1 はじめに
欧州のいくつかの国とEUには公的な食品品質証明制度があるが、この制度は、フランスが1900年代の初めから整備してきた原産地呼称制度や1960年に制定されたラベルルージュ(農業ラベル)が元になっている。当初は、農業と食品産業近代化・合理化の中で、一見不合理と見られがちな制度であった。しかし、今では、画一的になりがちな食品や食生活に対して、地域や伝統や文化を体現した多様な食品を提供し、食生活を豊かなものにする制度として世界の多くの国で評価されている。行き過ぎた食の利便性や簡便性に対するアンチテーゼともなっており、地産地消やスローフードと通ずるところもある。これと関連して、産地の農業を維持する効果も認められている。
しかし、このような制度を持たない国からは産品の差別化による競争制限や貿易障害になりがちであると警戒されている。ウルグアイラウンドで、産地表示産品を知的所有権の一つとして国際的に保護することが合意されたが、その具体的方法や対象産品についてEUと米国などは対立している。日本にも伝統的な地域の産品は多くあり、今後どのような制度を整備して国内と国外に対応していくか大きな課題である。
本稿は、フランスの品質証明制度について、原産地呼称を除き、特に鶏肉など畜産物に適用が多いラベルルージュ、品質適合認証と有機農産物などについての説明を二回にわたって行うこととし、本月号ではフランスの食品品質証明制度全体の概要とラベルルージュについて説明する。
2 食品の品質に関する法制度
食品の品質については、確定した定義はないが、フランスの定義などを参考とすれば、大きく分けて三つに分類される。第一は、安全と栄養に関する品質で「一般的品質」と呼ばれる。これは誰もが認める食品に必要な品質である。第二は、美味であること、地域や文化などを体現していることなどに関するもので「特別な品質」と呼ばれる。この品質はおいしい食品や多彩な食品を提供するものとして食の楽しみに関連する品質ともいえる。第三は、環境保護、動物福祉などに関連した品質で「社会的品質」と呼ばれる。
食品の安全と栄養に関しては、従来、表示規制や販売事前許可、検査を中心とする法的規制で対応してきたが、現在、食品の安全に対する消費者の信頼が薄れており、より高度な安全の確保について新たな方策が世界各国で検討されている。これらは、予防原則やトレーサビリティなどである。
第二の美味であることなどの「特別な品質」については、個人の主観が大きく左右することから、米国などアングロサクソン系の国では、行政は介入せず、民間の自由に任せ、市場における競争の中で食品企業がブランドとして確立していくべき問題とされた。しかし、フランスなど欧州のラテン系の国では、農業・食品産業の効率化・合理化の中で放っておけば消滅しかねない地域の伝統的な食品を維持する制度として「特別な品質」に関する公的品質証明制度が整備されてきた。これらは、原産地呼称やラベルルージュなどである。
第三の環境保護などに関する社会的品質については、消費者の関心が最近急速に高まってきており、品質としての法制度をどのように整備していくかがこれからの課題となっている。合理農業(総合農業)、パーマカルチュアー、Good
Agricultural Practicesなどが農業部門で検討されている。エコマーク、ISO14000、社会的責任ISOもこの範ちゅうに入る制度であろう。
3 フランスの食品品質証明制度
(1)食品品質証明制度の概要と制定の経緯
フランスでは、公的な食品品質証明制度として、原産地呼称が1919年、ラベルルージュが1960年、有機農産物が1980年、品質適合認証が1990年に制定されている。これらの制度は、それぞれの時代の要請に応じて順次形成されてきたものであるが、原産地呼称制度がフランスの食品品質証明制度の発展の基礎となっている。1919年に制定された当時の法律の目的は、各産地の上級ワインの偽物が市場に多く出回っていたので、これを防止することが目的であった。上級ワインとはどのように定義されるか問題になったが、産品の品質としての特徴は、気候・土壌などの自然条件、人間の営み、伝統・文化の総体である産地によって決まり、品質の違いを区分する基準は産地しかないと判断した。産地の産品の名声は、多くの人がその品質を評価して、形成されてきたものであり、品質が高級であるが、法律上は高級という考え方は明示的にはとらず、産地の特色を体現していること自体に品質としての価値を与えた。
