1 はじめに
各国(地域)とも、畜産物の消費拡大、普及啓もうのため、国、関係団体、民間それぞれがさまざまな取り組みや調査研究などを実施している。
わが国においては、牛海綿状脳症(BSE)、鳥インフルエンザの発生やO−157など食中毒の発生により畜産物の消費が落ち込んだものの、一方では、消費者の畜産物についての安心・安全に対する関心が非常に高まるなどプラスの動きもあった。
そのような中、食肉については、国および畜産関係団体が中心となり、(1)マスメディアなどを活用した消費者向け広報活動、(2)シンポジウムの開催、(3)料理セミナー、コンクールの開催−など国産食肉への消費者の信頼の確保を図るための取り組みが実施されている。
また、牛乳乳製品については、最近の健康志向などから関心の高まりがみられる反面、加工乳・乳飲料の消費は減退傾向を示し、それらの主原料である脱脂粉乳などの在庫も増加している。このような中、国、生産者、乳業者および牛乳販売業者が一体となって、学校給食を含む牛乳乳製品の需要を維持・拡大させるため、(1)マスメディアなどを活用した正しい知識の普及啓発、(2)牛乳乳製品にバランス良く豊富に含まれている栄養素などに関する調査・研究の実施、(3)学校栄養師、学校調理師などを対象にした給食用牛乳料理講習会の開催、(4)牛乳乳製品フェアや料理コンクールの開催−などに取り組んでいる。
そこで、今月号では、各国(地域)における国や民間団体が実施する畜産物の「消費拡大に向けた取り組み」を紹介し、我が国のこの種活動の一助とすることとしたい。
2 米国−ワシントン駐在員事務所 犬飼 史郎、道免 昭仁
1 豊富なチェックオフ資金を用いた消費拡大
米国における畜産物の消費拡大運動は生産者などが拠出する賦課金(チェックオフ)により賄われている。このようなチェックオフ制度は1954年に「Wool
Act(羊毛法)」により羊毛の制度が確立された以降、15種類の農産物について制度が設けられ現在に至っている。
このうち、酪農生産安定法(The Dairy Production Stabilization Act of 1983)は、牛乳・乳製品の需要促進を行い、生乳の余剰を減らすことにより酪農経営の安定を図ることを目的に制定された。このため、生乳生産者から事業の原資としてチェックオフを徴収し、乳製品の販売促進、需要拡大および栄養教育並びにこれらのための研究を行うこととされている。また、飲用牛乳販売促進法(The
Fluid Milk Promotion Act of 1990)は、飲用牛乳の消費拡大と需要回復を図ることを目的に制定され、飲用牛乳処理業者からのチェックオフを原資に乳製品の販売促進、需要拡大および栄養教育並びにこれらのための研究を行うこととされている。
政府はチェックオフに資金提供は行わないが、国内法によりその拠出を生産者などに義務付けることにより制度の安定的な運営を保証するとともに、その資金の用途が法により制限された調査・研究ならびに消費拡大のために適切に活用されているか監視し、毎年上下両院農業委員会に報告することが求められている。
(1)酪農生産安定法に基づくチェックオフの概要
アラスカおよびハワイ州を除く米国48州の生乳生産者から100ポンド当たり15セント(100kg当たり約36円:1ドル=110円)の賦課金(チェックオフ)を徴収し、これを原資として牛乳・乳製品の消費拡大広告、栄養知識普及などの事業を実施している。事業実施主体として、全米酪農振興・調査研究協会(デイリーボード)(National
Dairy Promotion and Research Board)が同法に基づいて設立されている。デイリーボードは、予算や事業計画の決定機関であり、実際の事業は、酪農協会連合(UDIA)と共同で設立した酪農管理協会(Dairy
Management Incorporated)(DMI)が行っている。
チェックオフ資金は、15セントの内の5セントがデイリーボードによる全国段階の消費拡大のための広告事業などに用いられ、残り10セントは州または地域で事業を実施する酪農団体の事業費として用いられる。
2002年のチェックオフ資金(デイリーボード分)は8,669万ドル(約95億円)であったがその内訳は、国内向け(消費拡大のための広告宣伝、栄養教育、広報活動、市場開発、製品開発)に6,811万ドル(約75億円)、輸出促進493万ドル(約5億円)、調査研究349万ドル(約4億円)などとなっている。
州や地域の段階での消費促進事業などの実施は、デイリーボードから事業計画などの承認を受けた団体(州などの酪農協会など)が地域ごとに実施している。これらの事業は、酪農振興・調査研究規則(The
