10年間で30億豪ドルの経済的損失
豪州農業資源経済局(ABARE)は先ごろ、四半期ごとに発表する豪州の一次産品の生産予測に関する報告書(australian commodities)の中で遺伝子組み換え(GM)作物栽培による経済効果についての試算結果を発表した。
それによると、州政府がGM作物の商業用栽培を認めない場合、2006年から2015年までの10年間で30億ドル(約2,670億円、1豪ドル=89円)の損失になるとして、GM作物の導入の経済効果を指摘している。報告書の概要は以下のとおり。
連邦政府は許可、州政府は商用禁止期間設定
GM作物に関する法規制については、連邦政府段階では、遺伝子技術法(Gene Technology Act 2000)および遺伝子技術規則(Gene
Technology Regulations 2001)が制定された。この法律に基づき設立された遺伝子技術規制局(OGTR)が、科学的見地からGM作物の栽培許可に関する業務を行っている。2003年にOGTRによって、食用としては初めてGMカノーラが許可された。
一方、州政府は連邦政府の法律を補完する役割を担うほか、検疫や国土利用について独立した管轄権を有している。これにより、クイーンズランド(QLD)州と北部準州を除く各州は、連邦政府の許可にかかわらず、現在、一部試験栽培を除き、一定の期間を設けGMカノーラの商業用栽培を禁止している。
○各州のGMカノーラ商業栽培禁止期限またはその見直し時期
NSW州 2006年3月
VIC州 2008年2月
W A州 2009年12月
S A州 2007年4月
TAS州 2008年6月
豪州の綿花栽培、GM品種は8割近く占める
GM作物の栽培は他の多くの国でも行われており、主にトウモロコシや大豆、カノーラ、綿花がGM作物として栽培されている。世界の耕作可能地の約6%でGM作物が栽培されている(2004年)。一方、豪州では、現在、綿花とカーネーションがGM作物として商業用に栽培されている。綿花を栽培する農家の95%がGM綿花を栽培し、2004/05年度では栽培している綿花のうち70〜80%がGM綿花となっている。GM綿花の利点として、散布農薬の使用減少による生産コストの削減効果や環境への負担を軽減、人への健康被害の危険性の低下を挙げている。
GM作物栽培により生産性向上見込む
ABAREの分析によると、今後、国際市場にGM作物が普及するにつれ、非GM作物はその低い生産性から、市場シェアが低下すると見込まれる。非GM作物に関して、特別に有利な点(特別な需要やプレミアム価格)はない状況から、州政府が栽培禁止期間を設けたことは、経済的損失を招くこととなるとしている。
ABAREは分析を行うに当たって、次の2つのシナリオを設けた。
(1)米国やカナダなど他の国がGM作物の栽培を行うにもかかわらず、豪州では禁止するとした場合。(期間は今後5年間とする。(2)も同様。)
(2)豪州が小麦や大麦、カノーラのGM品種を栽培するとした場合。
これらのシナリオにより試算すると、(1)の場合、他国の生産性が5〜10%向上し、他国に有利。
(2)では、豪州のカノーラや小麦の生産性は5%上昇、大麦は10%上昇することから、豪州に、2006年から2015年の10年間で約30億豪ドルの利益をもたらす。
この分析結果に対し、GM作物に反対する農業者団体は、今回の調査結果について、政府の意向に沿ったものであり、引き続き慎重に対処しなければならないと述べている
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