原産地呼称制度は、試行錯誤の末、1935年になって原産地呼称の一形態である統制原産地呼称(AOC)を導入し、制度をほぼ完成させた。それは、生産地域を確定し、原材料は基本的にはその地域で生産されたもののみを使うこととし、製造方法は伝統的な用法を用いる。これらの条件に合致した生産による産品のみがその産地名を名乗ることができることとした。これらの生産条件は、生産者の組合と公的専門機関で協議して原案を作成し、公的専門機関の提案によって国が政令として定める。さらに、国と公的専門機関が生産と流通において指導と監視も行うというものであった。
以後、フランスの食品品質証明制度は、基本的には、この方式を踏襲した。
この原産地呼称制度は、各産地のそれぞれに特色のある伝統的な食品を守り、発展させることによって、食品のバラエティーを多くし、かつ、食品に文化と伝統を反映させ、消費者の食生活を豊かにするものと認識された。
また、原材料は、その産地のものしか使わないという制度なので、産地の農業を維持し、発展させることにも役に立った。ワインやチーズなど原産地呼称適用産品は、パリ近郊の大農場地帯ではなく、比較的辺境の地域で多く生産されており、これらの条件不利地域の経済の維持・発展にも貢献している。
一方、第二次大戦後、欧州でも農業生産の復興が始まったが、米国ですでに発展してきていた大量生産と効率化によるコスト削減を基礎とする近代的農業が導入された。この農業の近代化を進める中で、フランスの伝統的な農業が消滅してしまうのではないかと懸念されるようになった。例えば、米国流のブロイラーの生産の普及によってフランスの伝統的な養鶏が消滅してしまうのではないかと危ぐされた。そこで、伝統的な食品とそれを支える農業(あるいは小農)を守る制度としてラベルルージュを創設することとし、1960年の農業の方向付けに関する法律でこれを明確にした。
既にあった原産地呼称制度と異なり、産地を基準とするのではなく、伝統的な生産方法に従って作られた産品について政府が証明するというものである。制度としては、生産者の組合と認証機関で生産基準を作成し、それを公的専門機関が合意し、さらに政府が承認する。認証機関は生産基準通りに生産が行われているかどうか監視する。政府、公的機関も指導や監督を行うという方式である。この農業ラベルは、原産地呼称制度では採用しなかった「高品質の食品」という概念を法律上初めて導入した。
ラベルルージュは、農業の近代化・合理化の進展に伴い、食品が画一化していく中で、伝統的な特色ある産品を守り、さらに、主として小農が支える伝統的農業を一部保持していくという目的を持っている。従って、制度の基準はあくまでも生産方法であるが、産地の伝統的食品という要素も色濃く残している。
1990年には、ラベルルージュと手法は基本的には同じであるが、より簡便な品質適合認証制度が作られた。認証の申請は、生産者の集団に限定せず、個人あるいは一企業でも可能としたことと、原則として政府の承認を必要とせず、認証機関の認定で足りるとしたことが特色である。また、ラベルルージュで必要とされる高品質であることの条件もない。品質適合認証は牛肉、豚肉など肉類、家きん、豚肉加工品、乳製品、野菜・果実などに多く適用されている。
さらに、有機農業・農産物については古くからいろいろな形で民間の団体主導で推進されていたが、フランスでは、1980年の農業の方向付けに関する法律によって国として制度化された。実際に有機農業生産基準が作成されたのは1986年で、この頃には、ドイツ、イギリスなども有機農業を国が認める制度として確立した。
なお、ECは1992年の市場統合を前にして、加盟国が発展させてきた品質証明制度の法的調和およびECとしての保護を目的として、地理的表示産品と伝統的産品の登録と保護に関する規則を1992年に制定した。また、有機農産物についても各国間の制度の調和を図るため、1991年にEC規則を制定している。
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(2)フランス食品品質政策
以上のような食品品質証明制度は、戦後のフランス農業政策の重点事項の一つととらえられ、制度の充実と産品の普及が図られてきた。農業の近代化・合理化に伴う大規模生産による合理的な価格での農産物・食品の生産という流れの中で、高品質であることによって比較的高い価格での販売による再生産を可能とし、各産地の多様な食品を提供するとともに、地域の農業を維持発展させる制度として、食品品質政策(qualit? des