Dairy Promotion and Research Order)に基づき実施される。
全国規模のキャンペーンとしては、牛乳、ヨーグルト、チーズを1日3回または3品食べることを推奨する「3−A―DAY」や、10年前にカリフォルニアで開始され全国的な活動に発展した「GOT
MILK」などがあり、TVCM、新聞などの広告、インターネットサイトなどを利用し消費拡大、需要増進を行っている。
(2)飲用牛乳販売促進法に基づくチェックオフの概要
飲用牛乳販売促進法に基づき、アラスカおよびハワイ州を除く米国48州とワシントンDCにおいて毎月50万ポンド(約227トン)以上の飲用牛乳を販売している飲用牛乳処理業者から100ポンド当たり20セント(100kg当たり約48円)のチェックオフを徴収する。
2と同様に、チェックオフ資金を原資に、飲用牛乳の消費拡大、栄養知識普及などの事業を実施する。事業実施主体は全国飲用牛乳処理業者販売促進協会(飲用乳ボード)(National
Fluid Milk Processor Promotion Board)である。2002年のチェックオフ資金(飲用乳ボード分)は1億819万ドル(約119億円)であり、広告宣伝(メディア)7,328万ドル(約81億円)、広報活動1,082万ドル(約12億円)、プロモーション活動518万ドル(約6億円)、調査191万ドル(約2億円)などとなっている。
2 栄養面に着目した米国の消費拡大対策
酪農生産安定法や酪農生産安定法はチェックオフの用途の一つとして栄養教育を挙げており、牛乳・乳製品の消費拡大活動も栄養面からの有効性を強調することに力点が置かれている。全国酪農協議会(National
Dairy Council)がウエブサイト上で豊富な情報提供を行っている(http://www.nationaldairycouncil.org/nutrition/index.asp)。また、米国農務省(USDA)もそのウエブサイト上で栄養に関する情報提供を行っている(http://www.nal.usda.gov/fnic/)。
米国ではビタミンAおよびDを添加した牛乳が最も一般的なものとなっているが、他方でカルシウムを強化したオレンジジュースも販売されている。このように栄養面から単品でバランスの取れた製品を供給することも消費者の支持を得る上で重要な戦略と考えられている。
また、牛乳や乳製品を用いた料理のレシピを公開する際にもカロリーのみならず栄養成分に関する情報も併せて提供されることが一般的である。
3 インターネットによる消費拡大対策も充実
米国における消費拡大のための媒体としてインターネットは有効なツールと考えられている。なかでも子供向けのゲームなどを織り込んだプログラムは非常に戦略的なものであり、例えば酪農管理協会(DMI)は、モンスターに乳製品を与えると得点が増えるというゲームをウエブサイト上で提供しており、乳製品の栄養面での重要性を無意識のうちに子供に刷り込むような工夫もなされている。(http://www.nutritionexplorations.org/kids/activities/monster.asp)また、この種の子供向けのサイトでは必ず両親と学校教諭への情報提供も同時におこなわれており、子供の成長に敏感な両親や教諭の関心を利用した情報提供がなされている(http://www.nutritionexplorations.org/)。
4 その他の特徴的なキャンペーン
牛乳の消費拡大運動である「3−A―Day」は日本でも同様なキャンペーンが行われていることからなじみが深いものと考えるが、牛乳を飲んだ後の口ひげ写真を用いた“Got
Milk?”(牛乳飲んだ?)キャンペーンの口髭キャンペーンは多くの著名な芸能人やスポーツ選手の参加も得て展開されているところであり、米国らしいユーモアあふれるキャンペーンである(http://www.whymilk.com/)。
5 政府による取り組み
所得の低い個人や家庭が栄養のある食品を購入することを支援するフードスタンプ・プログラム、無料又は安価で食肉や飲用乳などを給食ならびに朝食として提供するスクールランチプログラムや児童栄養プログラム、干ばつ対策として飼料の不足を補うための脱脂粉乳の無料配布をする家畜飼料援助なども広義な意味では消費拡大対策に位置づけることができると考えられる。
6 まとめ
