豪州農相、輸入リスク評価体制の強化策を発表


度重なる業界からの批判に対応

 豪州連邦政府のトラス農相は7月15日、農産物輸入に関連する害虫と疾病のリスク評価体制の強化策として、現在の輸入リスク分析(IRA)の担当機関であるバイオセキュリティー・オーストラリア(BA)の組織改編などの方針を発表した。

 BAは現在、農漁林業省(DAFF)の「市場アクセス・バイオセキュリティー局」内の機関で、主な業務として、動植物のIRAと、豪州産農産物の輸入国との検疫問題の交渉を通じて豪州の輸出市場アクセス拡大の支援を行っている。

 BAが2月に発表した豚肉、リンゴ、バナナに関する3つのIRA報告書は、関係業界から激しい反発を受けている(「海外駐在員情報」通巻第616号・第629号参照)が、今回の方針はIRAを貿易問題から切り離し、併せてリスク評価体制の強化を図ることが狙いとみられる。

組織の改編と手続きの強化

 同農相は、「豪州のIRA手続きは現行でも厳格かつ透明であるが、すべての利害関係者から手続きに対する最大限の信頼を得られるように、その行政手法をさらに強化する」とした上で、次のような変更内容を示した。

(1) BAの組織改編

  貿易問題に対する考慮が科学的な分析よりもIRAに影響を与えているという認識を払しょくするために、BAをDAFFの農産物の市場アクセス(貿易)部門から別の機関として分離し、事務次官補が直接監督する体制とする。

(2) IRAの評価手続きの強化

  手続きに対して客観的な精査を保証し、反論が科学的根拠に基づき考慮されることを証明するために、最終報告書の発表前に次のような措置を講じる。

・ IRAの草案に対する利害関係者のコメントを評価するため、新たに独立した科学者のグループが設置される。

・ IRA報告書案に対するコメントの評価のため、現在のIRAパネルに加え、協議期間末において新たに特別の科学者のグループが設置される。

・ ただし、利害関係者が最終報告書に対して異議申し立てを行う機会は残る。

輸出入検疫措置の同一性確保を強調

 現在進行中のリンゴとバナナの取り扱いを含めて今回発表した方針により今後のIRAは実施されることになる。ただし、リンゴ業界などはIRA自体が振り出しに戻ることしか解決策はないと批判的であり、豚肉については、業界団体であるオーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)が既に連邦裁判所に提訴したことが伝えられている。

 なお、今回の方針発表の中で同農相は、豪州産農産物は輸出依存度が高いが、市場アクセスの拡大のためにも、科学的根拠に基づいた取り組みが重要であり、「輸入品についても同様に科学的な根拠に基づいた評価を行わなければ、輸出市場喪失という極めて現実的な問題に直面しなくてはならない」と輸出入に対する検疫措置の同一性を確保することの重要性を訴えている。

 加えて同農相は、豪州の検疫業務は世界最大かつ最強であり、過去3年間で検疫官の数を2倍にし、検疫予算も10年前に比べて10倍以上になっていることを示し、輸入条件を現行より緩和した場合でも万全の検疫体制があることを強調した。


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