特別レポート

EUの遺伝子組み換え体(GMO)に関する規則などについて

ブリュッセル駐在員事務所 山﨑 良人、和田 剛

1 はじめに

 EUでは、90年代の初めから、人の健康および環境を保護するため、また、安全な遺伝子組み換え体(Genetically Modified Organism:GMO)のEU域内での自由な移動を確実とするためGMOに関する規則が機能している。こうした中、EUでは、98年10月以降GMOの安全性に疑問があるとして、GMOの新規承認を凍結していた。

 EUの世論調査であるユーロバロメーターが2001年に、ヨーロッパの科学と技術についての調査結果の中で、GM食品について調査した結果では、94.6%がGM食品であることを選択する時点で知る権利が欲しい、85.9%が食べる前にGM食品についてもっと知りたい、70.9%は、このタイプの食品は欲しくないと回答している。

 このようにGMOについて慎重な意見が多い中、EUは、新規認可に向け、2003年9月に新しい規則を施行し、2004年5月には、約6年ぶりに新規GMOの承認を行った。また、GM家畜飼料については、2004年7月以降、4件のGM作物が家畜飼料への利用目的での使用が承認されている。

 これらが承認される過程において、通常であれば欧州委員会の提案が、EUの常設委員会や法制委員会で特定多数決により採択されることが最も望ましい。しかしながら、いずれの承認のケースにおいても、各委員会で採決に至らず閣僚理事会に送られ、ここでも特定多数決ではなく、閣僚理事会が採択を行わないことにより欧州委員会の提案が承認されることになったものばかりである。

 また、これまでに、承認されたGMOのうち、加盟国の数カ国では、これらの利用や販売を禁止する制限措置を実施している。

 このように、EUにおいて、GMOの承認が再開されたものの、まだまだこれらに対する慎重な意見が多い状況である。今回のレポートでは、EUでGMOの消費、流通、栽培などを行うために、機能している規則、承認手続き、承認されたGM家畜飼料の状況などを紹介し、EUでのGMOに関する状況を理解するための一助とする。

 

2 GMOに関する規則

 EUでのGMOに関する規則の目的は、

●人の健康および環境を保護すること
●EU域内で安全で健康なGM製品の自由な移動を確実にする(保証する)ことである。

 この目的を達成すべく、次の規則が規定されている。

・遺伝子組み換え微生物(GMM)の利用を含む理事会指令(90/219/EEC)

 この指令は、GMウイルスやバクテリアのようなGMMが関係する研究および産業活動について規定している。この規則は、GMMを取り扱う閉鎖した環境が人や一般環境に接触することを回避するためのものであり、研究所での活動が主なものとなる。

・GMOの一般環境への慎重な導入に関する欧州議会および理事会指令(2001/18/EC)

 この指令では、次の2つタイプの活動を認めている。

−一般環境へのGMOの実験的導入に関すること。これは、実験目的での一般環境へのGMOの導入(例えば野外試験)などである。

−GMO(GMOを含む製品またはGMOから成る物質)の市場への流通に関すること。これは、GMOの栽培、輸入、工業製品へのGMOの形質転換などである。

・GM食品および飼料の市場流通に関する欧州議会および理事会規則(EC/1829/2003)

 この規則は、GMOを含む食品・飼料、またはGMOから成る食品・飼料の市場への流通を規定している。

・GMOの国境を越える移動のための欧州議会および理事会規則(EC/1946/2003)

 この規則は、EU域内の移動を除くEU加盟国と第三国の間でのGMOの国際的な移動について規定している。

・GMOの表示(ラベリング)とトレーサビリティおよびGMOから生産された食品・飼料のトレーサビリティに関する欧州議会および理事会規則(EC/1830/2003)

 この規則は、GMOやGMOから生産された食品・飼料を市場で流通させるための表示とトレーサビリティの条件を規定している。

 主なものは、上記の5つの規則であり、そのほか、これらに関係する規則などがいくつか規定されているので、参考までに紹介する。

・欧州議会および理事会規則EC/1829/2003を実行するための詳細のルールを定める委員会規則(EC/641/2004)

・GMOのための独自の鑑定者を育成、指名するためのシステムを設定する委員会規則(EC/65/2004)

・欧州議会および理事会規則EC/1830/2003に関連する製品でGMOから生産された物質とGMOのサンプリングと検出のための技術的手引きに関する委員会勧告
(2004/787/EC)