米国の畜産物の消費拡大は生産者などが拠出するチェックオフ資金により賄われているが、近年チェックオフ資金の使用のあり方が小規模生産者の意見が反映されていないとの不満から、拠出が義務化されていることについて憲法に保証された言論の自由を侵害しているとして、違憲性をめぐる訴訟が繰り広げられているところである。既に違憲が確定したマッシュルーム・チェックオフでは、同チェックオフは調査研究のみに使用することとされ、消費拡大については任意の新たなチェックオフが創設された。このうごきに他のチェックオフも追随することを検討するなどのうごきも見られているところであるが、引き続きチェックオフ制度が消費拡大の主体をなしていくことには変化がないと考えられる。
3 EU−ブリュッセル駐在員事務所 山崎 良人、関 将弘
1 欧州連合(EU)における牛乳乳製品の消費拡大対策
(1)域内市場向けの情報提供および消費拡大対策(販売促進活動)への助成
EUにおいては、域内市場向けの農産物についての情報提供および消費拡大対策(販売促進活動)に対して、EUから補助が行われており、「域内市場での農産物の情報提供および販売促進活動に関する理事会規則(EC/2826/2000)」に規定されている。なお、EC/2826/2000の詳細については、「EC/2826/2000を適用するための詳細を規定する委員会規則(EC/94/2002)」に規定されている。
補助の対象となる情報提供および消費拡大対策(販売促進活動)は、
(1) 地理的表示保護制度(PDO、PGI、TSG)に登録された農産物に関する情報提供
(2) オーガニック農業に関する情報提供
(3) トレーサビリティや表示を保証する農産物生産システムに関する情報提供
(4) 食品の品質や安全、栄養や健康面に関する情報提供
となっている。
また、補助の対象となる農産物も規定されており、
i 牛乳乳製品
ii 地理的表示を持つワイン
iii 生鮮果物および野菜
iv 加工された果物および野菜
v 植物および花き
となっている。
(2)牛乳乳製品の消費拡大対策のガイドライン
補助の対象となる消費拡大対策については、委員会規則(EC/94/2002)でガイドラインが定められており、牛乳乳製品に係るものは以下の通り。
2 ドイツにおける牛乳乳製品の消費拡大対策
(1)ドイツにおける消費拡大対策の実施団体と財源
ドイツにおける牛乳乳製品の消費拡大対策は、ドイツ農産物振興会(CMA:Centrale Marketing-Gesellschaft der
deutschen Agrarwirtschaft mbH)が実施している。CMAの運営財源は、集乳される牛乳から徴収される賦課金により賄われている。この賦課金は、集乳される牛乳1トン当たり1.22ユーロ(約165円:1ユーロ=135円)で、ドイツの年間の集乳量は、約2,700万トンに上るため、賦課金の総額は約3,294万ユーロ(約44億4,700万円)となる。この徴収された賦課金の約90%は、CMAが実施する牛乳乳製品の消費拡大対策などに使用され、約10%はドイツ市場価格情報センター(ZMP)の活動経費となる。ZMPの主な業務は、農産物の市場価格などの情報などを供給することである。
(2)具体的な消費拡大対策
CMAでは、最近、“Die Milch macht's(ミルクはそれを作る)”、“Milch macht schon(ミルクはあなたを美しくする)”と2つの消費拡大キャンペーンを実施している。このうち“Milch
macht schon”キャンペーンを紹介する。
ア 実施期間および予算
Milch macht schonキャンペーンは、1で紹介したEUの域内市場向けの情報提供および消費拡大対策(販売促進活動)の承認を2002年に受けている。本キャンペーンは2002年9月から開始した3年間の事業で、予算額は毎年1百万ユーロ(約1億3,500万円)の総額3百万ユーロ(約4億5百万円)となっており、EUからは全体の50%に相当する150万ユーロ(約2億250万円)が補助される。なお、本キャンペーンを実施する地域はドイツ全土である。
イ キャンペーンのねらい
このキャンペーンは、牛乳が、あなたを美しくするというものであり、ティーンエージャーと子供に牛乳乳製品が毎日の食事と栄養にいかに有益であり、重要なものであるかを教えることを本キャンペーンのねらいとしている。
ウ キャンペーンの内容
ターゲットとする年齢層を2つに分け、それぞれ異なったキャンペーンを実施している。
(ア)ティーンエージャーと子供(特に8歳〜13歳の少女)へのキャンペーン
・若者向け人気雑誌での広報(情報提供)
・写真コンテスト−人気のある若者向け雑誌と連携して、インターネット上での写真コンテスト