produits )又は、農産物・食品に価値を付与する政策(Valorisation des produits agricoles et alimentaires)とも呼ばれている。
1960年の農業の方向付けに関する法律によるラベルルージュの創設以来、数次の農業の方向付けに関する法律で食品品質政策は農業政策の重点事項とされた。1990年代になって、今まで個々の法律で定められていた、原産地呼称、ラベルルージュ、品質適合認証、有機農産物および山岳地域産品の規定が農業法典に食品品質証明制度として一括して編入された。さらに、1999年の農業の方向付けに関する法律によって、食品品質証明制度の目的が農業法典に定められた。
食品品質政策の目的は、以下のように規定されている(農業法典第L640−1条)。
(1)消費者への情報提供を強化し、また、消費者の要求に応えるため、産品の多様性を促進し、農水産物と食品の特徴とその生産方法についての認識を広めること。
(2)農業及び食品産業の発展を強化し、また、市場での明快な差別化によって産品の品質を向上させること。
(3)農業と食品生産を国土に定着させ、また、特に、条件不利農村地域の経済活動の維持を確保すること。
(4)農水産物および食品の付加価値化を農水産業者、加工業者および流通業者間で公平に分配すること。
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(3)品質証明産品の普及
1970年代になると農産物の過剰傾向が現れ、消費者は食品について量よりも質を重視するようになってきた。これに伴って品質証明産品の需要も多くなり、次第に定着していった。さらに、欧州における牛海綿状脳症(BSE)発生後、ラベルルージュ産品、品質適合認証産品、有機農産物などの品質証明産品はより安全で安心できる産品として消費が急速に増大している。
現在の品質証明産品の数は、2001年で統制原産地呼称(AOC)ワインおよび蒸留酒が466、AOCチーズなど乳製品が45、ラベルルージュが435、品質適合認証が299(2003年)である。販売額を見ると、原産地呼称ワインは、2001年では135億ユーロ(約1兆7,700億円、1ユーロ=131円)で、ワイン販売額の82%は原産地呼称産品であるとされる。また、ラベルルージュ産品の消費額も近年伸びてきており、2001年で35億ユーロ(約4,600億円)に達し、鶏肉では生産額の17%、また、家計消費全体の21.7%を占めている。さらに、品質適合認証産品は、制度設立から10年しか経過していないが、BSEの発生を契機として、安全な食肉を証明する産品として消費が急速に拡大し、2001年時点では、ラベルルージュ産品の販売額をはるかに超える54億ユーロ(約7,100億円)となっている。
なお、食品品質証明制度の対象となっている産品は畜産物が多く、原産地呼称ではワインが圧倒的に多いが、ラベルルージュでは、生産額の84%が畜産物で(2001年)、また、品質適合認証でも認証数の約70%が畜産物となっている(2003年)。
このように、フランスの食品品質証明制度による産品は家計における食品消費の19%(2001年)まで達しており、経済的にも大きな意味を持つようになっている。また、品質証明産品を生産し、あるいは原料を供給する農業でも重要な地位を占め、全農業経営体の27%に相当する17万7,477戸の経営体が品質証明産品の生産に関与している。
(4)食品品質証明制度の食品安全の重視
このように、品質証明産品が最近においても増加している一因に、品質証明産品が、最近の消費者の食品の安全に対する関心の高まりや、環境問題や、より自然な生産方法などへの要求にも対応した食品であるとの認識が高まっていることが挙げられよう。品質証明産品の品質は、生産基準によって証明されるが、生産基準は、基本的には伝統的生産方法をよりどころとしており、伝統的な生産においては化学肥料や農薬はあまり使われておらず、かつ、より自然にかなった栽培や飼育方法であることである。ちなみに、AOCにおいては、法律にAOCワインおよび蒸留酒は、ブドウの栽培、醸造、蒸留の過程で何も加えない自然の製造を前提とするものでなければならないと規定されている(1935年AOC法第21条)。ラベルルージュにおいても化学品や薬品の使用は極力避け、飼料についてもできる限り自然のものを使うことが生産の条件になっている。
