進行するNZとのEPA交渉
タイとNZは、今年の6月から経済連携協定(EPA)交渉を開始し、9月に2回目の交渉を行い、11月の初旬にも3度目の交渉を持つことになっている。タイは、オセアニア地域では豪州と7月にEPAを締結しており、発効は来年の1月となっている。NZとのEPAに関しても、豪州と同様にタイのセンシティブ品目である乳製品、特に脱脂粉乳の取り扱いが注目されている。
NZの要求
タイ商務省のEPA交渉担当官が明らかにした2度目の交渉でのNZ側の脱脂粉乳に係る要求は、大きく分けて2つあり、タイが豪州に対して与えた2,200トンの輸入割当数量(TRQ)以上であることと、豪州との間で約束した輸入自由化までの期間20年を、NZに対しては短縮することであった。
このことに関して、同担当官は、既に締結した豪州との合意内容以上の条件は豪州に再交渉の口実を与えることになり、できないとする一方、近年の粉乳のNZからの輸入実績は豪州を上回って推移しており、豪州のTRQを超えた設定は避けがたいとの認識を示した。
ちなみに、タイ農業協同組合省畜産開発局(DLD)によると、2003年の脱脂粉乳と全脂粉乳の輸入量の輸出国別シェアは、それぞれ、NZの25%と63%に対して豪州は16%と8%となっている。
EPAのメリット
このように相手側にとって容易に受け入れられない条件を提示することは交渉の過程ではよくあることであるが、世界銀行のデータで2003年のタイとNZの人口と国内総生産(GDP)を比較すると、タイの人口6,200百万人に対してNZは400万人、GDPではタイが1,432億ドルに対してNZは763億ドルとなっている。タイの人口はNZに比べて約15倍、GDPでは約2倍である。
このため、NZはタイとのEPAによって大きな市場を獲得することになるので、交渉結果の全体の利益を考えた場合、NZの主要輸出品目に関することとはいえ、交渉そのものを犠牲にしてまで強く要求するメリットは少ないものと考えられる。
一方、タイ側もNZに対して、日本とのEPA交渉と同様に料理人やマッサージ師などの受け入れと、ライチやロンガンなどの熱帯果実に対する規制の緩和を要求している。
酪農団体の反応など
タイ酪農組合連合会(TDC)は、NZとのEPAは安価な乳製品の輸入が国内4万戸を超える酪農家にマイナスの影響を与えると反対している。
一方、タイホルスタインフリージアン協会(THFA)は、豪州との間で締結されたEPAにより、乳製品の輸入拡大は既定の路線であるとの立場に立ち、今後は酪農先進国である豪州やNZの資金、技術そしてマーケッティング力を取り入れて今後の経営の強化を図るとしている。
このような中、農業協同組合省は、余乳対策として粉乳工場の建設計画を立案している。これは、生乳の需要が十分でないため余乳が発生する一方、タイは大量の粉乳を輸入しており、国内で粉乳を生産することにより、国内の生乳需給の安定化と輸入粉乳の削減を図ろうとするものである。
この工場設立の資金の一部には、WTOで設定したTRQ枠を超えた関税を充当する計画となっている。
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