(イ)若い女性と20歳代〜40歳代の母親へのキャンペーン
この世代の女性は、たいてい“美”について関心がある。また、彼女達の子供の栄養に大変重要な影響があることから、本キャンペーンにおいて子供に対するものとは別に、この年代の女性をターゲットとして「女性と親向けの雑誌、ラジオでの広報」を実施している。
また、CMAは、本キャンペーンのウェブサイトを公開している。このサイトでは、ニュースレターの送付の申し込み、牛乳を使用した料理などのレシピ、先述の写真コンテストの結果などを見ることができる。このほか、牛のキャラクターの壁紙やスクリーンセーバーのダウンロードが可能となっている。
このニュースレターは、申し込み(登録)をすると、各人が求める美しさに関するアドバイスなどを含めたニュースレターを受け取ることができる。
また、牛乳を使用した料理などのレシピを紹介するサイトでは、快眠のための飲み物(はちみつ入りホットミルク)などの飲食物のレシピを紹介するだけでなく、牛乳を使用したフェイスマスク(顔面パック)、ヘアートリートメントなどの美容のための牛乳の活用方法なども掲載している。
https://www.milch-macht-schoen.de/index.php
3 イギリスにおける牛乳乳製品の消費拡大対策
(1)イギリスにおける販売促進活動の実施団体と財源
イギリスにおける牛乳乳製品の牛乳消費拡大対策は、イギリス酪農振興委員会(MDC:Milk Development Council)が実施している。MDCの運営財源は、グレートブリテンのすべての酪農家から徴収される法定課徴金(statutory
levy)によって賄われている。この法定課徴金は、生乳1リットル当たり0.06ペンス(約0.1円、1ポンド=100ペンス=201円)。年間約7百万ポンド(約14億7百万円)に上る。このうち約350万ポンド(約7億350万円)が、毎年異なった販売促進に使用されている。
(2)具体的な消費拡大対策
イギリスでは、2000年7月から、“White Stuff”キャンペーンを実施している。White Stuffとは、白い飲み物すなわち牛乳を指している。このような活動に取り組むようになったのは、イギリスは、EUの中で牛乳の1人当たり消費量がトップクラスであったが、1992年以降年々減少してきたためである。
(3)“White Stuff”キャンペーン
本キャンペーンにより、イングランドとウェールズでは顕著に牛乳の販売が増加し、現在では、当該地域でのキャンペーンの実施は終了した。現在では、MDCとスコットランド酪農協会との共同で、スコットランドのみで本キャンペーンを続けている。
スコットランドでの本キャンペーンは、昨秋から、牛乳を飲んだときに口のまわりにつく牛乳の白いあとを“Milk Moustache(牛乳の口ひげ)”と呼び、これをつけた有名人を起用したWhite
Stuff Milk Moustacheという名称で実施している。これは、米国で同じキャンペーンを実施したところ効果があったので、これを参考にして開始した。これまでのキャンペーンには、F1ドライバー、モデル、ポップ・グループ、テレビ俳優などの有名人を起用している。
なお、2004年6月からは、若者に人気の男性バンドである「Blue」を起用し、掲示板、バス停、牛乳パックなどに掲載している。
また、今回のキャンペーンでは、「脱脂乳は脂肪をほとんど含んでない(98% fat free)のに、必要なビタミン、ミネラルが詰まっている」というメッセージを添えてキャンペーンを実施している。これは、脱脂乳は脂肪分を2%含んでいるということを、逆の表現(ほとんど含んでいない)を利用したものとなっている。
(4)アンケート調査結果
MDCの調査(2004年5月発表)によると、調査した子供たちの3分の2は、牛乳は“cool(かっこいい)”と認識しており、そのうちの71%の子供が牛乳は人気のある飲み物であると回答している。このような牛乳に対する肯定的な回答は、キャンペーンを開始してから約20%増加している。
4 オセアニア−シドニー駐在員事務所 井上 敦司、横田 徹
豪州における牛乳乳製品の消費拡大対策は、関係団体の販売促進活動の主要な業務の一つとして位置付けている。一方、政府の関与については、連邦政府が輸出促進に関与するものの直接的にはタッチしていない。また、州政府についても、2,000年の規制緩和により、すべての生乳取引が自由化されたこともあって目立ったあるいは制度上の支援を行っていない。
1 DAの消費拡大活動