さらに、最近、特にラベルルージュ産品の生産基準が安全面により配慮したものになりつつあり、品質適合認証においては、安全な食品であることを前面に打ち出している。食品品質証明制度は、このような安全面のほか、環境保護、動物福祉などの社会的品質にも対応できる制度であり、現在の食品の安全に関する法制度では十分対応できない分野をカバーできるという面も持ち合わせているといえる。
4 ラベルルージュ
(1)ラベルルージュの定義と適用産品
ラベルルージュ(農業ラベル)は、1960年の農業の方向付けに関する法律で設立された食品の品質証明制度である。実際にラベル産品が出現したのは1965年であり、「ランドの黄色鶏」と「ロートレックのバラ色にんにく」であった。続いて「ルエの鶏」が承認された。現在、消費法典第L115−21条にラベルルージュが次のように定義されている。
「ラベルは、ある食品および加工されていない食品以外の農産物が前もって定められた生産基準を満たしていることによって、他の同種の産品と区別される品質と特徴を有しており、かつ、高い品質を有するものであることを証明する。」
また、味覚においても差がなければならないとされている。
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ラベルは、これを認証しかつ管理を行う認証機関を通じて、上記の特色を満たす産品の基礎となる生産基準書を添えた申請書を関係省(農業を担当する農業漁業省および消費を担当する経済・財務・産業省)に提出し、承認を受けなければならない。
ラベルの承認申請は、農業者や加工業者の団体のみが行うことができ、個人や一企業は申請できない。従って、ラベルは、集団的な知的所有権(商標)と認識されている。
ラベルは、特徴あるサイン(ラベルルージュ)を産品に添付して流通させることとされており、これによってラベル産品であることが流通業者や消費者に認識される(ロゴができたのは1973年)。なお、このサインは農業漁業省が所有する商標とされる。また、認証機関は、このサインを知的所有権法典L715−1条による認証の集団商標として登録することができる(1996年3月12日付け政令第38および41条)。
ラベルは原産地呼称産品には適用にならず、混同を避けるため産地の名称は原則としてラベル産品に用いることはできない。しかし、EUの品質証明制度の原産地呼称保護(PDO)又は地理的表示保護(PGI)に登録してある場合はその産地表示を用いることができる。
なお、ラベルは、PDOには登録できないが、PGIと伝統的特産品保証(TSG)への登録は可能となっている。
現在、ラベルを取得している産品は、鶏などの家きん、フォアグラ、ハム、ソーセージなどの豚肉加工品、豚肉、牛肉などである。2001年現在で435品目が承認されており、生産している経営体は2001年で5万4,000戸、年間販売額は約35億ユーロ(約4,600億円)である。なお、25の認証機関が関与している。
(2)ラベルルージュの政府承認の手続き
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1996年3月12日付け、「食品および非食品・未加工農産物の証明に関する政令」によって定められている承認などに関する手続きは、次の通りである。
ラベルルージュの承認は、生産基準(Cahier des Charges)の政府の承認とこの生産基準の順守を監視する認証機関への政府の同意からなっている。
生産基準の政府の承認は、承認申請をした農業グループに対してなされる。ラベルルージュの承認は、ラベルおよび認証全国委員会( Commission
Nationale des Labels et des Certifications de Produits Agricoles et Alimentaires
)の意見を聴いた後、農業漁業省および経済・財務・産業省共同の省令でなされる。
承認は、1年間の期間で暫定的に行うことができ、暫定承認は1回に限り更新することができる。
ラベルの承認の申請は、ラベルおよび認証全国委員会を通じて行われ、次の書類が添付されていなければならない。
・正確な産品の名称
・申請者である集団の性格、特に集団への加入条件
