きるリスクは継続していることに注意する必要性がある。
(3)水鳥や海鳥などの渡り鳥が豪州に鳥インフルエンザ・ウイルスを運んでくる可能性もあることから、養鶏業者は野鳥が鶏に接触しないよう注意する必要がある。
また、同農相は、「連邦政府は業界とともにウイルスから商業鶏を守るための優れたバイオセキュリティーの方法を生産者が確保するよう緊密に取り組んできた」とした上で、次のように強調した。
(4)豪州の食鳥・鶏卵業界は、アジアにおける鳥インフルエンザの報告に十分な注意を払っており、業界のバイオセキュリティ−の取り決めは、商業鶏を水鳥のような野鳥から隔離するように設計されている。
(5)商業養鶏農場のバイオセキュリティー・システムは、ここ数年におけるニューカッスル病のような疾病発生時への対応を通じて強化された。
以上から、同農相は、「この病気が急激に広がっていることで、豪州にもそのリスクが迫っているが、豪州は病気の侵入を防御するだけでなく、国内で発見された場合でも効果的に対応する準備は十分整っている」と万全の体制で対応する構えを見せた。
先住民の渡り鳥監視網のテストケースにも
豪州は海に囲まれた国であるが、国境防疫対策として1990年ごろ設立された北部豪州検疫戦略(NAQS)がある。これは、AQISによって運営されるプログラムで、近接する国から豪州北部に害虫や雑草、疾病が侵入するのを防ぐことを目的に、(1)豪州北部が直面する検疫リスクの認識と評価、(2)科学的調査・監視や国境防疫活動、地域社会の啓もうなどのプログラムを通じた病害虫の早期の発見と警戒を担う。
この戦略の対象となる北部沿岸地域には多くの先住民地域社会が分布し、特にその協力が戦略上重要であるため、先住民社会に対する検疫知識の啓もう普及や、何世代にも引き継がれているといわれる野生生物に関する先住民の知識を積極的に活用する取り組みを通じた連絡網の組織化が行われてきた経緯がある。インドネシアでの同病の発生に際して、組織化された先住民社会の連絡網は、豪州北端の渡り鳥監視網としてテストされる最初のケースになる可能性があることについて報道された。
生産者の自衛策でフリーレンジ鶏肉不足も
生産者による同病に対する自衛策として、放し飼い(フリーレンジ)方式の養鶏業者が野鳥による感染の懸念から一時的に鶏を舎飼いに変更する動きがあり、大手スーパー・マーケットでは、店頭で売られるフリーレンジと表示できる鶏肉の調達が困難になる可能性があると報道された。
このような動きに対しトラス農相は2月12日、フリーレンジと表示できなくなることから一般的な鶏肉として販売せざるを得ないものの、防疫のための慎重な措置だと評価し、フリーレンジ養鶏業者の自主的なバイオセキュリティ−への対応を支持すると表明した。
豪州産鶏肉の輸出増は限定的なもの
同病に対する警戒を強める中、鳥インフルエンザ発生によるタイ産、中国産鶏肉の輸入停止措置を受け、豪州産鶏肉に対するアジア諸国からの問い合わせが増えているとの報道もされた。
豪州の鶏肉生産量は年間70万トン前後、輸出量はわずか数%程度と、国内消費向けが大部分を占め、豪州の農畜産業の中では珍しい国内完結型である。業界では、生産能力にも限界があることや好調な国内消費動向から、今回の同病の発生はかつてのアジア各国での豚の疾病を背景として増加した豚肉輸出のようにはならないとみている。
一方、豪州農業資源経済局(ABARE)は、3月上旬に開催された農業観測会議において、同病の発生によりタイや中国のような主要な生産国から日本のような重要な市場への鶏肉輸出が停止された影響から、2003/04年度の鶏肉輸出は前年度比15%増の26,800トンと予測した。ただし、鶏のライフ・サイクルは短いことから、主要な輸出国において正常な生産が早期に回復することは可能であるため、その影響による輸出増は短期間でしかないとしている。
なお、2003/04年度の鶏肉生産は、強い国内需要などを背景に前年度比2%増の741,000トンと予測されている。
鶏肉生産等の推移
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資料:「Australian Commodities : Outlook 2004」ABARE
注:年度は7月〜6月 |
農相、イースターを控え注意喚起
