順調に成長する酪農業
ベトナムでは、好調な経済を背景に乳製品需要が拡大しており、2002年以降経済成長率(GDP)は7%台で推移している。このような状況に加え、農村部の収益改善、国民の栄養改善などを目的として政府は2001年に酪農振興計画を定め乳用牛の増頭など生産振興策を推進している。計画当初、2005年を目標年次に頭数10万頭、国内消費の20%の供給態勢を確立するとされ、2004年末の乳用牛頭数は9万6千頭、自給率*18%を達成し、中期目標の達成は確実視されている。
地域別飼養頭数は北部および北部沿岸地域で24%、中部および中部高原地帯で6%、ホーチミン市を含む南部で70%と最大となっている。
中規模生産者の増加
南部ホーチミン市周辺の酪農振興は活発で、その理由としてビナミルク社をはじめ、乳業各社の工場が多く立地するため集乳に際しての利便性が高いことが挙げられる。またメコンデルタで盛んな稲作から生じる稲わらが粗飼料として豊富に利用できることや、大消費地に近接すること(2003年のホーチミン市人口は約550万人)、間接的には近年の外資企業進出上位3省を、ホーチミン市を含む周辺省が占めることなどが追い風になっている。このような中でホーチミン市MARD(農業農村開発省)は国家酪農振興計画に基づき独自の振興計画を策定しており、低利融資などにより中規模農家を積極的に育成している。一例として市内で酪農が盛んなクチ地区では平均飼養頭数は30頭であるが、総飼養頭数が100頭以上の農家も15戸となっている。飼養品種構成は不明であるが近郊には3,000頭規模の韓国資本の合弁農場も存在する。
これらのうち100頭超規模の酪農家では暑熱対策としてスプリンクラーやミスト噴出ファン、屋根裏面への断熱材の使用などを行っているものの、ホルスタイン純粋種では暑熱気候に適合しないため、飼養は在来種との交雑F2、F3が中心となっている。
このように中規模酪農家が増加しつつあるものの、多くは酪農経験が10年未満の新規就農者で、飼養管理や種畜の能力に関する知識が少ない。血統登録制度も未整備のため、人工授精履歴や個体識別のための特徴を記した記録台帳はあっても使用した精液の遺伝的能力記録がない場合が多く、今後飼養管理の向上とともに乳量増加を目指そうとする場合、行政面での整備とあわせた改善が必要である。
また、近年の飼料費の増大も生産者にとっては懸念材料となっている。ここ10年で平均的な濃厚飼料費は1キログラム当たり600ドン( 4円:150ドン=1円)増加し2,600ドン(17円)程度となったのに対し、生乳の農家販売価格は同国最大乳業であるビナミルク社へ販売する場合、昨年9月1日の乳価改定で一律300ドン(2円)の増加、同社の品質基準で最高レベルの場合牛乳1キログラム当たり3,500ドン(23円)にとどまっている。(売価とエサ代の比較)
近年の主要乳業の動向
集乳量による乳業各社のシェア比較ではビナミルクが68.5%、ダッチレディー(前フォーモスト)が20.6%、ネスレが2.7%、その他8.2%、とされている。
最大手で元国営企業であるビナミルク社は2003年に一般投資家に対し株式を公開し、現在政府持ち株率は60%、社員15%、外部資本25%(うち国内投資家などは10%、外資15%。)という構成割合となっている。同社社長によると海外投資家はイギリス、フランス、シンガポールなどとのことであった。
同社はまた、ホーチミン市150年記念にあわせてビンジュン工業団地内に年間1,500トンの生産能力のインスタントコーヒー工場建設計画を持つほか、来年にはビール工場の竣工を予定している。
従来同社の売り上げの過半数を占めた輸出向け乳製品はイラク戦争の開始などによりここ数年規模を縮小しているとされ、幼児用粉乳、加糖練乳などを中東(戦争前はイラク向けが90%超)、その他豪州、米国、カンボジアなどに輸出している。
*:ここで言う自給率を算出する際の国内生産量には原材料として輸入脱脂粉乳を使用した製品を含む。
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