・生産基準
・産品の高級な品質を確保する要素
・表示のモデル
・認証機関の名前
なお、1996年以前は、ラベルに全国ラベルと地域ラベルの2種類があり、承認手続きが異なっていた。全国ラベルは、生産基準も含め関係省庁から承認される。一方、地域ラベルは、ラベルの承認は政府からなされるものの、生産基準は、知事が県に設置している高品質食品地域委員会(地域委員会)に協議した後承認することになっていた。1996年以降この区別がなくなったが、以前に承認された地域ラベルはそのまま有効であり、今でも存続している。また、地域委員会は引き続き存続しているが、その任務は、地域における食品と農産物の品質の政策に関する問題について検証することである。
ラベルルージュ産品の生産基準は、ラベルおよび認証全国委員会が審査する前に、公開の協議に付される。生産基準は官報で公表され、2カ月以内に意見が書面でラベルおよび認証全国委員会事務局に対して提出される。
認証機関の設立は、ラベルおよび認証全国委員会の意見に基づき、農業漁業省および経済・財務・産業省からの同意を受けなければならない。認証機関は、活動条件の変更がある場合は、関係省庁に報告しなければならない。関係省庁は活動条件の変更が重大と見なされるときは、ラベルおよび認証全国委員会の意見を聴いて、同意の取り直しを行う。また、認証機関は、毎年活動の報告を関係省庁とラベルおよび認証全国委員会に対して行うものとする。さらに、認証機関は、機密事項を除き、認証の方法、集団の名簿、ラベルルージュ産品などに関する資料を公表しなければならないこととなっている。
(3)ラベルルージュの性格と意義
第二次大戦後、欧州の農業が完全に復興しない時期に、戦中、戦後を通じて世界の食料の供給を賄っていた米国が近代的な農業と食品生産の方式を進展させていた。このような近代的、合理的な農業、食品生産が欧州にも浸透してくると、欧州の伝統的な農業や食品が消滅してしまうのではないかと懸念されるようになった。
フランスでは、特にこの懸念が象徴的に現れたのは、鶏である。近代的なブロイラー生産の前に、伝統的な鶏の生産は、維持できなくなってしまうのではないかと危ぐされた。地域の伝統的な食品を守る制度として原産地呼称制度が既にあったが、この制度は、産品の特色を産地によって証明する制度であり、適用できる産品はそれほど多くなく、主としてワインやチーズのみであった。フランスの伝統的な鶏の特色は飼育方法の問題であって、産地によって特色があるというものではなかった。そこで、伝統的な栽培方法あるいは飼育方法に着目し、これに従って生産された産品が高品質として高く売れるようにする制度が考案された。
従って、このラベル制度の基本は、栽培あるいは飼育の生産基準(技術的基準)がしっかりしていて、生産者のみでなく、流通業者や消費者にも理解されるものであること、つまり、この生産基準通りに生産されれば、他の同種の産品より品質が良く、かつ、美味であると理解されるようなものであることであった。また、生産基準通りに生産されることを確実にするため、外部から生産を監視する認証機関を設けることとしたものである。また、政府が生産基準を含むラベルを承認することとし、承認に当たって、公的な機関であるラベルおよび認証全国委員会から意見を聴くこととしている。さらに、生産基準は一般からの意見も求めることになっている。なお、前述のように、他の産品よりは品質が良いことを保証する必要があることから、他の産品の品質が向上すれば、ラベルおよび認証全国委員会の意見により、それに応じた生産基準の変更が検討される。
この場合、生産基準を順守した生産を可能としている大きな要素は、農業者が組合を構成し、組合員同士がどのようにしたら高級なものができるのか、組合員が順守できる規準はぎりぎりどこまでなのか、採算的に可能な生産基準はどうなのかなどを話し合い、できた生産基準は組合員全員が守ることを約束することである。また、生産における違反は、まず組合員同士がけん制できるからでもある。この農業者の集団としての活動に対しては、生産量や価格の基準について競争政策上の例外が認められている。また、偽物が出回ることに対しては、厳しい法的な罰則を導入してラベル産品を保護している。
しかし、農業者だけではラベル産品に関する宣伝・普及の能力が限られているので、この分野では公的機関が大きな役割を果たしている。政府および公的機関はラベルの広報・宣伝に多大な努力を払っている。