3 GMOの一般環境への慎重な導入

 GMOの一般環境への導入は、GMOの実験目的での導入または市場への流通に分けられる。

 GMOの一般環境への実験目的は、主に調査、研究、実証および新しい種の開発を目的としている。もし、実験結果に問題がなければ、企業はGMOを市場に流通させるための決断ができることになる。GMOを市場に流通させることは、第三者が無償または有料でGMOの利用が可能になり、栽培、輸入または異なる製品への形質転換の目的で市場に流通させることができる。

(1)指令2001/18/ECの内容

 指令2001/18/ECでは、次のことを規定している。

−環境リスクアセスメントのための原則

−ほかのGMOと環境との相互作用に関係する長期的な効果を含む、販売後の義務的な監視条件

−一般公衆への義務的な情報提供

−市場に流通させるすべての段階での表示(ラベリング)およびトレーサビリティを確実にする加盟国のための条件

−販売後検査と管理を容易にするためのGMOの認証および検出に関する情報提供

−最大10年間限定のGMO導入の最初の承認

−科学委員会および欧州食品安全機関(EFSA)への協議の義務

−GMOの導入の承認を決定するための欧州議会への協議の義務

−特定多数決によるGMOの承認のための欧州委員会の提案を合否する閣僚理事会の手続き

※特定多数決(Qualified Majority)

 特定多数決は、EU設立条約第205条に規定されており、加盟国により異なる票数が与えられ、欧州委員会の提案事項に関する採決には、232票以上の賛成が必要とされている。

 加盟国の票数は次のとおり



(2)GMOの一般環境への慎重な導入の承認手続き

ア 実験目的での導入手続き

 GMOを実験目的で一般環境に導入することを希望する個人または企業は、まず、実験のための導入を行う加盟国の主管当局により承認を得なければならない。この承認には、環境と人の健康のためのGMOによるリスクの存在の評価について行われる。

 GMOを実験目的で一般環境に導入する可否の決定は、もっぱら申請書を受け取った加盟国の主管当局次第となっており、承認の手続きはその国で完結する。これは実験目的での導入の承認の特徴となっている。また、導入の承認は、届出書が提出された加盟国だけでの適用となるが、ほかの加盟国および欧州委員会は、申請を受けた加盟国の主管当局の調査(評価)に意見を述べることが可能となっている。

イ GMO自体またはGMOで構成する製品を市場に流通させるための承認の手続き

 指令2001/18/ECに基づき、企業が主に営利目的でGMOを市場に流通させる場合の承認手続きは、EU域内すべてにその製品が自由に流通することを意味するので、実験目的の導入とは対照的に、単に申請のあった国だけではく、すべての加盟国が関係することになる。

 申請者は、まず指令2001/18/ECの第13条に掲げられた項目に基づき作成したGMOの申請書を、EUの市場に流通させることを最終的に承認する加盟国の主管当局に提出する。申請書を受け取った加盟国の主管当局は、当該GMOを評価した見解(opinion)を発表しなければならない。この見解は、肯定的なものまたは否定的なものどちらでもあり得る。否定的な見解のレポートが出された場合、ほかの加盟国の主管当局に同じ申請書を提出が可能であり、提出のあったこの当局は、最初の当局と異なる見解を発表しても良い。

 GMOを市場に流通させるための肯定的な見解を出した加盟国は、申請書を受領し、評価レポートを作成後、欧州委員会を通じて、そのほかの加盟国に通知をする。そのほかの加盟国および欧州委員会は、評価レポートを調査し、意見や異議を唱えることができる。

 もし、そのほかの加盟国や欧州委員会により、異議がない場合、最初の評価を実施した主管当局が、GMOを市場に流通させることを承認し、発表されたすべての条件に従い、EU域内の市場に流通させることができる。承認は、最大10年間持続し、販売後監視プログラムの結果などの特定の条件を満たせば更新が可能である。

 もし、異議が唱えられた場合、加盟国、欧州委員会および申請者の間で、懸案の問題を解決するための調停時期を設ける。調停時期の終了まで、異議が唱えられていた場合、EUレベルで解決を実施することとなる。欧州委員会はまず、医学、栄養学、毒性学、生物学、化学およびそのほかの類似した学問に関連した分野で高い学識のあるそれぞれの研究者たちから成るEFSAに見解を依頼することになる。EFSAの見解を受領後、欧州委員会は、その見解を決定案として加盟国の代表から構成される法制委員会に提出する。法制委員会は、特定多数決により採決を行い、賛成となれば、欧州委員会の提案は決定となる。しかし、法制委員会で賛成の決定に至らなかった場合、提案は閣僚理事会による特定多数決による採決に送付される。閣僚理事会で賛成となれば、欧州委員会の提案は決定となるが、3カ月以内に閣僚理事会が議決を行わなかった場合も、欧州委員会の提案が承認されたと見なされる。

