ヤギ乳生産の試み始まる ● タ イ


開発計画でニッチ市場開拓を規定

 タイでは第9次国家経済社会開発計画の中で規定される農産物競争力強化の一環として、農産品におけるニッチ市場の開拓が実施方針として定められている。 

 具体的には、将来的にアフリカ、アラブ諸国などへの輸出振興を目標としたハラル*食品ハブ化構想に基づき、深南部パタニ県にハラル食品加工場の整備計画が進められている。

 これと併せ、農業協同組合省畜産開発局(DLD)は現在、主に南部イスラム系住民に向けてヤギ飼養を奨励している。

 

国内消費の現状

 また、牛乳に比べ健康食品としてさまざまな利点を持つヤギ乳に関する関心が、大消費地バンコクを中心に近年徐々に高まりつつある。具体的には、一般的な牛乳と比較した場合ビタミンA、B、リボフラビン、カルシウムのほか、微量要素などが豊富であること、低コレステロールであること、脂肪球が小さいため消化吸収が優れており、なめらかな舌触りが得られること、などが挙げられる。なお、従来ヤギ乳消費における阻害要因とされた特有の臭気は好条件の衛生管理で防止することが可能である。

 なお、バンコク市内におけるヤギ乳の小売価格はパスチャライズ牛乳のほぼ倍額(約20バーツ/200ml(約54円):1バーツ=2.7円)で、固定客化が特徴となっている。

 

飼養および輸出の動向

 DLDが発表した2004年の畜産統計によると、タイ国内のヤギ飼養頭数は1995年の13万頭から25万頭と、およそ1.9倍の増加となっている。最も飼養頭数が多い地域は、政府が重点対策を取っているマレーシアと国境を接する深南部行政第9区(7県)の9万9千頭で、全国のおよそ4割を占めている。ただし、農家戸数としてはこの地域で全国2万9千戸の7割を占める。そのほか、中部ナコンサワン県およびカンチャナブリ県、南部クラビ県で1万頭を超える頭数となっている。

 種畜の輸出は従来ほとんど実績がなかったが、2004年にはおよそ1,400頭がカンボジアへ輸出されている。

 

国内最大の乳用ヤギ農場建設される

 南部で政府の政策誘導によるヤギ飼養振興が活発化する中、一方でミャンマー国境にほど近いカンチャナブリ県北部では国内最大級の民間のヤギ乳生産農場が稼働し始めている。華人系財閥であるマーブンクロングループの四男、シリチャイ氏が2年前の2003年5月に開始したこの牧場は総敷地面積1,700ライ(272ha)、豪州およびNZから導入したザーネン種を中心に現在飼養頭数7千頭で、2007年までに3万頭に増頭する計画とされている。現在は増頭期であるため雌は全頭後継種畜とし、雄は一部種付け用に保留するほかは肉用として出荷している。

 1,500頭の搾乳ヤギから生産された、1日当たりおよそ4トンの生乳はパツンタニ県にある生乳加工場へ輸送され、全量パスチャライズ乳として販売されている。これらは系列のショッピングセンターなどで販売されるほか、一部は代理店を通じて主にバンコク市内を中心にチェンマイ、ナコンラチャシマなどへ出荷される。

 

政府による農家補助

 DLDの家畜普及部中小家畜担当者にインタビューしたところ、現在行われているヤギ生産振興策としては、種畜センターからの優良種畜の提供、農場の衛生検査、動物用医薬品の提供、講習会などの開催による技術研修などがある。価格統制制度はなく、奨励品種は気候適応性の高いザーネン種とされている。また、生産品の安全性確保のための取り組みとして、5月初旬にヤギ乳に関する全国世論調査を行い、この結果に基づき9月末日を目標として生産段階における安全基準の策定を行うとされた。なお、現在ヤギ乳の品質基準等は牛乳のそれに準拠している。

*ハラル:イスラム教の教義にのっとり適切に処理された製品

 

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