豪州の牛乳乳製品に関する消費拡大活動は、乳業関連団体であるデイリーオーストラリア(DA)によって行われており、その活動原資は、基本的に生産者から徴収する「課徴金」(Levy)によって賄われている。
(1)課徴金の規模
豪州の酪農産業に存在する2種類の課徴金((1)生乳課徴金(All Milk Levy)、(2)酪農構造調整課徴金(Dairy Adjustment
Levy)のうち、生乳課徴金の一部が消費拡大活動の原資となる(生乳課徴金の根拠法:第一次産業(内国)課徴金法(Primary Industries(Excise)Levies
Act 1999))。
制度上は乳脂肪と乳タンパクに基づき徴収されるが、デイリーオーストラリア(DA)による生乳換算も併せて目安として表示(2002/03年度の豪州平均値(乳脂肪:4.06%、乳タンパク:3.22%)で換算)すると次のとおり。
○生乳課徴金 |
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2003/04年度に、豪州酪農庁(ADC)と酪農研究開発公社(DRDC)の酪農団体がDAに統合再編成された。
販売促進の目的としては、生乳1リットル当たり約0.175豪セント(0.14円:1豪ドル=80円)を徴収する。
2002/03年度のADCの年次報告によれば、販売促進目的の課徴金受領額は1,787万豪ドル(14億2,960万円)で、支出額は輸出促進に402万豪ドル(3億2,160万円)、国内販売促進に1,143万豪ドル(9億1,440万円)、そのほか間接事業費となっている。
なお、課徴金の受領額はその年の生乳生産量に左右されるが、最近の国内販売促進関係の支出は1,000万豪ドル(8億円)前後で推移している。
(2)事業の仕組み
生産者主体で構成されるDAが一括して実施する。ただし、課徴金を支払う生産者はA会員、そのほかB会員として酪農乳業団体が研究開発に拠出金を支払う。
生乳課徴金の流れとしては、(1)納付者:生産者、((2)徴収代行者:乳業者、)(3)連邦政府の徴収担当部署:農漁林業省(DAFF)の課徴金歳入業務部(LRS)、(4)支出:DA(家畜衛生対策は豪州動物衛生協会(AHA))となる。
なお、連邦政府は研究開発用の課徴金の規模に対して1対1の割合で助成(結果的に2分の1助成)をしているが、販売促進に対しては助成を行っていない。
(3)具体的な取組内容
DAの国内販売促進活動は次のとおり。
(参考1)DAのキャンペーン
http://www.dairyaustralia.com.au/template_content.asp?Page=Content/Campaigns/index.htm
・“'Dairy. The Food of Life”
現在行われている主要な販売促進活動としては「Dairy. The Food of Life」(「牛乳乳製品−生涯の食物」)が挙げられる。
このキャンペーンは、これまでは個別の製品ごとに実施していたものを、市場調査などの結果を踏まえ、「牛乳乳製品」を総合的にPRする取り組みに衣替えして2001年2月から実施している。
このキャンペーンは開始から次のような3段階を経て現在に至っている。(開始段階:2001年2月)
牛乳乳製品について伝統的な「カルシウム製品」的なイメージから「完璧な栄養パッケージ製品」としてPRすることに主眼を移行し、ターゲットを女性(特に母親)と健康専門家(一般医、栄養士など)に置く。
(第2段階:2002年2月)
1歳から12歳までの子供を持つ母親と40歳以上の女性に対して、牛乳乳製品がビタミンAをはじめとする10種類の不可欠な栄養素だけでなく、多くの効能(骨と歯の強化、免疫作用、皮膚と目の健康など)を持つこと説明することに力点を置く。
(第3段階:2003年2月)
母親と子供をターゲットに「牛乳乳製品を毎日3回」(「3 serves every day」というメッセージの推進を開始。
現在は特段新たな段階と銘打ってはいないが、「3 serves every day」路線を踏襲している。
なお、このキャンペーンは2002年に国際酪農連盟(IDF)の「Global Marketing Award」を受賞している。
内容としては、(1)TVや印刷物等の媒体での広告、(2)店頭やイベントでの直接的な販売促進、(3)健康に関する専門家(一般医や栄養士など)に対するコミュニケーション、(4)そのほか一般的なPR活動である。
5 南米−ブエノスアイレス駐在員事務所 犬塚 明伸、横打 友恵
1 「消費拡大に向けた取り組み」に係る実施の背景
−豚コレラを撲滅し豚肉の輸出拡大を図るとともに、国内消費を拡大させ牛肉の代替へ−