 申請に対する承認手続きの間、主管当局の評価レポート、またはEFSAの見解などのデータには、インターネット(http://gmoinfo.jrc.it)によりアクセスできるようになっている。


(3)環境リスクアセスメント

 健康と環境の観点から見たGMOの安全性は、レシピエントとなる受容体の性質、挿入された遺伝物質、製造される最終物質、レシピエントの環境、GMOと環境の間の相互作用によることになる。環境リスクアセスメントの目的は、GMOが作用し得る有害な影響を確認し、評価することである。この確認、評価には、GMOの直接的または間接的な効果、即座にまたは遅れて発現する効果、GMOの慎重な導入やGMOを市場に流通させることによる人の健康・環境での累積的または長期間の影響を考慮したものを含んでいる。このほか、GMOがどのように成長したかによってGMOにより生産された新たな遺伝子物質(たとえば毒性またはアレルギー性たんぱく質)による潜在的なリスクや遺伝子移入の可能性(たとえば抗生物質耐性遺伝子)についても調査が要求されている。

 指令2001/18/ECの別表Uで規定しているリスクアセスメントの内容は、次のとおり。

・有害な効果を引き起こすかもしれないGMOのすべての特性の確認
・有害な効果の潜在的影響の評価
・有害な効果が潜在的に確認される可能性の評価
・GMOの確認された特性がリスクを引き起こす評価
・GMOの一般環境への慎重な導入またはGMOを市場に流通させることから生じるリスクを管理する方法の適用
・GMOの全体的リスクの決定。



(4)承認済みGMO

 指令2001/18/ECの指令の前身となる指令(90/220/EC)に基づき、98年までに11のGMOが、栽培、輸入、加工、食品・飼料として承認され、利用されている。
また、指令2001/18/FCに基づき2004年7月以降4つのGMOが承認された(表1)。さらに、指令2001/18/ECに基づく承認のためGMOを市場に流通させるための申請には、多くの未解決のものがある(表2)。申請には、輸入や加工に制限したものもあるが、栽培を目的としたものもある。




(5)加盟国の制限措置

 加盟国の数カ国では、指令90/220/EECの第16条に基づき、GMOの暫定的な利用制限またはその地域でのGMOの利用や販売の禁止する制限措置を実施している。この措置は、5カ国で8件のケースがある。(表3)。

 欧州委員会は2003年、EUの規則に基づき、これらの制限措置を実施している国に対し、再審査の要求を行った。その後も必要であれば、指令90/220/EECの置き換えとなる指令2001/18/ECの第23条に基づき、制限措置を再提出するよう要求した。この要求に対し、加盟国のギリシャとオーストリアでは2004年の第1四半期に制限措置を支持する追加の情報を提出した。

 この追加の情報は、8つすべてのケースに影響があるため、欧州委員会は、EFSAに見解を求めた。2004年7月のEFSAの見解は、以前の議論や情報に関する限り、追加の情報は、問題となるGMOの最初のリスク評価の法的効果を失うものではない(賛成した評価に問題はない)と結論付けた。この結果により、欧州委員会は、法制委員会に、加盟国が実施する制限措置の解除を要求する提案を提出したが、法制委員会は2004年11月29日、この提案の賛否を問う特定多数決で可決に至らなかった。この状況のもと、この提案は理事会に送られたが、EUの環境相理事会は本年6月24日、各国の制限措置を解除する欧州委員会の提案を否決した。欧州委員会は現在、閣僚理事会の決定を受け、提案を再検討しなければならない状況にある。

 また、当初の制限措置の8つのケースに加え、ハンガリーが2005年1月、同国での遺伝子発現トウモロコシMON810の栽培を禁止する制限措置を発動した。この発動に関し、EFSAは2005年7月、MON810の最初のリスク評価は法的効果を失うものではないと結論付けた。欧州委員会は現在、法制委員会に提出するための提案を作成している。

表-3 指令90/220/EECに基づく第16条と指令2001/18/ECに基づく第23条
(制限措置) の発動(2005年3月15日現在)