豪州では空港での検疫強化だけでなく、海外からの郵便物についてもすべてスクリーニング・チェックが行われているが、トラス農相は4月6日、4月9日から12日までのイースター・ホリディを控え、海外からの郵便物が増える時期であるとともに、贈り物として「イースター・エッグ」(今日的には必ずしも卵製品に限らないが「殻に彩色したゆでたまご」が伝統的なもの)が郵送されることがあることから、最近の国際郵便物における摘発例を挙げ、国民に注意を促す声明を発表した。
南 米
2004年の鶏肉輸出量は前年比15%増の見込み
今年に入りアジアを中心に発生している鳥インフルエンザにより、多くの輸入国が発生国からの鶏肉の輸入を停止しており、ブラジルは、数少ない供給国のひとつとして注目されている。
このようなことから、ブラジルブロイラー鶏肉輸出業者協会(ABEF)は、年初に2004年の輸出量を前年比10%増と見通していたが、鳥インフルエンザの影響やロシアが輸入割当制度を見直す可能性が出てきたことなどから、同15%増と上方修正している。輸出金額は、2003年に達した20億ドル(約2,140億円:1ドル=107円)から22億ドル(2,354億円)まで増加すると予測している。
ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)によると、2004年1〜2月の鶏肉輸出量(骨付きベース)は前年同期比6.8%増の34万1,522トンであったが、輸出額は平均輸出価格の大幅な上昇により、同39.7%増の3億4,251万ドル(約366億4千万円)となった。平均輸出価格は、1トン当たり1,003ドル(10万7,321円)と前年同期の同766ドル(8万1,962円)に比べ30.9%高となっている。
そのうち、日本向けについては、4万1,028トンと前年同期比を37.9%上回り、平均輸出価格は同46.2%高の1トン当たり1,449ドル(約15万5千円)となった。その他の国についてみると、香港が同4.9%増の3万2,491トン、アラブ首長国連邦が同16.8%増の1万9,425トンなどとなった。一方、サウジアラビアが前年同期比21.8%減の4万7,696トン、ロシアが同80.0%減の1万105トンとなった。
輸出増を受け、業界は増産に意欲的
鶏肉輸出の急増を受け、ブラジル国内では生産農家を含め、業界が活況を呈している。全輸出量の約3分の1を占める南部のサンタカタリナ州にはブロイラー加工処理施設が集中しているが、これらの施設では輸出需要の増加に対応するため、生産ラインの拡張あるいは新設を行っているとされている。
輸出パッカーランキング第5位のAURORA社では、現在1日当たり32万羽の加工処理能力を有し、月間4千トンを香港、日本、中東、EUに輸出しているが、今後は日本向けの骨なしモモ肉の輸出量を500トンから600トンへ20%増加させる計画をしている。
鶏肉輸出価格の推移
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政府は鳥インフルエンザ対策を強化
一方、ブラジル農務省は、鳥インフルエンザウイルスの国内への侵入を防ぐため、衛生管理対策を強化することを明らかにした。具体的には、衛生対策スタッフの増員をはじめ、クンビッカ(サンパウロ市近郊)およびビラコップス(カンピーナス市)空港やメルコスル諸国との国境における生体鶏などの輸入制限、旅客の手荷物検査のために有機物に反応するエックス線探知機を設置するほか、血清診断を実施する研究所の認定や全国の養鶏場の登録システムの導入などを挙げている。
アルゼンチンも2004年はさらなる輸出増の見込み
アルゼンチンは3月上旬にアジアに農産物輸出促進ミッションを派遣し、その成果が極めて前向きであったと評価している。ミッションに参加した養鶏企業関係者は、「今後短期間のうちに日本の主要な供給元となる可能性を確信した」とコメントしている。また、ミッション代表の農牧水産食糧庁次官も、「中国やタイといった従来の輸入国からの輸入を停止している日本では、新たな供給先をブラジル、アルゼンチンに求める動きがあるため、製品の衛生、価格、品質について信頼に値する供給者となるべく一層の努力が必要」と強調した。
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