2002年10月15日、アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SENASA)は、「2002〜2004年豚コレラ撲滅計画」を発表し、「豚コレラを撲滅することは、豚肉輸出の拡大と養豚部門への投資を促す門戸を開くものだ」、「衛生上の問題を解決して日本、ロシア、米国などの市場へアクセスできるようになれば、アルゼンチンの価格競争力を生かして輸出という形で有効に利用できることになり、豚コレラ撲滅計画の重要性が理解できるであろう」と述べた。またアルゼンチン養豚協会(AAPP)のウチェリ会長は、「豚コレラが撲滅されれば、養豚産業に2億5千万ペソ(約95億円:1ペソ=38円)の投資を促し、1万5千人分の職場を確保することになる。さらに、通貨下落により相対的に価格競争力がついており、穀物を輸出するだけでなく穀物に高付加価値をつけて販売するための雇用を伴う生産形態への移行が可能となる」と会見の場で述べていた。
しかしながら、「2002〜2004年豚コレラ撲滅計画」の作成に携わったSENASA職員は2002年の取材時に、「SENASA総裁やAAPP会長は会見の場では外部向けに話が分かりやすい輸出拡大のことを例にとっていたが、実は生産者の一番の目的は国内消費の拡大である。豚肉は年間1人7〜8kgを消費しているが生鮮豚肉はわずか1kg強で、残りはハムなどの加工品である。豚肉はコレステロールが多く健康に悪いなどのイメージがあるため、それらを払しょくするPRが今後必要だと考えている。さらに清浄国となれば国際的に国全体の衛生的なイメージが高まり、牛肉の輸出にも弾みがつき国内向け供給量が減ることになるが、それに代わって豚肉の消費量が増える公算もある」と述べていた。
また、ウチェリAAPP会長は農牧水産食糧庁(SAGPyA)の関心事項として「牛肉の輸出が好調であり輸出価格も経済危機前の価格に回復しつつある。このまま行けば国内の牛肉価格も上昇し牛肉消費量が減る可能性があり、牛肉を主食のように食べている消費者から不満の声が上がるかもしれない。それに対し豚肉の消費量を伸ばせば、食肉全体の消費量を減らさずに牛肉という資源を輸出に回せることになる」と豚肉の消費拡大について興味を持っていることを話していた。
なお、SAGPyAが決議第308/2004号(2004年2月27日付け)を3月2日に公布し、公布後60日から豚コレラワクチン接種を中止することを正式に決定し、5月28日から実施している。
2 豚肉の需給について
アルゼンチンの豚肉に係る需給状況をグラフに示した。80年代までは自給自足状況にあったが、91年には自国通貨ペソとドルを1対1で固定する通貨制度を導入しインフレの収束に貢献した一方でペソ高を招き輸入が増加した。さらに99年にはブラジルが変動相場制へ移行したため実質的な通貨切り下げとなり、さらに価格競争力を高めたことにより安価な豚肉が増え、国内生産の低迷が継続した。表2はこの需給のギャップを見事に輸入品が補っている状況を示している。
年間1人当たりの食肉消費量を見てみると、牛肉の消費が圧倒的に多いことは良く知られた事実だが、それもだんだんと量は減っていることが分かる。また豚肉の消費がほとんど伸びていないのに、鶏肉の消費が顕著に増加していることが分かる。
なお、アルゼンチン人の生鮮豚肉に関する年間一人当たりの消費量について公的データはないが、AAPPからの回答によれば、1999年1.3kg、2001年1.6kg、2002年1.4kg、2004年1.7〜1.8kg(見込み)とのことで、経済危機の2002年以降、多少ながらも回復しているとのことである。この増えた要因についてウチェリAAPP会長は、「スーパーマーケットでは以前、豚肉商品のコーナーがなくかつロースなどの特定部位を不定期にしか置いていなかったため回転率が悪かった。このため小売価格は高く設定され、ますます消費者の購買意欲を低下させ、さらに回転率を悪化した。しかしある1つのスーパーマーケットが価格を低く抑え販売を伸ばすため多様な部位を置くことにし、牛肉と同様なカットでコーナーを設けて陳列したところ牛肉料理の代替肉として販売が向上し、現在では多くのスーパーマーケットがその例に倣った結果であろう」と話している。また、(1)フォーラムなどを開き医者に「豚肉は身体に悪くない」などと説明してもらう(2)シェフ育成学校に出向いて豚肉の調理方法を講演する−などの消費拡大のための活動を行っているが、これらについての活動資金の手当てはない。
表1 豚と畜頭数の推移
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表2 アルゼンチンの豚肉需給