(4)ラベルルージュの生産基準
政府は、必要な場合には、ラベル産品が最低限守るべき生産上の技術説明書(notices techniques)を認定することになっている。現在、ラベル上重要な産品の子羊、豚肉加工品、生鮮豚肉、鶏、若鶏、去勢鶏、七面鳥、フォアグラ、ホロホロ鳥、子牛(母乳のみで育てたもの)、子牛(乳のみで育てたもの)、および牛肉について、この技術説明書が策定されている。個々のラベル産品では、これらの技術説明書を基に産地の実情に合わせた生産基準を作成し、政府から承認を得て、これに従ってラベル産品の生産が行われている。
政府認定の鶏(農場産)の技術説明書を見ると、飼育する鶏の系統、飼育方法、飼料の種類、衛生計画、と鳥齢、と鳥方法、調製、販売、表示、宣伝について規定されている。その中で、飼育方法、飼料の種類、衛生計画、と殺齢などの主な基準は次の通りである。
鶏の技術説明書による生産方法は、ブロイラー生産とはかなり異なる方法であることがわかる。この生産基準を順守することにより、脂肪分が少なく、肉が引き締まっており、しかも、しっとりとした鶏肉を生産することを目標としている。また、安全面にもかなり配慮した生産基準になっており、かつ、鶏にとってより自然な飼育方法であることも分かる。このことによって、安全で、より自然にかなった食品を提供できる制度でもある。
さらに、牛についての技術説明書をみると、最近のBSEの発生などを契機として、安全面にさらに配慮した基準となっている。
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(5)ラベルルージュによる安全や動物福祉の品質保証
全国食品委員会(Conseil National de l’ Alimentation, CNA)の意見書が指摘している通り、生産者、消費者、公的機関の相互作用によって品質の概念は時代とともに変化していくものである。現在は、消費者の安全への関心が強まるとともに、いわゆる社会的品質(環境保護、より自然なもの、動物福祉、)にも関心が強まっている。このような安全を超えた安心や社会的品質の確保に対しては、食品の安全に関する現在の法制度では有効に対応できない面もあるが、ラベルは生産・流通への介入であるので、これらの新たな品質要求にも対応できる制度であるといえる。表にある鶏と牛の技術説明書は1998年に改正された最近のものであり、前述のように安全面や動物福祉にかなり配慮した基準となっている。
今後、十分な分析がなされるべきであるが、事実、ラベル産品が高品質でより美味なものというほかに、より安全で安心できるもの、より自然なもの、また、家畜に配慮した生産基準になりつつあり、それを消費者にアピールすることによって、ラベル産品の高価格の維持と販売促進が図られていると思われる。
ただ、問題は、ラベルの適用品目が多くなり、生産量も多くなるにつれ、その希少価値が薄れ、他の産品と違った高品質であることを消費者に理解してもらうことが難しくなりつつあることである。さらに、流通業などが主導する高品質と安全を強調した民間の食品品質証明も発達してきており、それらとの競合・競争という問題もある。
5 おわりに
フランスがこのような食品証明制度を発展させてきたのは、フランスをはじめとする欧州ラテン系の国の食文化によっている。地域と食品の多様性を尊び、食を楽しむ価値観が基になっているのであろう。伝統、文化に関連する極めて主観的な事柄についてかなり詳細な法制度を定め、公的機関が介入する形でこの食文化を守り、発展させてきたところに特色がある。経済のグローバリゼーションの進展に伴って、このような制度が貿易障壁と見なされる場合もあるが、文化に関連する問題だけに解決は容易でないと思われる。また、この食品品質証明制度が国内農業の保護にもなることがまた、貿易論争に拍車をかけている。現在の消費者の食品に対する要求は、多様になってきており、低価格で簡便かつスピーディな食品に対する要求がある一方で、より安全で安心な食品のほか、より自然な、あるいは文化や伝統や地域を体現した高品質の食品に対する要求も最近強くなっている。食品品質証明制度はこのような消費者の要求に応え得るものとして新たな意味を持つようにもなっている。
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