4 食品・家畜飼料に利用するGMOおよびGM食品・家畜飼料

 GM食品・家畜飼料に関する欧州議会および理事会規則(EC/1829/2003)では、EU域内で、次の製品を市場に流通させるための申請を規定している。

−食品および家畜飼料に利用するためのGMO

−GMOを含む食品および家畜飼料、GMOから成るまたはGMOから生産される食品および家畜飼料

承認済みGM食品・家畜飼料

ア GM食品

 これまでに、さまざまなGM食品が法的にEUの市場に流通する承認を受けており、主なものは以下のとおりである。

・GMダイズ1件およびGMトウモロコシ1件は新しい食品および食品の原料に関する規則EC/258/97の前身となる指令90/220/ EECに基づき承認

・GMアブラナ7件、GMトウモロコシ4件、GM綿種子油2件に由来する加工した食品が、規則EC/258/1997の第5条に基づき承認

・最近、2004年5月19日にBt11スイートコーンと2004年10月26日にNK603トウモロコシが、規則EC/258/97に基づき承認

 さらにこのほか、食品を市場に流通するためのGM食品の申請は、規則EC/258/97と新規則である規則EC/1829/2003の規定に基づき承認手続が行われているが、2004年10月26日に承認されたNK603トウモロコシ以後の新たな承認はなく、未解決となっているものが7件ある(表4)。また、規則EC/1829/2003に基づき申請され、EFSAの評価の申請にあるGMOは22件ある(表5)。

イ GM家畜飼料

 規則EC/1829/2003が適用される以前には、GMOに由来する家畜飼料を規制する規則は存在していなかった。それまでは、GMOを含むまたはそのようなものから成る家畜飼料は、指令90/220/EECに基づき規制されており、これに基づき家畜飼料として利用するためGMOが承認されてきた。これらは、トウモロコシ、セイヨウアブラナ、ダイズである(表6)。

 最近では、指令2001/18/ECに基づき、2004年7月19日に、NK603トウモロコシの輸入と加工が承認され、この承認には家畜飼料としてのNK603の利用を含んでいる。本年8月には、同指令に基づきMON863トウモロコシおよびGT73セイヨウアブラナが承認された。また、本年11月3日には、トウモロコシ1507が承認されている。



5 GMOの表示(ラベリング)とトレーサビリティ

 EUでは、(1)表示(ラベリング)の管理と実証、(2)健康と環境に関する潜在的な影響を対象にした管理、(3)人の健康や環境に予期せぬリスクがあるGMOを含むまたはGMOから構成される製品の回収のため、GMO製品のトレーサビリティに関する規則を制定している。

(1)トレーサビリティに関する規則EC/1830/2003

 トレーサビリティのルールは、市場に製品を流通させるすべての人々またはEU域内の市場に流通させる製品を受け取るすべての人々に、その供給者と製品の製造会社を確認可能にするためのものである。

 トレーサビリティ条件は、GMOから構成されるまたはGMOを含む製品、またはGMOから生産された製品(規則EC/1830/2003の第5条)により明確にすべき事項が異なっている。

ア GMOから構成されるまたはGMOを含む製品の場合(規則EC/1830/2003の第4条)

 事業管理者は、次の2つの事項を文書で製品を受け取る管理者に確実に送らなければならない。

−製品またはその原料のいくつかにGMOが含まれるまたは構成する証拠

−GMOが含まれるまたは構成する製品の場合、これらのGMOを鑑定する特別な者の任命

イ GMOから生産された製品の場合

 事業管理者は、次の事項を文書で製品を受け取る管理者に確実に送らなければならない。

−GMOから生産されたそれぞれの食品原料の証拠

−GMOから生産されたそれぞれの家畜飼料原料または添加物の証拠

−原料のリストが存在しない製品の場合、製品がGMOから生産された証拠

 上記の前提において、管理者は、それぞれの情報を5年間所有し、また、誰から誰に製品が利用されたか確認できなければならない。また、管理者は、当局からの要求により、保管、利用できる情報を提供できることが重要となる。

(2)表示の規則

 指令2001/18/ECまたは規則EC/1829/2003に基づき承認されたGMOから構成されるまたはGMOを含む製品およびGMOから生産した製品は、規則EC/1829/2003および規則EC/1830/2003に規定された表示を行うことが条件となっている。

 表示は、消費者と製品利用者に知らせるものであり、この情報に基づき選択することになる。一般的に、GMOから構成されるまたはGMOを含むすべての販売前に包装された製品では、管理者に“この製品はGMOを含みます”または“この製品はGM(有機体の名称:例トウモロコシ、ダイズなど)を含みます”との表示が条件となっている。事前に包装されていない製品が最終消費者またはレストラン、食堂などで提供される場合、GMOが含まれていることがわかるようにしなければならない。

