デンマークのバイオガスプラント



ひとくちMemo

 EUは2010年までに域内の消費電力の21%を風力、太陽光、バイオマス(再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)などの再生可能エネルギー資源から得るとの目標を掲げ、各加盟国は具体的な数値目標の達成に向けた取り組みを行っている。

  このうち、デンマークでは、すでに、消費電力の約3割を風力を中心とした再生可能エネルギーから得ているが、家畜排せつ物などのバイオマス資源を活用した発電も拡大している。

  今回は、デンマークにおいて、周辺農家などから家畜排せつ物や固形バイオマスなどを収集し、発電する株式会社形態のバイオガスプラントを紹介する。


 今回訪問したバイオガスプラントの全景

 ユトランド半島の東岸に位置するデンマーク第2の都市オーフス近郊のランガに位置する。

  このプラントは、企業や一般投資家から投資を募る株式会社形態により運営されている。


 当プラントは、スラリー状の家畜排せつ物のほか、わらなどを多く含む家畜排せつ物や固形のバイオマスも併せて処理し、電力生産を行っている。

  この工程のうち、まず、わらなどを多く含む家畜排せつ物や固形バイオマスについては、物理的および化学的な前処理を行った後、スラリー状の家畜排せつ物と混合する。

 その後、この混合物から窒素分としてアンモニアを一定量抽出した後、発酵槽で発酵させ、メタンガスを取り出す。このメタンガスを燃焼させて発生する電力や熱を利用する。

 発酵後の消化液については、遠心分離によりリンを多く含む固形分と窒素やカリウムを含む液体に分離される。液分画については、アンモニアを抽出した後、プラントで発生する熱を利用して蒸留・濃縮され、最終的には耕作地に散布される。

 原料となる主なバイオマスは、養鶏農家・養豚農家・酪農家で発生する家畜排せつ物、食品工場で発生する食品残さ、バイオディーゼル精製後の植物残さなどである。

  これらについて、受入れに伴う収入や処理コストなどを考慮し、最も経済効率のよい組み合わせを考えて受け入れることとなる。

  なお、昨年は、鶏ふんの受け入れが最も多かったとのことである。



 プラントから約900メートル離れた場所に位置する養豚農場(肥育豚約1万5千頭飼養)。ここで発生するスラリー状の家畜排せつ物は、地下のパイプを通って、プラントのスラリータンクへと運ばれる。

 スラリータンク(1)

  このプラントは、年間3万5千トンのスラリーの受入れ・処理能力を有する。



 わらなどを多く含む家畜排せつ物や固形バイオマスの受け入れ口(2)。このプラントは、年間1万5千トンの固形バイオマスの受け入れ・処理能力を有する。

 これまでは、バイオガスプラントでの利用に不向きであった固形原料を、このプラントでは物理的・化学的な前処理を実施することにより利用できるようにした。

 固形バイオマスの受け入れ口(2)の内部。壁面は悪臭の吸着効果を期待して木材チップを利用している。

 上部のレールからつり下げられたクレーンにより、画面右横に設置されたスクリューコンベアに送られる。



 スクリューコンベア


 訪問時には、スクリューコンベアに、新たに脱臭装置を取り付ける工事を実施している最中であった。


 このタンクで、スラリー状の家畜排せつ物と前処理を行った固形バイオマスが混合される(4)。

 この混合物に、発電用のボイラーで発生する水蒸気を混合し、これを急速に冷却することで減圧し、気化したアンモニアを回収する(5)(5’)。この技術は、今回訪問したプラント運営会社独自のものとのことである。

 この後、後部に位置する発酵タンクに送られる。

 スクリューコンベアで固形バイオマスは写真中央の前処理タンク(3)へと送られる。固形バイオマスは、このタンク内で、高温(1,200〜2,000度)、高圧(5〜7気圧)、アルカリ添加の下、加水分解および無菌化される。

 なお、この工程での加熱は、主にプラントで発生するメタンガスが用いられる。


前処理タンク(3)



アンモニア分離装置(5)(5’)


発酵槽(6)

 このプラントでは3基の発酵槽(合計容量5千立方メートル)でバイオマスからバイオガス(メタンガス)を発生させる。

 年間最大で720万立方メートルのメタンガスの生成が可能。

発電機(7)

 メタンガスを燃焼させ、2台の発電機で年間最大16メガキロワット時の発電が可能。これはおよそ4千7百世帯の年間消費電力に相当する(一世帯の年間消費電力量を3,400キロワット時として試算)。

 ここで作られる電気は電力会社に全量販売される。



 発電機の部屋の上階に設置されたボイラー

  発生した蒸気は、発電、アンモニア分離、固形バイオマスの熱処理に利用される。

 今回の取材に協力してもらったグリーン・ファーム・エナジー社のペダーセン会長(左)とヨーゲンセン社長。



 プラントから見えた別会社の発電用風車
デンマークでは、このような発電用風車を随所で見ることができる。

(ブリュッセル駐在員事務所 和田 剛、山ア 良人)


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