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表3 年間1人当たり食肉消費量の推移
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各データ提供:SAGPyA |
3 豚肉に対する消費者の意識・関心
AAPPが首都圏においてアンケートを行ったところ350人から回答があり、豚肉に関するイメージは以下の通りであった(複数回答)。
・おいしい:92%
・脂肪やコレステロールの含有率が高い:55%
・価格が高い:45%
・健康に悪そう:35%
4 需要促進活動
(1)「全国豚関連フォーラム」の促進活動
SAGPyAは、アルゼンチン産豚肉製品の競争力の強化を図ることを目的に2003年8月「全国豚関連フォーラム」を設立した。
2003年9月3日に開催された第2回フォーラムで豚肉部門の弱点等が分析され、国内への安定供給および輸出拡大等を図るため、(1)豚肉の品質向上(2)豚肉の格付制度(3)中小規模生産者に対する貸付プログラム(4)家畜個体識別とトレーサビリティ(5)家畜衛生の向上(6)国際交渉−などのワーキンググループが立ち上げられた。
この中で消費拡大は「豚肉の品質向上」に包含され、科学的な情報の収集等により豚肉に対する栄養上の偏見や思い込みを排除することが重視され、特に医師や栄養士は豚肉生産に関する情報がなく、豚肉の栄養などに対する最新の情報を必要としていることが明らかになった。また、豚肉は前述のように料理して食べる量が少ないことから、様々なカットに適した調理方法をシェフ育成学校において紹介することなどにも精力を注ぐことになった。
【シェフ育成学校における講習風景】 |
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(1) 食肉パッカーの職員が講師となり、カット作業を実演。
枝肉はパッカーから無料で提供されている。材料代なども含め消費拡大に向けた普及啓発活動資金が欲しいとウチェリ会長は言う。 |
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(2) この日は学校の講師が2品を調理実演したが、写真はモモ肉を使ったポークピカタのアレンジ版(溶き卵に多量の粉チーズが入った衣をつけて油で揚げる)。
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(2)以上のような豚肉消費拡大運動については資金のない中、実施しているところであるため、ウチェリ会長は活動資金が必要と考えており国会議員などにその必要性を説明する活動も行っている。
2004年3月には下院議員が「アルゼンチン豚関連部門振興協会(IPPA)」の設立に係る法案を提出し、現在審議継続中となっている。
IPPAの目的として第3条は、
(1) 国内および海外の消費者のため食品安全を保証する管理体制により、アルゼンチン産豚肉を国内および海外市場において最高の品質の位置付けにすること。
(2) 第1次産業およびその加工産業の競争力をより向上させるための振興プログラムを作成すること。
(3) 国内および海外市場に向けた豚肉およびその加工品の消費促進キャンペーンを実施すること
(4) 国内自給のため養豚を推進すること。また将来的にはカット肉や加工製品を輸出できるようにするとともに原産地呼称の名声を得ること。
(5) アルゼンチン産豚肉およびその製品の国内外消費の促進と拡大のため協定や合意などを推進すること
(6) 生産、加工、流通などの関連セクターにおける効率化および国際競争力の向上、コスト削減に向け調査、研究、開発を推進すること。
などとなっており、生産、消費、輸出の拡大を推進していく機関となっている。
財源としては第14条に「アルゼンチン豚関連部門振興基金」を創設し、第19条には「SAGPyAが公表する生体去勢豚のキログラム当たり取引価格の60%相当をと畜一頭当たりごとに納付する。この金額は売り手と買い手が50%ずつ納付するものとする。また輸入業者は豚肉の場合60キログラム当たりに、また豚肉の混入割合が20%以上の豚肉加工製品の場合30キログラム当たりに、SAGPyAが公表するキログラム当たり平均価格(部分肉ベース)と同額を納付すること」と提案されているところであり、今後この法案が成立するかが注目される。
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