 なお、GM食品・家畜飼料の表示に関しては、規則EC/1829/2003で規定している。GM由来のDNAまたはたんぱく質が最終製品に含まれているか否かに関係なく、(GM食品というものとして)最終消費者またはレストラン、食堂などで提供されるGM食品は、規則EC/1829/2003の第12条に従わなければならない。この条件には、GMトウモロコシからの精製されたオイルのような製品も含まれる。同様に、遺伝子導入ダイズを含む配合飼料を含む家畜の飼料にも適用する。家畜飼料の構成および特性に関する正確な情報を畜産農家に供給するために、トランスジェニックトウモロコシから生産された飼料用トウモロコシグルテンもまた、同規則に従い表示(ラベリング)されなければならない。

(3)トレーサビリティと表示の特例

 従来の製品、すなわちGMに関係しない製品は、収穫、貯蔵、輸送、加工の間にGMOが偶発的に混入することもあり得る。これはGMOに限ったものではなく、実際、食品、家畜飼料、種子の生産には、100%純粋な製品を完成することは不可能である。このことを考慮し、従来の食品・家畜飼料にGMOから構成される、GMOを含む、GMOから生産された製品としてラベルをしなければならない規準を規定している。もし、承認されたGMOの存在が偶発的であり、技術的に避けられないことがわかり、それらの混入許容含有率が0.9%を下回るなら、承認されたGMOの混入により“純粋ではない”従来の製品は、トレーサビリティと表示の条件を必要とはしない。しかしながら、このことは、管理者が、GMOの存在が避けられる適切な対策を取っていることを当局に説明した場合である。

(4)GM家畜飼料を給与された動物の肉や牛乳

 規則EC/1829/2003では、GM家畜飼料を給与された動物やGM医療製品の処置を受けた動物からの肉、牛乳、卵のような製品の表示の条件を求めてはいない。また、トレーサビリティも必要となっていない。



6 おわりに

 米国とカナダは2003年5月、EUが、98年米国とカナダは2003年5月、EUが、98年10月以降両国からのバイオテクノロジーを利用した農産物の輸入を禁止するとともに、EU域内で承認されているGMOがあるにもかかわらず、加盟国の一部で制限措置を実施し、両国からの輸入を禁止していることについて世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)に評価の依頼を行った。また、アルゼンチンも同じ事項について評価の依頼をした。この件については、2004年2月にパネル(紛争処理小委員会)が設置され、現在も話し合いが行われているところである。未承認GMトウモロコシBt10が本年3月に米国から輸入されていたことが判明したこともあり、EUは、GMOの輸入に関しては慎重な立場を取っていくものと考えられる。

 EUでは、スペインが、GM作物を最も生産している国であり、同国の全トウモロコシ生産地域の約5.5%に当たる約25,000ヘクタールでトウモロコシせん孔害虫に抵抗性のあるBt-176トウモロコシが栽培されている。一方、オーストリア、ルクセンブルクなどGM作物の栽培を一切禁止している国もある。また、承認されたGMOに対する制限措置を実施している国がある。GM作物の栽培は、食用向けに従来の作物生産を希望する農家にとっては大きな問題となってくる。隣接した畑の間で花粉が飛ぶことは、自然の現象であり、GM作物と従来の作物との「共存」は、純度の基準に従う従来の作物や有機作物と、GM作物を生産する農家の間で問題となってくる。この問題がある中、EUでのGM作物がどの程度導入されていくか注目されるところである。

 まだまだEUにおいてGMOに対する慎重な意見が多い中、2004年5月以降、規則EC/258/97に基づき1件、指令2001/18/ECに基づき4件、合計5件のGMOが承認されている。この承認される過程において、通常であれば欧州委員会の提案が、EUの常設委員会や法制委員会で特定多数決により採択されることが最も望ましい。しかしながら、いずれの承認のケースにおいても、各委員会で採決に至らず閣僚理事会に送られ、ここでも特定多数決ではなく、閣僚理事会が採択を行わないことにより欧州委員会の提案が承認されることになったものばかりであった。欧州委員会が承認の提案をする時点で、安全であることが評価されているものの、GMOに対する懸念を抱いている国がある表れではなかろうか。今後、申請はあるが未解決となっているGMOが、どのように承認され、また、GMOに対する加盟国の意識がどのように変化していくのか注目していきたい。


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